ILC NewsLine 2010年1月28日号 [英文記事]
■世界の各地より
低く狙って高く撃つ
様々な分野の専門家が、共通の問題「エミッタンス」に取り組むために集まった
(Aiming low, shooting high
Experts from different fields
get together to tackle a common problem: emittance)
同じ目標を達成するのに全ての人が同じ方法を使うというわけではない。提案中の2つの電子陽電子コライダーである、国際リニアコライダー(ILC)とコンパクト・リニアコライダー(CLIC)について考えてみよう。また、同じ方法を用いても、同じ目標を追及するというわけでもない。1月に、ジュネーブにある、欧州合同原子核研究機構(CERN)で開催された研究集会には、ひとつの共通の問題について議論するために、2つのリニアコライダーや世界の放射光源、Bファクトリーから多くの参加者が集まった。その問題とは、ビームをできるだけ小さく強くする方法、より多くの粒子の衝突をさせる方法、放射光源ユーザーのためにより高輝度の光を発生させる方法など、要するに、どのようにして低エミッタンスリングの設計を行い、運転を行うか、ということである。
今回のワークショップは、ダンピングリングに関するILC/CLICワーキンググループがとりまとめを行い、加速器設計、異なる技術、ビーム・ダイナミクス挑戦のような共通の問題を議論するために、放射光源、Bファクトリー、試験設備、ダンピングリングの専門家を集めた最初のもの。単なる興味深い議論にとどまることなく、参加者は、直面していたことを知らなかった問題の解決や、すでに存在するのに知らなかった部品の設計を持ち帰った。「この共同研究グループには、このように、類似の仕事からの成果を活用する大きな可能性があるのです」と、地元主催者であり、CLICダンピングリングの専門家である、Yannis Papaphilippou氏は語る。「研究者グループが低エミッタンスビームを生成するという、共通の目標の下、結びついているのを見れたのは、喜ばしいことです。私たちは、10の新たなタスク・グループからの成果を心待ちにしています」
ビーム中の粒子には反発力が働き、また、磁石の位置設定は完璧にはできないため、粒子ビームは四方八方に拡散するという困った傾向にある。ダンピングリングは、放射光によってエネルギーを放出させることでビームを『冷却』し、エネルギーとサイズの両方に関してビーム中の粒子の特性を揃える働きをするものである。加速器ごとに設計パラメータは異なるが、ビームエミッタンス(これが小さければ、ビーム中の粒子がよく揃っていることになる)の目標値はとても小さく(CLICでは垂直方向で0.8ピコメートル)―ワークショップで紹介されたエミッタンス最小記録は、英国放射光源ダイアモンドとPSIにあるスイスの放射光源の約2-3ピコメートル。オーストラリアの放射光源の加速器関係者は、さらにそれより低いエミッタンスを達成済みであると考えている。
低エミッタンスを達成するのによく使われる方法は、いわゆるウィグラーをビームラインに設置することである。交互の極性をもつ短い偏向磁石を配列することで、荷電粒子の進路を小刻みに動かし、放射光の形でエネルギーを放出させるのである。放射光源は、これにより、実験する試料に向けて非常に強い(または非常に明るい)光のビームを放出する。ダンピングリングでは、ウィグラーを使ってビームを「冷却」し、リニアコライダーの主線形加速器に渡す。ウィグラーは、ただし、えてして扱いが難しいものである。狙った波長の光を発生したり、目標とするダンピング効果を得るために、超伝導磁石にしなければならないことがあるからだ。英国の放射光源ダイアモンドは、ロシアのブトカ研究所が製作した超伝導ウィグラーが使われているが、これはリニアコライダーでのダンピングリングにも適用可能な技術であることが示されている。別種の超伝導線を使った新技術は、現在、CERNで試験されている。また、コーネルのCESR-TAでは、スーパーフェリックウィグラーが超低横エミッタンスへのビーム・ダンプのために使われている。「私たちはこれらのウィグラーの技術的チャレンジについて沢山学びました。この経験はきっと将来、生かされることになるでしょう」と、Papaphilippou氏は語る。(訳注:超伝導磁石ではコイルに超伝導線を使うが、このコイルと鉄芯を併用するものをスーパーフェリック超伝導磁石と呼ぶ)
(加速器科学を通して)光子科学と素粒子物理学という2つの分野がお互いに協力しあう、もう一つの例に、ILCダンピングリングの、「ラティス」、または、磁石設計及び配列がある。SB2009文書で提案されているように、ILCダンピングリングの周長を6.4から3.2キロメートルまで縮小するならば、ILCダンピングリングラティスはこれまでとは非常に異なったものになる。研究者グループはこれに対応するために、もともとはフラスカティにあるイタリア国立核物理学研究所(INFN)のSuperBリングのために設計されたラティスの改良を応用した。CLICの研究者は、CLICのダンピングリングのための新しい配置について検討中である。また、放射光源の分野では、これまで大きな問題でなかったビーム内散乱と呼ばれる効果が要注意であることが指摘されている。幸い、この効果に取り組んできたダンピングリング関係のシミュレーションによって、対処法に関する知見は増大しつつある。来年、別のタスク・グループに関し、引き続きワークショップを開催する予定だ。組織委員会は、共通の設計上の問題や課題に関して、全ての参加者から(また、参加できなかった人々から)の御意見を歓迎しています。電子メールはyannis@cern.chまで。
