■世界の各地より
ILC実現に向けてコラボレーション
国会の補正予算案審議の真っただ中の2月26日、先端加速器科学技術推進協議会(AAA:協議会)は「日本発宇宙行き 国際リニアコライダー(ILC)実現に向けて」と題し、東京赤坂にてシンポジウムを開催、産学官から150人以上が参加した。約100の企業、大学、研究所が参集して2008年6月に発足した協議会では、ILC計画のR&Dや知的財産、その他関連項目についての課題を検討する。本シンポジウムの主な目的は、2008年度の協議会の活動を評価するとともに、「先端加速器科学技術」を推進する意義や将来の社会に与えるインパクトなどについて、理解を深めることである。
「昨年の南部先生、小林先生・益川先生のノーベル物理学賞受賞により、素粒子物理の世界における理論と実験の両分野で日本がトップランナーに位置することが認知されました。この朗報を受け、政府がILC実験に日本政府として取り組む時が到来していること、更にはこうした横断的な分野の基礎科学について関係省庁で検討する仕組みを作る必要性に言及されましたことに、関係者一同誠に意を強くしております」と協議会会長の西岡喬氏は挨拶した。
主催者挨拶に続き、リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟(議連)会長代理鳩山由紀夫衆議院議員、そして高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授で2008年ノーベル物理学賞受賞者の小林誠氏が多忙の中かけつけ、来賓として挨拶された。鳩山氏は「私は、宇宙の謎の解明に(政治家としてではなく)人間としての興味を持っています。政治家としてILC実現をお手伝いするべき」と述べた。小林氏はILCを「素粒子物理学者の夢の加速器」とするとともに、産学官連携の強化、大局的な情報共有の重要性を強調した。続いて、文部科学省、経済産業省の政府高官からも、来賓挨拶がなされた。
シンポジウムは、2002年ノーベル物理学賞受賞の小柴昌俊氏が、「若者に夢と誇りを 先端加速器が創る新しい文化・文明」と題した講演で始まった。講演の中で小柴氏は、基礎科学活動を継続していくことの大切さについて強調した。続いて駒宮幸男氏がILCのプロジェクト概要をあらためて紹介した後、河村建夫内閣官房長官が、多忙の合間を縫って来場、「国家戦略としてのリニアコライダー国際研究所建設推進」と題して講演した。河村氏は昨年8月に施行された宇宙基本法成立に尽力。「宇宙開発をスペースへの挑戦とするなら、ILCはユニバースへの挑戦です。このユニバースへの挑戦には3つの方法があります。望遠鏡で観測すること、観測衛星を打ち上げて宇宙へ出ていくこと、そして地球上でビッグバンを再現すること、つまりILCです。議員連盟は、このILCプロジェクトを教育、産業、そして科学外交という様々な方向から捉え、産業界・研究所と協力してロードマップを作成しています」と述べた。
続いてKEK機構長である鈴木厚人氏が、KEKのロードマップについて講演し、日本の加速器科学の将来計画についての考えを示した。また、産業界を代表して東芝電力システム社統括技師長の前川治氏が、企業の視点からILC構成要素の技術的課題について詳細に説明した。
シンポジウムは、議員連盟事務局長・内藤正光参議院議員による、国内外の加速器施設訪問の報告で締めくくられた。内藤氏は「ILC実現に向けていくつか課題が挙げられる」とし、KEKとJ-PARCにおいて研究・技術開発・人材育成の点で欧米との競争力を維持し続けること、外国人研究者も安心して研究できる環境すなわち国際性の醸成、そして何より納税者たる国民の理解を求めるべく積極的な広報活動を行うこと、の三点を指摘した。「私たちは来年度、広報活動に力を入れていくつもりです」と協議会事務局長の有馬雅人氏。「地方都市でのアウトリーチ・シンポジウム実施を計画しています。基礎科学研究は素晴らしいというメッセージを一般の方々に伝えたいと考えています。」次の協議会シンポジウムは6月に開催される。
■特集記事
韓国でのCALICE会議
これは2月に韓国で開催された二つの測定器会議、ILDとCALICEについての二つ目のレポートとなる。今回は2月19~20日にDaegu市慶北国立大学にて開催された、カロリメータ国際共同開発グループ(CALICE:Calorimeter
for the linear collider experiment)の春季会議についてである。2002年の開始以来、年二回開催されてきたCALICE会合はカロリメータ技術や大規模ビーム実験について議論を進めてきたが、最近はとくに世界初のデジタル・ハドロンカロリメータ実験にむけた準備が主な議題として扱われてきた。
将来リニアコライダーのカロリメータは、電磁カロリメータ(ECal)とハドロンカロリメータ(HCal)の二大カロリメータで構成されている。世界11カ国から約50人が参加した今回のCALICE会議では、シリコンとシンチレータのECal、及びシンチレータとデジタルのHCalについての議論が行われた。
シリコンECal、またはシンチレータ‐タングステンECalは、電磁シャワーを発生するためのタングステンと、シャワー信号を検出するシリコン/シンチレータからなっている。ECalの全面積は2,500平方メートル程にもなり、これがシリコン/シンチレータで埋め尽くされる。今回の会議では、30層のシリコンを重ねた面積約1平方メートルのシリコンECalでの性能試験の結果が報告された。シリコンECalでは信号検出の一チャンネルで1cm×1cmの面積をカバーするが、、シンチレータECalの場合は1cm×4.5cmとなる。シリコンEcalではこの最少測定単位を5mm×5mmに下げることが検討されており、これによりシンチレータも最小単位も5mm×4cmに下げようとしている。「シリコンでは、チャンネルあたりのカバー面積を細かくすることで、分解能を高めることができるのです。実際、既にMAPSと呼ばれる0.05mm角のデジタル読み出し回路の提案があります」とCALICE会議運営委員で信州大学の竹下徹氏。「ですが、どこかで妥協して、コスト的に見合う選択をしなくてはなりません。」
