ILC NewsLine 2010年5月20日号 [英文記事]
■リサーチ・ディレクター・レポート
AIDAトランペット
(AIDA trumpets)
今月のリサーチ・ディレクター・レポートは、リニアコライダー物理・測定器国際研究組織の共同議長であり、欧州地域測定器コンタクトパーソンをつとめるFranc,ois Richard氏の執筆による。
AIDA(アイーダ:Advanced European Infrastructures for Detectors at Accelerators)は、素粒子物理学の測定器R&Dを支援する研究基盤事業として最近欧州連合より承認をうけた計画の略称である。ヴェルディの有名なオペラからアイデアを得たこの呼び名は、この意欲的なオペラ、あらためオペレーションで役割を演ずる研究者の多様さの反映でもあろう。
この提案の序文には次のように書かれている。:欧州は、素粒子物理学における傑出した地位の維持につとめるべきである。ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機関(CERN)で、2009年11月に初の衝突を記録した大型ハドロンコライダー(LHC)は、世界の素粒子物理学の主力プロジェクトである。CERN理事会が採択した欧州素粒子物理学戦略は、以下の次世代プロジェクトを重点計画としている:LHCアップグレード(sLHC)、リニアコライダー(ILC/CLIC)、加速器駆動のニュートリノ施設とB物理施設(スーパーB)。これらのプロジェクトは、素粒子物理学における最大の懸案事項に対応することを目標としている。
欧州自身の戦略方針はそれとして、この序文から読み取れるのは、私たちの要望にたいしてEUは様々な研究契約を通して対応しようとしている、ということである:AIDAの承認は、従来の成功体験を将来につなげるための新たな重要な礎となることが期待される。ILC関連の研究者が開拓推進してきた、従来のEU枠組み計画(FP6)を引き継ぐものとして、FP6の期間満了前にEUDETが承認されているが、AIDA承認はこれに続くものである。CAREとEUROTEVという加速器関連の計画承認が行われた直後のEUDET承認は、予想外ともとられたが、EUDETはLHC、ニュートリノ、スーパーBなど、大きな研究者グループをを引きつけてきたプログラムである。EUDET後継の提案としてまず提出されたDevdetは、残念ながら承認されなかったが、このたびのAIDA提案は、審査員から優秀との評価を受けることができた。AIDAは、47以上の提案中第二位、15点満点のところ14.5点という高得点をおさめて予算を受け、EUとの調整段階へと入ったところである。
多方面の研究に携わる他の研究者との共有となるため、4年で800万ユーロというEUからの予算は、リニアコライダー測定器R&Dそのものへのインパクトとしては中程度にとどまる。しかし、研究機関での総額2000万ユーロにおよぶ物件費支出に見合う人件費をまかなう上では、大変に貴重なものである。また、この予算によって、飛跡検出用にSi3Dと呼ばれる新技術を開発しようとしているLHCグループとの共同研究開発が促進される、という要素もある。ILC NewsLine(2009年12月3日号と2010年5月13日号)の最近の2つの記事ですでに取り上げられたたこの提案についてここで詳しく述べるのは避けたいが、このプロジェクトには、9つのワークパッケージがあり、そこに20の欧州諸国が関わっている点は強調したい。リニアコライダー活動でよく知られている2つのワークパッケージのコーディネータの名前もまた、目を引く:
- WP2ソフトウェアツールの開発:Frank Gaede氏(ドイツ電子シンクロトロン研究所:DESY)、Pere Mato氏(CERN)
-WP9測定器R&Dのための先端基盤:Henri Videau氏(LLR)、Marcel Vos氏(IFIC)
‐ガスタイプの測定器施設
-精密ピクセル施設
- シリコン素子による飛跡検出
- 高い空間分解能を有するカロリメータの研究基盤
同じく、私たちのR&Dと密接に関係するのは、マイクロエレクトロニクスと相互接続技術を扱うワークパッケージ3である。CERNとDESYでのテストビームの利用については、「DESYとCERNへの国境を越えたアクセス」と呼ばれるワークパッケージ5と6がカバーしている。
ワークパッケージ4で、ILCとCLICの双方で重要となる「産業界との関係」という、新しい課題が取り上げられている点は、審査員に特に好評であった。引用してみる。「研究開発の初期から産業界との連携を考えるワークパッケージが導入されていることは歓迎される。こうした作業のさらなる強化にむけた模索が求められる。このワークパッケージは、先端的産業界との連携を深めるうえで理想的な窓口を提供し、顕著な社会経済的効果をもたらすであろう」この産業連携の試みは、ILDとSiDの二つのILC測定器でより現実的なコスト検討を行ううえで大きな力になることであろう。
[英文記事]
リサーチ・ディレクター・コーナー・バックナンバー■世界の各地より
科学者の説明責任~大型計画のマスタープラン発表~
(Japanese scientist community indentified ILC in their "Master Plan")
