■世界の各地より
(左から)試験施設のメンバー、Keith Jobe氏、 Zenon Szalata氏、Carsten Hast氏 、クライストロンのArnold Vlieks氏 が保護回路システムの性能を試している。 (写真:Lauren Schenkman氏)
昨日、SLAC国立加速器研究所の研究者とエンジニアによるチームは、マルクス・モジュレータと呼ばれる新型モジュレーターの実負荷による初期試験を終え、今後一年がかりで行う本番試験を開始した。これにより、この開発は、素粒子加速器の電力共有方法を根本的に変える装置の実現にむけた、最終段階にはいる。
「困難な開発プログラムだったので、完成して大変嬉しく思います」と、マルクス・モジュレータの開発が開始された2006年からこれに携わってきたパワー・システム部グループ長のCraig Burkhart氏は言う。この装置は昨年12月に SLACのエンド・ステーションBに搬入された。SLACの試験施設、リニアコライダー開発、電力変換、クライストロンの各部門のメンバーからなるチームが、昨日ここで、出力10MWを超えるクライストロンを用いた初期運転試験を終えたのである。
SLACリニアックの240本のクライストロンは全て、運転に必要な電源パルスをモジュレータから供給されている。モジュレータとは、通常の交流(AC)電源を、特別な電力パルスに変換する装置である。現在ILC(大型ハドロン・コライダーに後続する次世代加速器)で提案されている設計では、576本のクライストロンが使われ、そのそれぞれにモジュレータがつく。しかし現行のモジュレータはかさばり、扱いに手がかかる。それぞれに小型車ほどの大きさになる昇圧コイルが必要で、かつ、これを、放電防止のために、何百ガロン(1000l以上)もの絶縁オイルの中に浸潤させておく必要がある。また、この装置は出力パルスが長いほど大きくなる。ILCの場合、一台のモジュレータは22フィート(6.6m)ものトンネル長を占めてしまう。
エンド・ステーションBで試験されているマルクス・モジュレータが完成すれば、こうした旧式のモジュレータは過去の遺物となる。マルクスはトンネル内で10フィート(3m)足らずの場所しかとらず、重量も従来型の数分の一にとどまる。設計は、八対の縦長のセル(カード)が中心サポートのまわりのちょうど肋骨のようにはめ込まれている。セルのそれぞれには、ペーパータオルの半分くらいのサイズの円筒コンデンサが8本装備され、それらがまとまって一つの大きなコンデンサとなるように配列されている。
マルクス実現の鍵は、カード回路のあいだの接続を素早く切り替える半導体スイッチである。コンデンサの充電はカードが並列接続された状態で行われるが、コンデンサからの放電はカードが直列接続された状態で行われ、その結果、一回のパルスで120,000ボルトもの電圧をクライストロンに供給することができるのである。また、「肋骨」を形成するアルミ枠の端が円くなっているため、120,000ボルトの電圧の発生時も放電が起こらず、この結果、旧型モジュレータの場合のように絶縁油は不要で、簡単な金属製の筐体が必要なだけである。さらに、マルクスは高い電力効率をもつ。入力AC電力のうち96パーセントもを出力パルスに変換することができるので、モジュレーター系での電力ロスを三分の一にとどめることができる。
クライストロンとマルクス電源の接続は単純ではない。クライストロンで放電が起きたとき、また、マルクスのスイッチ回路で不具合が起こったとき、の双方で、クライストロンと電源の両方を確実に保護する必要があるからである。Carsten Hast氏が率いる試験施設のチームでは、クライストロンの側の保護回路が開発された。Ray Larsen氏とBill Ross氏(退職)の指揮の下、コントロール・グループでは、早期障害発見装置と呼ばれる保護回路システムが開発された。障害発見装置は、クライストロンやマルクスに起きる障害を、1~2マイクロ秒以内に検知することができる。この回路は、クライストロンの真空レベルや温度センサとも通信している。センサからのモニター値が決められた許容範囲を超えると、障害発見装置がマルクスを停止し、クライストロンを保護するのである。