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■特集記事
S1グローバル、KEKで順調にスタート
(Successful beginning of S1 global at KEK)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)の超伝導RF試験施設(STF)で4台の超伝導加速空洞の接続作業(ストリング組立て)が成功裏に終了した。1月14-22日のあいだ、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)と米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)の技術スタッフからなる空洞組立チームがKEKを訪れ、STFのクリーンルームで空洞ストリング組立て作業を行った。ILCの実現に向けた重要なシステム試験である、S1グローバルは、素晴らしいスタートをきった。
S1グローバルは、ILCの設計加速勾配である、1メートルにつき31.5メガボルト(MV/m)の平均加速勾配で4台の空洞がそれぞれ収納されたクライオモジュールを2台つなぎ、その運転実証を行うことを目標としている。一台のクライオモジュールには4台の加工された空洞がつなぎ合わされたものが内包される。空洞としては、欧州(DESY)から2台、米州(Fermilabとトーマス・ジェファーソン国立加速器研究所)から2台、アジア(KEK)から4台、と世界中から集められたものが使われる。
「作業はとても順調にすすみました。作業には7、8日かかることを予定していましたが、見積もりよりも早く、5日で終わらせることができました」と、チームリーダーである、FermilabのTug Arkan氏は語った。このチームは、2007年にすでに共同作業を行っていた実績がある。DESYがFermilabに「クライオモジュール・キット」を送った時に、米国初の1.3GHzクライオモジュール(CM1)の組み立て作業を行ったのである。その時、モジュール組立ての全プロセスを通して、DESYの技術スタッフが、Fermilabスタッフを指導したのだ。「気心がよく知れていましたし、どうやって作業するかも分かっていました。その経験は非常に役に立ちましたね」と、Arkan氏は語る。組立て作業を成功に導いたもう一つの重要な要素は「コミュニケーション」であった。
「実作業に向けて、事前に数多くのミーティングを行いました。KEKの作業環境は、FermilabやDESYとは全く違うことが分かっていたからです」と、この組立て作業の調整を担当した、KEKの加古永治氏は語った。昨年9月、加古氏は、野口修一氏と共にFermilabを、大内徳人氏と共にDESYを訪ねた。彼らは、組立チームがKEKに来る前に、準備すべきものを押さえるために集中的な議論を行ってきた。Fermilab訪問後には、WebEX会議が何回も行われた。「彼らが日本で働くことを念頭に、例えば、どんなことが起きる可能性があるか、どんなものが不足するか、といったことを考え、慎重に準備を行いました。これが、今回の成功の大きな要因ですね」(加古氏)。この点について、Arkan氏も加古氏に同意している。「FermilabとDESYで最初のミーティングが行われている最中に、必要となるツールや冶具の準備をKEKにお願いしました。私たちが要求したものは、全て揃っていました」。作業開始前に、4台の加工された空洞は柱取付け具の上にセットされ、空洞の外面はKEKチームによって磨きあげられていた。1月15日に、チームはISOクラス6(またはクラス1000)のクリーンルームで組立て作業を開始した。そのクラスのクリーンルームでは、1立方メートルの空気中に浮遊する0.5ミクロン以上の粒子数はわずか35200(以下)である。KEKのクリーンルームは、FermilabとDESYのクリーンルームと比較するとかなり小さいので、「いつもと違うクリーンルームで働くということは、だいぶ勝手が違いました」と、Arkan氏は述べた。「難しい作業でしたが、十分な経験があるので成功させられたのだと思います」。
今回のKEKでの組立てに使われる空洞は、S1グローバルだけを念頭に作られたわけではない。また、各空洞の型の違いによる性能の確認を目的にしているということもあり、空洞の長さはそれぞれ違っている。それらの長さの異なる空洞をつなぎ合わせるために、長さの異なる「ベローズ」と呼ばれる接続部品が使われた。仕切弁を仮り組みした後、DESYから来たZ109とZ108と呼ばれる2台の空洞が、ベローズでつながれた。つながれたそれら2台の空洞セットに、長めのベローズを使って米国製のACC011空洞を連結。もう一台の米国製のAES004空洞も同じように連結された。組み立てられた空洞は、継ぎ手パイプを使って仕切弁と接続され、4空洞の組み立てが完了した。その後、無事真空漏れ試験にパスし、クライオモジュールCの空洞接続「ミッション完了」と相成った。国際共同設計チーム(GDE)のプロジェクト・マネジャーの一人である、山本明氏は、DESY-Fermilabチームの送別会席上のことばとして、「見事な作業、見事なチームワークで、本当にすばらしいコラボレーションでした。将来的に、ILCの実現はまちがいない、との確信を強めました」と語った。
「しかし、この成功は単なるはじまりに過ぎません」と、大内氏は語る。大内氏は、引続き、これら4台の空洞の冷却試験装置への組込み作業を担当する。「クライオモジュールを冷却するまでは、本当の成功かどうかは分かりません」2月には、INFNから3名と、Fermilabからの1名のエンジニアが、クライオモジュールC内部の組立を行うためにKEKを訪れる。さらに、KEKチームは、2月にクライオモジュールA用の4台の日本製空洞連結のために、クリーンルームでの作業を開始する予定である。システムテストは、2010年中頃に始まる予定だ。
