ILC NewsLine 2010年3月25日号 [英文記事]
■特集記事
サミットと氷山の一角
ASEPSサミット、研究の展望を変えるか
(A summit and the tip of the iceberg
ASEPS summit in
Tsukuba might change the research landscape)
北京のGDE会議と並行して、もうひとつの会議が開催中である。昨年のTILC会議の会場として知られている、つくば国際会議場(つくば市)でおこなわれているこの会議は、ヨーロッパとアジアの今後の物理学研究に新たな方向性を与える可能性をもつものである。このアジア・ヨーロッパ物理学サミット(ASEPS)は、ナノテクノロジーやエネルギーから医学研究や加速器開発まで、物理学研究の全領域をカバーするが、それだけにとどまらず、アジア・ヨーロッパ間の共同研究の歴史を振り返り、それらの過去から得た教訓を、ILCのような次世代プロジェクトの計画に活かそうというものだ。ASEPSはテレビ会議で参加することが可能だ。操作方法は下記に示している。
![]() つくば国際会議場に集まったASEPSの参加者。画像提供:日本物理学会 |
![]() サミット初日、ASEPS声明に署名したAAPPS会長、Jie Zhang氏とEPS会長、Maciej Kolwas氏。画像提供:日本物理学会 |
この会議の主催は、フランスのフランス国立科学研究センター(Centre National de la Recherche Scientifique) と(独)日本学術振興会(JSPS)で、ヨーロッパ物理学会(EPS)とアジア太平洋物理学会連合(AAPPS)が後援している。主催者はヨーロッパ・アジア各国が、様々な領域で研究課題を共有する新たな一ページを開くことを期待している。特に、大規模インフラストラクチャーは、重点課題である。
会議初日の3月24日、AAPPS会長のJie Zhang氏とEPS会長のMaciej Kolwas氏が、ASEPS声明に署名した。この声明は、既存の協調関係を強化するとともに、アジアとヨーロッパ間で物理学研究の新たな計画を策定し、全世界レベルでバランスのとれた協調関係を構築することの重要性を確認するものだ。
ILCグループではよく知られているし、これまで実践されてきたように、将来の大規模プロジェクトは、どんなものであれ国際的な取り組みを必要とする。そうしたプロジェクトの実現のためには世界の全領域は協力しなければならない。そうしたなか、欧米間、米亜間における緊密な連携はおこなわれてきたが、ヨーロッパ・アジアの連携には改善の余地がある。ASEPSは、これに取り組む最初の会合だ。本会議の目的は、今後15~20年間の、ヨーロッパ・アジアの物理学共同研究を強化する枠組みを立ち上げることである。「この会議は、物理分野での共同研究のひな形であるとともに、次世代の研究の進め方について政治的な検討を加える、というユニークな場でもあるのです」と、主催者は言う。
ASEPSには、中央省庁、監督官庁、研究所、産業界のリーダー、そして、もちろん大規模プロジェクトを推進する研究者など、200人以上が参加している。個々のセッションのトピックスと基調講演の内容は、ウェブサイトに掲示されている。このサミットは、また、基礎研究への開発途上国からの参入を促進することも目指している。ポスターセッションには、ヨーロッパ-アジア関係が拡大することで恩恵をこうむることが期待されるプロジェクトからの多数のポスターが展示されており、これにより、招待された政策決定者が、ASEPSの取り組みに賛同するきっかけとなるかもしれない。今回の取り組みが軌道に乗れば、生物学や化学等、他の領域にまで、この構想を拡大することを、主催者は期待している。
テレビ会議を使ってASEPSサミットを傍聴することができます。説明はこちらから。
[英文記事]
■世界の各地より
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3月の末から4月初旬は、日本が最も華やぐ季節のひとつである。日本中の桜が10日間ほど咲き誇り、人々は花見に興じる。日本では学校や会社の年度始めが4月なので、桜の花はお別れと歓迎のシンボルでもある。3月23日、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の超伝導RF専門家の一人、野口修一氏が「研究生活を振り返って―超伝導空洞との関わり」というタイトルでの退職講義を行った。
1982年のKEKへの着任以来、野口氏は30年間にわたり、超伝導R&Dにたずさわった。「私の研究生活は、ほとんど加速空洞につきる、と言えます」と、野口氏。DAW(ディスク・ワッシャー・タイプ)空洞の開発から始まり、続いてTRISTAN加速器用の超伝導高周波(RF)空洞開発にかかわった。TRISTANは当時の最高エネルギーの電子-陽電子コライダー。1987年から1995年まで運転された。
