ILC NewsLine 2010年11月18日号[英文記事]
■リサーチ・ディレクター・レポート
ILCとKEKBの高度化
(ILC and Super KEKB)
今月のリサーチ・ディレクター・レポートは、リニアコライダー物理・測定器国際研究組織の共同議長であり、アジア地域測定器コンタクトパーソンの山本均氏の執筆である。
2008年、高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、その後5年間の日本における高エネルギー物理研究の優先順位を定めた、通称「KEKロードマップ」を策定した。KEKロードマップは、日本の高エネルギー物理学研究者グループ内で行われた真剣な議論の成果であり、国際的なレビュー委員会による、検討・承認も受けている。ピラミッドの最上位にILCを据え、その下に、大強度陽子加速器施設(J-PARC)、大型ハドロンコライダー(LHC)、KEKBの高度化(KEKB加速器の高度化プロジェクトで、3年間運転を停止して、40倍高いルミノシティ達成を目指す)を置いている。当時、すでに、欧州合同原子核研究機関(CERN)のLHCには、かなりの日本人が参加しており、J-PARCは、建設フェーズから運転フェーズへと移行していた。しかしながら、KEKBの高度化の将来はまだ不透明であったため、当時のKEKの最優先事項はKEKBの高度化の予算確保であった。そして、2010年6月、文部科学省は、『最先端研究基盤事業による補助の対象となる研究計画』の補助金から100億円を「KEKB加速器の高度化」に充当することを決定した。KEKBの高度化計画を完了するためには追加の資金が必要である。しかし、これはプロジェクト開始に絶対不可欠な許可が与えられたことを示すもので、ILCへの道が開かれたことになる。
KEKBのBelle実験は、これまでに1インバース・アトバーン以上のデータを蓄積した。これは、KEKBが約20億個のb-クォークから構成される粒子を生成したことを意味する。Belle実験は、PEP-II加速器(米SLAC国立加速器研究所)で行われたBaBar実験とともに、小林・益川両教授のノーベル賞受賞に決定的な貢献をした。KEKBの高度化は2014年に稼働開始予定であり、2020年までに50インバース・アトバーンのデータ蓄積を目指している。設計ピーク・ルミノシティ(8.1035cm-2s-1)は、イタリアのスーパーBファクトリーのためにフラスカーティ国立研究所で考案された「ナノ-ビーム方式」と呼ばれる方法で達成される。これは、リニアコライダー研究から生まれた超低エミッタンスを生成する技術に基づいている。KEKBの高度化の主な目標は、フレーバー領域での高感度測定を通して、標準模型を越えた物理学の兆候を探索することである。ILCが実際に建設されるとなると、多くの物理学者がKEKBの高度化からILCへと移るだろう。これは、およそ20人のBelle測定器メンバーがILCのために認証された2つの測定器趣意書に署名したという事実からも明らかである。実は、既に、かなりの人数の人々が(KEKBの高度化)KEKBとILC両方に関わっている。この理由の一つとして、日本の大学では多くの場合、実際のデータを使った物理結果を出さないと博士号を取得することができないことが挙げられる。つまり、ILCのためのシミュレーション解析や測定器R&Dは、博士号取得には十分とされないのだ。実際、私のところにいる、博士課程の学生4人は全員、修士課程でILC関連の研究に取り組んだ後、現在は、KEKBのデータを解析している。
(KEKBの高度化)KEKBとILCの間には、測定器開発においてかなりの相乗効果や共同研究が存在している。1つの典型的な例は、DEPFET共同研究グループ(チェコ共和国、ドイツ、ポーランド、スペインから12の機関)である。もともとのR&DはILCを目的としていたが、現在はBelleアップグレード(Belle測定器のKEKB高度化バージョン)のピクセル・バーテックス検出器となっている。ピクセルサイズ、読み出し速度、物質量軽減に関する要求は、KEKBの高度化に比べ、ILCの方が厳しい。しかし、Belleアップグレード向けの実際のDEPFETピクセル検出器の開発、製造、運転を行うことは、ILCの応用に向けた理想的な中間ステップとして見なすことができるのだ。DEPFETピクセル検出器は、Belleアップグレードの飛跡検出量の一番内側の2層を構成する。これは、4層の両面シリコンストリップ測定器(DSSD)によって囲まれる。