マルクスは確かに小型、単純で環境的でさえあるといえるが、従来のモジュレータは加速器を何十年も支えてきた主流だ。昨日開始されたような一年がかりの試験を成功裏に終えてこそ、革新的で、空間もエネルギーも節約できるこのモジュレータを、現場の加速器担当者に薦めることができる。
「モジュレータは1940年代からあまり変わっておらず、この新技術が受け入れられれば画期的なことになります」とBurkhart氏。「加速器コミュニティで受け入れられるためにはいろいろな側面で性能を証明しなくてはなりません。」
「(ILCの)機材は信頼性が全てです」と言うのは、SLACのILC研究開発を指揮するChris Adolphsen氏。「(このマルクスが)何百、何千時間も無故障で稼働することを証明しなくてはなりません。一年間稼働してみて、何が障害となるか、何が正常かを判断し、進めていきたいと思っています。」
SLACの電力変換部門では、第二世代のマルクスに取り組んでいる。カードのうち一組をスペアとし、運転中に不具合が生じたとき自動的にこのスペアに切り替わるような仕組みを取り入れるのである。このアップグレードが完成すれば、ILCは稼働時間をさらに改善することができる。
「故障のたびにただちに運転中断する必要が無くなり、問題を起こしたカードの修理は後回しにすることができるのです」とAdolphsen氏。
Burkhart氏は、マルクス・モジュレータの試験を続けていく途上、この技術のILC以外への用途も出てくるはず、と付け加える。「現在は、この開発はILCに特化して行っています。しかし、この技術が成熟するにつれ、より広範囲の応用が見えてくるでしょう。」
粒子フロー・カロリメータの検証
国際リニア・コライダー(ILC)用ハドロン・カロリメータで粒子フローアルゴリズム(PFA
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Particle Flow Algorithm)を初めて実装した試験機が、試験を成功裏に終えた。このサブ測定器はアナログ・ハドロン・カロリメータであるが、カロリメータ国際共同開発フループ(CALICE)コラボレーションによって作製されたもので、かつてない空間分解能をもち、先進的な読み出し技術を採用した、ILC測定器でのハドロン・カロリメータの一候補である。
![]() フェルミ研究所中間子試験ビーム施設でのCALICEアナログ・ハドロン・カロリメータにて、Frank Simon氏。 |
![]() デジタル・ハドロン・カロリメータの前で、アルゴンヌ国立研究所のJose Repond (左)と Lei Xia氏。 |
「この試験データから、これまで得られたことのない正確なハドロン・シャワーの測定が得られることでしょう」とアルゴンヌ国立研究所の研究者、Jose Repond氏は言う。「これはILC測定器でも、ハドロンに関係するすべての実験でも、同様に必ず理解しておかなければならないことです。」電子-陽電子の衝突反応からはレプトンやクォークなどの粒子が飛び出すが、これらの粒子ジェットのなかには電荷を帯びた粒子、中性の粒子が混在しており、測定器のなかでシャワーを発生する。これらのシャワーの三次元イメージを再構成することで、研究者はクォークがどのような反s応で生まれたかを探るのであるが、そのときにこの新型PFAタイプのカロリメータが必要になるのである。
「粒子フローアルゴリズムの主な目的は、ジェットのエネルギーを正確に測定するために、衝突時の粒子は一つ残らず測定しようというものです」とミュンヘンのマックス・プランク物理研究所のジュニア・研究グループ・リーダーのFrank Simon氏は言う。
ジェットの再構成が正確であればあるほど、クォークが発生した反応をよりよく理解することができる。
「衝突で実際に何が起きているのかを知るためには、ジェット中のこれらの粒子のエネルギーを再構築しなくてはなりません。」
