ILC NewsLine 2009年10月22日号 [英文記事]
■リサーチ・ディレクター・レポート
リニアコライダー測定器開発
(Linear collider detector development)
今月のリサーチ・ディレクター・レポートは、リニアコライダー物理・測定器国際研究組織の共同議長であり、アジア地域の測定器コンタクト、山本均氏の担当である。
欧州合同原子核研究機構(CERN)で開催されたCLIC09ワークショップに参加した帰りの飛行機でこの記事を書いている。参加者は20を超える国から約250名。そのうち、物理と測定器セッションの参加はおよそ50名。ワークショップは連続会議シリーズの第3回目であり、回を重ねるごとに、ILC研究者グループの参加は増えている。私は、物理と測定器ワーキンググループの世話人をつとめた。今回の会議には、ILC実験計画執行組織の地域コンタクトとして参加したわけではないが、いくつかの情報をILC NewsLineの読者のみなさんにお伝えしたいと思う。
CLICは、大電流の低エネルギー・ビームが主線形粒子加速器に高周波(RF)を供給する、というビーム駆動タイプのRF技術がベースのリニアコライダーである。計画では、500ギガ電子ボルト(GeV)の衝突エネルギーで運転を開始し、将来的には3テラ電子ボルト(TeV)までアップグレード予定。 500GeV加速器の公称ルミノシティ目標は、2.3× 1034 cm-1s-1(ILCとほぼ同じ)。3TeV加速器の公称ルミノシティは5.9× 1034 cm-2s-1で、ほぼ3倍である。かなりチャレンジングな技術であるため、諸パラメータの値を数分の一のレベルまで緩めた『緩和』パラメーター・セットと呼ばれる、より控え目なルミノシティ目標もある。現在、CLICの関係者たちは、2010年末の完成を目標とする概念設計報告書(CDR)の執筆に忙しい。『最短で成功前提の』長期計画では、2016年頃に技術設計報告書(TDR)を執筆し、2024年頃に最初のビーム運転を行うことを構想している。 CLICの主線形加速器のRF源は、ILCのものと非常に異なってはいるが、緊密な協力関係がCLICとILC双方のためになる、広範囲で共通の問題がある。これは、物理と測定器活動にはさらに重要なことであり、この領域においてCLICとILC間で共同研究グループを育成する目的で合同ワーキンググループがつくられている。
CLIC測定器の設計は、ILCのために研究されてきたことをほぼそのまま活用することができる。実際、これまでのところのCLICの測定器モデルは、シリコン測定器(SiD)と国際大型測定器(ILD)の修正版である。これらの測定器モデルは、小規模な変更をかけただけで、CLICで妥当な性能が得られることが示された。たとえば、ILCのために開発された粒子フロー・アルゴリズムが、最大500GeVまでのジェット・エネルギーに十分なエネルギー分解能(3-4パーセント)を与えるとわかっている。しかし、小規模であっても、こうした適切な修正を適用するのは非常に大切だ。まず、CLICではジェットのエネルギーが高いため、ILC用よりも厚いハドロン・カロリメータが必要である。更に、低エネルギーの電子-陽電子対によるバックグラウンドが増大するため、ビーム・パイプの半径はおよそ2倍にしなければならない。より高い衝突エネルギーでの重要な物理イベントには、測定器の前方・後方領域に多数の粒子を発生するものが多いが、この領域はハドロン2光子相互作用によるバックグラウンドがILCよりも非常に強い部分であ
る。これのような高いレートのバックグラウンドに対処するには、約10ナノ秒のオーダーのタイムスタンピング能力が、必要だと考えられている。タイムスタンピングはCLICにとって重要な挑戦的課題であり、ワークショップ中には、特別なパネル・ディスカッションの場が設けられた。たとえば、いまのところ、必要とされる条件を満たすバーテックス測定技術は存在していない。
物理学と測定器に関する大部分の研究は、CLICとILCに共通する。ILC測定器の開発は、測定器-構造体の統合設計とプッシュプル設計でCERNの専門家からすでに支援を受けている。厳しいタイムスタンピング条件のようなCLICに特有の問題も、そこで開発される技術解は、ILC測定器に役立つものとなろう。ILC測定器の全ての問題はすでに解決され、CLICに特有な問題には興味がないと考えていると、ILC測定器を改良する大きな機会を逃すかもしれない。物理学と測定器で行われてきた研究において、CLICとILCのこれまでの作業量にはまだ大きな違いが
あるのは事実であるし、ILCの活動が ILCのためにならない目的に費やされることを期待することは出来ない。しし、ILCの物理・測定器研究者グループがCLICのために行う少しばかりの作業が、巡り巡ってILCのためにはるかに大きな収益をもたらす、ということは大いにあり得る話しである