BelleアップグレードDSSDに取り組んでいるグループとILCに重点を置いた、SiLC(リニアコライダーのためのシリコン飛跡検出器)共同研究グループの間では、緊密で自然な協力が行われている。別のよい例は、シリコン・フォトマルチプライヤ(SiPM)やマルチピクセル光子検出器(MPPC)である。これは、その小さなサイズ、低印加電圧、強磁場で機能する能力、低コストにより、光子検出分野で現在革命を起こしている、ガイガー-モード雪崩光子測定器の一種である。これは、Belleアップグレードの場合、ミュオン・システム向けのストリップシンチレータの読み出しセンサーとして、そして、ILCの場合は、カロリメータのための読み出しセンサーとして使われる。
ここまで書いてきたものは、KEKB高度化・ILC間の相乗効果や協力のほんの一例にすぎない。一般にILC測定器に要求される性能は、広範囲に渡りかつ非常に高いため、ILCのための測定器R&Dは、高エネルギー物理学分野全体における、測定器の水準を向上させることになる。この点は、一度ならず国際測定器諮問委員会により強調されてきた。それゆえに、ILC測定器R&Dと他のプロジェクト間の相乗効果と協力がごく自然に行われるのである。KEKBの高度化は、そのような例のひとつに過ぎないのだ。
[英文記事]
■特集記事
欠点のない空洞実現のためのJ-Labの手順
(Jefferson Lab's rules for achieving spotless cavities)
ご家庭ごとの台所ルールに従い、あなたは食器を洗う「正しいやりかた」を身に付けているだろう。食器を洗う水は、できるだけきれいにしておき、最初にコップ、次にナイフ・フォーク、それからお皿を洗う。一番汚れている器や深鍋やフライパンは、最後に残しておく。
米ジェファーソン研究所(J-Lab)の研究チームは、超伝導高周波空洞から欠陥や不純物を除去するための詳細な「やりかた」手順をつくった。この手順が、ILCで2010年の空洞性能ゴールを達成する上でのJ-Labの貢献である、というように彼らは考えている。
「現在、J-Labは加速器空洞製作で世界最高水準の仕事をしています」と、米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)の縦置き試験設備で仕事をしている、Camille Ginsburg氏は語る。
Rongli Geng氏が率いるJ-Labチームは、50%の割合(性能歩留まり)で、1メートルあたり35メガボルトの加速勾配を達成した。これは、ILC R&D計画にある2010年の目標をまさに満足するもので、この成果は11月4日のディレクターズ・コーナーでも紹介された。
彼らはまた最近、限られた統計サンプルではあるが、加速勾配で90%の性能歩留まり達成の結果を発表した。引き続き行われる試験結果でもこの成績が維持できれば、2012年目標の達成となるだろう。
研究者たちの見解によれば、この成功には、空洞内面からのゴミ除去、表面欠陥生成の防止、そして吸着ガス(超伝導特性を妨げる)の除去を図る、などの手順が寄与している。電解研磨のさいの電圧、温度、圧力、また真空ベーキングの時間などをいかに設定して清浄な空洞内表面を得るかの条件出しは、彼らの研究をもとに結実したものである。
「こうした条件の最適化の結果、性能歩留まりの改善だけでなく、加速勾配限界も更新することができました」と、Geng氏。「私たちのデータによれば、9セル空洞実機の実際的な加速勾配限界は、1メートルあたり40メガボルトであることが分かってきました」。性能歩留まりや加速勾配が高まるほど、リニアコライダーのコストを下げることができる。
手順の第一歩は、電解研磨と呼ばれる処理工程である。空洞の回転軸に沿ってアルミの金属棒を慎重に挿入し、横置きにした空洞内部の半分強を強酸で満たす。空洞と金属棒の間に直流電圧を印加すると、電気化学反応によって空洞内面が研磨され、ニオブ材にもともと存在したり製造工程で生成した空洞内表面のでこぼこが滑らかになるのである。電解研磨工程では、一回に20~120ミクロンの薄いニオブを除去する。
ニオブ製空洞にたいする電解研磨手法の適用は、もともとはSiemens社に依るものだが、Geng氏のチームはその手順の最適化を行った。手順の大切なところは、空洞内壁をエッチングするというより研磨するところである。研究者達は、空洞電解研磨での第一工程でざっくり研磨するときにはセル赤道部近くでの温度は30~35℃、第二工程で薄皮を剥がすように研磨するときには25~30℃が適正であること、また、金属棒と空洞の電圧は14.5ボルトが適正であることを見いだした。
