ILC NewsLine 2011年1月20日号 [英文記事]
■リサーチ・ディレクター・レポート
欧州の新地域コンタクトパーソン
(New regional contact from Europe)
新年おめでとうございます!
ILCの物理・測定器研究グループは今、ILC測定器の詳細ベースライン設計(DBD)を作成するための、測定器趣意書(LOI)プロセスの中間点にやってきた。このプロセスの前半は、非常に実り多いものだった。LOIの公募から始まり、助言組織である、「国際測定器諮問委員会(IDAG)」を設立し、各提案の妥当性の確認を完了した。この妥当性確認は、多くの人々による懸命な準備作業とIDAGによる念入りな調査によって成し遂げられたものだ。現在、測定器開発と物理学シミュレーションに関する様々な研究活動が、2つの認証を受けたグループにより、測定器システムの設計に向けて、続けられている。DBDの完成までには更なる努力が必要であるが、いま、中間報告書を作成するのはタイムリーであり、私たちはすでにその作成に取り組んでいる。この進捗報告は、国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)にから要求されていることであるが、それだけでなく、私たちがこれまでにやってきたことをまとめたり、公表したりするのにも役立つことだろう。また、この報告書によって、私たちが今後、対応していかなければいけない作業量もはっきりするだろう。報告書の内容は、測定器研究者グループの多くのメンバーが下書きし、マネジメントが編集を行っている。コミュニケータらによる仕上げ作業が行われた後、国際共同設計チーム(GDE)の中間報告書と、同じフォーマットで発表される予定である。
昨年、一年が終わろうとしている頃、私たちは、将来加速器欧州委員会(ECFA)から、Francois Richard氏(フランス、オルセーにあるフランス国立科学研究センター(LAL)/IN2P3)の後任として、IFICのJuan Fuster氏をリニアコライダー物理測定器国際研究組織(WWS)の組織委員会の新欧州共同議長の候補者に指名したとの報告を受けた。Richard氏は、多くのECFAリニアコライダー・ワークショップを企画し、ごく最近で例では、昨年10月、ジュネーブにある、欧州合同原子核研究機関(CERN)でコンパクトリニアコライダー(CLIC)と合同開催されたワークショップがRichard氏の企画によるものである。Juan氏は、こうした役目を引き継いで、今年9月のスペインのグラナダで開催予定のLCWS11の主催から、WWS組織委員会の新欧州共同議長としてのキャリアをスタートする。
WWS組織委員会共同議長に測定器マネジメントの地域コンタクトパーソンの兼任を依頼することを、慣例としている。したがって、今月、私たちのヨーロッパの地域コンタクトパーソンも変更となる。
この機会に、現LOIプロセスの初期フェーズから貢献してくれたRichard氏に感謝の意を表したい。彼は、LOIプロセスの構想そのものを計画するうえで、大きな役割を果たした。ILC測定器活動の彼の長年にわたる経験と電子-陽電子物理学に対する熱意は、絶えず強力な推進力となった。Richard氏と働くことができ光栄であった。彼の率直な意見は貴重で、しばしば私たちの活動にパワーを与えてくれた。彼の貢献は、管理分野にとどまらず、私たちがストローマンベースライン報告書(SB2009)の性能を研究した際に示されたように、実際の物理考察にも寄せられている。私たちは、Francois氏が私たちの分野にとどまり、私たちと邁進してくれるものと期待している。
同時に、スペイン・バレンシアにあるバレンシア大学・粒子物理研究所(IFIC)のJuan Fuster氏が重要な任務を引き継ぎ、私たちのチームに加わってくれることを非常に嬉しく思う。彼は、1980年代のドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)にあるPETRAのCELLO実験や、欧州合同原子核研究機関(CERN)在任中のLEP加速器でのDELPHI実験など、電子-陽電子物理学研究において、長いキャリアを持っている。それらの実験で、彼は測定器のR&Dと建設、トリガーシステムの開発、運転、そして、新粒子検索や量子色力学(QCD)研究の物理分析、すなわち、グルーオンのジェットと重いフレーバーといった幅広い経験を積み上げた。また彼は、LEP-I分析のQCD研究のまとめ役も果たした。Fuster氏がスペインに戻ったとき、彼はスペインのバレンシアで最初のシリコン検出器を開発したチームを立ち上げ、大型ハドロンコライダー(LHC)のATLAS実験に参加し、前置シリコン飛跡検出器の7分の1を製作した。学生とともに重いフレーバー物理に取り組む一方で、彼は電子-陽電子物理学への興味も失わなかった。これは私たちにとって幸運なことだった。彼は、ILC活動に加わるスペインのグループを形成するために主導的な役割を演じてくれた。Fuster氏も、彼のホームであるIFICの所長としての管理経験がある。私たちは、Fuster氏の新しいパワーが加わることを歓迎しており、彼と一緒に働くのを楽しみにしている。円滑に引き継ぎを行うために、彼はすでに12月から私たちの会議の多くに参加している。
[英文記事]
■世界の各地より
体の中のリニアコライダー技術
新FP-7-健康プログラムは、病院と素粒子物理学を結び付ける
(Linear collider technology in your body
New FP-7-health programme brings together hospitals and particle physics)