ハドロンカロリメータは電磁カロリメータの外側に、これを取り巻くように設置されるので、より大きな体積を占める。アナログ読み出しの測定器では、3cm×3cmサイズのシンチレータを使用した試験が既に行われている。しかしシミュレーションにより、1cm×1cmセルのデジタル読み出し測定器のデジタル・ハドロンカロリメータであっても、十分な結果が得られることが分かってきた*。欧州では、固体でなくガスによる検出信号をセミデジタル的**に読み出す折衷案を追求しているグループもある。チャンネルごとに複数の閾値を設定し、単一ビットではなく2ビットにしたデジタル読み出しを行うのである。
CALICEでは、フェルミ研究所での2009年のビームテストの計画についても議論した。「ガスハドロンカロリメータをテストビームラインに設置し、同時に、第2世代のECalとHCalのプロトタイプと付随する信号処理系も立ち上げます」とCALICE運営委員のFelix
Sefkow氏は説明する。リニアコライダーの測定器の最適化のため、粒子フローアルゴリズムについての研究も深められる予定だ。
*最小測定単位が得る情報として、位置だけに限定したものを「デジタル」読み出しといい、通れば「1」、通らなければ「0」となる。対してアナログでは位置と何個粒子が通過したかも数える。したがって「デジタル」とは質的に劣ると見ることができるが、最小測定単位を小さくすることによって、良質な結果が得られる。
**セミデジタルとは、通過粒子数が0個、10個、100個以上というようにデジタルとアナログの中間の測定器をいう。
■ディレクターズ・コーナー
超伝導空洞メーカーとの繋がりを新たに
今週のディレクターズ・コーナーは国際設計チームのプロジェクト・マネジャーであるMarc
Ross氏による。
直線型加速器にとって最も重要な性能指標は、ビーム加速での電子ボルト毎のコスト、もしくはビーム電力1ワット毎のコストである。1990年代前半、現在ILCを構成する米国、アジア、欧州それぞれの研究所から参集した専門家の一グループが、超伝導RFを基盤にしたいわゆる「低温技術」について、当時一般的であった「常温技術」と同様、次世代加速器リニアコライダーの実現において有効であると結論づけた。そこから、TESLAでのコラボレーションや空洞メーカーとのパートナーシップを通して、この超伝導技術のコスト効率の裏付けをおこなってきた。今回のゲスト・ディレクターズ・コーナーは、こうした企業との協力関係を、世界規模であらたに切り開いていくことについて触れたい。
大まかに言うと、超伝導RF空洞で高性能を実現するために最も重要となるのは、低温技術である。ILC空洞は、純度の高いニオブ板を、楕円形のセル形状に傷や窪みを全くつけることなく正確に成形しなければならない。こうした1メートル長の9セル空洞の製作組立工程の大半はメーカーで行われることになる。製作後、さらに、内表面のゴミ、油脂、その他の異物を性能試験前に除去しなくてはならない。この洗浄工程は組立や試験工程と切り離せないものであり、これらの作業はたいてい、研究所の所有する大規模な装置を活用して行われることになる。
現在の製造工程が形づくられたのは、1990年代からの、欧州原子核研究機構(CERN)、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)、連続電子ビーム加速施設(CEBAF)、コーネル大学、そして高エネルギー加速器研究機構(KEK)の大型プロジェクトでの経験と研究の積み重ねの成果である。2005年にILC国際設計チーム(GDE)が設立された時、高勾配性能への挑戦で最大の問題となるのは電界放出であると言われていた(参照)。電界放出は上に述べた不純物・異物によって引き起こされる。新たに命名された「TESLA技術共同研究グループ」の専門家たちは、空洞の内表面を洗浄するために家庭用皿洗い機にも似た工程を適用し、過去数年にわたり、それが有効であることを(過去にこのコラムでも紹介されたが)実証してきた。2008年では、JLabでの空洞試験のうち電界放出の問題で性能が制約されたのは全体の15%にとどまる。
ここで製造工程に起因する性能制限について振り返ってみよう、ということで、ILCのGDEプロジェクト・マネジャーは世界の主要空洞製造メーカーを訪問することにした。私たちの目的は、最近の開発進捗状況を伝え、技術設計フェーズのR&D計画を説明し、先方の報告やコメントを訊いて空洞に関しての諸課題への取り組みかたを探ることにある。しっかりした信頼・協力関係を築くための意思疎通チャンネルを確立したい旨を伝えたいとも考えていた。GDE地域・組織リーダーらの協力によってわれわれの訪問が実現した。
GDE勾配研究プログラムで開発された工程のなかでも最も重要な手法は、「光学的検査」装置とよばれる特殊な顕微鏡で、製造または試験過程で発生すると思われる空洞内表面の機械的欠陥を精確に見ることができる。2008年に導入されたこの装置を使用し、20MV/m程度の低加速勾配にとどまっていた空洞のほとんどで、ニオブ板同士を繋ぎ合せている電子ビーム溶接(EBW)ポイントの近所で欠陥が見つかった*。過去、1990年代の論文では「EBWは、部材に対する大きな侵襲をもたらし、表面形状を不均一化させるとともに往々にして内部空孔を生成し、この結果、表面磁場が増大する原因となる」とある。こうした研究により、溶接ビードを幅広にすることが一般化した。本訪問のもうひとつのより技術的な目的は、最近の溶接部分の顕微鏡写真のコレクションを紹介し、測定結果の解釈を説明することであった。