この手順は、成功しているように見える。
「これこそが、1メートルにつき35メガボルトまで近づけた技術です」と、Ginsburg氏は述べた。
電解研磨の後に、空洞にはブラシ洗浄や拭き取り洗浄によって隅々まですべてを掃き出し、そして洗剤による洗浄工程が施され、さらに高圧超純水による洗浄などが行われる。これらを通して、あらゆる在来の、また、処理途中で混入するゴミ粒子が除去されるわけである。
ゴミや内表面のデコボコは空洞内でのビーム加速の妨げの要因であるが、問題はそれに留まらない。空洞内面のごく表層が超伝導でなくなってもビーム加速は妨げられる。電解研磨中に、空洞部材に水素ガスが取りこまれるが、これはニオブ材内部の電気伝導率を悪化させるため、除去する必要がある。600℃以上でのベーキングにより、水素を除去できるとの研究結果があり、たとえば、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)では800℃を標準的なベーキング温度としていたときもあった。
かつて、J-Labでは空洞を低温(600℃)で長時間(約10時間)、ベークすることとしていた。だが、これは時間かかるだけでなく、あとで共鳴周波数調整のために空洞チューニング(セル毎の長さを塑性変形させて調整する)をおこなう上で、ニオブ材に好ましくない機械的性質の変質をもたらすことも明らかになった。800℃ならば脱ガスはすぐに終わり、チューニング上の影響も最小に留めることができる。
「私たちは、ILC空洞表面処理向けには、これをJ-Labの標準的な熱処理とすることにしました」と、Geng氏。
J-Labチームは、電界研磨、洗浄、その結果としての空洞性能を綿密に関連づけた。空洞性能を睨みながら、あのときの圧力を上げ、このときの温度を下げ、といったフィードバックを繰り返して手順上の適正条件を追い込んでいった。一歩改善を重ねるたびに、最適手順が見えてくる。こうして、他のグループでも採用できるような有効で再現性ある手順を組み立ててきたのである。
彼らの研究は、産業界における関連する仕事や、コーネル大学、DESY、Fermilab、KEKの仕事も踏まえて築かれたものである。
「この仕事がいずれは産業界に取り込まれ、ILCの実現に寄与することを夢見ています。私たちの仕事は、まずその先例をつくることなのです」と、Geng氏は語った。「私たちの最終目標は、この知識が、姉妹研究所に限らず、産業界にも利用できるようにすることです」
[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
リニアコライダー加速器スクール
(Linear Collider Accelerator School)
先月、ジュネーブで開催されたILC/CLICの合同ワークショップ(IWLC10)の後、私はジュネーブ湖からVillars-sur-Ollonへと移動した。ここは、2010年10月25日から11月5日に行われた第5回リニアコライダー加速器スクールの場所であり、このスクールはILCとCLICが共同で後援する最初のものである。美しい山間地のここは、専門的な講義も、人間的な交流も多いにはかどる、絶好のスクール会場環境であった。私見だが、ILC国際共同設計チーム(GDE)で最も重要な成果物のひとつは、次世代の加速器科学者育成のために果たしている役割である。分野の指導的研究者がスクールの講師をつとめ、カリキュラムは学術的意義の高いものと今日的な最前線の研究課題の両方をカバーしている。Alex Chao氏とWeiren Chou氏による鮮やかなスクール運営とあいまって、このスクールは貴重な年中行事となっている。
ビラースヴィレッジは、ジュネーブから二時間のところにある、非常に美しい場所だ。ここからはローヌ渓谷、モンブラン、近所のスキー場を見渡すことができる。毎日6時間の講義の後、夜には宿題を巡って学生との質疑応答セッションが設けられた。大切なのは、これらが皆楽しめた、ということで、学生にも先生にも大きな刺激を与えあう環境だった、というところである。スクールへの入学競争は熾烈で、世界中から優秀でやる気のある学生が集まった。