[英文記事]
■特集記事
CALICE共同研究グループは、新しいフェーズに入る
(CALICE collaboration enters new phase)
ILC概念測定器評価報告の公表直後に、CALICE(リニアコライダー実験のためのカロリメータ)共同研究グループは、リヨン(フランス)で9月16日から9月18日に会議を持った。会議は、このグループが重要な新フェーズに移行するにあたり、最近のテストビーム結果に関する活発な議論を行い、次世代のためのR&Dと研究戦略を検討する場となった。ほとんど全ての参加国からの出席者が集まった。
出席者数は、91名という記録的な数に達した。その理由は、フランスがカロリメータについての長年の経験をもつこと、フランスがCALICE設立に関わった国の一つであった、というあたりにあるのだろう。CERNからも新たな参加者が多数あった。リニアコライダーのための物理測定器研究グループ、LCD、と呼ばれている新しいグループがこの5月にCALICE共同研究グループに加わった。「IDAG(国際測定器諮問委員会)評価結果の直後にこれほど多くの出席者を得たことは、この協同研究にとってたいへん良いことです」と、Felix Sefkow氏(CALICE共同研究グループのスポークスマン)が言う。「これは、測定器R&Dのための横断的共同研究をおこなう、という方法論が、ILC測定器を開発するのに非常に適していたことの証明で、その有効性は今後も続くでしょう。」ILC実験計画執行組織の地域コンタクトであるFrançois Richard氏は、このIDAG評価結果について出席者と話し合った。「我々は、測定器コンセプトチームとR&Dチームとの接点を、今後強める必要がある」と、Sefkow氏が言った。「測定器形式の最終決定を下すまでのあいだは共同してことに当たっていく姿勢を示すことが重要だ。」
このCALICEミーティングでは、2つの新しいセッションが、追加された。第一は、CERNメンバーの参入に関係するもの。彼らの主な貢献は「より高エネルギー」に関する話題である。それは、CLICでの高エネルギー領域におけるカロリメータ研究である。この仕事は、CALICEですでに追求されてきたことに関連する。(より詳しくはILC-CLIC測定器開発状況を参照のこと)。「CLICにおけるエネルギー測定器のアイデアが、うまくCALICEの中に取り入れられて喜ばしい。我々の共同研究グループの効率は非常に高い」と、Sefkow氏が言った。
新セッションの2つ目は、測定器の機械構造についてであった。この研究は、これまで主に測定器コンセプトグループが追求してきたものである。しかし、現在、研究の新フェーズに入るにさいして、CALICEでも機械的な精度仕様を評価し、統合システムとしても測定器を目指す機運が高まっている。この仕事の第一フェーズとして、まず、「粒子フローアルゴリズム」を使った一連のデータ収録動作の妥当性が確認された。粒子フローアルゴリズムとは、粒子シャワーを3次元的に再構成するための鍵となるソフトウェア技術である。この高精細カロリメータの動作原理が証明されたいま、第二フェーズでの重要な仕事は、将来のある所点でILCで必要となる測定器が実際に建設できることを確立するところにある。そのためにはそれぞれのタイプのカロリメータについて、フルスケールの試作器を製作し、その動作を実証する必要がある。真に現実的な測定器の設計には、システム的な統合を念頭においた機械的設計行い、概念グループのこれまでの仕事を補完するとともに、不感領域をできるだけ小さくし、実装のできる限りの高密度化を図ることが重要だ。ビームテスト、とくに複数測定器の同時テストは、サブ測定器群と信号処理回路の複雑なシステムが実際に動作することを証明する鍵となる。「IDAGレポートでは、カロリメータのビームテストが重要であるとされています。大変に我が意を得たり、の思いです」と、Sefkow氏は言う。彼らが2006から2007年までに収集したほとんど全てのデータは現在までに解析済みである。会議では、今年米国フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)で行った電磁カロリメータ(ECAL)およびハドロンカロリメータ(HCAL)からなる複合シンチレータシステムのテストビームによる解析結果が議論された(NewsLine記事を参照)。リヨンで報告された小規模セットアップによる初のテストに続いて、2010年にはFermilabで原理証明を行うハドロンカロリメータのためのガスの読出し技術の実験を行う予定だ。第二段階としてのシステムの組み合わせの評価にも、同様のテストビームが必要である。CERNでは、異なるガスを用いたHCAL測定器要素を並行する試みも始まっている。HCALが挑む課題の一つは、ハドロン粒子群を再構成することである。ハドロン粒子シャワーのふるまいはあまりよくモデル化されていないため、会議ではハドロンカロリメータの専門家とCERNからの専門家でシミュレーションプログラムGEANT4の研究者との間で建設的な交流が行われた。次のCALICEミーティングは、春に米国テキサス州で行われる。