CALICEコラボレーションは12カ国から参加する280名もの研究者で構成されており、現在最先端の測定器技術をもって、ジェットの中の一つ一つの粒子の検出測定技術の開発を行っているところである。「CALICEコラボレーションの目標は、ILCでの粒子フローアルゴリズムに関する様々な手法を検討・評価することです」とSimon氏。Ecal(電磁カロリメータ)とHcal(ハドロンカロリメータ)はいずれも、最先端の光センサ(小型シリコン光電子倍増管を用いる)が、小さなシンチレータのセルからの信号読み出しを行う。シリコンセンサーを使用してのECal試験はすでに完了している。様々な技術からのデータを分析し、様々な技法を検証、ハドロン・シャワーの測定を最も正確に行えるモジュールを調査する。この後、アルゴンヌ国立研究所にて現在建設中の高抵抗電極板(RPC)を基にしたデジタル・ハドロン・カロリメータの試験を、フェルミ国立研究所で開始する予定である。高抵抗電極板を使用したものとしてテキサス州立大学アーリントン校のグループが開発中のGEM読み出しに基づくデジタルHcal、また、欧州の半デジタル読み出しHcalがある。これらのRPCも、アナログHcalとの比較のため、いずれ、同じ鉄製の吸収材の中に埋め込まれて試験されることになっている。
「同様の環境で様々な選択肢についてデータをとり、ILCにとって一番よい技術を選びだすことが、最終的な目標です」とSimon氏は言う。
■ディレクターズ・コーナー
もう一つの粒子加速
今週のディレクターズ・コーナーはGDE米地域ディレクターのMike Harrison氏による。
ILCの建設は、革新的な技術と世界を代表する人材による一大国際事業である。二、三週間前にDESYで開催された加速器設計統合(AD&I)会議も、そのような設計プロセスの一例である。しかし、関係するソースからの情報を全て把握する任務を帯びた地域ディレクターとして私は、このたび、自分が所属するブルックヘブン研究所から数キロ離れたベスページ・ブラックというゴルフコースにて、USオープンのゴルフ・トーナメントも見学することにした。ただし、ここで加速される粒子は、素粒子物理学者の標準からするといかにも大きい、直径42.67ミリメートルのゴルフボールであって、その質量は45.93グラムである(実のところ、ゴルフはヤード・ポンド法の世界であり、物理で使うメートル法では論じきれないのだが、それはともかく)。この「粒子」を木製の「クラブ」で打って加速するなどという技術は、超伝導RF空洞の定在波で加速することのエレガントさには到底匹敵しないが、それなりの肉体的快感を伴うものである。こうした荒削りの粒子加速は、リニアコライダーの技術というよりは、精度を別にすればウエーク場の技術に近い。この「粒子」を、「ホール」という「衝突地点」(直径107.95ミリメートル)まで数百メートル先から入れるのも、衝突地点でのターゲットが5ナノメートルであるビーム収束ラインの専門家にとっては他愛のないことであるが、だからといって簡単であるわけではない。ともかくも、最終的な目標はこの「粒子」を最小限の「加速サイクル」でターゲットまで輸送することであるから、最高加速勾配に加えて必要な要件は明らかである。150名もの世界的なエキスパートが、パワー、精度、高勾配の実演をするのだから、見学して損があるはずがない。
到着してすぐに驚かされたのは、イベントの準備がどれだけ入念にされていたかである。二、三週間のうちにコースはすっかり様変わりし、テント・シティとなっていた。土産物屋のテントは今まで見たことのないほど大きなもので、実験ホールの一つや二つはすっぽりと中に入るサイズであった。テレビ・ネットワークのために設置されたコントロール・システムについては、ケーブルトレイは省略され、ケーブルは草原の中を這うに任せてある。コスト削減技術の適用はそこら中に明らかで、一般施設ワーキング・グループのための参考事例が満載である。ここで一番大きな手本を学ぶべきは、しかし、プロジェクト・マネジメントである。Tシャツを50ドルで、ビールを10ドルで売る許可を与えれば、たしかに、プロジェクトを三週間で完了させ、同時に五万人の訪問者を扱うことだって出来もしよう、というものである。一般施設グループに対しては、こうした経済刺激策を採る権限が与えられるべきだろう。それで、何か問題ありますか?
