2009/06/29

ILC NewsLine 2009年6月25日号

■世界の各地より

SLAC Todayより:新モジュレーターのプロトタイプ試験
(Photo)

(左から)試験施設のメンバー、Keith Jobe氏、 Zenon Szalata氏、Carsten Hast氏  、クライストロンのArnold Vlieks氏 が保護回路システムの性能を試している。 (写真:Lauren Schenkman氏)

昨日、SLAC国立加速器研究所の研究者とエンジニアによるチームは、マルクス・モジュレータと呼ばれる新型モジュレーターの実負荷による初期試験を終え、今後一年がかりで行う本番試験を開始した。これにより、この開発は、素粒子加速器の電力共有方法を根本的に変える装置の実現にむけた、最終段階にはいる。

「困難な開発プログラムだったので、完成して大変嬉しく思います」と、マルクス・モジュレータの開発が開始された2006年からこれに携わってきたパワー・システム部グループ長のCraig Burkhart氏は言う。この装置は昨年12月に SLACのエンド・ステーションBに搬入された。SLACの試験施設、リニアコライダー開発、電力変換、クライストロンの各部門のメンバーからなるチームが、昨日ここで、出力10MWを超えるクライストロンを用いた初期運転試験を終えたのである。

SLACリニアックの240本のクライストロンは全て、運転に必要な電源パルスをモジュレータから供給されている。モジュレータとは、通常の交流(AC)電源を、特別な電力パルスに変換する装置である。現在ILC(大型ハドロン・コライダーに後続する次世代加速器)で提案されている設計では、576本のクライストロンが使われ、そのそれぞれにモジュレータがつく。しかし現行のモジュレータはかさばり、扱いに手がかかる。それぞれに小型車ほどの大きさになる昇圧コイルが必要で、かつ、これを、放電防止のために、何百ガロン(1000l以上)もの絶縁オイルの中に浸潤させておく必要がある。また、この装置は出力パルスが長いほど大きくなる。ILCの場合、一台のモジュレータは22フィート(6.6m)ものトンネル長を占めてしまう。

(Photo)

技官Alfred Viceral氏がダウンタイムの間にマルクス・モジュレータの扉を開け、調整を行う。

エンド・ステーションBで試験されているマルクス・モジュレータが完成すれば、こうした旧式のモジュレータは過去の遺物となる。マルクスはトンネル内で10フィート(3m)足らずの場所しかとらず、重量も従来型の数分の一にとどまる。設計は、八対の縦長のセル(カード)が中心サポートのまわりのちょうど肋骨のようにはめ込まれている。セルのそれぞれには、ペーパータオルの半分くらいのサイズの円筒コンデンサが8本装備され、それらがまとまって一つの大きなコンデンサとなるように配列されている。

マルクス実現の鍵は、カード回路のあいだの接続を素早く切り替える半導体スイッチである。コンデンサの充電はカードが並列接続された状態で行われるが、コンデンサからの放電はカードが直列接続された状態で行われ、その結果、一回のパルスで120,000ボルトもの電圧をクライストロンに供給することができるのである。また、「肋骨」を形成するアルミ枠の端が円くなっているため、120,000ボルトの電圧の発生時も放電が起こらず、この結果、旧型モジュレータの場合のように絶縁油は不要で、簡単な金属製の筐体が必要なだけである。さらに、マルクスは高い電力効率をもつ。入力AC電力のうち96パーセントもを出力パルスに変換することができるので、モジュレーター系での電力ロスを三分の一にとどめることができる。

クライストロンとマルクス電源の接続は単純ではない。クライストロンで放電が起きたとき、また、マルクスのスイッチ回路で不具合が起こったとき、の双方で、クライストロンと電源の両方を確実に保護する必要があるからである。Carsten Hast氏が率いる試験施設のチームでは、クライストロンの側の保護回路が開発された。Ray Larsen氏とBill Ross氏(退職)の指揮の下、コントロール・グループでは、早期障害発見装置と呼ばれる保護回路システムが開発された。障害発見装置は、クライストロンやマルクスに起きる障害を、1~2マイクロ秒以内に検知することができる。この回路は、クライストロンの真空レベルや温度センサとも通信している。センサからのモニター値が決められた許容範囲を超えると、障害発見装置がマルクスを停止し、クライストロンを保護するのである。

(Photo - the Marx modulator)

マルクス・モジュレータ(写真:Lauren Schenkman)

マルクスは確かに小型、単純で環境的でさえあるといえるが、従来のモジュレータは加速器を何十年も支えてきた主流だ。昨日開始されたような一年がかりの試験を成功裏に終えてこそ、革新的で、空間もエネルギーも節約できるこのモジュレータを、現場の加速器担当者に薦めることができる。

「モジュレータは1940年代からあまり変わっておらず、この新技術が受け入れられれば画期的なことになります」とBurkhart氏。「加速器コミュニティで受け入れられるためにはいろいろな側面で性能を証明しなくてはなりません。」

「(ILCの)機材は信頼性が全てです」と言うのは、SLACILC研究開発を指揮するChris Adolphsen氏。「(このマルクスが)何百、何千時間も無故障で稼働することを証明しなくてはなりません。一年間稼働してみて、何が障害となるか、何が正常かを判断し、進めていきたいと思っています。」

SLACの電力変換部門では、第二世代のマルクスに取り組んでいる。カードのうち一組をスペアとし、運転中に不具合が生じたとき自動的にこのスペアに切り替わるような仕組みを取り入れるのである。このアップグレードが完成すれば、ILCは稼働時間をさらに改善することができる。

「故障のたびにただちに運転中断する必要が無くなり、問題を起こしたカードの修理は後回しにすることができるのです」とAdolphsen氏。

Burkhart氏は、マルクス・モジュレータの試験を続けていく途上、この技術のILC以外への用途も出てくるはず、と付け加える。「現在は、この開発はILCに特化して行っています。しかし、この技術が成熟するにつれ、より広範囲の応用が見えてくるでしょう。」

■特集記事

粒子フロー・カロリメータの検証

国際リニア・コライダー(ILC)用ハドロン・カロリメータで粒子フローアルゴリズム(PFA Particle Flow Algorithm)を初めて実装した試験機が、試験を成功裏に終えた。このサブ測定器はアナログ・ハドロン・カロリメータであるが、カロリメータ国際共同開発フループ(CALICE)コラボレーションによって作製されたもので、かつてない空間分解能をもち、先進的な読み出し技術を採用した、ILC測定器でのハドロン・カロリメータの一候補である。


フェルミ研究所中間子試験ビーム施設でのCALICEアナログ・ハドロン・カロリメータにて、Frank Simon氏。 

デジタル・ハドロン・カロリメータの前で、アルゴンヌ国立研究所のJose Repond () Lei Xia氏。 

「この試験データから、これまで得られたことのない正確なハドロン・シャワーの測定が得られることでしょう」とアルゴンヌ国立研究所の研究者、Jose Repond氏は言う。「これはILC測定器でも、ハドロンに関係するすべての実験でも、同様に必ず理解しておかなければならないことです。」電子-陽電子の衝突反応からはレプトンやクォークなどの粒子が飛び出すが、これらの粒子ジェットのなかには電荷を帯びた粒子、中性の粒子が混在しており、測定器のなかでシャワーを発生する。これらのシャワーの三次元イメージを再構成することで、研究者はクォークがどのような反s応で生まれたかを探るのであるが、そのときにこの新型PFAタイプのカロリメータが必要になるのである。

「粒子フローアルゴリズムの主な目的は、ジェットのエネルギーを正確に測定するために、衝突時の粒子は一つ残らず測定しようというものです」とミュンヘンのマックス・プランク物理研究所のジュニア・研究グループ・リーダーのFrank Simon氏は言う。

ジェットの再構成が正確であればあるほど、クォークが発生した反応をよりよく理解することができる。 

「衝突で実際に何が起きているのかを知るためには、ジェット中のこれらの粒子のエネルギーを再構築しなくてはなりません。」

 CALICEコラボレーションは12カ国から参加する280もの研究者で構成されており、現在最先端の測定器技術をもって、ジェットの中の一つ一つの粒子の検出測定技術の開発を行っているところである。「CALICEコラボレーションの目標は、ILCでの粒子フローアルゴリズムに関する様々な手法を検討・評価することです」とSimon氏。Ecal(電磁カロリメータ)Hcal(ハドロンカロリメータ)はいずれも、最先端の光センサ(小型シリコン光電子倍増管を用いる)が、小さなシンチレータのセルからの信号読み出しを行う。シリコンセンサーを使用してのECal試験はすでに完了している。様々な技術からのデータを分析し、様々な技法を検証、ハドロン・シャワーの測定を最も正確に行えるモジュールを調査する。この後、アルゴンヌ国立研究所にて現在建設中の高抵抗電極板(RPC)を基にしたデジタル・ハドロン・カロリメータの試験を、フェルミ国立研究所で開始する予定である。高抵抗電極板を使用したものとしてテキサス州立大学アーリントン校のグループが開発中のGEM読み出しに基づくデジタルHcal、また、欧州の半デジタル読み出しHcalがある。これらのRPCも、アナログHcalとの比較のため、いずれ、同じ鉄製の吸収材の中に埋め込まれて試験されることになっている。

「同様の環境で様々な選択肢についてデータをとり、ILCにとって一番よい技術を選びだすことが、最終的な目標です」とSimon氏は言う。

■ディレクターズ・コーナー


Mike Harrison氏

もう一つの粒子加速

今週のディレクターズ・コーナーはGDE米地域ディレクターのMike Harrison氏による。

ILCの建設は、革新的な技術と世界を代表する人材による一大国際事業である。二、三週間前にDESYで開催された加速器設計統合(AD&I)会議も、そのような設計プロセスの一例である。しかし、関係するソースからの情報を全て把握する任務を帯びた地域ディレクターとして私は、このたび、自分が所属するブルックヘブン研究所から数キロ離れたベスページ・ブラックというゴルフコースにて、USオープンのゴルフ・トーナメントも見学することにした。ただし、ここで加速される粒子は、素粒子物理学者の標準からするといかにも大きい、直径42.67ミリメートルのゴルフボールであって、その質量は45.93グラムである(実のところ、ゴルフはヤード・ポンド法の世界であり、物理で使うメートル法では論じきれないのだが、それはともかく)。この「粒子」を木製の「クラブ」で打って加速するなどという技術は、超伝導RF空洞の定在波で加速することのエレガントさには到底匹敵しないが、それなりの肉体的快感を伴うものである。こうした荒削りの粒子加速は、リニアコライダーの技術というよりは、精度を別にすればウエーク場の技術に近い。この「粒子」を、「ホール」という「衝突地点」(直径107.95ミリメートル)まで数百メートル先から入れるのも、衝突地点でのターゲットが5ナノメートルであるビーム収束ラインの専門家にとっては他愛のないことであるが、だからといって簡単であるわけではない。ともかくも、最終的な目標はこの「粒子」を最小限の「加速サイクル」でターゲットまで輸送することであるから、最高加速勾配に加えて必要な要件は明らかである。150もの世界的なエキスパートが、パワー、精度、高勾配の実演をするのだから、見学して損があるはずがない。

米地域ディレクターMike Harrison氏がゴルフ・ウォッチングでずぶぬれになりながら二つの世界を比較する。イメージ:The New York Times 

到着してすぐに驚かされたのは、イベントの準備がどれだけ入念にされていたかである。二、三週間のうちにコースはすっかり様変わりし、テント・シティとなっていた。土産物屋のテントは今まで見たことのないほど大きなもので、実験ホールの一つや二つはすっぽりと中に入るサイズであった。テレビ・ネットワークのために設置されたコントロール・システムについては、ケーブルトレイは省略され、ケーブルは草原の中を這うに任せてある。コスト削減技術の適用はそこら中に明らかで、一般施設ワーキング・グループのための参考事例が満載である。ここで一番大きな手本を学ぶべきは、しかし、プロジェクト・マネジメントである。Tシャツを50ドルで、ビールを10ドルで売る許可を与えれば、たしかに、プロジェクトを三週間で完了させ、同時に五万人の訪問者を扱うことだって出来もしよう、というものである。一般施設グループに対しては、こうした経済刺激策を採る権限が与えられるべきだろう。それで、何か問題ありますか?

資材物流管理に次いで、加速勾配を見てみよう。世界的なプロが、この粒子を最高の加速勾配で苦もなく300メートルほど飛ばすのを見ていると、悔しい思いをする。これを真似しようとしてなんとか大怪我をするのを免れた人がこれを読んでいたら(まだ読んでくれている人がいると仮定して)、教訓は明らかだ。それは作業マージンである。粒子を確実に300メートル飛ばしたいとすれば、まず350メートル飛ばす方法を学んでそこから削っていく。この原理は、超伝導RFR&Dプログラムで、最大値と運用レベルの空洞勾配の間で正しい値を見つけよう、という挑戦にもよく当てはまる。この問題には確実な答えがあるわけではないから、私たちが今やっているように、それぞれのパフォーマンスによって判断するのが一番正しい道だろう。

精密さは常に重要な課題である。大きな振幅を持った粒子、特にひどく非線形の軌道を持ったものは、「バンカー」と呼ばれるシリコン製のコリメーターに影響を受けることがよくある。このシリコンは非結晶系(チャンネリング関係者には申し訳ないが)であって、結構効率的である。これらのコリメーター間でのランダムな位相の変化は、往々にして位相空間の不均一性につながる。しかし、「the green」という環境にやさしいそうな名前で呼ばれる、最終収束地点付近のコリメーター群は効率性が高い。アラインメント公差が一番厳しく制御されているのもこの「green」においてである。ミクロン以下でのアラインメントというわけではないが、10メートル足らずの区間で4パットも打つプロを目にして、私にだってそれくらいならできたさ、と嬉しくなるのだが、アラインメントの重要さもよくわかる。

幸せには終わりが来るものだが、私のUSオープン体験は昼ごろ早々に、豪雨によって中止となってしまった。ずぶぬれになってしまったので、屋内に戻って今回の学習内容を復習した。この研究は大いに意義のあるものだ。リニアコライダーの設計・建設における課題を克服するのに、クリケットでも調査してみようか。英国は雨もよく降ることだし。

■ブログライン

21 June - Frank Simon
A bike ride with new equipment

18 June - Ingrid Gregor
A view to hill ...

Quantum Diaries

■カレンダー

Upcoming meetings, conferences, workshops
ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 
CERN, Switzerland
23-25 June 2009

Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) 
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009

Mini-Workshop on the CesrTA Electron Cloud R&D Program for Linear Collider Damping Rings (CTA09) 
Cornell University, NY, USA
25-26 June 2009

FCAL meeting 
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June


Upcoming schools
Summer School: Exploring the Cosmological Frontiers
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009