- 会議の議事録とスライド
- 関係者の話としては、Quantum DiariesのFrank Simon氏のブログをどうぞ。
[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
リニアコライダー推進に取り組むILCSC
(ILCSC grapples with moving the Linear Collider forward)
ハンブルグで開催されたレプトンフォトン会議の会期中の8月19日、将来加速器国際委員会(ICFA)の小委員会である、国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)は、年2回の定例会合を行った。ILCSCは、ILCの加速器と測定器R&Dそして設計活動に対し、科学面と技術面の監督を行っている。8月の会議は、ILCSCは、測定器趣意書(LOI)の認証をはじめ、ILC-CLIC(コンパクトリニアコライダー)共同研究グループ、ガバナンスとサイト選定についての活動にいたる、幅広い問題を扱い、議題は盛りだくさんであった。今回は、Enzo Iarocci氏が委員長をつとめる最後の会議。次期委員長はJon Bagger氏(米国ジョン・ホプキンス大学)である。
会議で、Jean-Eudes Augustin氏(ILCSCプロジェクト諮問委員会(PAC)委員長)は、2009年5月にバンクーバーで行われたレビューの結論を述べた。PACレビューは、加速器諮問委員会(AAP)の内部技術レビューの直後に行われたもの。PACは、AAPによる技術事項に関する勧告に同意し、国際測定器諮問委員会による2つの測定器概念のLOIの認証を支持し、また、より一般的な問題を扱ったAAPの技術提言にも合意するむねを表明した。おそらく、これらの中でも最も重要な事項は、各国研究所の優先研究プログラムと、GDEが追求する国際的なマイルストーンをいかに整合させるのかについて、ILCSCと研究所所長連とのあいだでの協議の場を設けよう、という提言である。GDEと各国研究所の協力関係は、公式な合意書ではなく、『ベストエフォート型』の了解に基づいている。ILC R&Dと加速器設計に関する私たちの重要な進歩からもわかるように、主要研究所からの寄与を得て、この共同開発は概ねよく機能している。
しかしながら、GDEのマイルストーン達成はこれらの研究所からの寄与に依存する以上、研究所での活動優先順位の変更によっては、幹部の配置換えなどを通して大きな影響を被る可能性があることは認識しなければならない。これにはやむを得ないところもあるが、私たちの、そしてPACやILCSCが期待するのは、研究所長とILCSCの対話を通して研究所のコミットメントが確保され、ILCの世界的なマイルストーンのなかでも最重要のものが達成されることである。2月にブルックヘブン国立研究所で開催の次回ILCSCとICFA会合の会期中に、そのような場が準備されることを期待している。いまは、11月初旬に韓国浦項で開催される次回PACレビューの準備を行っているところだ。そのレビューでは、私たちがALCPG09で示し、集中的な議論の中この秋取り組んでいこうとしている、新しいILC加速器ベースラインの提案に焦点をあてられる。PAC会議では、実験プログラムと今回の会議におけるLOI認証プロセスの結果についてのレビューも行われる。浦項でのPAC会議後、Lyn Evans氏(CERN)が次期PAC委員長に就任する。私たちは、彼と一緒に仕事をし、特に彼の広くて価値あるLHC経験から学ぶのを楽しみにしている。
8月のILCSC会議で議論されたもう一つの重要案件は、ILC-CLICの共同研究グループについてであった。私は、共同研究のいくつかの課題例を挙げ、7つのワーキンググループの概要について示した。そして、6月のGDE役員会とCLIC運営委員会の合同会議で、もう一つグループをつくってより一般的な問題に取り組むことを決めたことを報告した。ここで言う一般的な問題とは、2つの加速器システムのアプローチをどのようなポイントから比較するか、比較に必要な情報項目を洗い出すこと、そして、2012年あるいは2013年と目される意志決定時期に向けて双方仮なにを準備するかの内容や日程のすりあわせ、などである。「一般問題」グループの役割と任務にの議論の後、この一般問題グループは、GDEにかんしてはILCSC、CLICに関しては同等の上部委員会に直接報告するという条件つきで承認された。仮の任務は、下記の通り。ILCSCは、以下の任務においてCLIC/ILC一般問題ワーキンググループの設立を承認する:
