■世界の各地より
磁石の向こう側に光が?
ALPSの超軽量粒子探索
![]() 電磁石の中で光が壁を通り抜ける可能性。HERA磁石試験ホールのALPS装置 |
一見、笑止千万、とお考えになるかもしれない。笑止千万だが、大変に想像をかきたてられる。私たちの世界のほかに、思いがけずも、もう一つ世界があったと想像してみよう。そのような世界が存在し、まだ誰も観測できていないのだという科学理論が、いくつかある。かつてない精度をもって、ATPS(Any Light Particle Search)実験はそんな世界から来る粒子を探している。そうしたもう一つの世界がもし存在するならば、これはひも理論のような新理論の直接の証拠であり、また、暗黒物質や暗黒エネルギーなどの謎が解明されることになる。問題は、隠れた世界からやってくると予測されているこれらの粒子が、私たちの世界で知られているどんなものよりも軽く、物質とはほとんど相互作用しないということだ。その名も、WISP (weakly interacting sub-eV particles)という。この隠された粒子の探索のため、ALPS実験ではレーザー・ビームを超伝導HERAのダイポール(双極)電磁石に送り、その真ん中に設置した光学的に不透明な壁にあてる。WISPが存在するとすれば、レーザー・ビーム中の光子が、HERA磁石がつくる強い磁場の中でWISPに姿を変え、壁を通りぬけるということが起こりうる。そして、壁の向こう側で、その粒子のいくつかがまた光子に戻り、観測にかかるかもしれない、というわけだ。これを検出するため、ダイポール磁石の反対端にカメラが据え付けられている。
この隠された粒子の探索のため、ALPS実験ではレーザー・ビームを超伝導HERAのダイポール(双極)電磁石に送り、その真ん中に設置した光学的に不透明な壁にあてる。WISPが存在するとすれば、レーザー・ビーム中の光子が、HERA磁石がつくる強い磁場の中でWISPに姿を変え、壁を通りぬけるということが起こりうる。そして、壁の向こう側で、その粒子のいくつかがまた光子に戻り、観測にかかるかもしれない、というわけだ。これを検出するため、ダイポール磁石の反対端にカメラが据え付けられている。
かつてのHERA電磁石試験ホールに設置されたALPSは、当初、イタリアのPVLAS実験の結果を確認するために立ち上げられた。PVLASは、WISPタイプ粒子の例であるアキシオンとも推測される粒子の存在を示唆する結果を2006年に発表し、世間を沸かせた実験である。しかし、その後の世界中での探索にもかかわらず、この観測には決着がついていない。そこで。ALPSコラボレーションは実験装置をアップグレードし、アキシオン探索から、「隠れたセクター」と物理学者が呼ぶ並行宇宙で飛び回っていることが想定される、超軽量粒子の探索へと手を広げたのだ。改良によって、ALPS実験は軽粒子に対して最も高い感度をもつ装置になった。とくに、レーザー光の入射量が多ければ多いほど、隠れた粒子が発見される可能性が高まる、ということがあるため、研究者はレーザー光源に大きな配慮を行った。
ALPSでは、光学空洞と呼ばれる装置を使って、入射レーザーの光を蓄積する。HERA電磁石中の真空システムのなかに複数の鏡を配置し、その間でレーザー光をなるべく減衰しないようにしながら何度も反射往復させるものである。このようにすると、レーザー・ビーム内の光子がWISP粒子を生成する可能性が何倍にもすることができる。「今まで、ビームが通る経路には真空パイプのための窓が二つありました。この窓では、最新のコーティング技術を使っても、0.3パーセントの光が反射されてしまい、これは無視できない量でした」とコラボレーションのスポークスマンであるAxel Lindner氏は説明する。これが、鏡共鳴システム全体を真空の中にもち込んだ理由だ。次に、グループは大変基本的な問題に直面することになる。二つの鏡のうち、磁石の中6メートル先の後部の鏡の姿勢を、リモート操作で制御させなくてはならないのだ。しかし、直径3.5センチの真空パイプの中に収まり、真空中、磁場のなかで動作する、といった条件を同時に満たす駆動装置は見あたらない。
ALPSグループのメンバーであるErnst-Axel Knabbe氏は、磁場耐性仕様の駆動装置を真空で使用できるよう改造し、鏡の制御系を設計した。「できるはずがないと言う人もいました。でも最初の試験ではうまく機能していることが示されました」とKrabbe氏は笑む。試験後は、レーザー強度が上げられる予定だ。対応して、WISPから来る光を測定する電磁石後部のCCDカメラも、感度を以前の10倍に増強し、これらによって、検出限界が改善された。「真空窓をもたない新しい光空洞と後部光子センサーの改良により、実験感度を1000倍ほど上げるとができると考えています」とLindner氏。これによりALPSは、隠れたセクターに光を当てることのできる、世界一のヘッドライトとなる。測定は今夏に始まる。
