■リサーチ・ディレクターズ・レポート
CLIC-ILCの測定器コラボレーション
今月のリサーチ・ディレクターズ・レポートは、リニア・コライダー物理・測定器国際研究組織(WWS)共同議長で欧州地域測定器・コンタクトであるFrançois Richard氏による。
先月つくば市で開催されたTILC09ではCERNから多くの研究者が参加し、ILCとコンパクト・リニア・コライダー(CLIC)間のコラボレーションがますます活発になってきていることがよく伺われる。ここでは、ILC-CLIC間で同意された覚書(MOU:詳細は2008年11月のBarry Barish氏のコーナーで)のうち、測定器に話題を絞って述べよう。この覚書がとり交わされた背景には、加速器・測定器開発においてILC/CLIC双方のコミュニティの目標に共有点が多いことと、不要な競合を避けたい、ということがある。過去、国際的なリニア・コライダーの目標重心系エネルギーを1テラ電子ボルト(TeV)以上に延ばす根拠は、理論的観点からの憶測の域を出なかった。しかし、LHCの運転開始を間近に控えたいま、そしてもちろんTevatronの結果も踏まえ、実験的な結果に基づく選択が可能になると考えられる。
実際、測定器MOUはよく機能しており、測定器趣意書(LOI)執筆のための「垂直的な」グループ活動や、「水平的な」(注)R&Dコラボレーション(3月のSiD会議のKonrad Elsener氏のスライドを参照)の会合へCLIC関係からの複数チームの参加を得ている。CLICが概念設計報告書(CDR)の準備を開始するにあたって、ILCコミュニティによる測定器開発の成果が大きな役割を果たした。とりわけ、ソフトウェア・ツール(例:lcsim.org参照)がそうで、いくつかの計算コードが現在CERNで活用されている。また、大型のLHC測定器の構築・運転するために得られたCERNならではの専門的知識は、今後の技術設計フェーズで、より現実的な機械設計のとりまとめを行おうとしているILC測定器の仕事に役立っている。こうした実り多い共同研究をうけて、このコラボレーションはさらに強化されてきた。例えば、CERNの研究者からはILC測定器の3つのLOIに署名をしているものや、カロリメータ共同開発グループ(CALICE)のコラボレーションへの参加者が出ている。
(注)LOIグループのような、総合測定器システムに関して、並立している共同研究グループを「垂直的」なコラボレーション;Si素子による粒子検出器、MicroMEGAS検出器といった、複数のLOIグループのシステムに共通に適用可能な測定器技術に関する共同研究グループを「水平的」なコラボレーションと呼んでいる。
CLICとILCのコンセプトの共通点とは、どのようなものだろうか。端的にいえば、ILC測定器はカロリメータのパフォーマンスを押し上げ、大型の超伝導ソレノイドを構築するのに最先端の技術を使用している。CLICとILCの間では、電磁とハドロンの両カロリメータを持ったCMSタイプの超伝導ソレノイド(図参照)という設計では、コンセンサスが取れている。これは測定器のコストを決める主要素となるものなので、重要な選択である。また、以前から知られているように、ILDとSiD測定器設計で開発された「粒子フロー」の考え方により、500GeVまでの粒子ジェットを再構成できるので、3TeVまでの物理実験に対応することが可能である。4thで開発されたDREAMカロリメータのアプローチはこれと相補的なもので、さらに高い対応エネルギーをもつ可能性もある。
CLICでの0.5ナノ秒ごとに1バンチというきわめて小さなバンチ間隔、また3TeVでランダムな電子陽電子ペアによるバックグラウンドが一桁も増加してしまうこと(Wolf-Dieter Schlatter氏のTILC09会議でのtalkを参照)などは、難しい問題である。トラッカーのデータ中、どの粒子がどのバンチ衝突から来たものかを識別する、もしくは少なくともタイムスタンプすることは可能だろうか?こういった問題に取り組む最先端のR&D技術は、ILC測定器のなかでも、とくに粒子密度の大きいビームパイプに近い部分のものを考えるとき、有効なものとなるだろう。
今後の展開は?コラボレーションは継続する。たとえば、CLIC-ILC役員会が6月12日にCERNで開かれる。もちろんわれわれが一番期待しているのはLHCの運転開始である。これによりリニア・コライダー実現に向けての政治的なプロセスを開始し、2012年までに戦略全容を定義するのに必要な情報が得られるだろう。
■世界の各地より
ノートルダム大学のミュー粒子検出器開発ブロジェクト