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■ディレクターズ・コーナー
S1グローバル、始動
(S1 global started moving)
今号のディレクターズ・コーナーはGDEアジア地域ディレクター、横谷馨氏の担当である。
GDEの超伝導加速システムのR&D計画は、S0-S1-S2という「コードネーム」がつけられている。S0は高い加速勾配をもった空洞を開発するプログラムである。これが基本的要素であるが、これだけで加速が出来るわけではない。マイクロ波をいれるためのカプラーと呼ばれる装置、周波数を正確にコントロールするためのチューナーなどを組合せ、これらを入れて液体ヘリウムで冷却するための真空容器(vessel)、全体を収納するクライオスタット、マイクロ波を発生・供給するための装置などをセットとして開発する必要がある。このプログラムをS1と呼ぶ。最後に、ビームを含めて加速ユニットとするのがS2である。
写真は、作業中のスタッフ。手前の白の作業衣の3人がFermilab、青の2人はDESY、奥の一人はKEK。KEK-STF棟のクリーンルームにて。手前の「Z」と名前のついている2台がDESYからの空洞。(写真:峠暢一氏) |
こうした考えのもとで、2年余り以前に、GDEではアジア・アメリカ・ヨーロッパの各地域から持ち寄った加速空洞をあわせて加速モジュールを作る計画が進んでいる。Fermilabで用意した空洞2台、DESYからの2台、KEKの4台をセットにして、KEKで組上げる計画で、これをS1グローバルと呼んでいる。実際、これらの空洞システムでは、空洞本体の形状の違いはわずかであるが、カプラー・チューナーなどは大きく異なっている。おそらく、ILCでの最終的な設計規格の拡がりよりも大きいであろう。運転加速勾配に関しては、昨年9月のDESYの施設FLASHで電子ビームまで含めた試験でほぼ目標値に達している。これはS1のみならずS2への大きなステップであった。
昨年12月末に、INFNからのクライオスタット、Fermilab、 DESYからの2台ずつの空洞がKEKに到着し、組上げ作業が始まった。物が届いただけでは組立てはできない。1月13-14日には、Fermilab・DESYから5人のたのもしいスタッフも到着した。これに先だって、作業に必要な器具類も(作業衣まで)届いた。かれらは、1週間あまりの滞在期間の間に、KEKのスタッフと共同で、まずFermilab・DESYの4台の空洞の連結作業を完了した。この注意を要する複雑な作業をしてくれた5人のスタッフ、その機会をつくっていただいたFermilab・DESYの担当者のみなさまに感謝したい。加速勾配の達成、プラグ・コンパチビリティの実証といった技術的目標だけでなく、ことなるラボの研究者の共同作業という点でも意義のあるものと言えよう。作業中のスナップ写真はhttp://ilc.kek.jp/photos/20100112Di/からのウェブページに集められている。
このような共同作業はこれからも年内いっぱい頻繁におこなわれるだろう。S1グローバルは、本年6月までには組上げを完了し、12月末まで運転が行われる予定である。
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ディレクターズ・コーナー・バックナンバー■ブログライン
26 January - Frank SimonNo better time…
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
ILD Workshop 2010
Paris, France
27-30 January 2010
International Linear Collider
Workshop 2010 (LCWS10 and ILC10)
Institute of High Energy Physics,
Beijing, China
26-30 March 2010
今後のスクール
The US Particle Accelerator
School
sponsored by the UC Santa Cruz
Santa Cruz, CA, USA
18-29
January 2010
■ニュース記事より
26 January 2010
arXivへの予算拡充
現在、ランニングコストが「一研究機関だけではまかなえないほど高くなっている」ため、コーネル大学の司書は好評のプレプリントサーバの運用に外部サポートを得ることを希望している。
25 January 2010
巨大コライダー時代の物理学者の夢と悩み
週末、数十人の研究者が、ロス・アンゼルスに集まり、宇宙に関する突飛なアイディアや夢について話し合った。
■アナウンス
◇北京会議への参加登録
北京で開催される会議に向けた全ての登録手続きにお遅れなきよう、お願いします―詳細はこのNewsLineの記事をご覧下さい。
◇arXiv preprints
1001.4714
Normal tau polarisation as a sensitive probe of
CP violation in chargino decay
1001.4467
Electroweak corrections to hadronic event shapes

