ALPSでの測定は、HERA電磁石の運転に必要な液体ヘリウムの冷凍機システムがシャットダウンする2009年秋まで続き、その時点で終了する予定だ。将来の欧州XFEL実験のためにアップグレードされる。だが、ALPS研究者にはさらなる計画がある。この「壁を突き抜ける光」実験にはまだ次のステップがある。それはHERAトンネルを使うことだ。HERAトンネルの直線にこの測定器をもちこみ、磁場中50メートルの真空パイプにレーザービームを通し、並行宇宙からの隠れた光子を探すのである。
■特集記事
宇宙を観る、宇宙に行く、宇宙を創る
日本語の「宇宙」という言葉は、英語での「ユニバース」という意味も、「スペース」という意味も持つ。日本の先端加速器科学技術推進協議会(AAA)は、この「宇宙」をテーマに(望遠鏡で観る、宇宙探査機で行く、加速器で創る)、日本各地でシンポジウムを実施している。その二回目となるシンポジウムが7月4日、広島で開催された。
「広島大では、国立天文台と連携して大学に天文台を創ったり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携して,天文衛星を使った研究を行ったりしています。もちろんKEKとは緊密な協力体制でILCを推進するなど、『宇宙を見る、行く、創る』というテーマは、広島大学の研究とぴったり合っているのです。」とシンポジウムのオーガナイザーの一人である広島大学の高橋徹氏は言う。「特に、宇宙の探求に関して、「見る,行く」に比べてあまり知られていない,「加速器を使って宇宙創生を創り出す」研究のことを広く一般の方、特に、若い人たちに知ってもらいたい、と考えました。」
浅原利正広島大学学長の開会挨拶に続き、数物連携宇宙研究機構(IPMU)の相原博昭氏、国立天文台の家正則氏、JAXAの安部正真氏、そして高エネルギー加速器研究機構(KEK)の吉岡正和氏の4氏が講演を行った。IPMUは「観る」「行く」「創る」の全ての研究分野を網羅する研究所ということもあり、相原氏は全体の紹介として、これまでどのように人類が宇宙の謎に挑んできたかについて紹介した。
続いて、家氏が、ハワイ州ビッグアイランドにある休火山マウナ・ケア山頂にあるすばる天文台での研究について話した。すばるは、天体観測史上最遠となる宇宙の姿を捉えた望遠鏡。その赤外線画像は、銀河の生成と進化の研究に役立つものだ。家氏はまた、すばる望遠鏡の後継として、30メートルの時世代赤外線望遠鏡を作製する国立天文台の計画についても説明した。
はやぶさ小惑星探査ミッションの研究者である安部氏は、イトカワと呼ばれる小さな小惑星から物質サンプルを持ち帰るミッションについて、そのチャレンジを説明。はやぶさは、通信障害や燃料漏れなどの障害にもかかわらず(のちに通信は回復し、運転休止されていたイオンエンジンは再点火された)、現在地球への帰途についている。もし成功すれば、はやぶさは分析のための小惑星サンプルを地球に持ち帰った、世界初の宇宙探査機ということになる。吉岡氏は、加速器とは何かから説明を始めた。「『望遠鏡』や『宇宙探査機』というと、なんとなく想像がつくかと思います。『加速器』と聞くとどうでしょう。名前を聞いただけではどんな形をしているか、想像はつかないですよね?」と吉岡氏。KEKのBファクトリーやJ-PARCのILC試験施設など、日本の加速器関連の活動について紹介した。
シンポジウムの最年少参加者のひとり、鈴木哲平君(中学1年生)は「ビッグバンを再現する加速器の実物を見たいと思いました。難しかったけれど、またこのようなシンポジウムに参加したいと思いました」と感想を述べた。高校生の原浩子さんは進路決定の参考に、とこのシンポジウムに参加した。「小さな素粒子と大きな宇宙の研究に関係があると聞いて面白いと思いました。日本の研究者による素晴らしい研究活動について知る機会が持て、嬉しく思います。進路の選択肢が広がりました。」
「このようなシンポジウムを開催するということは大変有意義なことです」とAAAの事務局長有馬雅人氏は言う。国家科学予算の獲得という面から考えると、日本の各研究所はライバル同士だ。それぞれが、実現したい次世代プロジェクトの長いリストを持っている。科学者らにとっても、このような機会は、情報交換の場として有益であるということがわかったようだ。
次のAAAシンポジウムは、九州最大の都市、福岡で11月に開催される。
■ディレクターズ・コーナー
加速器設計と構築:シングル・トンネル構想で高レベルのRF電圧を分散させることについて
