ILC NewsLine 2009年8月27日号 [英文記事]
■特集記事
ATF2の国際コラボレーション
ーノートル・ダム大学とオックスフォード大学ー
(International collaborators at ATF2
–Notre Dame and
Oxford University–)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)の先端加速器試験施設(ATF)では、世界中の研究者が加速器技術の試験を行っている。ILCのビームはとても細いので、正確で精度の高いビーム診断の測定が必要になる。米国ノートル・ダム大学と英国オックスフォード大学の研究者がATF2を7月に訪れ、ビーム診断測定のための試験を行った。
国際リニアコライダーを実現させるために不可欠な要素の一つに、精度よくビーム位置を測定することができるビーム位置モニタ(BPM)がある。衝突点には、詳細なパラメータがわかっているビームのみが送られ、期待する物理解析に必要なルミノシティを作り出す。まず、ビームライン上の複数地点でビーム位置を測定することにより電子と陽電子の軌道が決まり、それによって、衝突点が決まる。ノートル・ダム大学のMichael Hildreth氏は「電子と陽電子ビームの軌道がずれていると、衝突は起こりません。また、ビームの軌道を正確に知ることは、ビームエネルギーを測定するためにも、とても大事なものです。エネルギーの違うビームは、磁場の中を通過すると、異なった軌道を描きますので、軌道測定をすることでエネルギーが分かるのです」と説明する。
BPMはビームライン上に設置される。だが、地面の揺れによりビームラインのサポートが振動するようなことがあると、BPMの測定にも影響を与える。Hildreth氏はレーザー干渉計を用いて、このBPMの機械的な振動を測定する。この効果をBPMの測定結果から差し引くことで、ビームの正確な位置を知ることができる。この試験で、チームはこの測定に成功した。次のステップは?「5メートル離れたBPM二台の相対的な位置を、10から30ナノメートルの精度でモニターすることです。」ノートル・ダム大学学生のMickey McDonald氏とKurt Jung氏も、インターンシップ生としてATF2で研究。「素粒子物理を学ぶためにとてもよい経験です」とMcDonald氏。
ビームサイズを測るモニターと最終四極磁石は、ランダムに振動する。ビーム位置を正確に得るときと同様、ビームサイズの情報からも機械振動の効果を差し引く必要がある。「この振動は、振幅がほんの19マイクロメートルほどのものです」とオックスフォード大学のDavid Urner氏。ILCの設計ビームサイズは、数ナノメートルである。マイクロメートルの振動はILCビームには大きな影響を及ぼす。ATF2ではMONALISA(monitoring alignment and stabilisation with high accuracy)というシステムを使ってビームラインを精確に測る。「このシステムはうまく稼働します」とUrner氏は誇らしげ。
ATF2のサポート体制には、研究者は皆満足している。Hildreth氏は「KEKやATFの人たちは親切で有能です。入ってきたばかりでも、とても働きやすい環境です」と言う。Urner氏は「全て高水準にことが運びます。素晴らしいエンジニアたちが、加速器を綿密に調整しています。」Paul Coe氏は「7月1日に機器が届く予定でしたが、予定の9時半ちょうどに届きました。15分以内に全ての箱がラボに運びこまれてしまい、機器の写真を撮るひまもありませんでした。手際がよすぎます!」
[英文記事]
■世界の各地より
調整装置が出港
二台の空洞チューニング装置がFermilabへむけ出荷
(A grand tuning voyage
Two cavity tuning machines on
their way to Fermilab)
通常、国際コラボレーションというと、人を研究施設に派遣することを指す。ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)、米国フェルミ研究所、そしてKEKの研究者らは、その反対で、実験機器を人に送ることにした。8月3日、DESYで制作された二台の装置が米国のフェルミ研究所へと出荷された。
この空洞チューニング装置と呼ばれる装置は、欧州XFELやILCのような超伝導RF技術による加速器のRF空洞を、わずかに塑性変形させ、設計の共鳴周波数にマッチするよう最終調整するためのものだ。調整前に、この装置はまず、空洞の機械寸法を測定する。また、電気特性については、空洞内に基準周波数のRF信号を導入し、一空洞あたり9個あるセルのそれぞれで、どの程度の強さで共鳴が現れるかを測定する(共鳴の現れ方が一様あれば、個別セルの特性はよく揃っていることになり、不均一であれば不揃いがある、ということになる)。この測定に基づき、今度は、空洞をまっすぐにしたまま、一つ一つのセルを少しずつ引っ張ったり押しつぶしたりして、9個のセルで現れる共鳴電磁場の強度が等しくなるように調整するのである。このようにして初めて、加速器内での粒子の加速を最大限に引き出すことができるようになる。
DESYの専門家らは、この装置のプロトタイプの開発に15年をかけた。ILCのためには16,000という膨大な数の空洞が必要になるため、大量生産には装置製造の自動化の仕組みを強化する必要がある。つまり研究所の専門家のみならず、非専門家にも稼働可能な装置である必要がある。この装置は、自動化を通して、空洞調整自体にかかる時間を4時間ほど短縮する。DESYは二台の空洞チューニング装置をXFEL空洞調整用に空洞の制作現場に送る予定で、ILCについても同様の方策をとることになるであろう。
フェルミ研究所では、空洞チューニング装置はILCのR&DとProjectXの空洞調整のために使用される。このうち一台は、後にKEKに送られる。ただし現在のところ、この装置を動かすには重要な制御電子回路とソフトウェアの二点がまだ必要だ。これは米国グループの仕事であり、フェルミ研究所にて追加される。