International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF)
Radiation and particle detectors
 
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July

GDE Meetings calendar 

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■ニュース記事

From CERN
19 June 2009

CERNLHC再開にむけて進捗を報告

今日、第151CERN会議において、CERN所長Rolf Heuer氏によって、大型ハドロン・コライダー(LHC)が23週間の遅れは見込まれるものの、秋の再開予定に変更はないことが確認された。 
英文記事

From CERN Bulletin
19 June 2009

LHCの最新情報

セクター4~5が常温まで加温中である。非超伝導温度でのバスバーの銅部品の試験を行うため、これらのセクターは、さきごろ80ケルビンまで温められていた。 
英文記事

From Optics.org
19 June 2009
欧州の巨大レーザー:エクサワット・ロードマップ
欧州での次世代高度レーザー施設の研究効率を向上するためには、研究者・企業間での密接な協力が必要だ。Caryl Richards氏が大型科学プロジェクトでの挑戦とチャンスについてレポート。 
英文記事

From Asian Accelerator Plaza
11 June 2009

日中韓科学技術共同声明に署名

524日(日)、第二回日中韓科学技術協力担当大臣会合が開催された。
英文記事

■アナウンス

arXiv preprints
0906.3805 
On pair production of scalar top quarks in e+e- collisions at ILC and a possibility of their mass reconstruction

0906.3592 
SRF cavity geometry optimization for the ILC with minimized surface e.m. fields and superior bandwidth

EUROTeV Reports
2008-098 
ILC Main Linac Alignment Simulation Using Conventonal Techniques and the Rapid Tunnel Reference Survez Model (RTRSM)

■今週のイメージ
symmetry Magazine:真の貢献者に功績を

科学界では、分野を去りたくなければ論文を出版し続けよ、という格言がある。それが本当なら、近い将来のうちは、分野を去る素粒子物理学者はあまり居なないだろう。だが、ATLASCMSコラボレーションの論文や将来ILC測定器の提案に署名している数はそれぞれ3000人にもなるなか、本当に誰が仕事をしているのか、いかにして見分けるのだろう。Symmetry Magazineがこの変わった科学論文の世界に注目。

2009/06/22

ILC NewsLine 2009年6月18日号

■リサーチ・ディレクターズ・コーナー


山田作衛氏

PACによる測定器活動の評価

59日から10日にかけて、第二回ILCプロジェクト諮問委員会(PAC)がバンクーバーで開催された。第一回は、昨年十月、測定器活動の大枠が出来上がった時点で開かれている。このときのPACは、我々の設計したマネジメント構造と測定器活動の方針を支持した。これにより、自信を持って、翌月にシカゴで開催されたLCWS08会議において、ほとんどの共通作業グループの活動を開始できた。

第二回PAC会議は、共通作業グループ活動開始から半年を経ており、時宜を得たものといえるだろう。今回の会議でもう一つの重要なイベントとしては、3つの測定器趣意書(LOI)提出と、それらの国際測定器諮問委員会(IDAG)による認証プロセスに関する報告である。物理・測定器活動には半日のセッションが割り当てられた。私は一般的な活動状況について全体報告を行い、測定器趣意書の簡単な説明とIDAGの認証計画、そして認証後の測定器活動のスケジュールについて話した。4の共通作業グループのここ半年間の目覚ましい貢献について、それぞれの主・副世話人によって報告された。Karsten Büßer氏は加速器-測定器インターフェース・グループ、特に衝突点でのインターフェースのドキュメントとプッシュ・プル研究について報告した。Catherine Clerc氏はエンジニア・ツール・グループの活動を発表した。測定器R&DグループのMarcel Demarteau氏はグループの任務や計画、そして各々のLOIグループが取り上げた、重要なR&Dテーマについて説明した。Norman Graf氏は、LOIのベンチマーク・シミュレーションに大いに貢献したソフトウェアの共通作業グループ活動について報告した。物理パネルは日程の都合で、報告を次の会議に持ち越したが、それまでに昨年11月に計画執行された物理のケース・スタディを完成させる予定である。

 
プロジェクト諮問委員会は測定器コンセプトを評価する。イメージ:Norman Graf. 

嬉しいことに、PACは報告された進展に満足しており、ILC物理・測定器コミュニティの努力に感謝している。最後のまとめで、PACからいくつかの重要課題について具体的なコメントがあり、これは議事録にも記載されている。PACは、LOIが予定通りに提出され、認証プロセスがスムーズに運んでいることは素晴らしいと述べた。今回は報告はなかったものの、物理パネルのガンマ-ガンマ・コライダー・ヒッグズ・ファクトリーをILCの先駆者とする提案に関する物理の検討に対しても、感謝が寄せられた。

また、今後必要なことの指摘やアドバイスも寄せられた。今年後半の認証プロセスの完了後には、2012年までに測定器の詳細設計に至る計画を練る必要がある。すでに成果は上がっており、進行中の活動もあるが、PACはプッシュ・プルの概念が大変重要であると見ており、関連する様々なグループでの議論を行うことを推奨している。PACは今までの測定器R&Dパネルの活躍を評価し、現在のR&D予算は決して十分とはいえないことから、これを最大限有効に活用し、開発作業の不要な重複を避けることが重要だ、と述べた。

これらの提案事項は、私たち自身もよく議論する重要な課題であり、より詳細に検討すべき項目である。IDAGは現在、LOIを詳細に検討中であり、測定器グループには沢山の追加質問や質疑応答への対応に追われることになろう。他方、LOIR&Dプロジェクトや物理研究の活動計画書という側面もある。それぞれの測定器グループは、認証期間中も、こうした研究活動に打ち込んでいる。PAC会議の後、物理・実験委員会では、2012年までに認証された測定器グループが定めるべき目標について、またベースライン設計報告書に必要な項目について、より具体的なシナリオの議論を始めた。この作業はまだ完了しておらず、リソースの確保など、まだ課題を残している。IDAGLOIを検証しているあいだ、私たちはこれらの課題に取り組んでいく。

■世界の各地より

UC デイビス、SiD 測定器の技術開発を率先

国際リニア・コライダー(ILC)の大量の複雑な機材は、それぞれに最新のテクノロジー・フロンティアを広げているといえる。そしてこのILCが成功には、すべての機材が設計された通りに稼働することが必要である。米カリフォルニア州立大学デイビス校(UCデイビス)では、ILCのシリコン測定器(SiD)にむけた、電子処理回路間を繋ぐ接合部分の開発に取り組んでいる。このグループは、新しいテクノロジーや最先端の素材を適用して、性能、効率、組立の容易さ、の改善を目指している。


バンプ接合装置の前のUCデイビス校の物理グループ。(左から:Mike Irving (技官)Mike Woods (院生)Dick Lander (教授)Mani Tripathi (教授)Britt Holbrook(エンジニア)、そしてTiffany Landry (技官) 

2005年、UCデイビスは優秀な接合技術を持っていたことから、シリコン-タングステンのグループ、つまりSiWグループに参加することになった。このグループにはSLAC国立加速器研究所、オレゴン大学、ブルックリン国立研究所などが参加している。

1990年代前半から、私たちはインジウムのバンプ接合の技術を試してきました。その途上、たとえば大型ハドロン・コライダーのCMS前方ピクセル測定器のプロトタイプを作成しました」とUCデイビスの研究者Richard Lander氏は言う。

バンプ接合はインジウムやはんだのような伝導体素材の、顕微鏡的なサイズのドットを使用する技術である。バンプ接合は測定器の機材を連結するのに不可欠なもので、衝突後の粒子の軌道からの信号を、センサー、シリコン・チップ、読み出し装置、データ回収回路、そしてコンピューターへとつなぐ重要な技術である。接合は、たとえばシリコン・センサーのバンプと次のマイクロチップのバンプあるいはメタル・パッドを重ね合わせ、そこに、熱と圧力を加えることによって行われる。

SiD測定器では、測定器の中央部分から衝突から生まれた素粒子シャワーは、タングステンにはさまれた幾重レイヤーものシリコン・センサーを通過する。素粒子がシリコンと反応すると、センサーは中央のシリコン・チップにシグナルを発生する。チップの層を接合し、測定器周囲の読み出し装置のシグナルを伝えるために、プラスチックの下層に銅線を埋め込んだフレックス・ケーブルを使用するが、UCデイビスのグループは、この手法に磨きをかけている。これには大変な精度が要求される工程で、技術的チャレンジにあふれるものだ。その中でも、測定器に必要な2メートル長のフレックス・ケーブルの扱いは特に難しい。



二重に重ねられた金バンプの側面写真(左)と上面写真(右)。バンプ間隔は200μm、バンプ直径は約58μmで高さは約66 μm 

「シリコン-タングステン・カロリメーターは素晴らしい案です」とUCデイビスの研究者Mani Tripathi氏。「しかしその実現には、接合技術を完成する必要があります。」接合技術の発展には新素材の適用が有望視されており、UCデイビスのグループはこの潜在的能力を引き出す先端開発に携わっている。このグループは現在、バンプ接合に金を使うことについて研究している。課題もあるが、金の酸化耐性から、通常よくバンプ接合に使用されている他の素材に比べた優位性が注目されている。現在、金の鋲バンプは伝導体のエポキシ樹脂で下層部だけに使われているが、チップや下層部の両方で鋲バンプを使用することが目標である。

非等方性導体フィルム(ACF)は熱可塑性の素材の中にニッケル・ファイバーを埋め込んで作るが、これもバンプ接合の代替素材となる可能性をもっている。ファイバーには長手方向に直交する向きには酸化物のコーティングが施されており、その方向には絶縁体として働くが、また軸(長手)方向には電気伝導体として機能する。これを二枚の電子回路で挟み、圧力をかけながら加熱すると、二枚の電子回路はACFを介して接合される。読み出し回路に至る2メートルのフレックス・ケーブルの途上の16個のセンサー・チップを接合する際にこの技術を適用する、というのが目標である。

Lander氏とTripathi氏以外にも、UCデイビスでは電子工学エンジニアのBrill Holbrook氏、院生のMike Woods氏、そして技官のTiffany Landry氏とMike Irving氏もグループに加わる。

UCデイビスのグループでは、この研究が素粒子物理の分野を超えて、工業的にも利用が可能なはずと考えている。UCデイビスは素粒子物理学の関連技術を通して産業界との強いつながりも持っており、たとえばカリフォルニア州サンノゼ市にあるシェアード・リソース社、カールズバッド市にあるパロマー・テクノロジー社、コロラド州コロラド・スプリング市のアスペン・テクノロジー社、そしてミネソタ州ポリマウス市のフレックス・サーキット・テクノロジー社などが例として挙げられる。

「有用な技術を産業界に環流できれば、と思っています」とTripathi氏。「企業とは常にパートナー関係を組もうと頑張っていますし、願わくばそういった企業が研究成果を持ち帰って技術を広げていってほしいですね。」

大学は、200912月までに接合技術研究のキーとなる課題を仕上げることを計画している。これは、SiWカロリメーターの30レイヤーのプロトタイプの完成、という大がかりな仕事の重要な一環である。「われわれのゴールは、2010年にはシステムの構築技術を完成させ、ビーム試験を行うことです」とTripathi氏は言う。


■ディレクターズ・コーナー


Barry Barish氏

日進月歩

先週、GDE幹部会とCLIC拡張運営委員会の合同会議が初めて開催された。この会議はCERNで開催され、CLICILC活動の連携を強めるための一歩となった。CERN所長Rolf Heuer氏、CERN研究部長Sergio Bertolucci氏、そしてCERN評議会の戦略委員会幹事長Steiner Stapnes氏が会議の一部に参加し、協力を表明した。会議自体は建設的であり、複数のイニシアティブをとること、将来合同ワークショップを行うこと、リニア・コライダーの実現に向けた共同戦略の構想・組織化についての議論を始めることなどで合意した。


CERN執行部、ILC幹部会とCLIC諮問委員会の集合写真。 

ILC NewsLineILCR&Dや設計活動について広報するのが主な仕事だが、次世代レプトン・コライダーに向けた、より広い視点からとらえなおす必要もある。すなわわち、ILCとは別に、次世代レプトンコライダーに向けては、コンパクト・リニア・コライダー研究(CLIC)があり、数TeVレベルの衝突を実現すべく、ILCとは違った技術アプローチで開発する長期プログラムが存在する、ということである。また、数TeVレベルのミュー粒子コライダーをさらに長い時間スケールで開発しようというR&D活動もある。

ある意味では、これらの活動は競争関係にあり、それぞれのプロジェクトへの賛同者チームがあって技術を競い合うわけだが、より大きな視点でみれば、私たちの目標はいずれも、次のエネルギー・フロンティアの加速器に向けて準備するという点で同じである。欧州・アメリカ・ヨーロッパそれぞれからの検討で、LHCと相補的な研究をおこなうためには、テラスケールのエネルギーでレプトン・コライダーを開発することが、将来この分野にとって最優先事項である、ということがわかっている。LHCの結果からレプトン・コライダーで必要なエネルギーが分かるまでのあいだ、これらの開発は技術展望、リスク、コストなどを押さえるため、いずれも並行して行われる必要がある。私たちの仕事は、かりにLHCの結果ILCが必要ということなるときに備えて、ILCの技術設計に関するプロジェクト提案を整えることである。また、より高いエネルギーが必要、となった場合には、CLICあるいはミュー粒子コライダーのR&D活動を強化できるようにしておくことである。


CLIC2ビーム・コンセプト 

現在構想されているCLICの数TeVエネルギーに向けたコンセプトは、12GHzRFによって常温加速管(進行波タイプ)にて100 MeV/mの加速勾配を発生する。CLICは革新的な2ビーム・コンセプトを使って必要なRF電力を作り出すもので、主線形加速器でのクライストロンは不要とされている。高い加速勾配と高いエネルギーは、これを通して実現できるとされている。CLICR&Dの多くは、CERNCTF3と呼ばれる施設での技術実証作業を中心に行われている。CTF3は、27カ国の研究所による国際協力によるものである。このCTF3での作業に加え、現在CLIC概念設計報告書の作業も行われており、2010年終わりまでの報告書完成が予定されている。


CTF3のコンバイナー・リング 

CLICのメイン・リニアックの技術は、ILCの超伝導RF技術とは全く違うものであるが、加速器の全体設計としては、粒子源、ダンピング・リング、ビーム収束システム、測定器を含め多くの共通点がある。この理由から、昨年私たちは合同ワーキング・グループを結成し、リソースの共有や協同研究を行うことで双方にとって役立てる試みをはじめている。なかでも二つのワーキング・グループが特筆に値するといえるだろう。一つは土木・一般施設についてのワーキング・グループであり、もう一つはコストとスケジュールについてのそれである。土木・一般施設グループはILCCLICでの共通の課題-たとえばアクセス、安全性、地下トンネルの詳細、サイト特有の課題などについて-に取り組んでいる。コストとスケジュール・グループでは、使用するコスティング・ツールは違っているものの、共通の方法論を適用しようとしている。これによって、双方の技術について様々なコスト比較が可能になると期待される。