3 月17日、日本学術会議は提言「学術の大型施設計画・大規模研究計画- 企画・推進策の在り方とマスタープラン策定について-」を発表した。この「マスタープラン」には、KEKB 加速器の高度化や、心のしくみを解明する先端研究拠点の構築など、建設費100 億円以上、運営費数十億円以上の大型研究計画285 件の中から43 件が選定された。その中にILC 計画も含まれている。昨年3 月から、大学や研究機関を対象に調査とヒアリングを重ね、科学的、社会的に重要と認められた計画を選抜したもので、「人文・社会科学」、「生命科学」、「エネルギー・環境・地球科学」、「物質・分析科学」、「物理・工学」、「宇宙空間科学」、「情報インフラストラクチャ」の7分野に分類されている。高エネルギー加速器研究機構(KEK)が関わる研究計画は、「生命科学」分野で1 件、「物質・分析科学」分野で2 件、「物理・工学」分野で6 件が選択された。
KEK が関わるプロジェクトが43 件中9 件選ばれたことについて、「それだけお金がかかるプロジェクトが多いということでしょう(笑)。とはいえ、それが大学共同利用機関法人の役割ですから、当然のことといえば当然です」と語るのは、相原博昭東京大学大学院理学系研究科教授。今回の作業で、素粒子・原子核分科会委員長として、科学者コミュニティの意見をまとめる役割を担った。KEK を含む「大学共同利用機関法人」のミッションは、個々の大学のみでは扱うことができない大きなプロジェクトを、その分野の中核機関として推進していくことだ。つまり、予算を個々の大学に分散してつけるのではなく、それを大学共同利用機関法人にまとめて付けることで、予算と人材の効率化を目指しているという訳だ。「われわれのような大学の共同利用者にとっては、KEKには、どんどんがんばっていただきたいところで、多くのプロジェクトが選ばれることは歓迎すべきことです」と相原氏。とはいうものの、今回のマスタープランに予算の裏付けがあるわけではない。
相原氏は、「ここに載ったからといって予算が付くわけではありません。でも逆に、ここに載っていない計画が予算化されることは非常に難しい、と言うことはできます」と語る。「このようなマスタープランの作成は、欧米では定期的に行われているのですが、日本では、今回が初めての試みとなります」という。「大型施設計画」は、基礎科学分野を中心に科学者コミュニティが立案する、加速器や大型望遠鏡のような「ボトムアップ型計画」と、国際宇宙ステーション計画などの、国策的視点から推進される、より予算規模が大きく、技術開発や応用側面が強調される「トップダウン型計画」がある。どのような経緯で実施されることになったにしろ、大きな予算を要するものであれば、科学的根拠にもとづいた透明性の高い評価、選定プロセスを経て選択されることはもちろんのこと、国民や社会の理解が得られるように「どうしてそのプロジェクトが必要なのか」ということが十分に説明される必要があるだろう。
KEK の関連するプロジェクトは総じて「ボトムアップ型計画」に属する。これらのプロジェクトについては、科学者コミュニティにおける議論のもと、透明性が高いプロセスを通して実施プログラムが選択されてきた。「今回の作業でわかったことは、加速器科学の分野は“優等生”だということです」と相原氏。実施されるプロジェクトが、その意義、所用経費、スケジュール、期待される成果などについて国際的な専門家チームによってレビューされ、科学者コミュニティの理解を得たうえで実施されるという文化がすでに根付いていたため、ヒアリングの際に非常に役立ったというのである。このように、研究者の間では、プロジェクトの情報展開が十分に行われている「ボトムアップ型計画」だが、国民や社会の理解を得るための十分な説明が行われてきたとは言い難い。今回のマスタープランの作成は、科学者コミュニティが「説明責任」を全うしようとする活動の第一歩であると言えよう。
先端研究が行われる大型施設は、今や、一国で担うことが困難な規模になっている。そのため、加速器や宇宙科学、天文学などの分野では、国際協力で推進されることが通例となりつつある。特に、南米チリで建設中の大型望遠鏡「ALMA」プロジェクトでは、日米欧による、世界で初めてといえる、対等・平等な国際組織による、共同建設、共同運営が進められている。このような背景をふまえて「マスタープラン」は、大型計画を策定、推進するための省庁を超えた枠組み構築に向けた強い決意で締めくくられている。「ILCが良い例なのですが、これからの大型プロジェクトは、担当する省庁ひとつでは扱いきれなくなるでしょう。枠組み構築は必須の課題です」(相原氏)。
「大型計画」は、新たな科学と技術の限界への挑戦だ。そこで行われる先端研究は、科学のフロンティアを切り拓き、新たな知を創造する。さらには、技術革新や産業創出にもつながって国力の底上げや、日本の国際競争力強化にも役立つ。しかし、これらの言葉は、納得のできる説明なしには、厳しい経済状況下の国民にとっては単なるお題目にしかならない。なぜ大切なのか?どうして最先端を目指すのか?国民が実感を持って納得できる科学者からの説明が求められている。マスタープランの作成は、そのスタート地点といえよう。
※【ILC通信】48号(2010年5月15日発行)の記事より。