発送のために、この装置は二つに分解され、特製の箱に収められた。動きやすい個所を縛り、梱包は細心の注意を払って行われた。「もちろん、何かが壊れるかもしれない、という懸念はありますが、そういうことがないよう最大限注意しました」とコラボレーションのうちの一つDESYグループのリーダーWolf-Dietrich Moeller氏。チームのメンバーと運送会社の社員とで、一週間かけて梱包を終えた。この綿密な作業を終えて、装置はアメリカへと飛びたった。8月の中旬、DESYのチームは装置を追って飛び、組立の手助けをした。結局、締めくくりでは、人が施設に派遣される。
[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
国際コラボレーションの素晴らしさ
(The beauty of international collaboration)
今週のディレクターズ・コーナーは、CLIC研究のリーダーでGDE幹部会に最近加わったJean-Pierre Delahaye氏が執筆。
光栄にもILCのGDE幹部会の新しく加わり、月刊ILC NewsLineの一つに好きなトピックで良いからディレクターズ・コーナー記事を執筆せよ、という丁寧な(だが、絶対断ってはいけない、という雰囲気の)お招きを頂いた。という訳でで、私は好きな話題ということで、国際コラボレーションついて述べてみたい。
私は国際コラボレーションの有用さと必要性については、キャリアを通して確信するところである。これが、私が欧州合同原子核研究機関(CERN)で働いている大きな理由でもある。周知の通り、CERN は1954年9月に、高エネルギー物理の研究のため、さらには第二次世界大戦で敵同士であったいろいろな国の人々が協力する場を設け、あのような悪夢を繰り返さないようにするために建設された。Louis de Broglie、Eduardo Amaldi、Lew Kowarski、Niels Bohrのような先覚者やこの理想を促進した人々は、様々な国から来た人々が協力することは、互いを知り尊重しあうというだけではなく、善人と悪人はどの国にもいて、その比率は一様で人類の定数であるということを知ることにもなる、と確信していた。この定数の不偏性を証明することは、社会学で興味深い研究となるに違いない。
科学での素晴らしい国際コラボレーションの一例。CERNで夏の学生によって開かれたイスラエルとパレスティナのパーティ。画像提供:CERN |
ここで、私は個人的なお話しを共有したい。私が祖母に国際的な機関CERNで素粒子物理をすることになったという嬉しい知らせを伝えた時、祖母は物理については喜んでくれたが、国際的という面には顔を曇らせた。コラボレーションというのは、祖母にとって第二次世界大戦からくる、負の意味を帯びた言葉であったからだ。だが、二、三年後にCERNの外国人の同僚に会ったとき、祖母はよき友人を持つことの幸福を認め、国際コラボレーションの素晴らしさについて確信するようになった。
CERNを建設した先見の明をもつ政治家たちは、一番大切なのは、CERNでの仕事の内容というより、むしろそれを一緒にするということだ、というのを熟知していたのである。そしてそれは、想定された以上によく機能している。同じ国の人とで集まってしまう傾向はあるにしても、それぞれの国の長所が生かされていれば、多国で編成されているチームは一番成果を挙げている。
これらの先覚的な科学者や政治家らによるもう一つの素晴らしいアイデアは、コラボレーションの主題として直截的な応用を念頭におくことはやめ、ただし、どのような発見であれその知見を世界中にただちに発信しなければならない、という義務を課したところである。この考え方に従い、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の技術はCERNで開発された時、すぐに無料で開放された。これが、WWWがこのように世界中に広く素早く広まった理由である。もしWWWが短期間の利益を求める企業によって開発されていたなら、話は違ったものになっていただろう。
国際コラボレーションはまた、一つの国では扱いきれない複雑で困難な分野に取り組むチャンスも産む。リソースをもち寄りあうと同時に、様々な文化を背景にするスキルが刺激しあうことでリソースを最大限に生かすことができるようになる。1+1>>2ということである。
さらには、高エネルギーのフロンティアへと進むため、ますます野心的な物理研究施設が求められ、世界的な国際コラボレーションの必要性がかつてなく強まっている。この意味から、加速器は物理・測定器から学ぶことは多いといえよう。LHC加速器はCERNから80%、外部のコラボレーションから20%というリソースの比率で建設されたが、LHCの測定器は全く同じ比率で、しかし反対、つまりCERNから20%、外部のコラボレーションから80%というリソースで建設されたということは、驚くべきことである。
リニアコライダーは、国際コラボレーションに適した機会であり、成功のためには世界的なコラボレーションが必要不可欠であるといえる。R&Dは特に国際コラボレーションに適している。斬新な技術開発や、新たな課題に取り組むことは、創造的な想像力が必要であり、そのためには多文化のスキル、多様なアプローチを持った国際コラボレーションによって、より効率的になるものである。よい例としては、18カ国(このうち7カ国はCERNメンバー国外)からの33の研究機関がボランティアで参加しているCLIC研究である。ILCコラボレーションはさらに目覚ましく、基準設計報告書(RDR)には12カ国84研究所からの700名もの研究者が署名している。私はこの両方の研究に参加することができ、とても嬉しい。双方のアプローチの進展は建設的で相補的、そして実りの多いコラボレーションは、LHC(とTevatron)の結果によって将来の物理の条件が決定されるときに、充分に準備ができているようにするうえで、重要である。私はこのリニアコライダーでのコラボレーションを促進、成功させるために最善をつくしたい。ここに、CLIC運営委員会への参加を快諾してくれたBrian Foster氏へ歓迎の意を表したい。Foster氏のCLIC運営委員会への参加と、私の幹部会への参加というこの相互乗り入れ構造が、高エネルギー物理学とリニアコライダーのため、二つの研究間でのコラボレーションを強化することを願う。