共通の課題のある分野での共同ILC / CLICワーキング・グループ 

先週の会議では、私たちはこの共同のワーキング・グループの進捗をレビューし、将来の計画、これらのグループの特定の研究や実現可能な事項について話し合った。共通の課題について人的ソースを統合することはそれだけで明らかに有用なことであるが、それに加え、長期的なゴールについても同意が得られた。特に、CERN/CLIC代表をGDE幹部会に招き入れ、CLIC委員会についても同様の方法をとることで、マネジメントをお互いにもっと近づけることができる。2010年秋からは、CLICILCの主なワークショップの統合を検討することについても合意された。

これらはいずれも小さな進展と言えなくもない。しかしILCCLICの連携を強める上では重要な進展であり、こうした動きはリニア・コライダーの世界戦略の構想と組織を共同して形成していくきっかけになると考えられる。私の個人的な考えではあるが、CLICILCでのこうした連携強化によって、将来のリニア・コライダーでどの技術が適用されることになっても、いずれのチームもスムーズに合流できるようになるのではないか、と思う


■カレンダー

今後の会議

Tesla Technology Collaboration Meeting (TTC09)
LAL, Orsay, France
16-19 June 2009

ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 
CERN, Switzerland
23-25 June 2009

Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) 
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009

Mini-Workshop on the CesrTA Electron Cloud R&D Program for Linear Collider Damping Rings (CTA09) 
Cornell University, NY, USA
25-26 June 2009

FCAL meeting 
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June


今後のスクール
The 2009 Hadron Collider Physics Summer School
CERN
8-17 June 2009

Summer School: Exploring the Cosmological Frontiers
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009

International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF)
Radiation and particle detectors
 
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July

GDE Meetings calendar 

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■ニュース記事

From Mercury News
17 June 2009

スタンフォード大の研究者、シリコンの後継素材を発見か

...特別な炉でしか作ることのできない、黒い光沢をもつこの素材にはわずかの電流しか流れないので、まだ適用はできない。しかし、もしかしたら、マイクロチップ開発のパラダイムシフトを引き起こすことになるかもしれない。 
英文記事

From Chronicle online
15 June 2009

ウィルソン研究所で一般公開:加速器とX線デモ、そして家族でのツアー

...来訪者はCESRを改造して行われているCESR試験加速器プログラムについての説明も受ける。これは、コーネル大学での国際リニア・コライダーという、まだ計画段階にある素粒子加速器の実現可能性研究に貢献しているプログラムである。 
英文記事

From DESY inForm
June 2009

大がかり検査

...FLASHで得られた試験結果や経験は欧州XFEL3.9 GHzシステム設計に適用される。 
英文記事 (pdf)


■アナウンス

Lepton Photon会議への登録方法が簡単に

ドイツハンブルグで817日から22日まで開催されるLepton Photon会議の登録方法が変更されました。招待状請求はlp09 @ desy.deまで。詳細はウェブサイトにて。 

arXiv preprints
0906.2799 
New concept for quantification of similarity relates entropy and energy of objects: First and Second Law entangled, equivalence of temperature and time proposed

0906.2680 
Searching for Single Production of Charged Heavy Leptons via Anomalous Interactions at Future Linear Colliders 

ILC Internal Document
2009-036 
ILC Global Design Effort - Project Managers’ Report - May 2009

2009/06/17

ILC NewsLine 2009年6月11日号

■世界の各地より

SLACTodayより:リニア・コライダー効率化のシミュレーション 

(Image - ILC cavity)

SLACの先端計算機部門による、超伝導ILC空洞内部に発生するウェーク場のモード計算。赤、オレンジ、黄は強い場、緑と青は弱い場を示す(イメージ:Greg Schussmansh)

世界中の研究者らが、2012年に向けて、次世代巨大素粒子加速器、国際リニア・コライダーの実設計のため、昼夜活動している。SLACのチームもその一部を担っており、加速器のパフォーマンスを最大限に上げ、コストを下げるためにスーパーコンピューターでのシミュレーションを行っている。

脚注)Wakefield ウェーク場:荷電粒子は自身のまわりに電場を作っている。電気伝導体でおおわれた空間を荷電粒子が運動するとき、荷電粒子がつくるこの電場は、まわりの導体の形状に不連続があると(たとえば、空洞のふくらみやすぼまり、ビームパイプの継ぎ手など)、これにぶつかって複雑な電磁場を形成する。こうしてできた電磁場は、多くの場合、荷電粒子の通過後にもしばらく残存する。ちょうど、湖を走るモーターボートのつくる波が、岸に反射してしばらく湖面全体を揺らすのと似ている。そのため、こうした残存電磁場のことを、ウェーク場(航跡場)と呼ぶ。大電荷のバンチ、また多数のバンチを連続して加速するリニアコライダーの線形加速器では、一般に、なるべくウェーク場の発生や共鳴を押さえるよう、加速管・加速空洞を設計する。

SLACの先端計算機部(ACD)のチームは、電子と陽電子を衝突させるILCでのウェーク場の影響を最小限にとどめる方法を探している。ウェーク場は、これらの粒子のバンチ(群れ)が加速器の中を通過した後に生じる。ウェーク場は後続のバンチに影響を与え、粒子の軌道を乱す原因となる。結果として、ビームの質の悪化や、加速器空洞内部の発熱など、パフォーマンスの劣化を起こす要因となる。

加速器ビームが大電流になればなるほど、ウェーク場は起こりやすくなる。ILCのビームは大変高エネルギーで、SLACのリニアックが生成可能なエネルギーの十倍の5千億エレクトロンボルトである。

ILCにとってウェーク場は大きな課題です」とSLACの研究者でACDの部長Kwok Ko氏。「ウェーク場の制御は重要です。」

現在計画されているFermilabでの縮小版ILCモデルの実験を補う目的で、SLACではコンピューター・シミュレーションを行っている。このような物理とコンピューター・サイエンスとの協業はACDの得意とするところである。他の研究所でも物理学者とコンピューター・サイエンティストをスタッフとして抱えているが、2001年に創設されたACDは、一か所に五人の専門家を擁している。

ACDはエネルギー省の加速器コンプレックスの中でも、このように物理学者とコンピューター・サイエンティストが一緒に大きな課題に取り組めるようなチームを作った初めての例であるといえます」とKo氏。

加速器内の素粒子の振る舞いのシミュレーションは、ハードウェアを使用した実験よりも低予算で迅速に行える一方、込み入った作業でもある。第一に、特別なコンピューター・コードが必要である。SLACのグループはこれの開発に重要な役割を果たしてきた。2001年から2005年にかけて、Ko氏はエネルギー省の科学発見のための先端計算プログラムによって予算を受けたプロジェクトを率いてきた一人である。ACDの研究者であるLie-Quan LeeCho Ng両氏はSciDACプロジェクトに携わり、元のアルゴリズムを改良し、ILCのウェーク場の課題に立ち向かっている。

(Photo - Jaguar 6.0)

SLACのチームはJaguarスーパーコンピューターを使ってウェーク場の影響を研究している。(写真:国立コンピューター科学センターのオーク・リッジ国立研究所)

ウェーク場の研究には膨大な計算能力が必要である。2007年には、エネルギー省はSLACのチームに、「理論および実験における革新先進的な計算効果(INCITE)」予算を授与した。これにより、オークリッジにあるエネルギー省スーパーコンピューターで毎秒1640兆の処理が可能なJaguar において、450万時間のCPU時間を使うことができる。昨年12月には、SLAC研究者はINCITEの二度目の予算承認を受け、それによって800万時間のCPU時間を追加使用することができる。これまでの使用分を差し引くと、まだ650万時間の計算が可能である。

「今年の終わりまでに全て使いきると思います」とACDの計算数学グループ・リーダーのLee氏。

現在の計画では、ILC11キロメートル長の直線加速器が二つ向かい合うことになる。基本となる加速器構成単位は1メートル長の空洞である。8台または9台の空洞が一つの超低温超伝導クライオモジュールを構成し、ILCにはこれが1800あまりもある。SLACの研究者はこういったスケールや複雑さを厭わない。 

「クライオモジュールを一つ理解できれば、加速器全体の振る舞いも解るようになります」とACDの副部長、Ng氏。

研究者はその途上にある。クライオモジュール全体についてウェーク場の影響をモデリングし、ILC設計ではダンピングを十分に行うことでウェーク場を随分と減らすことができることを発見した。クライオモジュール間の吸収材は、すでにILC設計の一部であり、加速器全体を通して、ウェーク場はそれほどの問題にはならないかもしれない。

ILCの世界設計チームによると、こういった研究はコライダーの効率を改善し、コスト削減にも役立つ。加速器空洞の制作はILCの経費全体の30パーセントを占める。ウェーク場の影響を抑えることで熱量を減らすなど、空洞を少し手でも改良することで、メンテナンスのコストを最小化し、経費も縮小することができる。

「それがこのシミュレーションの目的でした」とLee氏。

チームはこのシミュレーションが現実的なものであるという自信を持っている。すべてのコードをベンチマークしており、結果は実験データや他のソフトを使用したモデルと照らし合わせている。コード自体は0.01パーセントの誤差で正確であるという。さらに、この方法はILCのみならず他の素粒子加速器にも適用できる。同じコードを使用し、バージニア州にあるトーマス・ジェファーソン国立加速器研究所のシミュレーションを行った。SLACのチームは、原型クライオモジュールの中の一つの空洞が8ミリメーター短すぎるという結果が出たが、これはエンジニアによって実際の加速器で確認された。クライオモジュール内でのビーム崩壊の原因となっていることがわかった。

「シミュレーションは、現実世界の課題を乗り越えるのに大変役に立ちます」とNg氏。「それはとても楽しいですね。」SLACチームのILCシミュレーション研究に関しての詳細は「素粒子軌道保持のためのウェーク場の測定」を参照。

■特集記事

螺旋を制御

陽電子源R&Dの進展

あらゆる側面からみて、ILCの陽電子源開発は、順調に進んでいる。最近の試験で、4メートルのヘリカル・アンジュレーターの試験モデル偏極ガンマ線を生成する機器がクライオモジュールの中で動作すること、そして陽電子を生成するターゲットが、毎分2000回の回転速度で動作することなどが実証された。

(脚注:ヘリカルとは、螺旋のこと。ここで言うヘリカル・アンジュレータとは、電子を総体的には直進させつつ、軌道を細かく螺旋状に振らせて、放射光を発生させるように設計された特別な超伝導電磁石のことをを指す。)


アンジュレーター用クライオモジュールの様子を調べるJames Rochford 

ターゲットホイールの据え付けの様子。左手の灰色の箱は磁石で、右手の黒いものはホイールを駆動するモーター。 

小型の試験試験機の成功(アーカイブ参照)を受けて、英国オックスフォード近郊のラザフォード・アップルトン研究所では大型のアンジュレーターモデルの試験がクライオモジュールで行われ、設計値0.86Tを超える磁場が生成できることが実証された。これまでに、熱絶縁のための真空領域にヘリウムが漏れるというトラブルがあり懸念されたところだが、、チームはこの結果に非常に満足している。モジュールに手直しが行われた結果、このたびは当初よりも良い結果を得た。

クライオモジュールの中の超伝導磁石は、電子ビームの軌道を螺旋状に振らせる(ヘリカル)ように働く。電子ビームからは、軌道の螺旋の振幅で決まるエネルギーの光子が放出される。ここまではありきたりで、世界各地の光源で何年も前から行われていることである。このアンジュレーターが他と違うのは、超伝導磁石を使うこと、ヘリカルであること、そして素粒子物理におけることの用途がユニークである点である。電磁石は超伝導体でできた、リボン状のコイル ちょうど栓抜きのようなものである -- が二つ,絡まりあってできており、これによって電子の軌道が螺旋状にねじ曲げられる。電子から放出される電磁波は重りあって干渉する。ILC用に考えられているアンジュレーターのフルユニットの場合、電子一個あたり何百もの光子が同じ方向に放出され、何百メートルも先でも光ビームの半径はたったの1ミリメートルにとどまる。同時に、電子の軌道が螺旋状なことに関係し、この光は偏極しているが、これを利用して、将来、偏極陽電子を得ることもできる。

「当初に起こった漏れの他にも、二つのアンジュレーターのアラインメント(高精度の設置)を行うのも大変な作業でした」とラザフォード・アップルトン研究所のJames Rochford氏。「クライオモジュールのパフォーマンスについては満足しています。」アラインメント用部品の改良版もできあがり、アンジュレーターをまっすぐにする作業がより簡単になり、精度も改善するでしょう。最終的には、ILCの陽電子源ではこれら50台ほどのアンジュレーター・クライオモジュールから成る巨大なアンジュレーターが使用される。

螺旋状の軌道を描く電子から来る偏光光子は、次にチタン製のターゲットに衝突し、陽電子を生成する(電子と光子も生成されるが、不要なので破棄される)。このターゲットは直径1メートルでスポークと縁のある馬車の車輪のように見えるものである。アンジュレータからの光子はこの「車輪」の縁の部分に照射され、生成される二次粒子シャワーから陽電子が取り出されるのだが、高エネルギーのシャワーによる車輪の発熱を一様にして冷却を図るため、高速で回転させる必要がある。そうしなければ、ホイールの寿命は大変短くなってしまう。回転させるのであっても、ベースライン設計ではターゲット・ホイールの交換を年一回見込んでいる。

このホイールは設計値通り毎分2000回転できることが最近示され、チームはデータを取り始めている。磁場のなかで電気伝導体を動かすと電流が発生し、その電流と磁場の間に働く力のために、電気伝導体を動かしにくくなる、という現象がある。陽電子生成のためのホイールでも、陽電子を捕まえるために置かれた近くの磁石によって引き起こされる渦電流(エディー電流と呼ばれる)により、このホイールの動きが鈍くなる。この問題を工学的に解決し、安定なホイール運転をいかに確立するか、が初期試験の焦点となる。「ターゲットが安定して回転しているだけですでに有望といえますが、これからは磁場中で収録したデータとシミュレーションとの比較分析が待たれます」とコッククロフト研究所のIan Bailey氏は言う。