リニアコライダーのハドロンカロリメータを使った装置が、がんの発見に役立てられる日は近いかもしれない。それは、おそらく世界最小のカロリメータとなる装置の主要部を担うことになる。そのカロリメータはとても小さいので、内視鏡の先端に取り付けて人の胃に挿入することができるのだ。2011年1月から、欧州全域の13の研究所所属の約60人の科学者からなるコンソーシアムが、世界初の体内カロリメータの制作を本格的に開始している。この4年間のプログラムは、欧州委員会第7枠組み計画からおよそ600万ユーロでの予算を受ける。共同研究者らは、プロジェクト・コーディネーターのRene Laugier氏の所属する、Marseilles La Timone病院で開催されたキックオフ会議を終えたばかりだ。このプロジェクトの名称は、装置の小ささを考えると、非常に長々しいものだ。「Eudo-TOFPET_ US、伝搬時間陽電子放出断層撮影法(PET)と超音波による多様式内視鏡的調査」がその名前である。
このプロジェクトの目標は、膵がん向けの新しい生物マーカーを開発し、テストすることだ。この非常に難易度の高い医療研究を達成するには、膵がんを発見するための、先例のないほどの高空間分解能を持つ測定器の制作・運転が必要となる。これは、医療用の新しいマルチモードツールとなり、超音波とPET映像技術を融合して、がん組織を現状よりかなり詳しく調べることを可能にするのだ。
ここでのキーワードは「検出」である。医師が素粒子物理学研究者グループの測定器開発者と共に働いて、医療と素粒子物理、両分野の専門知識を融合する。もちろん、これは初めてのことでない。世界中の病院で使われているPETスキャン技術は、素粒子物理学の測定器技術が応用された医学診断法だ。このプロジェクトにはPETスキャンにおける長年の協力で培った専門知識が活かされている。
この革新的な装置はわずが4立方センチメートルほどの大きさで、患者の胃への挿入が可能だ。この装置とともに使われる測定器は、標準的な設計の15×15センチメートルの測定器プレートで、患者の腹部に置かれ、体内にある内視鏡と直接つながっている(PETスキャンの仕組みについての説明は、情報ボックスを参照)。内視鏡用プローブの先端に付けられた小さな検出器ヘッドを、診断対象である臓器(この場合、すい臓)から数センチメートル離れた場所まで挿入する。こうすることで、全身PETスキャナよりも100倍高い感度が実現できる。このことによって、患者の浴びる放射線量を減らしたすことや、外科的に取り除かなければならない部位を詳細に特定することができるようになる。がん組織の周囲には健康な臓器があるため、それらに対する背景放射を抑えるために、かつて無いレベルのPETの時間分解能を実現することも必須となる。
PETとは?
従来のPETでは、患者は崩壊するときに陽電子を発する放射性核種を含む化合物を「放射性トレーサー」として投与される。これらの陽電子が患者の体内で電子に遭遇すると、粒子と反粒子は対消滅し、2つのガンマ線光子は実質的に反対方向に放出される。これらの光子は通常、検出器(光検出器と無機結晶から構成される)で検出され、専門ソフトウェアを使って、消滅位置や代謝レベルの上昇を、高精度に診断する。
この測定器は、DESYで組み立てられ、テストされる。DESYが持つ大規模な測定器の集積化と、SiPMベースのマルチチャネル測定器の運転の経験が足場とされるのである。コンソーシアムの共同研究者研究機関がそれぞれ開発する、無機結晶、回折光学素子、単一光子測定器、飛行時間読み出し信号処理回路の先端敵な技術要素は、DESYで最終形態に組み立てられる。
このプロジェクトで使われる光検出器は、シリコン光電子増倍管(SiPM)である。そして、その、ひとつひとつの光子を測る能力は、リニアコライダーのハドロンカロリメータのひとつとしても活用されている。それは、長年(ILC NewsLine2007年4月19日号「カロリメータが人命を救う」参照)、医療における研究対象であった。DESYのSiPMグループは、プロジェクトの主要なワークパッケージの一つであり、既存の施設は今後3年間有効に利用されるだろう。プロジェクトの最終年には、この装置は研究所の試験台から実際の病院へと移動し、動物、そして、最終的には人間の患者に使われることになる。
Endo-TOFPET_USの詳細:
endotofpet-us.web.cern.ch/endotofpet-us
SiPMsの詳細:
www.linearcollider.org/newsline/readmore_20100225_atw.html
www.linearcollider.org/newsline/readmore_20090702_ftr1.html
[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
昨年の成果
(What did we accomplish last year?)
科学的な動向がこれまでになく活発で、全ての最優先事項目標を果たし続けているとしても、ILCはまだ夢であり、実際のプロジェクトへの道は、非常に不確かなままである。うまくいけば、世界の政治および経済動向がまもなくよくなり、そして、大規模な基礎科学プロジェクトへの巨額な投資が受けられる可能性が再びあるかもしれない。私たちがそのようなプロジェクトを見納めしたと想像するのは難しい;したがって、私たちの戦略は、しかるべき時が来たら、リニアコライダーの強い提言を行うのにできるだけ準備を行っておくことだ。最終的な目標は心に留めておき、2010年の成果を振り返ってみよう。実際、私見だが、昨年はGDEにとって当り年だった!