資材物流管理に次いで、加速勾配を見てみよう。世界的なプロが、この粒子を最高の加速勾配で苦もなく300メートルほど飛ばすのを見ていると、悔しい思いをする。これを真似しようとしてなんとか大怪我をするのを免れた人がこれを読んでいたら(まだ読んでくれている人がいると仮定して)、教訓は明らかだ。それは作業マージンである。粒子を確実に300メートル飛ばしたいとすれば、まず350メートル飛ばす方法を学んでそこから削っていく。この原理は、超伝導RFのR&Dプログラムで、最大値と運用レベルの空洞勾配の間で正しい値を見つけよう、という挑戦にもよく当てはまる。この問題には確実な答えがあるわけではないから、私たちが今やっているように、それぞれのパフォーマンスによって判断するのが一番正しい道だろう。
精密さは常に重要な課題である。大きな振幅を持った粒子、特にひどく非線形の軌道を持ったものは、「バンカー」と呼ばれるシリコン製のコリメーターに影響を受けることがよくある。このシリコンは非結晶系(チャンネリング関係者には申し訳ないが)であって、結構効率的である。これらのコリメーター間でのランダムな位相の変化は、往々にして位相空間の不均一性につながる。しかし、「the green」という環境にやさしいそうな名前で呼ばれる、最終収束地点付近のコリメーター群は効率性が高い。アラインメント公差が一番厳しく制御されているのもこの「green」においてである。ミクロン以下でのアラインメントというわけではないが、10メートル足らずの区間で4パットも打つプロを目にして、私にだってそれくらいならできたさ、と嬉しくなるのだが、アラインメントの重要さもよくわかる。
幸せには終わりが来るものだが、私のUSオープン体験は昼ごろ早々に、豪雨によって中止となってしまった。ずぶぬれになってしまったので、屋内に戻って今回の学習内容を復習した。この研究は大いに意義のあるものだ。リニアコライダーの設計・建設における課題を克服するのに、クリケットでも調査してみようか。英国は雨もよく降ることだし。
■ブログライン
21 June - Frank Simon
A bike ride with new equipment
18 June - Ingrid Gregor
A view to hill ...
Quantum Diaries
■カレンダー
| Upcoming meetings, conferences, workshops ILC-CLIC LET Beam Dynamics Workshop at CERN CERN, Switzerland 23-25 June 2009 Polarized Positron for Linear Colliders Workshop (Posipol 2009) IPNL, Lyon, France 23-26 June 2009 Mini-Workshop on the CesrTA Electron Cloud R&D Program for Linear Collider Damping Rings (CTA09) Cornell University, NY, USA 25-26 June 2009 FCAL meeting DESY Zeuthen, Germany 29-30 June Upcoming schools Summer School: Exploring the Cosmological Frontiers Perimeter Institute, Waterloo, Canada 24 June - 1 July 2009 International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF) Radiation and particle detectors Varenna, Villa Monastero, Italy 20-25 July |
GDE Meetings calendar ■ニュース記事 |
| From CERN 19 June 2009 CERN、LHC再開にむけて進捗を報告 英文記事 |
| From CERN Bulletin 19 June 2009 LHCの最新情報 英文記事 |
| From Optics.org 19 June 2009 欧州の巨大レーザー:エクサワット・ロードマップ 欧州での次世代高度レーザー施設の研究効率を向上するためには、研究者・企業間での密接な協力が必要だ。Caryl Richards氏が大型科学プロジェクトでの挑戦とチャンスについてレポート。 英文記事 |
| From Asian Accelerator Plaza 11 June 2009 日中韓科学技術共同声明に署名 英文記事 ■アナウンス arXiv preprints EUROTeV Reports symmetry Magazine:真の貢献者に功績を
科学界では、分野を去りたくなければ論文を出版し続けよ、という格言がある。それが本当なら、近い将来のうちは、分野を去る素粒子物理学者はあまり居なないだろう。だが、ATLASやCMSコラボレーションの論文や将来ILC測定器の提案に署名している数はそれぞれ3000人にもなるなか、本当に誰が仕事をしているのか、いかにして見分けるのだろう。Symmetry Magazineがこの変わった科学論文の世界に注目。 |




