■ディレクターズ・コーナー


Barry Barish氏

正式命名

ここ数ヶ月ほど、ILC技術設計報告書(TDR)のための新しいベースライン仕様を定めるための、構想が練られている。よく知られた基準設計書(RDR)仕様を出発点に、私たちはコスト対パフォーマンス、そして対リスクを向上させるための設計変更素案を検討しているところである。設計仕様の改訂版は、「ミニマム・マシン」と呼ばれていたが、この用語はさまざまな誤解と誤訳を招いてきた。そこで新たに、より説明的な用語として、加速器設計統合(AD&I)という言葉が、528日から29日にDESYで開催された会合で正式に採択された。この会議では活発な議論のなか沢山の論点が整理され、多くのことが達成された。

DESYワークショップでのGDE設計統合担当者Ewan Paterson氏。ビームトンネルの中心部の設計構想を指揮している。

RDR仕様を変更するのは何故か?理由はたくさんあるが、一番重要なものとしては、リスクを増加させることなくコストを大幅に削減する可能性や、パフォーマンスや技術ソリューションを改善するエリアが沢山見えてきたことがある。私たちのプロジェクト・マネジャーや設計統合担当者らは、検討評価のために、考え得る変更項目リストを作成した。これらの設計変更項目には相互的な依存関係があり、このうちのいずれをベースラインに採用するのかの決定は容易ではない。

私たちが考えている設計変更の一部は、RDR設計の途上で既に議論されたものである。シングル・トンネルにするか、ダブル・トンネルにするか という選択はその一例である。RDRの時点では、コストは掛かるけれども、より保守的なダブル・トンネルを選肢した。しかし、今、再びシングル・トンネルの可能性について検討することが提案されている。RDR以後、大電力のRFパワーを伝送するアイデアが考案され、それを利用すれば、シングル・トンネルが実現可能となるかもしれないからである。シングル・トンネルの実現可能性の検証では、信頼度、あるいは加速器システムの稼働効率の研究を行い、安全性を吟味し、また異なったサイトへの適用可能性を検討する必要がある。これらの要件については、今後しっかりとした研究を行いたい。また、かりに、TDRでのベースラインにシングル・トンネルが採用されることになってもRDR報告書にまとめられたダブル・トンネルも代替案として残されるので、ホスト国がそれぞれのサイトに対応してどちらの設計スキームが最適かの検討を行うことができるよう配慮されることになる。

全体として、DESYでの会議は「寄せ集め」だという参加者もいる。会議中二人のプロジェクト・マネジャー、Nick Walker氏とMarc Ross氏のある時点での表情から明らかか。
また、三人目のプロジェクト・マネジャー山本明氏が懸念をあらわにするなか、Nick Walker氏はそうでもない一瞬。

DESYでの議論のために国際設計チームのプロジェクト・マネジャーと統合を担当する研究者によって推進されているRDR に適用できる段階的な変更としては、次のようなものがある。

メイン・リニアックの総延長は、平均加速勾配(現時点では31.5MV/m)の採用値に依存

メイン・リニアックやRTMLはシングル・トンネル。対応して、HLRFはクライストロン・クラスターかDRFSのスキームを使用。

アンジュレータに基づく陽電子源は電子メイン・リニアック(250GeV)の下流端に設定。

パラメータ条件を緩和し、パルスあたりバンチ数は nb = 1312 とし、 RFパルス長さは2ms

ダンピングリング周長を~3.2kmとし、エネルギーは5 GeV、リングからのバンチ長は6 mm

バンチコンプレッサは二段ではなく一段タイプとして、圧縮比は1/20

電子・陽電子源を共通の「中心部ビームトンネル」に設置、BDSと統合。

陽電子源(項目3)に関しては、300Hzバンドリニアックに基づく独立電子ビームによる陽電子源の議論も行われた。

この会議は意思決定の場ではなく、議論はまだ初期段階にある。今後の活動のためには、会議議事録が役立つだろう。長期的ゴールは、これらの研究を深め、9月のアルバカーキでのGDE会議で詳細な評価と議論ができるよう、洗練させることである。これらを通して新しいベースライン仕様や代替案が来年始めに出来上がり、2012年にむけて完成予定のTDR設計のもとになる予定である。

今後のディレクターズ・コーナーでは、今考案されているベースラインの変更事項それぞれについて議論していきたい。RDR設計の一部を選択的に発展させ、TDR設計活動にベースラインの代替案を含めることによって、私たちのILC設計を健全に保てる、というのが私の考えである。これによって、より最適化の進んだ、柔軟な技術設計報告書が生まれ、物理研究の展望やサイトほかの状況がどのように展開するのであっても、予算計画上の基盤になると考えている。一言でいえば、私たちの全体のゴールは、機が熟した時点で、最も説得力あるリニア・コライダー提案を提出できるようになるところにある。

■カレンダー

今後の会議

11th European Symposium on Semiconductor Detectors 
Wildbad Kreuth Conference Center, Bavaria, Germany
7-11 June 2009

Tesla Technology Collaboration Meeting (TTC09)
LAL, Orsay, France
16-19 June 2009

ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 
CERN, Switzerland
23-25 June 2009

Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) 
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009

Mini-Workshop on the CesrTA Electron Cloud R&D Program for Linear Collider Damping Rings (CTA09) 
Cornell University, NY, USA
25-26 June 2009

FCAL meeting 
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June


今後のスクール

The 2009 Hadron Collider Physics Summer School
CERN
8-17 June 2009

Summer School: Exploring the Cosmological Frontiers
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009

International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF)
Radiation and particle detectors
 
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July

GDE Meetings calendar 

View complete ILC calendar


■ブログライン

5 June - Frank Simon
Public Talk: Particle Physics at the Terascale


5 June - Tony Hartin
Murder by Maxwell’s equations - or How I learnt to love the magic bullet


Quantum Diaries

■ニュース記事

From CERN Courier
8 June 2009

視点:大きな科学、さらに大きなアウトリーチ

アウトリーチとは科学発見や技術的恩恵を社会に広く知らしめることというのは疑いない。しかし、科学のメッセージはそこでとどまってはならないと私は思う。 
英文記事

From CERN bulletin
8 June 2009

LHCの近況

セクター34では、ビームライン全部の接続が終わり、電気配線の最終作業がとり行われている。 
英文記事

From Nature
5 June 2009

ドイツ基礎科学研究に歴史的な予算措置

ドイツの大学や研究所へ、今後10年にわたり180億ユーロ(250USドル)の予算が割り当てられた。 
英文記事


■今週のイメージ

なかなか!

先週はいくつかの靴の写真を載せて、これは何なのか、をあててもらった。全ての靴の持ち主を当てた人が一人あったが(さすがMaxine、これらの靴をいつも見ているだけある)、「夏休みを控えた生徒の靴」といった回答もあった。また二の回答者は、フィドルやティン・ホイッスルをよく知っているに違いない:「とても頭の良い物理学者がダブリン空港での待ち時間中にRIVERDANCE』を練習。」また他は「GDEが創造性を伸ばすためにアイルランド風のジグを導入中」と回答。さて解答は?DESYで開かれた再ベースライン会議(今週のディレクターズ・コーナーを参照)が、ドイツのビア・ガーデンにて議論を継続中、である。皆さんの回答もなかなかである。


■アナウンス

arXiv preprints
0906.1646 
Neutrino Masses, Leptogenesis and Decaying Dark Matter

0906.0672 
Can colliders disprove leptogenesis?

0906.0662 
Testing the Littlest Higgs Model with T-parity in Bottom Quark Pair Production at High Energy Photon Colliders

ILC Internal Document
2009-035 
Summary report of the first meeting on Accelerator Design & Integration 28-29th May, DESY

2009/06/08

ILC NewsLine 2009年6月4日号

■特集記事

「お疲れさま、そして、更なる努力を」

加速器諮問委員会、第一回評価報告書を発行

つくば市でのTILC09で加速器諮問委員会(AAP)評価会議が行われてから二、三週間たち、評価報告が発表された(最近のディレクターズ・コーナーも参照)。13名の委員(ILC研究者からの10名とリニア・コライダー以外の3名からなる)によって、二か月にわたる準備、実際の評価、そしてその後数週間の報告書執筆が行われてきた。報告書は、ILC2012年末の技術設計フェーズ(TDP)の終わりまでに研究開発を成功裏に終えることができるよう、勧告事項を書いたものである。


AAP報告書は写真のような3Dでのシミュレーションを推奨する。  

「簡潔にいえば、このプロジェクトが承認され建設が開始される時点で、致命的な問題が出てくるようではならない」と、TILC09に先立って技術グループに配布された準備文書にある。この言葉は、AAPが目指すところをよく表しているといえる。TDPの終わりまでにコライダーが理論的には建設開始できるよう、可能性のある問題やつまづきの要因をディレクターや管理チームに対し指摘するのが役割である。ILCディレクターに直接に報告する本委員会の委員のほとんどは、ILCプロジェクト内から参加しており、ILC運営委員会に報告するプロジェクト諮問委員会(PAC)と比べ、技術詳細について言及することが可能である。「大規模プロジェクトを熟知した研究所のディレクターやプロジェクト・マネジャーから、電子雲のワールドクラスの指導的研究者まで、様々な委員から広範囲にわたる意見が出されました。ひとつの報告書にまとめるのは難しい内容です」と、Bill Willis 氏とともにAAP委員長を務めるDESYEckhard Elsen氏。ともあれ、PACで焦点となるプロジェクト・マネジメントについてもAAPは扱った。その他の主要分野としてはCF&S、電子雲、超伝導RF、そして試験施設がある。

では何が提言されているか。Barry Barish氏が今週のコーナーで挙げている三つの例の他にも、作業・方針の一貫性や透明性、さらなる加速器研究やシミュレーション、空洞制作における研究所と産業界との連携、競争原理を導入したプラグ整合性試験、そして現行のベースライン再評価のための対策部隊などが提示されている。また、ガバナンスについても言及されている。「AAPは国際リニア・コライダー運営委員会(ILCSC)に対し、研究所リソースの使用をもっと公式に提示・調整するよう求める。ILC実現可能性を高めるために、現物出資の調整を図る必要がある」と書かれてある。またKEKで実行されるS1プログラムについては、各国で製作されたモジュールのプラグ整合性のチェックへ焦点を移して進めることを提案し、ILCが目標とする31.5MV/mの実現実証は難しいので、目標を再定義することを勧めている。


オンラインに載せられたAAP 評価報告書  

設計や統合における研究は「ミニマム・マシン」という誤解を受けやすい名で呼ばれているが、TILCでも大きな議題となった。AAPの筆頭勧告は、ILCのスコープを損なわない方向を取るべし、としている。「設計変更で発生しうる加速器の性能劣化については慎重に検討し、「ミニマム・マシン設計」のどの項目が新ベースラインに含まれるべきかの決定はそれに基づく必要がある」とある。「設計変更は、効果が大きいと認められるシステムや機材に限ってなされるべきである。その間、RDRソリューションは一貫して、ILC建設に対応できるように維持されなければならない。」賛辞の記述もある。KEKの加速器試験施設ATFATF2での成果を「AAPATFコラボレーションの素晴らしい実験と成果論文を称賛するものである。実験提案へのATFの柔軟な対応は高い評価に値する。AAPATF2ビームラインを立ち上げでのコラボレーションのよく組織された仕事を評価する」と述べている。また最近のCF&Sグループの3-D モデル化テストについては「AAPはこの進展を称賛する。このツールは採択されたレイアウトをよりよく理解するために必須のツールであって、そのために要求される多大なリソースは十分是認される」と述べている。

GDEチームは、AAPからの質問や重要な問題についても資料を準備した。その内容はILCR&Dに関わる問題から実験インプット、最近の研究結果、リスク・アセスメント、オペレーションの採算や代替にまで及んでいる。TILCで行われた評価レビューでは、おおむね10ほどのプレゼンテーションのそれぞれに質疑応答の時間が設けられ、内部評価セッションもいくつか持たれた。会議は昼食時間や夜遅くまで続けられた。来年1月にオックスフォードで開催される次の会議も、同様の計画で開催される予定だ。「これは実験的な試みです。よい解が見つかるまで、試行を続けていきます」とElsen氏は言う。

■世界の各地より

TILC09会議のスペシャル・トークショー

4月のTILC09会議主催の一般公演はクロースアップ・マジシャンを招いた。反物質の消滅は宇宙史上最大のマジック?

毎年418日の「発明の日」を含む1週間は科学技術週間。多くの研究所が集まる茨城県つくば市が、1年の中でも特ににぎわう1週間だ。今年は、1319日の一週間、日本各地で様々なイベントが開催された。そのうちの一つがTILC09の一般公演会「反物質の消滅は宇宙史上最大のマジック?」だ。ゲストはクロースアップ・マジシャンの前田知洋氏、数物連携宇宙研究機構(IPMU)の村山均氏、そして高エネルギー加速器研究機構(KEK)の樋口岳雄氏である。


ゲスト(左から):IPMUの村山均氏、KEKの樋口岳雄氏、そしてマジシャンの前田知洋氏。 

素粒子物理のイベントというと、その内容の難しさから、高校生以上を対象にしていることが多い。「実際に子供達が科学に興味を持ち始めるのはもっと早い段階です」とこのトークショーの企画者の一人、KEKの藤本順平氏。「虫眼鏡で焼けこげをつくったり、アリの巣を掘り返したり・・・誰もが小学生のときに科学の不思議に胸を躍らせた経験があると思います。」科学と子供をつなげるため、橋渡し役として起用されたのがマジシャンだった。

トークショーに先立って、IPMU機構長の村山氏が反物質について話した。人気アニメを題材に、CG映画のミスター・インクレディブルのエネルギーはどこから来るのか、ピカチューの反物質、反ピカチューがピカチューと見分けがつかないことなどを話した。その後、樋口氏と前田氏が加わり、トークショーが行われた。一万円札のマジックで保存則を表現したり、ジャムとピーナッツの瓶を入れ替えるなど、マジックを交えて会話が弾んだ。映画「天使と悪魔」やその制作の舞台裏、CERN、そして提案されているILCなどについて紹介した。


物質と反物質が出会うと消滅する様を「実験」する村山氏 

僕は『前代未聞』と云う言葉が好きです。今回のような最先端の研究者と子供たちに科学を紹介できる場にご一緒できて光栄なことです」と前田氏。東京電機大学で学んだ前田氏は、もともと科学には造けいが深く、その後マジック・サークル・ロンドンでゴールド・スター・メンバーシップを授与されるなど、マジックで成功を収めている。「4千年といわれるマジックの歴史の中で、物理や科学の原理を応用したものがたくさんあります。観客の誰かが、マジックをきっかけに科学の世界に進み、将来に僕らをビックリさせるような発見をするかもしれない。微力ながら、そんなふうに世代を超えた知識と経験のやりとりの中に身を置けることを幸せに思っています」と前田氏は言う。

