ILC NewsLine 2011年8月25日号 [英文記事]
■特集記事
PCMAG、KEKへ里帰り
(Welcome back, PCMAG!)
Rika Takahashi | 25 August 2011
BESS実験では、気球に搭載した測定器を使って宇宙線の中に極微量含まれる反粒子を観測。また、宇宙線のエネルギースペクトルを詳細に測定し、反粒子や反物質の性質を探る。「磁石は、気球によって上空に打ち上げられるので、永久電流モードである必要があります。上空には電源はありませんから」と、KEK准教授の藤井恵介氏。「永久電流モード」とは、磁石を極低温まで冷却して超伝導状態にすると、一度電力を与えるだけでしばらくの間運転が可能なことをいう。
PCMAGは、一度テスト飛行で米ニューメキシコのNASAの科学気球飛行施設で打ち上げられたが、南極上空で行われた実際の実験には使われなかった。その代わりに、KEKの陽子シンクロトロンで、リニアコライダー向けの飛跡検出器「TPC」の実験を含む、様々な実験に使われた。
「気球で打ち上げる」という目的で設計されているので、PCMAGは独特の仕様になっている。使われているコイルは、宇宙線を捉えやすいよう、薄肉で透明だ。これは加速器からの粒子ビームを捉えるのにも有効である。
KEKは2006年にPCMAGをDESYに輸送。DESYでは、PCMAGをテストビームエリアに設置し、CERN、DESYとKEKが共同で2006年から2007年にかけて試験とマッピングを行った。
PCMAGにはもうひとつのユニークな特徴がある。BESS実験では、測定器を気球で上空に打ち上げて実験を行う。超伝導磁石は、超伝導状態を保つために、極低温まで冷やす必要がある。そのため、PCMAGは250ℓの液体ヘリウムタンクを装備しており、これは10日間上空で行われるのに十分な量だ。この気球実験では便利な機能は、地上で長期間にわたって行う実験にとっては、ちょっとやっかいだ。10日間毎の液体ヘリウムの補給はコストと危険を伴い、また、面倒でもある。
今回PCMAGがKEKに戻って来た理由は「冷媒を使わない磁石への改修するため」(藤井氏)である。ここ数年で無冷媒の超伝導技術が急速に進歩し、超伝導磁石の開発にも取り入れられるようになってきた。KEKでは、DCBA実験というニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊過程を調べる実験の測定で、すでに無冷媒磁石の開発に成功している。KEKはまた、ATLAS, Belle, TOPAZ, VENUSといった多くの測定器開発の経験も蓄積しており、これらの技術と経験をもとにPCMAGをアップグレードする。
このプロジェクトは、昨年12月に締結されたDESY-KEK間の学術交流協定に基づき行われている。DESY、KEK、そして欧州の新しい測定器開発プログラム「AIDA」(EUDETの後継プログラム)から、共同で資金拠出されている。
来春には、改修作業が終了する予定で、PCMAGは再びDESYへと送られる。PCMAGを使う主要な研究者は相変わらず LC−TPC研究者グループだが、AIDAプロジェクトの研究者にも使われる予定だ。PCMAGは5年間DESYにとどまり、主にILC測定器R&Dに使われる。
「新型PCMAGを使った実験は、できれば来年度の早い段階で開始したいと思っています。ILCの物理・測定器グループは、2012年末には測定器の詳細ベースライン文書を発行予定なので、新しいPCMAGの実験の結果をその文書に反映させたいと考えています」と藤井氏は語る。
改修後のPCMAGはもはや「永久電流磁石」ではなくなる。「それでも名前はPCMAGのままになります。今回は固有名詞になりますが」(藤井氏)。
ジュネーブ発、2011年8月22日。2年に1度に開催される、レプトン・フォトン国際会議は、インドのムンバイで本日から始まる。アトラスとCMS実験グループが本日発表した結果を見ると、なかなか姿を見せないヒッグス粒子が隠れられる領域が確実に狭まっていることを示している。LHC実験でのもっとも重要な目的の一つは、ヒッグス粒子が存在するか存在しないかに決着をつけることである。この粒子は1960年代から基本粒子の質量を与える仕組みの帰結として提唱されている。アトラスとCMSは、145GeVから466GeVのほとんどの質量範囲には、標準理論が提唱するヒッグス粒子がないことを95%の確度で示した。