TRISTAN計画の後、野口氏は高勾配のR&Dに本格的に取り組んだ。「プロジェクトではなく、R&Dだけに取り組んでいたので、ちょっと後ろめたいような気もしていました」と、野口氏。しかし、野口氏のチームは、単セル空洞で1メートルにつき40メガボルト以上の高勾配を記録するなど多くの素晴らしい成果を上げてきた。その後野口氏は、大強度陽子加速器施設(J-PARC:世界最強のビームパワーをもつ日本の陽子加速器施設)の空洞プログラムに従事した。「ご存知の通り、2005年にILCの加速技術として、超伝導RF空洞が選択され、私はILCプロジェクトに参加することになったわけです」
「KEKの超伝導RF空洞の研究開発において、心から野口さんの強いリーダーシップと助言に感謝したいと思います。私がILCのプロジェクトマネジャーとして仕事を始めたとき、野口さんは親切に個人的な助言をしてくれました。その助言は、重大な決定が求められた時にはいつでも、私が参考にするものとなりました。私は、彼のずばぬけた知識と経験から学ぶ機会がもっとあれば良かったのですが、残念でなりません」と、山本明氏(GDEプロジェクト・マネジャーの一人)は言う。
KEKでの彼の長年の努力の結晶が、これから、KEKの超伝導試験設備(STF)でのテストに役立てられる。「私は長い間、実際のプロジェクトから遠ざかっていたので、私が開発に従事した空洞に久しぶりにビームが通るのを見るのは、感慨深いものがあります」と、笑いながら彼は言う。
「KEKでは楽しく働くことができ、また今までのみなさんのご支援に感謝したいと思います。最後の言葉として、3つの重要なものを示したいと思います。それは、『チームワーク』、『コミュニケーション』、『リスク管理』です」と、野口氏は語った。「組織が大きくなるにつれて、コミュニケーションを十分にとることが難しくなったと思います。コミュニケーションをうまくとることを心がけるべきです」と、野口氏は講義を締めくくった。
「ILC空洞のために野口さんがしてきた仕事に感謝します。2004年にKEKでILCのR&Dの目標を決定したとき、彼の計画は保守的すぎると思いましたが、後の研究で彼の判断が正しかったと分かりました。現在のKEKの空洞技術のレベルは、彼の努力なしでは達成できませんでした」と、横谷馨氏(GDEアジア地域ディレクター)は述べた。「言うまでもないことですが、我々には、あと数年は野口さんにはKEKに留まって頂いて助けてもらわなければななりません。定年後の穏やかな生活を邪魔することになりますが」と、横谷氏は笑いながら付けくわえた。
[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
北京訪問:万里の長城と窓のない会議室
(Here's to Beijing, the Great Wall, and windowless seminar rooms)
今号のディレクターズ・コーナーは、国際共同設計チーム(GDE)プロジェクトマネージャー、Nick Walker氏の担当である。
今号のILC NewsLineが公開される頃、私たちのほとんどは(物理測定器研究者グループのワークショップLCWS2010と共同開催)ILC2010会議のスタートにそなえ、既に北京に滞在しているだろう。実際、私もこの原稿を書きながら、旅支度をしている。世界を旅するのは、大部分のGDEの幹部メンバーにとって『仕事の一部』である(そして、信じられないかもしれないが、私は他のメンバーよりは旅行回数が少ないのだ!)。そういう話を耳にすると、沢山の人はこれはなかなか結構な商売だと思うかもしれない。が、実態は、何十時間も飛行機の座席に座って、何日間も(それも窓もないような)会議室に座って、それからまた帰りの飛行機に乗るだけだ、聞けば、すぐに落胆すると思う。
物理学者は、そういう、多少変な人種だ、とも言える。
だが今回は、なんとしても万里の長城を訪れたいと思っている。北京にはこれまで二回来ている(窓のない会議室へ!)のに、まだ万里の長城を見ていないからだ。時差のおかげで、丸1日早く到着することで、ついに到来した観光のチャンス!もちろんワークショップ初日に予定されたプレゼンの準備を終えられたら、ではあるが。
万里の長城は、人類史のなかで最も長期にわたっておこなわれた土木プロジェクトのひとつであろう。建設は、紀元前7世紀に始まり、数千年もの間、様々な建設ステージを経てきた。現在『万里の長城』と称されるのは、明王朝により1368-1644年に建設され、全長6,000キロメートルを超える部分である。しかし、全ての『壁』を含めると、全長は50,000キロメートルをゆうに上回る。私は、現代の建設プロジェクトのうち、そのような遺産を数百年も先の子孫に残せるものが一体いくつあるだろう、と思わざるわざるを得ない。