前田氏は、知的な好奇心を満たすというのは何ものにも換えがたい営みだ、と言う。「今までのように国家間で成果を競い合い、権利を主張し合うことは終わりにして、地球規模で考えればILCの建設が合理的で効率の良いモデルになることを期待しています」と前田氏トークショーの最後に、前田氏が大切にしている言葉としてあげたのが「夢を夢で終わらせない」だ。努力すれば夢は叶う。しなければ夢は夢のままで終わってしまう。ILCコミュニティの夢はどうだろう。答えは次世代の若者の中にある。最後の質疑応答のとき、小学生が何人かステージに上がり、物理学者に熱心に質問を投げかけた。反ピカチューとピカチューとの見分け方に悩む子もいれば、そもそもなぜ反物質というアイデアが出てきたのかと聞く子もいた。将来の夢は、と聞かれて、「KEKの研究者になってノーベル賞をとること」と答える子。ILCのようなドリームマシーンも、彼らのような興味深々の表情に出会える限り、実現できるものに違いない。


■ディレクターズ・コーナー


Barry Barish氏

評価を受けるということ

先週のゲスト・ディレクターズ・コーナーで、ILCプロジェクト・マネジャーのNick Walker氏は、最近の「評価レビューの季節」について書き、Bill Willis 氏とEckhard Elsen氏が委員長を務める加速器諮問委員会(AAP)に触れた。AAPとは少数の外部専門家も招く内部組織で、GDEの技術活動について継続的にモニタリング、評価、提言などを行う機関である。今週はAAP評価についてのWalker氏のコメントに付記したい。

本コーナーの執筆にあたっては、私はいつもILC NewsLineの広い読者層と、国際設計チームのコアの両方を念頭においている。双方の読者に合わせることは簡単ではなく、結果的に内部の読者向けになったり、もっと広範囲の読者向けになったりする。GDEの幹部会(EC)もゲスト・ディレクターズ・コーナーを、毎月最後の木曜日にシニアリーダーの観点からILC読者に新風を吹き込む意味で執筆をお願いしている。この目的から、ゲスト執筆者にたいして私から題材を提示することはなく、そのため時折、その内容に驚かされることがある。

AAP委員長Eckhard Elsen
GDE統合研究者Ewan Paterson氏がTilC09会議にてミニマム・マシン研究について説明する。

先週、Nick Walker氏は「評価レビューの季節」について書いた。初めにこの題名を見たときは、今週の記事は別の話題について執筆する必要があると思ったが、コラムの読んだ後、AAP評価について私はWalker氏といかに立場を異にするかについて考えさせられた。彼のコーナーは評価を受けたプロジェクト・マネジャーの観点から書かれているが、私はAAPに対して詳細な技術評価や提言を求める立場にある。

Walker氏のコラムで、次のような興味深いコメントがある。「このようなレビューに関わった人なら誰でも言うことであるが、こうしたレビューを受けて得られる最大の成果は、このために行う準備作業そのもののなかにある。」また、(AAP評価のような)国際的な評価は信頼性を高めるうえでも重要な役割を持ち、これは、地域的なレビューだけに頼っていては得られないことである、と書いている。さて彼が書いていないのは、AAP評価報告の中身や、それがどのように私たちに影響するか、についてである。

これは補う意味で、今週は、報告書の中で示された勧告に焦点を当ててみたい。報告書には、私たちの活動内容や計画について、たくさんの議論、結論、そして勧告がある。報告書の中の主要項目については、今後数か月にわたってAAP対話を深めていく予定である。下に勧告のいくつかを選び、私たちの活動へどのように影響するのか、現行のAAPとの議論も含め示したい。

1)マネジメントとコミュニケーション:プロジェクト・マネジャーは「積極的に、また(GDEチーム全体にとって)明示的なかたちで、活動のバランスを取り直し、R&Dプログラムに手を広げるのは避け、マイルストーン的な目標の達成に注力すべき」と、AAPは書いている。これは、ILC設計開発するにあたり、最も難しい問題をよく表現している。GDEのための研究を行っているのは大きな研究所であって、研究所の優先事項やプログラムによって大幅な制約を受けている。R&Dを行うのは自然とそれらの研究所の実験施設になるが、この提言によると、ILCの設計活動において研究所サポートをより求めていく必要がある、ということだ。これはわれわれもよく認識している事柄であり、この方向で継続して努力をすることが必要である。

2)プラグ整合性:AAPはプラグ整合性(プラグ・コンパチビリティ)コンセプトに関して、SCRF R&D段階のそれについては全面的に賛同するものであり、それぞれの空洞、カップラー、そしてチューナーの成績をつける方式で、競争的な要素を導入することを提案する。」AAPとは、プラグ整合性コンセプトを開発する際によく話し合っており、おかげでR&Dフェーズでとるべきアプローチやコンセプトの有効性を高めることができた。今回の新提言は様々な設計を比較競争せよということで、今後、複数ある設計スキームの実用性や有用性を評価していくことが必要になる。また、ILCは、どのような組織がどこに建設するのかまだわからないが、建設途上でのプラグ整合性の位置づけと機能について検討し、工業化、建設、運転のための現実的な計画を立てていく必要がある、としている。

3)電子雲:「ダンピングリングについては、AAPは、電子雲の克服の観点からどのようにしてILCダンピングリングの妥当な設計選択に到達するのか、の工程表作成を求める」私たちはAAPCesrTAでの電子雲プログラムに賛意を表明したことを歓迎する。私たちはまた、ILCでの運転条件に対応するダンピングリングの設計にむけて、信頼性あるシミュレーションを行うためのデータを得る努力が重要、とのAAPの指摘を銘記したい

AAP報告書にはさらに多くのことが議論されているが、上の例でどのような有用なコメントが得られたのかがわかるだろう。私たちは今後数週間の、AAPとの重要事項についての議論を楽しみにしている。このようなAAPとプロジェクト・マネジメントとの関係によって、レビュー以外の時でも、与えられた問題に対し生産的に取り組むことができるだろう。これはAAP内部評価プロセスで導入されたもうひとつの新機軸であり、ILC実現のための良質で詳細な技術インプットとなるであろう。

■カレンダー

今後の会議
11th European Symposium on Semiconductor Detectors 
Wildbad Kreuth Conference Center, Bavaria, Germany
7-11 June 2009

Tesla Technology Collaboration Meeting (TTC09)
LAL, Orsay, France
16-19 June 2009

ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 
CERN, Switzerland
23-25 June 2009

Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) 
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009

FCAL meeting 
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June

今後のスクール
The 2009 Hadron Collider Physics Summer School
CERN
8-17 June 2009

Summer School on Particle Physics, Cosmology and Strings
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009

International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF)
Radiation and particle detectors
 
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July

GDE Meetings calendar 

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■ニュース記事

From Physics World
2 June 2009

唯一の宇宙

多くの宇宙論では、われわれの宇宙はたくさんあるうちのひとつであり、時間は存在しないとされる。Lee Smolin氏はこの無時間多宇宙論に反論する。 
英文記事

From SLAC
29 May 2009

理論家がTrue Muonium発見への糸口

True Muoniumは理論的には50年前から知られてきたが、その存在を実験的に証明する方法については発見されていなかった。」 
英文記事

From Softpedia
29 May 2009

素粒子物理の恩恵

素粒子物理学での研究の直接の目的は、重力や質量の理解、反物質の発見、暗黒物質の検出、そして他次元の発見などであるが、研究の過程で、何十、何百もの発明が副産物としてなされている。 
英文記事

From SLAC Today
28 May 2009

リニア・コライダーのシミュレーションをもっと効率的に

研究者らは2012年までに次世代素粒子加速器、国際リニア・コライダーの綿密な計画を打ち立てようと、活動している。SLACのグループも参加しており、何十億ドルもかかる加速器のコストと性能を最適化するため、スーパーコンピューターによるシミュレーションを行っている。 
英文記事


■ブログライン
2 June - Tony Hartin
レントゲンの人道的機器

Quantum Diaries 

■アナウンス
arXiv preprints
0906.0028 
Measuring the Higgs Boson Self-coupling at High Energy e+e-Colliders

0905.4767 
Effective Lagrangian description of Higgs mediated flavor violating electromagnetic transitions: implications on lepton flavor violation

EUROTeV Reports
2008-095 
Final Report for the Timing and Phase Monitoring (TPMON) Task

2008-096 
Final Report for the LAL Pulsed Laser Injected Cavity Experiment (PLIC)

2008-097 
The Compact Distance Meter Interferometer Prototype


■今週のイメージ

何が行われているでしょう? 

「これは何でしょう」という質問ではない。これが靴だというのは明らかだが、誰の靴かがわかるだろうか。靴を履いている人たちが何のために何をしているか、当ててみよう。解答はcommunicators @ linearcollider.orgまで。


2009/06/01

ILC NewsLine 2009年5月28日号

■特集記事

4回リニア・コライダー国際加速器スクールを20099718日に北京市で開催

20099月の上旬に、北京市に欧米亜の三地域から70人もの優秀な物理学生を集め、第4回リニア・コライダー国際加速器スクールが10日間にわたって開催される。中国科学院高能物理学研究所(IHEP)が主催。研究者や教授陣によって、リニア・コライダーやミュー粒子コライダー、RF技術、そしてダンピング・リングといったトピックが講義される。過去三回は、神奈川県葉山町、イタリア・シチリア州エリーチェ、米国イリノイ州オークブルックで開催されている。


昨年フェルミ国立研究所のリニア・コライダー・スクールでの集合写真 

この「人種のるつぼ」は、国際色豊かな場で高エネルギー物理学でのグローバルな研究活動に触れ、他の学生との交流を深める機会である。「学生に求められていることは、できる限り多くのことを学び、できる限り多くの友達をつくることです」と米国フェルミ国立研究所加速器部門のシニア・サイエンティスト、Weiren Chou氏は言う。「人生の目標を共有する、優秀な学生に出会える機会はそう多くはありませんから。」

今回のスクールの開催地は、たまたま中国になったというわけでもないし、突然決まったわけでもない。中国が果たす高エネルギー物理学研究とリニアコライダーにおける役割についての熟考の結果である。中国での高エネルギー分野の活動には、BEPC-IIという円形衝突加速器(コライダー)が挙げられる。ルミノシティ3 × 1032 cm-2s-1を達成し、レプトン・コライダーでも先端の技術を開発している。「中国の研究者は、素粒子物理とリニアコライダーでフロンティアに躍り出ようと意気揚揚ですし、超伝導RF技術でも良質なR&Dプログラムを保有しています」とChou氏。高エネルギー物理学への関心を高めるため、中国政府もこのスクールを後援することになっている。本スクールの経費は、中国科学院(CAS)や中国国立自然科学財団(NSFC)、そして中国先端科学技術センター(CCAST)などの機関から出されている。

研究者の間では、次世代の高エネルギー物理学はレプトン・コライダーの実現であると考えられており、中国はこれに積極的に参加している。これらの研究動向を考慮し、最初の二日間の全体レクチャーではBarry Barish (ILC-GDEディレクター)Frank Tecker (CERN)、そしてBob Palmer ブルックヘブン国立研究所ILCCLIC、ミュー粒子コライダーについて講義する。委員会は、高エネルギー物理学の動きを反映して、今年は二種類の研究分野でのコースを用意することに決定した。「たくさんのトピックに触れることで、学生は視野を広げることができます」とDESYのビーム制御リーダーのStefan Simrock氏。「同時に、全体像をより明瞭に把握することができるようになるでしょう。」

一つ目のコースは加速器物理についてのもので、電子・陽電子源、ダンピング・リング、リニア加速器、そしてビーム収束システムの技術について学ぶ。講義は、リバプール大学や広島大学の教授、CERNCEAの研究者らが行う。「加速器物理がユニークなのは、物理学や技術の様々な分野からの、幅広い知識が要求されるところです」とSimrock氏。「これらのコースを通して、こうした分野の幅広い知識を得てもらいます。現在のレプトン・コライダーは、直線加速器と円形加速器の両方の土台のうえに成り立っていますから、このことを考慮して関連する様々な分野の基礎を学生に、興味をもち、学んでもらえるよう配慮しました。」

二つ目のコースはRF技術についてのコースで、室温・低温(超伝導)RF技術、大電力RFシステム、小電力RF制御など、RF関連のトピックを網羅する。「RFは、いつも敷居の高い分野と思われてきました」とSimrock氏。「大電力RFの講義ではまず基本に焦点をあて、続いてクライストロンやモジュレータの技術について話します。」大電力RFシステムは、加速器のほか、レーダーや無線でも使われており、その習得には、RF/マイクロ波技術の学習が必要である。一方、小電力RF制御LLRF)ではデジタル化が進んでおり、信号処理や制御理論のスキルが要求されるだろう。

興味のある大学院生、ポス・ドク、ジュニア研究者は4回国際加速器スクールに申し込みを。受講者には、高エネルギー分野での研究能力と関心があり、責任感をもって参加できる学生であることが要求される。65日の締め切りのあと、研究委員会が、提出されたレジュメと推薦状をもとに選抜を行う。受講が認められた学生全員に、スクール参加のための奨学金が支払われる。「将来加速器に興味をもつ若い研究者にとって、高エネルギー物理研究のために素養をつけるうえで、このスクールは最適の機会といえます」とChou氏は言う。

■世界の各地より

ウエブサイト公開!-アジアの加速器情報の集約サイト

527日にアジア加速器プラザ AAP )という新しいウエブサイトが公開された。このサイトは、アジア地域の加速器情報の総合ポータル・サイトを目指すもの。アジアの加速器科学研究所の協力で立ち上げられたものであり、コンテンツは中国語(簡体、繁体)、英語、日本語、そして韓国語の4か国語で提供されている。「初めはコンテンツの多言語化は難しそうだと考えていたのですが、アジアの人たちの協力で大変スムーズに事が運びました」とKEKの研究者で本ウエブサイトの編集者である大森恒彦氏は言う。


アジアの加速器関連の情報を新しいウエブサイトに集約。 

加速器科学は、長らく欧州と米国によってリードされてきた。アジアの国々が加速器科学を国家プロジェクトとして促進し始めたのは、20世紀後半になってからのことである。「今やアジアは加速器科学のコミュニティの中で新勢力となっており、無視できない勢力になってきています。けれども、アジアでの加速器活動に関する情報は、インターネット上でなかなか見つけられないのが現状です。これが、AAPサイトを開設した理由です」と大森氏。この活動はアジア地域次世代加速器推進委員会(ACFA)の認知と賛同のもとに行われている。ACFAは、アジア・太平洋地域の加速器の建設・使用について俯瞰し、領域内の共同研究や人材交流を促進することを目的としている。