技術設計フェーズ(TDP-1とTDP-2)でのILC加速器設計での勘所は、基準設計報告書(RDR)にあった設計に磨きをかけ、パフォーマンス、コスト、リスクのバランスのとれた、整合性のあるものに仕上げていくところにある。このためにとるアプローチとして、私たちは、RDRベースラインのなかでも再検討に値する諸点を吟味し、来年のTDP-1の最終マイルストーンとしての新ベースライン策定を行っていく。この新ベースラインは、続く技術設計(TDP-2)段階での設計作業の拠り所となり、結果は、2012年までに完成する予定の設計文書となっていく。現在検討中のなかで最も複雑で難しい変更案は、RDRのダブル・トンネル方式を改め、シングル・トンネル方式を採用することである。そのとき鍵になるのは、大電力のマイクロ波(HLRF)を、どのようにしてクライオモジュールに送るかの方式決定である。目下、全く異なった二つのソリューションが提案されているところで、その最終選択は建設サイトにも依存する可能性もある。
シングル・トンネル方式を採用し、そこにメインリニアックと関連するビームラインのすべてを配置仕様と考える主要な理由は、大きなコスト削減を見込める可能性があるからである。しかし、二本目のサービストンネルを除くことを検討するにあたっては、そもそもなぜ二本目のトンネルが必要とされたのか、という原点に戻らなくてはならない。それは稼働率と安全の確保のためである。
RDRに盛り込まれたダブル・トンネル構想は、保守的なソリューションである。アクセストンネルをもつことで、ビーム稼働中にクライストロンやモジュレーター、電子回路や他のハードウェアにアクセスできることになり、そのために稼働性が向上する。また、非常時には、そのトンネルを使ってただちに退避可能ということで、安全も確保される。しかしながら、シングル・トンネルでは、この稼働率と安全性の回復のためにかかるコストを差し引いても、10億ドルものコスト削減ができる可能性がある。このため、シングル・トンネル構想については、いずれ再考をおこなう、という腹案が常に存在した。現在の研究での主目標のひとつは、シングル・トンネル方式で期待できるコスト削減の程度を定量化し、またその場合の機材実装について具体的な描像を提示することである。
安全問題は、具体的なサイトを考えることなしには検討しにくい問題である。これは、その地形に依存する特性や、当該国・地域の法令の規制を受ける面があるからである。そこで、私たちは、シングル・トンネルの安全性については、想定できる建設立地のすべてについて検討を行うことにした。TDP-2のベースラインとして、もし、シングル・トンネルを採用した場合、トンネルの構造やレイアウトの最終像は、建設立地とホスト国の裁量に任される点が出てくることに注意したい。技術設計報告書 (TDR)と RDR でのダブル・トンネル研究を総合することで、ホスト国が現実の建設計画でのコストやトレード・オフを考えるにあたって必要な情報が提供できると思う。
シングル・トンネル構想には、RF分配系として二つのコンセプトが新規に提案されている。ひとつは分散RFシステム(DRFS)を活用することで、もう一つは、クラスター化されたクライストロン(HLRF)を使用する方法だ。それぞれについてコストの総額が計算されているところで、どちらをとってもダブル・トンネルRDR構想に比して大幅なコストの削減が見込まれるだろう。いずれを選ぶか、は建築サイトの特性に依存すると思われる。
もう少し詳しく言うと、DRFSでは8000台ほどの800キロワット級アノード変調型クライストロン(MAK)を使う。これ、および、モジュレーターと電源はずべてシングル・トンネル内に設置される。MAK内部には、電子銃付近に二次アノードが設置されており、これがちょうど、通常の真空管のグリッドと同じように電子銃からのビーム電流を制御する。一台のMAKは、二つの空洞に(RDRに記されてある電力仕様に従い)RF電力を供給する。一方、クライストロン・クラスター化の手法では、およそ35台ののベースラインILCの10メガワット級マルチビーム・クライストロン(MBK)が、一組となって地上の建物内に設置される。ここで生成されたRF電力は、一本のオーバーモード導波管を通して地下トンネルへ送られ、空洞を稼働させる。「クラスター」は、約二キロメートルごとに一組、設置される。これらを採用するとどのようなリスクが発生するのか、方式ごとに違っている。
クライストロンのクラスター化構想では、長い、大きなパルス電力を導波管で伝送することについて、機器ごとに検証する必要がる。1キロメートル長のRFユニットで、RFやビーム・エネルギーをいかに制御するか、についても検証R&Dが必要である。この仕事は、現在、SLACで行われている。1キロメートル分の「フルシステム試験」は現実的ではない。したがって、運転上の課題をどのように検証すれば良いのか、よく見据える必要がある。
KEKはDRFSを一ユニット試作し、S1グローバル試験での実証試験を目指している。もっとも、一つのクライストロンが2~4の空洞を動かしているだけの部分では、大きな問題は予想されていない。問題は、十分にコストを下げ、システム全体が直径4.5メートルのトンネルに収まるか、またはトンネル径を大きくする必要があるかを見極めることである。