もちろん、、ILCがそうした次世代遺産の一つなれば良い、というのは私たち皆の望みではある。全長わずか30キロメートルのILCでは、万里の長城と物理的に比較にはならないし、ILCはそのほとんどが地下にある。万里の長城のように、ILCは数世紀にわたって使われるものでもない(同様、建設に数世紀もかからないことが期待されるが!)。とはいえ、万里の長城の建設は、数千年前には当時の最高技術を集めたものであった。同様に、ILCも私たちの最高水準の技術の立派な手本となるだろう。そして、もちろん、本当の遺産というのは、ILCなどが生み出す素晴らしい物理と知識ではかられるものである。
万里の長城は、人々を分離するために造られた。特に、中国帝国をモンゴルなどの侵入者から守るために、である。だが、基礎科学は、障壁を取り払うものである。ILCは、国際的なプロジェクトとして、世界中の何千人もの物理学者の夢である。彼らの多くはワークショップのために北京に集まり、その夢を実現するために、加速器、測定器の両研究コミュニティで達成されている素晴らしい技術進歩について議論する。
物理学者 ― 私を含めて ― が何日もの間、そうした窓のない会議室で話し合いを続けるのは、とどのつまり夢を実現するためである。私はようやく、万里の長城を見る窓(チャンス)に恵まれた。次世代の遺産計画に戻る前に、是非この機会を活かしたいと思う。
[英文記事]
ディレクターズ・コーナー・バックナンバー■ブログライン
24 March - Frank Simon
Teachers and
Black Holes
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
International Linear Collider
Workshop 2010 (LCWS10 and ILC10)
Institute of High Energy Physics,
Beijing, China
26-30 March 2010
XIV
International Conference On Calorimetry In High Energy Physics
(CALOR2010)
IHEP, Beijing, China
10-14 May 2010
The 1st
International Particle Accelerator Conference (IPAC'10)
Kyoto,
Japan
23-28 May 2010
■ニュース記事
From CERN
23 March 2010
CERN、LHCでの7TeV衝突の開始日を決定
「CERNは、粒子加速器で現在到達可能な最高エネルギーである3.5TeVで、LHCのビームを周回する日を決定した」
From Scienceline
20 March 2010
地上最強の加速器-LHCの後には何が来るか?
「…計画にすでに数年もかけたきたが、科学者はこれらの加速器が始まるまでに、さらにあと十年待たなければならないかもしれない。現在構想されているレプトン・コライダー設計は二つある:ILCとコンパクトリニアコライダー(CLIC)...」
[英文記事]
From CERN
19 March 2010
LHC、新記録 ― 3.5TeVまでビーム加速 ―
今朝5:20ちょうどに、LHC は2つの3.5TeV陽子ビームを初めて周回することに成功した。
[英文記事]
From Science
17 March 2010
日本、ビッグサイエンス計画を立てる
「日本の科学者は初めて、ここおよそ10年間程度の主要な研究計画のロードマップを作成し、 実現が望まれる大規模施設のリストを作成した。」
■アナウンス
◇arXiv preprints
1003.4312
Quantum effects on Higgs-strahlung events at
Linear Colliders within the general 2HDM
1003.4186
Dark
Matter, Proton Decay and Other Phenomenological Constraints in F-SU(5)
1003.3819
Gravitino Dark Matter and the ILC















ムンバイFALCミーティングの議長をつとめた、カナダのNRCのWalter Davidson氏
FALCで挨拶するMichel Spiro氏(CERN理事会理事長、フランス国立科学研究センター/IN2P3所長)