大森氏によれば、このサイトはアジアの加速器に興味のある人、特に政治家やメディア関係者をはじめとする科学コミュニティ外の人たちを対象に作成された。「気軽にアクセスできるよう、サイトマップやコンテンツをできる限りシンプルにし、平易な言葉で説明するよう心がけました」と大森氏。主目的は、最新のニュースや写真、それぞれの国の科学技術政策など、アジアの加速器科学に関する動向を集約することである。このサイトを共同で管理することによって、アジア地域でのコミュニケーションを強化することも、大森氏は考えている。

本サイトには、アジアの加速器情報を掲載したページや素粒子物理や加速器科学に関する用語集のページがある。一部作業中だが、近い将来に完成する予定である。「素粒子物理学の専門用語には、例えば「ビッグ・バン」がどのように名付けられたか、などについて、裏話がたくさんあります」と大森氏。「この研究分野に興味を持っていただけるよう、ただの言葉の説明ではなく、短い読み物としても面白いような用語集にしたいと考えています。これは結構骨が折れる仕事です。ウエブサイト公開の時点でまだエントリー数が少ないのはそのためです。」学生が夏休みの課題で使用できるように、今夏までに完成させるのが当面の目標だ。

■ディレクターズ・コーナー


Nick Walker氏

言葉の持つ意味

今週のコーナーは国際設計チームのプロジェクト・マネジャーNick Walker氏による。

国際設計チームのプロジェクト・マネジメントをしていると、日々の活動の中で頻繁に使用する単語に気づくことがある。最近では「レビュー」という言葉がそれである。

オンラインのコンパクト・オックスフォード英語辞典によると、「レビュー」の意味として次の二つが挙げられている。第一は、ものごとに関して、必要ならば再考する可能性も念頭におきつつ、公式評価を行うこと。第二は、ものごとに関して、過去に遡って調査もしくは検討報告を行うこと、である。これらの定義は「レビュー」でなされることを概ね表してはいるが、この6週間のレビューでGDEが行ったことの全貌を表現しているとは言いにくい。まず、4月につくばで開催されたTILC09では、三日をかけて、加速器諮問委員会(AAP)によるGDER&D活動に関する入念な検討が行われた。AAPは長期間におよんだ準備とレビュー本番を通して、個別の技術的パラメータ、プロジェクト・マネジメントや全体戦略の高レベルな問題まで、広範囲な課題について詳細に精査した。一般の評価委員会とは異なり、AAPはプロジェクト・マネジャーの念頭に継続的にあるものである。私たちは、AAPレビューを最大限に有用なものとするため、Eckhard Elsen 氏とBill Willis (AAP委員長)と共同で、評価アジェンダや内容・範囲を立案した。こうして、TILC09レビューは私たちの計画作成上の重要なマイルストーンとなり、当面のゴールや今後数か月の計画について磨きをかけ、2012年の技術設計報告書という大きな目標に向けて主要な課題を見出すことができたといえる。

ここのところGDEはたくさんの評価プロセスにかけられている。この漫画は科学者であり漫画家でもあるNick D. Kim氏が見たピア・レビューの過程。(漫画:Nick D Kim氏。lab-initio.com)

しかしAAPレビューは、ほんの始まりにすぎない。つくばから戻ると、今度は3週間後に控えたバンクーバーでのプロジェクト諮問委員会(PAC)レビューのための準備をしなくてはならなかった。AAPレビューとは違って、PACILC運営委員会(ILCSC)に報告する外部評価機関で、加速器と測定器両方のプログラムを監修する。PACは、AAPより大局的な、マネジメント・レベルの注目した評価を行う。幸いAAPのために費やした準備が、PACでも役に立った。PACでの反応は概ね好意的で、近々正式な報告書が出されるはずだ。

この二つはILC開発の技術設計フェーズの活動やマネジメントを世界全体の観点から考える、という点で「GDE中心的」なものであり、レビューの設定も特定の国にとらわれない、国際的なものだった。だが、この数週間に行われたレビューは、AAPPACに留まらない。PACレビューの後、米国エネルギー省はSLACにて米地域チーム(ART)プログラムの公式レビューを行った。他の地域でも、監督官庁による類似のレビューが行われている。こうした、「国際的」と「地域的」レビューを見ると、現在のGDEがもつ「国際的」と「地域的」の2次元的構成がよく分かる。GDE全体のレビューを組織する責任を負うのはプロジェクト・マネジャーだが、DOE ARTレビューでその仕事を行うのは米地域ディレクターのMike Harrison氏である。

このようなレビューに関わった人なら誰でも言うことであるが、こうしたレビューを受けて得られる最大の成果は、このために行う準備作業そのもののなかにある。レビューを受けるに際して、マネジメントは計画の現状と将来についてよく考える必要が出てくる。GDEについて言えば、レビューは国際協力としての責任を明らかにし、信頼性を高めるうえでも重要な役割をもつ。これは、地域的レビューだけに頼っていては得られないことである。このように考えると、こうしたレビューは、評価する側にも、される側にとっても多大な労力を強いるものではあるが、非常に有益であることがわかる。

これらのレビューを終えて一息ついた今、本来の仕事に専念すべき時がやってきたと言える。評価委員-特にAAPの―からのコメントや勧告は、目標に向かって私たちが前進するのに役立っていくことだろう。AAPによるコメントのなかでとくに焦点となった項目から思い浮かぶのは、「統合」であり、これも最近私たちが頻繁に口にする言葉である。技術的には、「統合」とは、コライダーのレイアウト、パラメータなど設計の全体像をどうするか、ということに関連した作業を指し、私たちがいま注力している性能リスク軽減のための基幹R&Dとは少しく性格の異なる仕事である。この記事が公開されるころには、技術設計フェーズのチームは、DESYで顔合わせ会合を行い、フェーズ2でのコスト評価にむけた改訂ベースラインについての協議を行っているはずである。この会合は、過去1年のあいだやや据え置かれてきたコライダーの全体設計問題に立ち戻るだけでなく、世界で活動を続けているメンバーを有機的な一つのグループに統合して今後の技術設計とりまとめに向かう、という意味でも極めて時機を得たものと言えよう。

ところで、広く使われている言葉であっても、あまり適切とはいえない用語もある。たとえば、「ミニマム・マシン」で出てきた「ミニマム(最小)」がそれである。残念ながら、この言葉は、対話のなかで誤解を呼びがちで、また、翻訳時にも少なからぬ混乱の元になることが明らかとなった。今後は、この言葉は出来る限り使わないようにしていきたいと思う。

■カレンダー

今後の会議


11th European Symposium on Semiconductor Detectors 
Wildbad Kreuth Conference Center, Bavaria, Germany
7-11 June 2009

Tesla Technology Collaboration Meeting (TTC09)
LAL, Orsay, France
16-19 June 2009

ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 
CERN, Switzerland
23-25 June 2009

Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) 
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009

FCAL meeting 
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June

今後のスクール
The 2009 Hadron Collider Physics Summer School
CERN
8-17 June 2009

Summer School on Particle Physics, Cosmology and Strings
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009

International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF)
Radiation and particle detectors
 
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July

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■ニュース記事

From CERN Bulletin
25 May 2009

LHCの近況

超伝導バスバーの接続部分で使われている銅製の部品での接触抵抗を測定するため、新しい測定法が開発されている。 
英文記事

From Spiegel online
25 May 2009
Physiker auf der Spur der unbekannten Kraft
Die Schwerkraft spürt jeder, die Wechselwirkung zwischen Protonen und Neutronen ist etwas für Experten - doch gibt es auch eine weitere, bisher unbekannte Grundkraft der Physik? Diese umstrittene, fünfte Wechselwirkung könnte viele Probleme der Kosmologie lösen - aber auch neue schaffen.
独文記事

From Science News
22 May 2009

無限

無限をうまく扱えるようになれば、多宇宙論にも可能性 
英文記事

From Mainichi jp 
22 May 2009
ILC:素粒子分野の最先端大型実験施設、誘致に本腰--県 /岩手
和文記事

From Iwanichi Online
21 May 2009
ILC誘致調査費予算化へ 奥州市長が方針
和文記事


■ブログライン

26 May - Frank Simon
雷雨

24 May - Frank Simon
丘の上

Quantum Diaries


■アナウンス

ILC Report
2009-018 
Report on the AAP Review at TILC'09

arXiv preprints
0905.3066 
Undulator-Based Production of Polarized Positrons

EUROTeV Reports
2008-094 
ESPEC: Precision Energy Spectrometer

2008-095 
Final Report for the Timing and Phase Monitoring (TPMON) Task

2009/05/25

ILC NewsLine 2009年5月21日号

■リサーチ・ディレクターズ・レポート


François Richard氏

CLICILCの測定器コラボレーション  

今月のリサーチ・ディレクターズ・レポートは、リニア・コライダー物理・測定器国際研究組織(WWS)共同議長で欧州地域測定器・コンタクトであるFrançois Richard氏による。

先月つくば市で開催されたTILC09ではCERNから多くの研究者が参加し、ILCとコンパクト・リニア・コライダー(CLIC)間のコラボレーションがますます活発になってきていることがよく伺われる。ここでは、ILCCLIC間で同意された覚書(MOU:詳細は200811月のBarry Barish氏のコーナーで)のうち、測定器に話題を絞って述べよう。この覚書がとり交わされた背景には、加速器・測定器開発においてILC/CLIC双方のコミュニティの目標に共有点が多いことと、不要な競合を避けたい、ということがある。過去、国際的なリニア・コライダーの目標重心系エネルギーを1テラ電子ボルト(TeV以上に延ばす根拠は、理論的観点からの憶測の域を出なかった。しかし、LHCの運転開始を間近に控えたいま、そしてもちろんTevatronの結果も踏まえ、実験的な結果に基づく選択が可能になると考えられる。

電磁コイルとヨークのパラメトリック・モデル(Alain Hervé)。この概念はCMSILDSiDそしてCLICで共通している。

実際、測定器MOUはよく機能しており、測定器趣意書(LOI)執筆のための「垂直的な」グループ活動や、「水平的な」()R&Dコラボレーション(3月のSiD会議のKonrad Elsener氏のスライドを参照)の会合へCLIC関係からの複数チームの参加を得ている。CLICが概念設計報告書(CDR)の準備を開始するにあたって、ILCコミュニティによる測定器開発の成果が大きな役割を果たした。とりわけ、ソフトウェア・ツール(例:lcsim.org参照)がそうで、いくつかの計算コードが現在CERNで活用されている。また、大型のLHC測定器の構築・運転するために得られたCERNならではの専門的知識は、今後の技術設計フェーズで、より現実的な機械設計のとりまとめを行おうとしているILC測定器の仕事に役立っている。こうした実り多い共同研究をうけて、このコラボレーションはさらに強化されてきた。例えば、CERN研究者からはILC測定器の3つのLOIに署名をしているものや、カロリメータ共同開発グループ(CALICE)のコラボレーションへの参加者が出ている。

 (注)LOIグループのような、総合測定器システムに関して、並立している共同研究グループを「垂直的」なコラボレーション;Si素子による粒子検出器、MicroMEGAS検出器といった、複数のLOIグループのシステムに共通に適用可能な測定器技術に関する共同研究グループを「水平的」なコラボレーションと呼んでいる。

CLICILCのコンセプトの共通点とは、どのようなものだろうか。端的にいえば、ILC測定器はカロリメータのパフォーマンスを押し上げ、大型の超伝導ソレノイドを構築するのに最先端の技術を使用している。CLICILCの間では、電磁とハドロンの両カロリメータを持ったCMSタイプの超伝導ソレノイド(図参照)という設計では、コンセンサスが取れている。これは測定器のコストを決める主要素となるものなので、重要な選択である。また、以前から知られているように、ILDSiD測定器設計で開発された「粒子フロー」の考え方により、500GeVまでの粒子ジェットを再構成できるので、3TeVまでの物理実験に対応することが可能である。4thで開発されたDREAMカロリメータのアプローチはこれと相補的なもので、さらに高い対応エネルギーをもつ可能性もある。

CLICでの0.5ナノ秒ごとに1バンチというきわめて小さなバンチ間隔、また3TeVでランダムな電子陽電子ペアによるバックグラウンドが一桁も増加してしまうこと(Wolf-Dieter Schlatter氏のTILC09会議でのtalkを参照)などは、難しい問題である。トラッカーのデータ中、どの粒子がどのバンチ衝突から来たものかを識別する、もしくは少なくともタイムスタンプすることは可能だろうか?こういった問題に取り組む最先端のR&D技術は、ILC測定器のなかでも、とくに粒子密度の大きいビームパイプに近い部分のものを考えるとき、有効なものとなるだろう。

今後の展開は?コラボレーションは継続する。たとえば、CLIC-ILC役員会が612日にCERNで開かれる。もちろんわれわれが一番期待しているのはLHCの運転開始である。これによりリニア・コライダー実現に向けての政治的なプロセスを開始し、2012年までに戦略全容を定義するのに必要な情報が得られるだろう。


■世界の各地より

ノートルダム大学のミュー粒子検出器開発ブロジェクト

国際リニア・コライダー(ILC)は宇宙についての我々の理解を革新し、好奇心にあふれた素粒子物理学者にとってチャレンジとなる結果をもたらすだろうと、多くの物理学者は考えている。このILCは、米国インディアナ州ノートルダムにあるノートルダム大学が積極的に活動している分野だ。特にミュー粒子検出器の研究と高校の先生や生徒へのアウトリーチ活動が活発だ。


大学内で製作されたミュー粒子検出器の周りに集まったノートル・ダム大学のILCプロトタイプメンバー 

「ノートルダム高エネルギー物理グループは、シンチレーター・ファイバー・トラッキングとファイバー読み出しのカロリメータに長いこと取り組んできました。ですから、ILCミュー粒子のコラボレーションは私たちにぴったりのものでした」とノートル・ダム大学物理学科学部長のMitchell Wayne教授。

ノートルダム大学はミュー粒子研究の一環として、ミュー粒子検出器グループに参加している。この検出器グループは、米国ではコロラド州立大学、ウェイン州立大学、ノーザン・イリノイ大学・ウィスコンシン大学マディソン校、米国外ではイタリアのUniversità di Udine Università degli Studi di Trieste など、30の大学や研究所で構成されている。シンチレーターのミュー粒子検出器試験に力を入れており、高抵抗電極板(RPC)検出器の改良、ミュー粒子とカロリメータのシミュレーションなどを行っている。米国フェルミ研究所で得られた試験ビームの結果をもとに、RPCやシンチレーターをリニア・コライダーのミュー粒子システムに適用する研究もなされている。