今年のスクールの主催には、CERNが手厚いサポートをもって当たった。CERNのHermann Schmickler氏は、ローカル委員会の委員長として、細かな諸準備を担当された。CERN所長のRolf Heuer氏は、過去のスクールで何度も講師をつとめているが、今年は最後日の学生賞の授与を行った。
スクールのフォーマットは、毎日、午前・午後各一コマ(一コマは3時間)の講義の後、講師に質問できる宿題課題セッションで構成されていた。
これは私たちにとって、第5回目のスクールである。最初のスクールは、ILCに特化したものだったが、現在では話題を拡大し、コンパクトリニアコライダー(CLIC)やミュオン・コライダーまで扱っている。一連の入門講義の後、スクールは2つのコースに分かれ、並行して行われた:
- ビーム源、ダンピングリング、ライナック、ビーム収束システムの加速器物理
- 超伝導RF技術、常伝導RF技術、低レベルRF、高電圧RF
両コースをカバーするために、スクールへの参加が二度目となる学生もいた。コースは非常に厳しく、スクール修了時には試験が行われる。最高得点を獲得した学生には賞が与えられた。
博士号の取得課程に加速器物理コースをもつ大学はわずかしかない。そのため、加速器物理の専門家の大部分は、素粒子物理学や他の分野から加速器科学に転向してきた研究者で成り立っている。加速器研究所が加速器物理の教育を補うべく、学生に指導を行う一方で、加速器スクールは、分野の専門訓練を提供するうえで非常に重要な役割を演じている。リニアコライダー加速器スクールは、分野における最先端技術の課題を論ずることで、専門教育を行う。私は、優れた加速器科学者から、現在の関心のあるトピックについて学ぶことで、学生が刺激を受けていることを目の当たりにした。このスクールを非常に誇りに思い、今一度参加することができ嬉しく思う。
[英文記事]
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
X-Band Structures, Beam Dynamics and Sources Workshop (XB-10)
Cockcroft Institute, Daresbury, UK
30 November - 3 December 2010
Second Baseline Assessment Workshop (BAW-2)
SLAC
18-21 January 2011
今後のスクール
US Particle Accelerator School (USPAS)
Old Dominion University, Hampton, Virginia, USA
17-28 January 2011
■ニュース記事
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From CERN Bulletin 「じゃあね」-最初のLHCの陽子運転を振り返って |
From The Beacon News
13 November 2010
Fermilab早期退職勧奨、50名削減を目指す
問題は、審議中の2011年の連邦予算と、Fermilab あるいは自然科学全般がどうやって折り合いをつけるかにある、と、Oddone氏は語った。
[英文記事]
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From Discovery Magazine 美しい画像の話はこれだけに留まらない。私たちはダークマターがどうやって振舞うはずかの理論とデータとの比較を行おうという訳である |
From Physics World
11 November 2010
LHC、初のZZイベントを観測
ZZイベントの観測は重要な一歩である。こうしたイベントをたくさん解析するこで、これまで観測されてこなかったヒッグス粒子の信号の手がかりを得ることが期待されるからである。
[英文記事]
From KEK
15 October 2010
ILC通信
[日本語記事]
■アナウンス
◇arXiv preprints
1011.2449
Testing the CP-violating MSSM in stau decays at the LHC and ILC
■今週のイメージ
木製モックアップ・トンネル
ILCトンネル(内径は暫定的に5.7mに設定)の内面を体感するために、2組の木製のモックアップがつくられ、KEKの超伝導RF試験施設(STF)の地下加速器に設置された。画像:峠暢一氏。