国際リニア・コライダー(ILC)は宇宙についての我々の理解を革新し、好奇心にあふれた素粒子物理学者にとってチャレンジとなる結果をもたらすだろうと、多くの物理学者は考えている。このILCは、米国インディアナ州ノートルダムにあるノートルダム大学が積極的に活動している分野だ。特にミュー粒子検出器の研究と高校の先生や生徒へのアウトリーチ活動が活発だ。
「ノートルダム高エネルギー物理グループは、シンチレーター・ファイバー・トラッキングとファイバー読み出しのカロリメータに長いこと取り組んできました。ですから、ILCミュー粒子のコラボレーションは私たちにぴったりのものでした」とノートル・ダム大学物理学科学部長のMitchell Wayne教授。
ノートルダム大学はミュー粒子研究の一環として、ミュー粒子検出器グループに参加している。この検出器グループは、米国ではコロラド州立大学、ウェイン州立大学、ノーザン・イリノイ大学・ウィスコンシン大学マディソン校、米国外ではイタリアのUniversità di Udine やUniversità degli Studi di
Trieste など、30の大学や研究所で構成されている。シンチレーターのミュー粒子検出器試験に力を入れており、高抵抗電極板(RPC)検出器の改良、ミュー粒子とカロリメータのシミュレーションなどを行っている。米国フェルミ研究所で得られた試験ビームの結果をもとに、RPCやシンチレーターをリニア・コライダーのミュー粒子システムに適用する研究もなされている。
だが、ILCに関連する活動はこれにとどまらない。例年夏に、ノートルダム大学では、国立科学財団(NSF)と米国エネルギー省(DOE)によるスポンサーのもと、QuarkNetを開催し、高校教師、高校生が全米の大学や研究所との関係を築く機会を提供している。これは、全米レベルでの教師ネットワークを構築することによって学校での科学教育を推奨し、ライブやオンライン、エネルギーや運動量など物理の基礎を学ぶ観点から素粒子物理をとらえることが目的としている。「QuarkNetは、科学研究がどのようになされているかを教師が実際に体験できる機会です」とWayne氏。「学生は、実際のデータを扱って、科学者がどのように研究を進めていくのかの過程を経験し、科学の知識を養うことができます。」この活動には、ミュー粒子検出器の制作や、フェルミ研究所とのシンチレーターとファイバーを利用したプロトタイプ試験などが含まれている。
ミュー粒子は電荷をもつ三つのレプトンの一つである(残る二つは電子とタウ粒子)。そして、ILCでの衝突のなかでミュー粒子が生成している場合には、面白い事象である可能性が高いことが知られている。ILCの実験では、このミュー粒子の同定と測定に特化した検出器も組み込まれている。ミュー粒子測定器は、測定器システムの一番外側に配置されるが、その上流に位置するカロリメータの厚みは有限であるので、ハドロンシャワーの一部がミュー粒子検出器にまで到達する場合がある。もしミュー粒子検出器がこのハドロンのエネルギーも正確に測定することができれば、ミュー粒子を測定するだけでなく、カロリメータと組み合わせてジェットエネルギーの測定分解能を上げることも可能になる。
ミュー粒子検出器は通常、厚さ10センチほどの鉄板とシンチレーター・ストリップをサンドイッチしたものを作り、これをビームラインの周りに8角形に取り囲むようにして建設する。それぞれのストリップには、長手方向に波長シフト・ファイバーが取り付けられている。ミュー粒子がストリップを通過するとき、ストリップ内に紫外線が発生するが、この紫外線がファイバーに吸収されるとファイバーは長い波長の可視光(緑)を発生する。この緑の光はストリップの終端の光子測定器で検出される。ミュー粒子検出器のレイヤーを追加し、鉄板の厚みを増やすことで、ハドロンシャワーの粒子は初期に吸収されてしまい、ミュー粒子のみがすべてを貫通できるものをつくり、ミュー粒子の再構築を容易にすることができる。前述の八角形の構成は、こうした構造を作るうえで有利である。
今年の夏にかけて、QuarkNetは学生らを募集し、これらの課題にチャレンジする。これがよい学習体験となり、学生たちのあいだで素粒子物理学への興味をひかれる者が出るかもしれない。これは、高校生にとってILC測定器の活動に参加し、ミュー粒子検出器研究の舞台裏を経験することのできるユニークな機会だといえる。
今後数か月は、ミュー粒子検出器のためのシリコン光子増倍管や試験プロトタイプ・ストリップについて研究したいとWayne氏は言う。
「ミュー粒子検出器についてのこれらの研究は、物理学にとって大変重要なステップとなるでしょう」とWayne氏。
■ディレクターズ・コーナー
加速器科学を学ぶこと