だが、ILCに関連する活動はこれにとどまらない。例年夏に、ノートルダム大学では、国立科学財団(NSF)と米国エネルギー省(DOE)によるスポンサーのもと、QuarkNetを開催し、高校教師、高校生が全米の大学や研究所との関係を築く機会を提供している。これは、全米レベルでの教師ネットワークを構築することによって学校での科学教育を推奨し、ライブやオンライン、エネルギーや運動量など物理の基礎を学ぶ観点から素粒子物理をとらえることが目的としている。「QuarkNetは、科学研究がどのようになされているかを教師が実際に体験できる機会です」とWayne氏。「学生は、実際のデータを扱って、科学者がどのように研究を進めていくのかの過程を経験し、科学の知識を養うことができます。」この活動には、ミュー粒子検出器の制作や、フェルミ研究所とのシンチレーターとファイバーを利用したプロトタイプ試験などが含まれている。

ミュー粒子は電荷をもつ三つのレプトンの一つである(残る二つは電子とタウ粒子)。そして、ILCでの衝突のなかでミュー粒子が生成している場合には、面白い事象である可能性が高いことが知られている。ILCの実験では、このミュー粒子の同定と測定に特化した検出器も組み込まれている。ミュー粒子測定器は、測定器システムの一番外側に配置されるが、その上流に位置するカロリメータの厚みは有限であるので、ハドロンシャワーの一部がミュー粒子検出器にまで到達する場合がある。もしミュー粒子検出器がこのハドロンのエネルギーも正確に測定することができれば、ミュー粒子を測定するだけでなく、カロリメータと組み合わせてジェットエネルギーの測定分解能を上げることも可能になる。

ミュー粒子検出器は通常、厚さ10センチほどの鉄板とシンチレーター・ストリップをサンドイッチしたものを作り、これをビームラインの周りに8角形に取り囲むようにして建設する。それぞれのストリップには、長手方向に波長シフト・ファイバーが取り付けられている。ミュー粒子がストリップを通過するとき、ストリップ内に紫外線が発生するが、この紫外線がファイバーに吸収されるとファイバーは長い波長の可視光(緑)を発生する。この緑の光はストリップの終端の光子測定器で検出される。ミュー粒子検出器のレイヤーを追加し、鉄板の厚みを増やすことで、ハドロンシャワーの粒子は初期に吸収されてしまい、ミュー粒子のみがすべてを貫通できるものをつくり、ミュー粒子の再構築を容易にすることができる。前述の八角形の構成は、こうした構造を作るうえで有利である。

今年の夏にかけて、QuarkNetは学生らを募集し、これらの課題にチャレンジする。これがよい学習体験となり、学生たちのあいだで素粒子物理学への興味をひかれる者が出るかもしれない。これは、高校生にとってILC測定器の活動に参加し、ミュー粒子検出器研究の舞台裏を経験することのできるユニークな機会だといえる。

今後数か月は、ミュー粒子検出器のためのシリコン光子増倍管や試験プロトタイプ・ストリップについて研究したいとWayne氏は言う。

「ミュー粒子検出器についてのこれらの研究は、物理学にとって大変重要なステップとなるでしょう」とWayne氏。

■ディレクターズ・コーナー


Barry Barish氏

加速器科学を学ぶこと

今日は、加速器に興味がある若い研究者たちに、「4回リニア・コライダー国際加速器スクール」への申込を奨励したい。中国北京市にて20099718日に開催予定で、申込締め切りは61日に迫っている。本スクールは過去に何度も成功を収めており、加速器の基礎についてこの分野のリーダーから教わり、次世代リニア・コライダーの課題について学習することができるユニークな機会である。加えて、今年のスクールはRF技術と加速器物理の二本柱でできており、復習したい、あるいは高レベルの学生を対象としている。

Bruno Touschek氏は1960年代イタリアのFrascatiで第一世代電子陽電子コライダーを開発した。

素粒子加速器は、素粒子物理研究において半世紀以上中心的な役割を果たしており、特に新しい世代の加速器がエネルギー・フロンティアを開拓する度にそれは顕著になる。現在のCERNの大型ハドロンコライダー(LHC)も、まもなくそうした役割を果たすだろう。さらに長い目で見ると、後続のレプトン・コライダーが次の展開といえようか。

近代素粒子物理の誕生は、戦後、宇宙線の研究からサイクロトロンによる実験へと転換したことに始まる。その後さらに高性能なサイクロトロンやシンクロトロンへと世代を進めていった。1960年代には、衝突型加速器が開発され、粒子を正面衝突させるブレイクスルーがあり、より大きな重心系エネルギーを得ることができるようになった。その後三世代の加速器をつかい、私たちは陽子・陽子衝突と電子・陽電子衝突による相補的研究によって、素粒子物理のエネルギー・フロンティアを探究してきた。

LHCでの1テラ電子ボルト(TeVのエネルギーの実現に向けた準備の途上、レプトン衝突用のコライダーが将来必要になるであろうことが見えてきた。しかしそのような高エネルギーの電子の場合、その静止質量が極めて小さいため、通常の円形のコライダーでは、膨大なエネルギーが放射光として失われてしまう。これが、電子と陽電子を使った直線のコライダー(ILCまたはCLIC)を建設する、あるいは、ミュー粒子コライダーのようなさらにエキゾチックな加速器の開発に方向性を定める理由である。このような新しい加速器の実現のために、加速器科学における難題に取り組む必要がある。このことは、スクールでも論じられるだろう。

三世代の電子陽電子コライダーと提案されているILC

加速器科学とは、若い研究者にとって先進的な分野であるということを強調したい。加速器は、素粒子物理の将来にとって不可欠なものであること以上に、核物理や物質科学、医療、医薬生産などにとっても、ますます重要な役割を果たすことになる。たとえば、新世代の光源は、科学研究や工学分野での広汎な応用のため、そのユーザー・コミュニティも大変大きい。新加速技術や素粒子加速器のこれまでの発展は、ほぼ素粒子物理のための加速器R&Dの副産物である。ILCの国際設計チーム(GDE)は、超伝導RF加速や素粒子源、ビーム光学などで最先端技術を研究する中心的存在であるといってよい。ILC加速器における課題を克服することで、将来素粒子加速器の実現のみでなく、大きなインパクトのある新しいアイデアや技術が生まれるだろう。

中国北京市近郊にある2009スクール開催場所Jixian Villa

今年9月の加速器スクールはエクスカーションやサイト見学を含み10日間にわたって開催される。リニア・コライダーの科学とILCへのイントロ(私が講義する)をかわぎりに、二日目はレプトン・コライダーやCLIC、ミュー粒子コライダーの様々な技術を紹介する。これらの全体講義の後に、スクールは二つに分かれ、リニアック、粒子源、ビーム収束システムとビーム-ビーム効果、ダンピング・リングについての加速器物理コースの講義が行われる。また、常温RF、超伝導RF、低レベル・高レベルのRFシステムなどで成るRF関連コースの講義も行われる。学生には課題と試験が出される。

中国でこの4回目のリニア・コライダー加速器スクールに参加することを楽しみにしている。Weiren Chou氏(このスクールのカリキュラムを作成しスクールの組織に尽力した)と私はこのスクールへのご参加を強くお勧めする。9月に学生の皆さんにお会いできるのを楽しみにしている。

■カレンダー

今後の会議

11th European Symposium on Semiconductor Detectors 
Wildbad Kreuth Conference Center, Bavaria, Germany
7-11 June 2009

Tesla Technology Collaboration Meeting (TTC09)
LAL, Orsay, France
16-19 June 2009

ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 
CERN, Switzerland
23-25 June 2009

Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) 
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009

FCAL meeting 
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June


今後のスクール

The 2009 Hadron Collider Physics Summer School
CERN
8-17 June 2009

Summer School on Particle Physics, Cosmology and Strings
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009

International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF)
Radiation and particle detectors
 
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July


GDE Meetings calendar 

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■ブログライン

18 May - Frank Simon
最後のシフト

17 May - Frank Simon
天使と悪魔

16 May - Frank Simon
夜のシフト

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■ニュース記事

From Associated Press
19 May 2009

欧州研究者、スペース望遠鏡を打ち上げる

...息をのむような天体写真でよく知られたハッブル望遠鏡とは違って、ハーシェルとプランクは可視光域外の波長をとらえる。だがこれは、惑星や恒星の誕生について知るのに不可欠な情報だ。 
英文記事

From Reuters
14 May 2009

オーストリア、結局は素粒子物理にとどまることに

「オーストリアは50年以上もCERNのメンバーでした。オーストリアの大勢の科学者はCERNに関係しており、将来もそうであるでしょう」と社会民主党のFaymann氏は、Johannes科学大臣との記者会見で発言した。 
英文記事

From Wiener Zeitung
14 May 2009
Ritt auf Plasmawelle soll Elektronen effizienter aufladen
...Während im LHC Protonen zusammenprallen, haben die Max-Planck-Wissenschafter mit Kollegen der Universitäten in Düsseldorf und Novosibirsk ein Konzept für einen International Linear Collider (ILC) vorgeschlagen, um Elektronen zu beschleunigen.
独文記事

From INFN
14 May 2009

SuperB実現に向けて前進

...図にあるように、衝突地点に「クラブ・ウエスト」構成を適用することによってルミノシティが向上した。 
英文記事

From Público
8 May 2009
La extinción de los mastodontes de la física
...El caso del ILC muestra que la construcción de máquinas cada vez mayores y más potentes para explorar los abismos de la física puede tener cerca su límite. Tevatrón, el acelerador en activo más energético, costó unos 200 millones de euros; LHC, siete veces más potente, 5.000.
仏文記事

■アナウンス
arXiv preprints
0905.2922 
Top Quark Physics at the Tevatron

0905.2655 
Cosmic Ray Tests of the Prototype TPC for the ILC Experiment

0905.1782 
CP-sensitive spin-spin correlations in neutralino production at the ILC 

EUROTeV Reports
2008-091 
Low-energy Positron Polarimetry at the ILC

2008-093 
Final Report for the Laser-wire Beam Position Monitor (LBPM) Task

■今週のイメージ
米国フェルミ国立研究所の試験カロリメータ 

フェルミ国立研究所のメゾン試験エリアのカロリメータの前に立つCALICEコラボレーションのメンバー。後列(左から):Frank Simon氏、Nils Feege氏、Jose Repond氏、前列(左から):戸塚俊介氏、Adil Khan氏、西山実穂a氏、小寺克茂氏、そして魚住 聖氏。

 カロリメータ試験についての詳細はFermilab TodayFrank Simon氏のQuantum Diariesブログ (BlogLine参照)で。


2009/05/19

ILC NewsLine 2009年5月14日号

■ILC NewsLine 測定器特集号


3つの測定器趣意書(LOI)が提出され、それらの評価プロセスが国際測定器諮問委員会(IDAG)で始まり、ILC測定器の活動も新たな段階に進んだといえる(前回の記事を参照)。今週のILC NewsLineはこのLOIについて特集する。LOIがどのように執筆されたかに関しての記事と、諮問委員会(IDAG International Detector Advisory Group)の審議に関する記事、そしてBarish氏の加速器測定器インターフェースのRDハイライト、の3本をお届けする。つくば市で開催されたTILC09会議のワークショップでは、三つの測定器設計グループがそれぞれの物理・測定器について発表し、IDAG委員も説明を聴いた。

LOIの仕組みは、国際リニアコライダー(ILCの測定器設計の推進のため、国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)によって200710月に立ち上げられた。その経過についてはILC NewsLineのリサーチ・ディレクターズ・レポートで、逐次報告されている。それぞれの設計グループは、昨年20083月に参加意思を表明し、LOIを締切日までに提出する旨約束したが、これらのグループの確認と5つの共通作業グループの編成が、実験・物理コミュニティ運営活動の最初の一歩であり、一年後のLOIの完成へと至ったものである。

測定器R&Dと物理研究の仕事は継続する。測定器分野でのリサーチ・ディレクターとその運営組織がつくられた理由は、これを促進するためであった。この組織が確立し活動している今、LOI認証後の新たな進展を想定している。認証されたグループは、2012年の技術設計フェーズIIの終わりまでの完成をめざして、主要部分の設計とR&Dを進める。主要な要素の実現可能性を実証し、選択肢がある項目についてはその選定を行うことができる程度のレベルまで、R&Dプログラムを進めることが目標である。並行して、物理に関しても、CERNの大型ハドロン・コライダー(LHC)からの第一報を参照しながら、検討を進めなければならない。2010年に、私は中間報告を執筆する予定であるが、その際には測定器グループや共同作業グループには、それぞれのグループにおけるR&Dと物理研究についての進捗状況の報告をお願いすることになる。

それぞれの設計グループは、認証のためにIDAGに対応する一方で、リソースを考えながら、この新しいフェーズに向けて準備する必要がある。LOIの認証プロセスが、それぞれの測定器グループが財源組織への開発計画の説明する努力の基盤を強化し、予算確保の一助になればと思う。同時に、開発焦点の絞り込みも必要になると思われるが、LOIはその一歩となるであろう。この観点から、私たちは今、より精選されたR&D活動への節目にあるといえる。

■特集記事

LOI執筆は「絵画」制作にも似たもの

LOI編集者は出来映えに自信、そして完成に安堵

400ページもの報告書にまとめられた、計算、シミュレーション、測定器の説明、算定、世界中から1000人もの署名、電話と会議に費やされた時間  大量の努力と考察がLOIに結実した。「ILD、「SiD、そして「4thそれぞれの測定器に関して、LOIが締切日までに提出された。100ページという枚数制限には収まらなかったが、LOI3つとも受理され、国際測定器諮問委員会(IDAG)によって綿密に検証されている(今週号のもう一つの特集記事を参照のこと)。この執筆作業がどのようになされたか。執筆者と編集者に聞いた。


LOI執筆のよう:南カロライナにあるATLAS測定器の壁掛け。Kristofoletti氏による。Flickrより。 

LOIは、様々なサブ測定器、シミュレーション結果、ハードウェアや技術について書かれており、その執筆にはたくさんの人の協力が必要だ。しかし一貫したドキュメントとして最後に完成させるところでは、少人数の編集チームであたるしかない。Phil Burrows氏はSiDチームに、Ties Behnke氏はILDに、そしてJohn Hauptman氏は4thに、それぞれ属している。3氏ともに、測定器概要文書や基準設計報告書、TESLA技術設計報告書、広報冊子「量子宇宙への旅」など、同様の出版物の経験が豊富だ。とは言っても、それぞれの出版物が別物で、つまるところ編集と最終校正はその都度の大作業である。「メンバーからの原稿や資料の提出が遅れ、編集者が最後にどたばたと編集作業に取り組むことになるのではないかと心配していました」とPhil Burrows氏。「心配した通りになりましたよ!」John Hauptman氏は「早期に完成したところもありましたが、結局はBragg曲線のように、一番エネルギーを使ったのは最後でした」と付け加える。