[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
ILC R&D支援問題に直面する、国際リニアコライダー運営委員会
(International Linear Collider Steering Committee confronts ILC R&D support issues)
ILC国際共同設計チーム(GDE)の学術上の監督機関は、将来加速器国際委員会(ICFA)の小委員会である、国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)である。Jon Bagger氏が委員長をつとめるILCSCの最近の会合は、ICFA会合の前日、2010年2月25日に、ブルックヘブン国立研究所(BNL)で開催された。ILC のR&Dプログラムの多くは主要研究所を通して行われており、そうした研究所の所長の多くが参加する会合である、ということで、ILC加速器と測定器で優先度の高いR&D目標を達成するために必要な資源・予算についての実質的かつ率直なやりとりが行われた。
ILCSCは、ILC の研究・開発・設計の主要目標を策定し、そのために行われる実際の仕事について指針を示すとともに評価を行うところである。その目的に沿い、ブルックヘブン会議では私はとくにコストの押さえ込みを念頭においた今後のILC設計の展開計画について説明した。私はまた、リスク軽減のためのR&D状況について概観した。短期的には、最優先のマイルストーンは、1メータルあたり35メガボルトの加速勾配性能をもつ超伝導高周波空洞の制作が、歩留まり50%で実現できること示すことだ。この目標はいま、達成されつつあるところである。50%の実現が可能ならば、さらに制作・試験・補修などの方法の細部を詰めることで、数年後に実際の計画提案を行うころには、90%にも近づけるはず、というわけで、これは非常に有望な状況と言える。
ILC設計活動に関して言えば、私たちの主な注力点は、シングルトンネル構成を採用すること、電子リニアックの終わりにアンジュレーターベースの陽電子源を置くこと、ダンピングリングの周長をおよそ3.2kmまで短くし、混雑した中心領域を統合することなど、加速器ベースラインに一連の改訂を行うべくプロジェクトマネージャが提出した提案の検討を行うことである。ベースラインへのこれらの改訂による総コストの低減割合は、約13パーセント、およそ10億ドルに相当する。先週のディレクターズ・コーナーで述べたように、これらの節減は、他の領域でのコスト増大(材料費や超伝導高周波空洞を製造するためのコストのような)を補ううえできわめて重要、と私たちは考えている。ILCSCでの研究所所長との議論のなかで、とりわけ重要だったは、主要研究所からの技術的・エンジニアリング的な寄与がGDEの優先R&Dプログラムとどの程度マッチしているか、に関するものであった。これらのプログラムは、公式化されたワークパッケージではなく、非公式のプロセスで行われているのが実態であるが、これらの作業の進行状況はおおむね良好である。しかし、いくつか、研究所の優先事項とGDE目標の整合性が取れていない例も見られる。研究所の優先項目が変更された結果、マイルストーン実現の展望が下方修正を強いられている場合がある、ということである。とくに、研究機関による測定器関連のサポートについては不足するところがあり、測定器設計の進捗に制約を課しているところがある。
ILCSCでの議論からの重要な結論の一つは、プッシュプル・システムの設計具体化のために、研究所がさらにエンジニアリング・サポートを増強するということだ。プッシュプルを考える背景は、主線形加速器と測定器をつなぐ最終収束系のコストが、ILC測定器一台よりも高価、ということである。そこで、2つの測定器が同じビームラインを交互に占めることでビーム時間を分かち合うスキームを私たちは強く提唱したのである。コスト低減策としてこれは魅力的なものであり、基準設計報告(RDR)の時点では、計画自体が止まってしまうほどの技術的問題は無いはず、と考えたわけである。しかし、プッシュプル方式の実現上の問題をすべて解決する詳細な技術設計が完成しているわけではない。プッシュプル・システムのエンジニアリングとともに、ILC測定器開発上、どこにエンジニアリング上のリソースを集中すべきかの優先順位リスト作りも測定器グループの課題である。趣意書の段階を脱して、測定器システムの様々な問題にたいする現実解を確立し、またしっかりしたコスト評価を行うためには、技術・エンジニアリング上の人員が欠かせない。最優先項目にたいしては、各研究所からある程度のサポートが得られることが期待されている。
ILCSCでの他の重要話題としては、短時間の議論には留まったが、2012年以降の戦略立案の必要性が挙げられる。2012年の終わりまでに技術設計報告書(TDR)が発表されるとして、TDRが検討され、その内容が検証されて実際の建設プロジェクト提案に至るまでにはまだかなりの時間が必要と考えられる。さらに、建設承認、予算拠出での合意形成、サイト選定、計画の運営ガバナンスのことなど、一部を並行して進めるとしても相当の時間が必要となろう。ILCプロジェクトの建設決定のタイミングは、LHCからのデータによって、リニアコライダーへの科学的な動機づけや必要なビーム・エネルギーが、いつ、確かなものになるのか、にも依存する。この間にも、リスク低減のためのR&D、超伝導高周波システムのテスト、コアチームの維持などのための予算が必要だ。こうしたすべての不確定性のなか、2012年以降の有効な行動戦略を見出していく、という課題があるわけである。