おわりに、今日紹介したのは、現在進行中の仕事の、あくまで、スナップショットであることを強調したい。シングル・トンネルのHLRF分配については、さらに別の方式も検討される。たとえば、XFELの2キロメートルのリニアック設計がそれである。これは、実際に行われている建設計画であるので、最も正確なコスト見積もりが得られるはずだ。今後数ヶ月の検討を通して、これらのHLRF方式を考え、いずれをTDP-1ベースラインに採用するか、あるいは両方とも採用するかを決め、今後の技術設計フェーズでの実際の開発計画を立案していく。
■ブログライン
21 July - Ingrid Gregor
The endless summer
17 July - Frank Simon
CALICE at the beach
Quantum Diaries
■カレンダー
| 今後の会議 Lepton Photon 09 Hamburg, Germany 17-22 August 2009 14th International Conference on RF Superconductivity (SRF2009) Berlin, Germany 20-25 September 2009 2009 Linear Collider Workshop of the Americas (ALCPG09) The University of New Mexico, Albuquerque, New Mexico, USA 29 September - 3 October 2009 今後のスクール International School of Physics "Enrico Fermi" (SIF) Radiation and particle detectors Varenna, Villa Monastero, Italy 20-25 July Linear Collider Physics School 2009 Ambleside, England 17-23 August 2009 Fourth International Accelerator School for Linear Colliders Beijing, China 7-18 September 2009 |
■ニュース記事
From DESY chavan氏、Gundelach氏、Biel氏がDESYにて定礎式 連邦政府、ハンブルグ市、そしてシュレスヴィッヒ‐ホルシュタイン州は、欧州XFEL計画合意書に署名した。
21 July 2009
From Warrington Worldwide 2200人の児童が「科学に目覚め」
20 July 2009
英文記事
From CERN CERNとEU委員会が科学協力強化に合意 2009年7月17日、ジェネーブ。今日、ブリュッセルにて、CERNと欧州委員会が、覚書(MoU)に署名し、長年にわたるパートナーシップをさらに強化することで合意。
17 July 2009
From physicsworld フェルミ研究所は暗黒物質を一年以内に観測できるか? 英国と米国の天文学者による計算が正しいならば、フェルミのガンマ線宇宙探査機は一年ほどのうちに暗黒物質の消滅の痕跡が観測できるはずである。
16 July 2009
From Economist 暗黒物質を探せ 軽いが重い:宇宙空間の、捕えどころのない物質を検出する二つの方法
16 July 2009
■今週のイメージ
物理学者が海岸に集まるとどうするか?砂の城を作ったりはしない。イベント・ディスプレイを作る。どんなイベントでも良い、というわけではなく、もちろんILCのものだ。CALICEコラボレーションのメンバーが先週ハンブルグで会議をした時の作品。 全文はこちら(軌道の説明も)のQuantum Diariesで。
■アナウンス
arXiv preprints
0907.3577
Particle Flow Calorimetry and the PandoraPFA Algorithm
0907.3455
On the physical Relevance of the Study of γ* γ → π0 π0 at small t and large Q2
0907.2782
Experimental Review of Photon Structure Function Data
0907.2662
WL WL Scattering in Higgsless Models: Identifying Better Effective Theories
0907.2589
Constraining SUSY models with Fittino using measurements before, with and beyond the LHC

