原稿の執筆自体は編集者が行うのではなく、他の人も加わる。それぞれの部分には責任をもつサブグループがあって、原稿も執筆する。「ILDの場合、だいたい50人の人がLOIに何らかの形でかかわっています」とTies Behnke氏。「LOIは、ILDがグループとして取り組んだ、つまり、欧米亜のILDコミュニティが協力を密にして執筆した、最初の報告書です」ILDInternational Large Detector)は3つの測定器グループの中で一番大きいが、それは、過去の二つの測定器グループ、「GLDと「LDC」が合併してできたグループだからである。そのため、互いに新しい仲間に馴染み、測定器計画の詳細に合意してから、課題過程の作業に取りかかる必要があった。GLD LDC では異なった技術的ソリューションが構想されていた部分があり、そのすべてを基本案として盛り込むことはできないので、統合・調整の作業が必要だった。「作業上の基本案となる解を見つけようと、皆たいへん協力的でした」とBehnke氏は振り返る。

LOIはバージョンごとにウェブにアップロードされ、メンバーがダウンロード、コメントの追加、そして新バージョンのアップロードを行う。すべてのプロセスは、編集者によってつねにモニターされた。こうしたプロセスは全てのLOIグループで採用され、効果的だったが、往々にして、細部で足をすくわれることがある。例えばSiDでは、誰も考えていなかった整合性の問題が起こった。「執筆者署名用にWWWテンプレートで簡単なものを提供しましたが、人名や所属先名、住所を入力するときのフォーマットを特定していなかったために、一貫性がなくなってしまいました」とBurrows氏。「編集者が全ての名前のスタイルを手で直しました。グーグルでもたくさんの施設名を調べましたよ。」

苦労を重ねただけに、3つの設計グループはLOIを完成させ、締切までに提出できたことに達成感を感じている。この作業は、作業編成や測定器のレイアウトについて考察する機会となり、コミュニティの結束は強くなった。「設計の中に潜んでいる問題点について、避けたくとも眼をそらすことができないようになりました」とJohn Hauptman氏。「設計治療の効果があるわけです。」

もう一回この執筆活動をするかと聞かれて、3つのグループはもちろん、と答える - もっとも、設計や制作、実験にもっと時間を割きたいと考えているので、すぐにというわけではないが。Hauptman氏はこう結論づける:「もちろん、また書きます。好きで誇りに思っている測定器ですし、私たちのものですから。ことに、自身の機知を頼りに想像性を働かせる学生たちにとっては、絵画や叙事詩を創作するのと似ています。」

■特集記事

ILC測定器設計の認証プロセス

ILCにおける測定器の初めの一歩として、注目に値するステップでしょう」とIDAG委員長のMichel Davier氏。測定器グループが測定器趣意書(LOI)を提出した3月末から、国際測定器諮問委員会(IDAG)は多忙になった。日本で開催されたTILC09で、このパネルは、3日間かけて検討作業を続け、測定器設計グループをインタビューした。これらのセッションは他の参加者には公開されなかったが、ILC NewsLineはここでどのようなことが審議され、測定器の評価プロセスがどのようになされるのかに迫ってみた。

IDAGは、事前準備をおこなってはきたのだが、331日に測定器趣意書(LOI)を受取ったあと、それらを読破し質問を準備するための時間は二週間しか与えられていなかった。「電話会議や仙台、ワルシャワ、そしてシカゴでの会議を通して、1年間準備を重ねてきましたが」とIDAG委員長のMichel Davier氏。つくば市でのTILC09に先がけて、議論を始めるための最初の質問リストがそれぞれの設計グループに送られたのは、会議開始のわずか五日前であった。「まずは、それぞれの測定器設計と、そこでの技術選択の根底にある基本的な考え方をよく理解しなければなりません。また、技術的に未確立の点などについても、聞きたいと考えていました。」

これらは無論、LOIグループの入念な準備なしには起こり得なかったことである。「完成度の高さに関して、われわれが非常に感心していることは強調しておくべきですね」とDavier氏。「文書を締切までに完成して提出したというばかりでなく、質も大変高い。」IDAGは、何年もの作業の成果に基づくこれらのLOIには大きな価値があると認める。膨大な世界各地からの署名数からも、素粒子物理コミュニティの将来加速器についての強い関心が伺える。

IDAGの非公開セッションでは、LOIグループは、まず、グループごと個別に招かれて、それぞれのR&Dやサブ測定器の選択、そして物理パフォーマンスについてIDAGの質問に答えた。素粒子物理研究者が測定器システムのパフォーマンスを測るために使用するツールとして、ベンチマーク試験と呼ぶものがある。これは、標準的な素粒子反応過程を、エネルギーや反応断面積に関するある種の仮定のもとでシミュレーションし、想定した測定器システムを使ってどの程度解析が可能かを調べるものである。使うのは、標準模型で起こることが分かっている反応であったり、超対称性模型のような未検証の理論で想定される反応であったりする。これらの反応として、それぞれのサブ測定器の能力差がよりはっきり出るような対照的なものが選ばれていた。つくばでのIDAGの非公開セッションのうち、このベンチマークに関する聴聞だけは、すべての設計グループが同時に招集された。「それは、ここでの質問は一つのLOIグループのみにあてはまる質問ではなかったからです」とDavier氏。「全グループに共通の案件ですから、全てのグループを同時にインタビューするのが効果的だと考えました。」実際、ベンチマーキングは、LOI執筆にむけた仕事のなかでも、異なったLOIグループが一緒に作業した数少ない分野である。LOIグループは、共通のイベント生成プログラムを使用し、そこで生成された同じシミュレーションのイベントサンプルを使ったのである。

つくばでの会議の終わりに、IDAGはそれぞれのグループに新しい質問リストを渡した。質問の中にはグループに個別に宛てられたものもあれば、共通のものもある。中でも、LOIグループは、プッシュプル構造で二つの測定器が交替する際にどのように測定器を校正や位置調整するのかについての、詳細に説明を求められている。「これはILCにとって、特に重要な項目です。測定器の交替のときには。サブ測定器の位置調整や校正を、精確に、そして短時間で行わなくてはなりません」とDavier氏。また、4月はじめに発表された「測定器プッシュプルの電子陽電子リニアコライダーの測定器設計と衝突地点での機能的要件」におけるILCガイドラインも考慮する必要がある。IDAGは、測定器設計グループが、加速器・測定器インターフェースを考慮し、信頼のおける効率的な方策を実証できるかどうか判断する。

認証の判断を下す前に、IDAGと設計グループは最後に一度、仏オルセーにて6月に会合する予定だ。最終的な結論は米アルバカーキで発表される。「今、集中作業の多忙な時を過ごしていますが、それに値することです。IDAGは客観的な視点を持って結果を提示できると考えています」とDavier氏。「これだけうまくことが運んでいることはうれしいことです。IDAG委員はうまく選抜された専門家たちで、LOIグループとのコミュニケーションも円滑です。大変ですが、評価プロセスでの雰囲気は上々です。」

■ディレクターズ・コーナー


Barry Barish氏

測定器趣意書を通して:ILC加速器測定器インターフェースの前進

417日から21日まで日本で開催されたTILC09ワークショップは、国際リニアコライダー(ILCの測定器趣意書(LOI)プレゼンテーションがあったことで、特記に値する会議である。このプロセスはILC測定器提案やILCコラボレーションの始動に先立つものでありR&Dプログラムを適切に定義し、加速器測定器インターフェースの課題を理解し、そしてILC測定器の能力を評価するうえで、大変重要なステップである。3つのLOI3月の終わりに提出され、ILCリサーチ・ディレクター山田作衛氏の下、国際測定器諮問委員会(IDAG)は、次ステップである技術設計に向けた認証プロセスを開始した。加速器技術設計報告書(TDR)と同時並行で、現実的な計画開発を行う上で、大変重要であるといえる。

二重ソレノイドとエンド・ウォール
電流コイルを持った、
4th測定器設計
ひとつのビームラインにプッシュプル・システムによって二つの測定器を持つ構想
SiD設計におけるプッシュプル・システム ILD測定器の最奥部サポート設計

国際共同設計チームの直近の関心事としては、測定器加速器インターフェース(MDI)における測定器設計の特徴が挙げられる。他の多くの加速器に比べ、ILCははるかに複雑で緊密なMDIを持つことになる。私たちは、「プッシュプル」システムを利用して二つの測定器を一つのビームラインで共存させることを構想している。プッシュプルとは、常に一つの測定器が設置されるが、一週間以内にもう一つの測定器と交替できるようにするシステムで、この概念はILC基準設計の開発時に提案され、その後研究が続けられてきた。LOIを経て、この構想を一歩前進させることができる。私はIDAGによってなされているLOIの評価プロセスに参加していないので、以下のコメントはMDIの課題について言及するにとどめる。特定の測定器についての判断を述べるものでは、全くない。

それぞれのLOIは加速器測定器インターフェースの重要な諸課題についてそれぞれ異なった考え方を提示している。これら3つのグループと加速器の代表者らはすでに「測定器プッシュプルの電子陽電子リニアコライダーの測定器設計と衝突地点での機能的要件」という合意文書を作成している。これは、加速器測定器インターフェースを特に重視したプッシュプルの衝突地点での機能的要件をまとめたもので、衝突地点での磁石やクライオジェニックス、アラインメント・システム、ビームライン・シールディング、測定器デザインと統合などが含まれる。これは全ての測定器について共通のガイドラインをまとめることを目的とした文書である。

4th」と呼ばれる測定器は、二重ソレノイドとエンド・ウォール電流コイルを持つのが特徴である。衝突地点での統合という観点から見ると、この測定器は内部に最終収束光学補正を組み入れている。また、シールドを組み込まないオープンな構成で、軽量である。測定器自体はピクセル・バーテックス測定器、軽量なクラスター・タイミングのドリフト・チャンバー、二重読み出しをもつ電磁/ハドロン両カロリメータ、そして磁束回流タイプの二重ソレノイドを採用することで鉄ヨークを必要としない。IDAGはこれらの技術設計やILCにおける適合性などを評価する。

SiD測定器はシリコンピクセル・バーテックス測定器、シリコン・トラッキング、シリコンタングステン電磁カロリメータ、そして高い空間分解能をもつステンレス/RPCハドロン・カロリメータで構成されている。くわえて強磁場ソレノイドと、それに付随する磁束リターン・ヨーク、そしてミュー粒子検出システムを持つ。シャワーエネルギーの測定解析は粒子フロー・アルゴリズムに拠る。SiDは、磁場環境やプッシュ-プル駆動機構、サポート、放射線、そしてクライオジェニックス設計や組み立てシナリオなど、加速器-測定器インターフェースにまつわる多数の側面からの研究をおこなっている。

3つ目のLOIILD測定器で、基準設計当時に存在したGLDLDCが統合、発展したものである。ILDは粒子トラッキングにタイム・プロジェクション・チャンバーを採用している。シリコン・トラッキング測定器を伴う。シャワーエネルギーの測定には、SiDのように、粒子フローアルゴリズムで解析をおこなうカロリメータを使用している。そのために、トラッカーで荷電粒子を測定すると同時に、高い空間分解能をもつカロリメータをもち、電磁カロリメータをつかって光子、また、電磁・ハドロン両カロリメータを使って中性ハドロンを検出することができる。

TILC09会議では、3つのLOIグループは、測定器のプッシュ-プルの仕組み、放射線環境シミュレーション、衝突点近傍のビームパイプ設計、そして周辺測定機材などMDI関連の課題において大幅に前進した様子が伺われた。まだまだしなければならないことは多いが、LOIプロセスの結果としては大変期待をもてるスタートを切った、といってよい。次は、加速器と測定器のグループが再び参集する次回ILC会議、929日から103日までニュー・メキシコ州アルバカーキで開催されるALCPG 09で、山田作衛氏に提出されるIDAGの報告を待つばかりだ。

■カレンダー

今後の会議

11th European Symposium on Semiconductor Detectors 
Wildbad Kreuth Conference Center, Bavaria, Germany
7-11 June 2009

Tesla Technology Collaboration Meeting (TTC09)
LAL, Orsay, France
16-19 June 2009

ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 
CERN, Switzerland
23-25 June 2009

Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) 
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009

FCAL meeting 
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June


今後のスクール

The 2009 Hadron Collider Physics Summer School
CERN
8-17 June 2009

Summer School on Particle Physics, Cosmology and Strings
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009

International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF)
Radiation and particle detectors
 
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July


GDE Meetings calendar 

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■ニュース記事

From KEK 
12 May 2009

緊急のお知らせ  新型インフルエンザの対応について

英文記事


From New Scientist
12 May 2009

現実世界に反物質を求めて

物理理論によると、137億年前のビッグバンによって宇宙は誕生した。その瞬間は物質と反物質が同量存在した。自然の法則によると、物質と反物質はペアで生成するはずだからである。 
英文記事

From Scinexx
12 May 2009
Elektronen surfen auf der Plasmawelle
Forscher entwickeln Konzept für Teilchenbeschleuniger der übernächsten Generation
英文記事

From CERN
11 May 2009
AオーストリアのCERNメンバーシップ
今日午後、ウィーンにある科学研究省で、オーストリアの科学大臣Johannes Hahn氏、CERN機構長Rolf Heuer氏、そしてCERN対外関係コーディネーターFelicitas Pauss氏の会合が行われた。Hahn氏は、オーストリアがなぜ2010年終わりにCERNからの脱退を希望するのかについて説明した。 
英文記事

From KEK
11 May 2009

KEKB、クラブ空洞で新記録

つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の加速器チームは、「クラブ空洞」という世界初の装置を用いて、電子・陽電子衝突型加速器(KEKB加速器)のルミノシティ世界記録更新に成功した。

英文記事

■アナウンス
測定器アーカイブ 

測定器設計についてもっと学びたい、もしくは設計やR&Dの過去につい辿りたい方は、ILC NewsLineの過去の関連記事を集めましたので、ご参照ください。

測定器関連記事アーカイブ

2009/05/11

ILC NewsLine 2009年5月7日号

■世界の各地より

Fermilab超伝導空洞モジュール第一号が出荷

梱包を終えた3.9 GHzのクライオモジュールの前に立つ、第三ハーモニック加速器モジュール・チームメンバーのTug Arkan氏、 Chuck Grimm氏、 Jeff Wittenkeller氏。

Fermilabの超伝導空洞の開発が、重要なマイルストーンに達した。

424日金曜日、米フェルミ国立加速器研究所(Fermilabから、完成し試験も終えた3.9 ギガHzの超伝導モジュールの第一号が、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESYへ出荷された。

このモジュールは、4台の超伝導空洞と関連機材からなるもので、428日火曜日に、ドイツDESYに無事到着し、FLASH自由電子レーザー施設に組み込まれる。

Fermilabでの活動のリーダーである研究者のHelen Edwards氏と