私たちの管理事務局の運営に、米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)が支援してくれていることにに感謝する。非常に効率的な組織化、会議の企画、linearcollider.orgのホスト、ILC NewsLine、ウェブ・サービスの提供、購買業務、出張処理など、私たちの広範囲にわたる活動への支援を受けている。GDEの科学技術研究のために、世界中から集まった上級メンバーから成る役員会(EC)による調整が行われる。科学技術プログラムの調整や、政策決定を行いにあたり、非常に活発に、非常によく機能している。私たちの功績はこのグループの功績とも言え、そしてそれは、彼らの熱心さ、激務、良いアドバイスの結果なのだ。
GDEの主なな任務と委任は、世界的なR&Dプログラムを調整し、世界的なコンセンサスの下に2012年内にILCの技術的設計を作成することだ。さらに、私たちのR&Dプログラムは、設計において重要である技術的な特徴を実証することに集中する。2年後、私たちはもともとの基準設計を、コスト、性能、リスクをよりよく最適化したものに進化させ、重要なR&Dの多くを達成することに成功しているだろう。
おそらく、私たちの最も重要な成果は、昨年、50%の性能歩留まりで1メートルにつき35メガボルト(MV/m)の高勾配超伝導高周波(RF)空洞を製造するという、私たちの野心的な中間目標を達成したことである。現在、私たちは産業的に費用効果がよい製造工程を開発し、さらに空洞加速勾配と性能歩留まりを改善することに集中している。
2010年中の2つ目の重要なR&Dの成果は、コーネルでのCesrTAの電子雲効果の研究であった。この実験プログラムは、多種多様な次世代加速器応用にとって非常に重要な測定を提供している。特にILCのために、CesrTAは私たちの電子雲軽減戦略を決定するうえで、重要な情報を与えてくれている。
2010年中、私たちもまた高エネルギー加速器研究機構(KEK)のATF2ビームを稼働開始した。これは、重要なILCの最終収束性能研究の始まりを意味するもの。ILCのユニークで最も重要な特徴のうちの1つは、衝突点の超極小ビームサイズである。私たちは、2011年と2012年にATF2から重要な結果が得られることを期待したい。
ILCの設計活動は、2010年に大きく進歩した。GDEのプロジェクトマネージャは、数年前、設計変更を確認・提案を行った。多くの会議、レビュー、更なる研究が行われた後、2つの重要な変更が、技術設計報告書ベースラインに採用された:主線形加速器のトンネル数:二本から一本への変更と、主線形加速器の運転加速勾配(31.5のMV/m)の確立。そしてこれは、9月にKEKで開催された第1回ベースライン・アセスメント・ワークショップ(BAW1)で、研究者グループによる議論が行われた。これらの2つの変更は、昨秋、私に正式に提案された。その後、ベースライン・アセスメント・グループの助けを借り評価し、私は承認した。
同様に、ベースライン設計への残りの2つの大きな変更のための同じ最終ステップ(BAW-2、その他)は、来月あたりに開催される。それらの決定の後、私たちは、TDRの設計作業とコスト算出活動に集中する。
本号のILC Newslineのリサーチ・ディレクター・レポートで山田作衛氏は、物理・測定器での進捗について触れている。彼は、リニアコライダー物理・測定器国際研究組織(WWS)の欧州コンタクトが、Francois Richard氏からJuan Fuster氏に変更となったことについて述べている。私は、Richard氏のILCへの疲れを知らないアプローチに感謝したい。彼がWWSからいなくなってしまって寂しいが、私は彼の声ははっきりと聞こえ続けることを確信している。この他、彼はIWLC 2010への参加者数の予想で、私に負けた。Richard氏はまだ私に借りがあり、その借りは返してもらうつもりである!私は、Juan Fuster氏も歓迎する。Fuster氏はスペインのILC活動への参加実現に尽力してきた人物であり、私たちは彼がより幅広く活躍してくれることを楽しみにしている。
結論として、約束したように、2012年内にTDRを完成させるためにしっかりと正しく進んでいることを強調したい。刺激的なLHCの初期の結果、そして、世界の経済状態がよくなり、私たちの夢を現実に変えるためにうまく組み合わさってくれることを願う。
[英文記事]
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Old Dominion University, Hampton, Virginia, USA
17-28 January 2011
Excellence in Detectors and Instrumentation Technologies (EDIT 2011)
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SLACの新加速器部長
(SLAC's new associate lab director)
カリフォルニアのパロアルトで、陽がさんさんと降り注ぐ午後、GDEプロジェクト・マネジャーのNick Walker氏、Marc Ross氏、山本明氏と会合をするSLACの新加速器部長Norbert Holtkamp氏(左から2人目)。Holtkamp氏は、火曜日にSLACで開催された第2回ベースライン・アセスメント・ワークショップにやってきたGDEメンバーを迎え入れた。画像:Maxine Hronek氏
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