- リニアコライダーを推進すること
- ILCとCLICの設計概念の準備作業の効率化を目指し、両者の協力関係の要目を明らかにすること
- ILCとCLICの詳細な活動計画を吟味し、サイト選定、技術問題、プロジェクト計画に関して共通の課題を洗い出すこと
- 双方のプロジェクト実施計画における課題を議論すること
- 2つのアプローチ間の比較に必要な要目を洗い出すこと。本ワーキンググループの結論は、共同文書の作成を念頭におき、ILCSCとCLIC共同研究グループ委員会に報告すること。
新グループがつくられて活動が始まったら、また報告したいと思う。
[英文記事]
ディレクターズ・コーナー・バックナンバー■ブログライン
21 October - Frank Simon
The
Open Day
21 October - Ingrid Gregor
A hitchhiker’s guide to the conference galaxy
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
FCAL Collaboration Meeting
CERN, Geneva,
Switzerland
21-22 October 2009
2009 IEEE Nuclear
Science Symposium and Medical Imaging Conference
Orlando, Florida,
USA
25-31 October 2009
6th ILC Positron Source Collaboration Meeting
IPPP,
Durham, UK
28-30 October 2009
Linear Collider Testbeam
Workshop
LAL, Orsay, France
3-5 November 2009
■ニュース
From CERN bulletin
19 October 2009
LHCの最新情報:LHC冷却!
10月8日(木)、セクター6-7が1.9Kの極低温に到達。続いて今週、最後のセクター3-4も到達。マシンの最終的な立ち上げに向けての重要なステップを記した。
[英文記事]
From nature
15 October 2009
評価で問題を指摘されたEU研究プログラム
監査は、EU予算プロジェクトの持続性の欠如を批判。
[英文記事]
From nature
14 October 2009
米国の緊急経済対策費は、どこへ?
どうやって機関はたなぼたのお金を分割したのだろう。
[英文記事]
■アナウンス
◇ILC Internal Document
2009-041
ILC Global Design Effort - Project Managers’ Report - September 2009
◇arXiv preprints
0910.3316
Neutralino Dark Matter and Higgs mediated Lepton
Flavor Violation in the Minimal Supersymmetric Standard Model
0910.2636
Monte
carlo study of the physics performance of a digital hadronic
calorimeter
0910.2579
γ γ → μ τ b bbar in Susy Higgs mediated
lepton flavor violation
■今週のイメージ
エール大学院から最高の名誉がBill Willis氏に
(Bill Willis receives highest honour from Yale Graduate School)
ILCの加速器諮問委員会委員長、Bill Willis氏は、10月6日にエール大学院から、W・クロス・メダルを授与された。メダルは、「優れた業績」をおさめた3人の他の卒業生にも与えられた。Willis氏の受賞は、「彼の従事する研究分野の発展にとって重要かつ広汎な実験的貢献」による。彼は、ブルックヘブン国立研究所、FermilabとCERNなど、国家的および国際的な研究所の著名な役員でもあった。彼は、多くの国際的な科学諮問委員会のメンバーをつとめており、現在はILCの研究開発委員会の委員長でもある。」



