今日は、加速器に興味がある若い研究者たちに、「第4回リニア・コライダー国際加速器スクール」への申込を奨励したい。中国北京市にて2009年9月7‐18日に開催予定で、申込締め切りは6月1日に迫っている。本スクールは過去に何度も成功を収めており、加速器の基礎についてこの分野のリーダーから教わり、次世代リニア・コライダーの課題について学習することができるユニークな機会である。加えて、今年のスクールはRF技術と加速器物理の二本柱でできており、復習したい、あるいは高レベルの学生を対象としている。
素粒子加速器は、素粒子物理研究において半世紀以上中心的な役割を果たしており、特に新しい世代の加速器がエネルギー・フロンティアを開拓する度にそれは顕著になる。現在のCERNの大型ハドロンコライダー(LHC)も、まもなくそうした役割を果たすだろう。さらに長い目で見ると、後続のレプトン・コライダーが次の展開といえようか。
近代素粒子物理の誕生は、戦後、宇宙線の研究からサイクロトロンによる実験へと転換したことに始まる。その後さらに高性能なサイクロトロンやシンクロトロンへと世代を進めていった。1960年代には、衝突型加速器が開発され、粒子を正面衝突させるブレイクスルーがあり、より大きな重心系エネルギーを得ることができるようになった。その後三世代の加速器をつかい、私たちは陽子・陽子衝突と電子・陽電子衝突による相補的研究によって、素粒子物理のエネルギー・フロンティアを探究してきた。
LHCでの1テラ電子ボルト(TeV)のエネルギーの実現に向けた準備の途上、レプトン衝突用のコライダーが将来必要になるであろうことが見えてきた。しかしそのような高エネルギーの電子の場合、その静止質量が極めて小さいため、通常の円形のコライダーでは、膨大なエネルギーが放射光として失われてしまう。これが、電子と陽電子を使った直線のコライダー(ILCまたはCLIC)を建設する、あるいは、ミュー粒子コライダーのようなさらにエキゾチックな加速器の開発に方向性を定める理由である。このような新しい加速器の実現のために、加速器科学における難題に取り組む必要がある。このことは、スクールでも論じられるだろう。
加速器科学とは、若い研究者にとって先進的な分野であるということを強調したい。加速器は、素粒子物理の将来にとって不可欠なものであること以上に、核物理や物質科学、医療、医薬生産などにとっても、ますます重要な役割を果たすことになる。たとえば、新世代の光源は、科学研究や工学分野での広汎な応用のため、そのユーザー・コミュニティも大変大きい。新加速技術や素粒子加速器のこれまでの発展は、ほぼ素粒子物理のための加速器R&Dの副産物である。ILCの国際設計チーム(GDE)は、超伝導RF加速や素粒子源、ビーム光学などで最先端技術を研究する中心的存在であるといってよい。ILC加速器における課題を克服することで、将来素粒子加速器の実現のみでなく、大きなインパクトのある新しいアイデアや技術が生まれるだろう。
今年9月の加速器スクールはエクスカーションやサイト見学を含み10日間にわたって開催される。リニア・コライダーの科学とILCへのイントロ(私が講義する)をかわぎりに、二日目はレプトン・コライダーやCLIC、ミュー粒子コライダーの様々な技術を紹介する。これらの全体講義の後に、スクールは二つに分かれ、リニアック、粒子源、ビーム収束システムとビーム-ビーム効果、ダンピング・リングについての加速器物理コースの講義が行われる。また、常温RF、超伝導RF、低レベル・高レベルのRFシステムなどで成るRF関連コースの講義も行われる。学生には課題と試験が出される。
中国でこの4回目のリニア・コライダー加速器スクールに参加することを楽しみにしている。Weiren Chou氏(このスクールのカリキュラムを作成しスクールの組織に尽力した)と私はこのスクールへのご参加を強くお勧めする。9月に学生の皆さんにお会いできるのを楽しみにしている。
■カレンダー
今後の会議 11th European Symposium on Semiconductor Detectors Tesla Technology Collaboration Meeting (TTC09) ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) FCAL meeting The 2009 Hadron Collider Physics Summer School Summer School on Particle Physics, Cosmology and Strings International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF) GDE Meetings calendar ■ブログライン 18 May - Frank Simon ■ニュース記事 欧州研究者、スペース望遠鏡を打ち上げる オーストリア、結局は素粒子物理にとどまることに SuperB実現に向けて前進 EUROTeV Reports フェルミ国立研究所のメゾン試験エリアのカロリメータの前に立つCALICEコラボレーションのメンバー。後列(左から):Frank Simon氏、Nils Feege氏、Jose Repond氏、前列(左から):戸塚俊介氏、Adil