全体として、ILCSCは私たちの進捗やTDRでの活動計画にたいして好意的である。引き続き、ILCSCの技術小委員会であるプロジェクト諮問委員会 (PAC) によるレビューが先週、スペインのバレンシアで行われた。PACからの報告書が手に入り次第、そのレビューからの勧告について報告することにしたい。
[英文記事]
ディレクターズ・コーナー・バックナンバー■ブログライン
13 May - Frank SimonCALICE at the Wall
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
Superconducting RF Cavity Technology and Industrialization
A satellite Workshop at IPAC'10
Kyoto, Japan
23 May
2010
The 1st
International Particle Accelerator Conference (IPAC'10)
Kyoto,
Japan
23-28 May 2010
Polarized Positron
for Linear Colliders Workshop (Posipol 2010)
KEK, Japan
31 May - 2
June 2010
SiD
Workshop at Argonne
Argonne National Laboratory, Argonne, IL, USA
3
June - 5 June 2010
今後のスクール
CERN Accelerator School (CAS 2010): Course on RF for Accelerators
Ebeltoft, Denmark
8-17 June 2010
■ニュース記事
From Public Service20 May 2010
物質世界の問題の核心に迫る。
米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)のテバトロン加速器の研究者による、宇宙の謎に関する新たな発表を受けて、ILCの欧州地域ディレクターであるBrian Foster氏が、次に期待されることについて語る。
From Fermilab
18 May 2010
Fermilab科学者が、顕著な物質反物質非対称の証拠を発見バタヴィア、イリノイ-米エネルギー省FermilabのDZero共同研究グループは、5月14日金曜日、ボトムクォークを含む素粒子で、現在の素粒子物理学の標準理論の予想を上回る物質・反物質の対象の破れを観測したと発表した。
From mainichi.jp
16 May 2010
ILC:「誘致効果は大」 奥州市で東大准教授講演 /岩手
| From The Daily Yomiuri 14 May 2010 東大などの研究グループ、最も遠い銀河クラスターを発見 From ABC.es From Europapress.es 4 May 2010 BEPCII SCCハイパワー入力カプラー、400kWRF持続波達成 BEPCⅡでのスペア超伝導空洞用に中国科学院高能物理研究所で開発された大電力入力カプラーが、高エネルギー加速器研究機構(KEK)でのエージング試験に成功した。DC運転にて400kWの大電力の通過試験に成功し、国際水準の性能を記録した。([英文記事] – [中国語記事]) |
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■アナウンス
ILC Report
2010-024
IDAG report : Beijing meetings (March 27-29 2010)
arXiv preprints
1005.2991
Asymmetries in e+e--> ffbar processes at ILC
and two models with local U(1)_{_{B-L}}
1005.2854
Inverse
Neutrino-less Double Beta Decay Revisited: Neutrinos, Higgs Triplets and a Muon
Collider
1005.2623
Developments in Readout for Silicon Microstrip
Sensors at a Linear Collider Detector
1005.1756
Top quark
anomalous couplings at the International Linear Collider
■今週のイメージ
DESY50周年
水曜日、DESYの50周年祝賀年が一日をかけて開催され、グランド・フィナーレで幕を閉じた。まもなくクライオモジュールの試験ホールとして利用される建物を会場として、世界から2000人以上の出席者が参列した。
[ドイツ語記事]



