結論として、LHC後の新しい高エネルギー物理学の施設は、国際・多地域間コラボレーションの枠組みの中でのみ可能であるということだ。世界的なコラボレーションは、成功のために必要不可欠なものである。この観点から、CERNのグローバル化と拡大についての構想は、正しい方向であり、時宜を得ているといえる。これが、たくさんの方々のように私が国際コラボレーションの素晴らしさについて確信を持っている理由であり、国際協力により、リニアコライダーをサクセス・ストーリーへと導き、世界的で多文化間コラボレーションの輝かしい例となることを望むものである。
[英文記事]
■ブログライン
21 August - Frank Simon
The morning after
20 August - Frank
Simon
Waiting for the Big Bang
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
14th
International Conference on RF Superconductivity (SRF2009)
Berlin,
Germany
20-25 September 2009
2009 Linear Collider Workshop
of the Americas (ALCPG09)
The University of New Mexico, Albuquerque, New
Mexico, USA
29 September - 3 October 2009
CLIC09 Workshop
CERN
12-16 October 2009
12th International
Conference On Accelerator And Large Experimental Physics Control Systems
(ICALEPCS 2009)
Kobe International Conference Center, Kobe,
Japan
12-16 October 2009
今後のスクール
Fourth International
Accelerator School for Linear Colliders
Beijing, China
7-18 September
2009
■ニュース記事
From Cornell University Chronicle
24 August 2009
コーネル電子貯蔵リングは国際リニアコライダーのテストケース
提案されている国際リニアコライダー(ILC)で何をしたいのかという構想内容は極めてよく整理されている。絞り込まれた素粒子のビームを未踏のエネルギーで衝突させ、ビッグバン状態を再現して宇宙起源の謎を探ることだ。
[英文記事]
From CERN bulletin
24 August 2009
日付の裏の複雑な活動
...表に現れた工程スケジュールの背後では、最も複雑な科学実験装置の一つであるこの装置で、実際どのような活動が行われているのだろうか。
[英文記事]
From ars technica
21 August 2009
40年前のデータを現在の物理課題の解析に適用
古いデータを調べることにより、標準理論を超える物理についての新たな束縛条件が見つかり、新しい物理の証拠を見出すことができる。
[英文記事]
From symmetry breaking
21 August 2009
物理のミックステープでグルーブ
iTunesを見てみると、多くのポップミュージシャンが物理にヒントを得ていることがわかる。
[英文記事]
From symmetry magazine
August
超伝導技術、シカゴ・スタイル
...フェルミ研究所のSRF試験施設のプロトタイプ加速器の設計は、電子‐陽電子コライダーの国際リニアコライダーで提案された設計をなぞっている。空洞はそれぞれ9セルが繋がってできており、8台の空洞が一台のクライオモジュールに収められる。完成時、フェルミ研究所のプロトタイプ加速器は6台のクライオモジュールで構成される予定。
[英文記事]
■アナウンス
◇arXiv preprints
0908.3019
The LCFIVertex package: vertexing, flavour
tagging and vertex charge reconstruction with an ILC vertex detector
0908.2951
Anomalous
Quartic Gauge Couplings from Six Quark Production
0908.2898
Neutral
Higgs-pair production at Linear Colliders within the general 2HDM: quantum
effects and triple Higgs boson self-interactions
■今週のイメージ
ILCポスターに表彰
先週ハンブルグで開催されたレプトン・フォトン会議で、DESYのSebastian Aderhold氏によって発表されたポスターが、DESY友とスポンサーの会によって表彰を受けた三つのポスターのうちの一つになった。合計73のポスターが展示され、Aderhold氏の「DESYの高勾配SRF研究」が「実験手法とプロジェクト」カテゴリーで受賞した。その他の受賞作もご覧あれ。







