Khan氏、西山実穂a氏、小寺克茂氏、そして魚住 聖氏。 カロリメータ試験についての詳細はFermilab TodayとFrank Simon氏のQuantum Diariesブログ (BlogLine参照)で。
Wildbad Kreuth Conference Center, Bavaria, Germany
7-11 June 2009
LAL, Orsay, France
16-19 June 2009
CERN, Switzerland
23-25 June 2009
IPNL, Lyon, France
23-26 June 2009
DESY Zeuthen, Germany
29-30 June
今後のスクール
CERN
8-17 June 2009
Perimeter Institute, Waterloo, Canada
24 June - 1 July 2009
Radiation and particle detectors
Varenna, Villa Monastero, Italy
20-25 July
View complete ILC calendar
最後のシフト
17 May - Frank Simon
天使と悪魔
16 May - Frank Simon
夜のシフト
Follow all Quantum DiariesFrom Associated Press
19 May 2009
英文記事From Reuters
14 May 2009
英文記事From Wiener Zeitung
14 May 2009
Ritt auf Plasmawelle soll Elektronen effizienter aufladen
...Während im LHC Protonen zusammenprallen, haben die Max-Planck-Wissenschafter mit Kollegen der Universitäten in Düsseldorf und Novosibirsk ein Konzept für einen International Linear Collider (ILC) vorgeschlagen, um Elektronen zu beschleunigen.
独文記事From INFN
14 May 2009
英文記事From Público
8 May 2009
La extinción de los mastodontes de la física
...El caso del ILC muestra que la construcción de máquinas cada vez mayores y más potentes para explorar los abismos de la física puede tener cerca su límite. Tevatrón, el acelerador en activo más energético, costó unos 200 millones de euros; LHC, siete veces más potente, 5.000.
仏文記事
■アナウンス
arXiv preprints
0905.2922
Top Quark Physics at the Tevatron
0905.2655
Cosmic Ray Tests of the Prototype TPC for the ILC Experiment
0905.1782
CP-sensitive spin-spin correlations in neutralino production at the ILC
2008-091
Low-energy Positron Polarimetry at the ILC
2008-093
Final Report for the Laser-wire Beam Position Monitor (LBPM) Task
米国フェルミ国立研究所の試験カロリメータ




