全体として、空洞製造メーカー訪問は大成功だった。アドバンスド・エナジーシステム(米)、Niowave / Roark (米)、Accel(独)、Zanon (伊)、そして三菱重工業(日本)の訪問で、対応をいただいた各企業オーガナイザーの皆様にお礼を申し上げたい。各企業に配布した文書は、こちらのウェブサイトに掲示した。
*低加速勾配の問題原因と空洞内部の機械的欠陥がよく対応する場合もあるが、そうでない場合もある。また、機械的欠陥の発生要因が電子ビーム溶接の工程自体にあるのかどうかは、未確認。これらは、いずれも今後の課題である。
■カレンダー
今後の会議 Joint ACFA Physics and Detector Workshop and GDE Meeting on International Linear Collider Particle Accelerator Conference 2009 (PAC09) 11th European Symposium on Semiconductor Detectors ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN 今後のスクール Spring School on Strings, Cosmology and Particles (SSSCP2009) Terascale Monte Carlo school 2009 School on Calorimetry at the International Linear Collider
(TILC09)
Tsukuba, Japan
17-21 April 2009
Vancouver, Canada
4-8 May 2009
Wildbad Kreuth Conference Center, Bavaria, Germany
7-11 June 2009
CERN, Switzerland
23-25 June 2009
Belgrade, Serbia
31 March - 4 April 2009
DESY Hamburg, Germany
20-24 April 2009
China Center of Advanced Science and Technology, Beijing, China
22-26 April 2009
■ニュース記事
米国エネルギー省長官Chu氏、科学復興支援に12億ドル SLAC国立加速器研究所に6830万ドルの経済復興予算 エネルギー省科学局に支払われる16億ドルの経済復興予算の一部である。 Fermilabに3490万ドルの経済復興予算 エネルギー省科学局に割り当てられる12億ドルの経済復興予算の一部である。 伝統的なメディアに取って代わる? 科学ジャーナリズムの衰退に対して、科学ブログが急速に広がっている。しかし一方が他方に取って代わることはできるのだろうか、とGeoff
Brumfiel氏。 登録締め切り間近 TILC09会議(Joint
ACFA Physics and Detector Workshop and GDE Meeting on ILC)オンライン登録締め切りが4月2日に迫っています。http://tilc09.kek.jp/registration.phpでご登録ください。締め切り以降はオンラインでの新登録は受け付けておりません。ご連絡はtsuchiura_4 @jtb.jp まで。 TILC09組織委員会 arXiv preprints EUROTeV Reports 空洞四台をはじめとする3.9GHzクライオモジュール内部部品が真空容器に挿入されたところ。写真は先週木曜日に撮影。下は最終組み立て前のフェルミ研究所のチームの集合写真。このモジュールは1カ月ほどでDESYホール3に到着する予定。From Department of Energy
23 March 2009
英文記事From SLAC
23 March 2009
From Fermilab
23 March 2009
From Nature
19 March 2009
■アナウンス
0903.3720
Single production of the top partners at high energy colliders
0903.3658
Study of cluster shapes in the Mimosa-5 pixel detector
0903.3207
Use of Transverse polarization to probe R-parity violating supersymmetry at ILC
0903.2959
Beam Polarization at the ILC: the Physics Impact and the Accelerator Solutions
2008-064
Phase and Amplitude Control of Dipole Crabbing Modes in Multi-Cell Cavities
2008-065
Results of the EUROTeV Beam-Beam Simulation (BBSIM) Task
2008-066
Implementation of Depolarization Due to Beam-Beam Effects in the Beam-Beam Interaction Simulation Tool GUINEA-PIG++
2008-067
Description of Guineapig++, the C++ Upgraded Version of the GUINEA-PIG Beam-Beam Simulation Program
FermilabのFLASHクライオモジュールの進展











