ヒッグス粒子の探索以外にも、LHCでの実験グループは、多様な物理に関して多くの結果をこの国際会議で発表していく。LHC加速器と各実験の測定器、さらに、世界中に広がったLHCコンピューティンググリッドが極めて順調に稼働しているので、今回の新しい結果のいくつかは、7月の大きな国際会議での結果と比べて、約2倍のデータを基にしたものに更新されている。
「素粒子物理学にとって劇的な時期だ。さまざまな発見が今後12 か月の間になされることはほぼ間違いない。もしヒッグス粒子が存在するなら、LHC での実験はそれをもうじき発見する。もしそれが存在しないなら、それに代わる新しい物理があることを示している。」CERN の研究担当副所長のセルジオ・ベルトルッチ氏は言う。
標準理論のヒッグス機構は、宇宙を構成する多くの基本粒子が質量を持つに至った理由を説明する一つのものである。この機構によると、空間はいわゆるヒッグス場で満ちていて、それと基本粒子が相互作用を行う。ヒッグス場と強く相互作用する粒子は重い粒子になり、弱くしか相互作用しない粒子は軽い粒子となる。例えれば、軽い粒子は流線型のスポーツカーで、バス(重い粒子)より、よく風を切って進むようなものだ。
素粒子物理学の2011 の最初の大きな国際会議は、7 月にフランスのグルノーブルで開かれた、欧州物理学会の素粒子物理学会議であった。その会議でアトラスとCMS 実験は、ヒッグス粒子の存在を示唆するようなデータも出てきているが、それは、単に数が少ないためのバラツキでも説明できると慎重な説明を行っていた。今回、新たなデータを加えた結果をみると、ヒッグスの存在を示す傾向はやや弱くなっている。
「LHC の調子が非常によいため、我々はたくさんとデータを先月新たに収集できた。これらのデータで、標準理論に関する我々の理解をより深めることができ、ヒッグス粒子やほかの新粒子の探索にも進展があった」アトラス代表者のファビオラ・ジャノッティ氏は語る。
CMS 代表者のグイド・トネッリ氏も同様にコメントする。「今年LHC がすばらしい性能を出していることで、我々は発見を議論できるところまで到達している。ヒッグス粒子が発見されようとも、否定されようとも、新しい物理像がどういうものであるかが明らかになる時代に立ち会おうとしている。」
レプトン・フォトン国際会議は8月27日まで続く。25日には記者会見が予定されており、CERNのロルフ・ホイヤー所長も参加する。CERNのLHCb実験は27日に標準理論に関連した新結果を発表する。この国際会議で発表されたLHC実験の結果は、その後CERNのウェブページで公開される。
LHC加速器は順調に稼働しており、今年末までには、これまでに収集したデータを最低でも倍増できる見込みである。
レプトン・フォトン国際会議:
http://www.tifr.res.in/~lp11/
レプトン・フォトン国際会議webcast:
http://webcast.cern.ch/live.py
各実験からの最新情報:
ATLAS: http://atlas.ch/
CMS: http://cms.web.cern.ch/cms/index.html
LHCb: http://lhcb-public.web.cern.ch/lhcb-public/
■ディレクターズ・コーナー
ありがとう、ILC
(Thank you, ILC, too!)
今号のディレクターズ・コーナーは、国際共同設計チーム(GDE)のコストマネージャー、Peter H. Garbincius氏の執筆。
Peter Garbincius | 25 August 2011
国際…リニア…コライダー
「国際」という言葉がキーワードだ。少なくとも、素粒子物理学においてILCは、まさにコンセプトの段階から、世界的な参加を意図した、初めての巨大加速器プロジェクトである。ILCほどの規模の研究は、国際的な参加を必要とし、また、世界的な理解や協調も必要である。じつに素晴らしいコンセプトだ…国や民族の異なる人々がともに共通の目標に取り組むことを学ぶことができさえすれば!おそらく、ILCはこの方向での第一段階に過ぎないだろう。
ILC(そして、TESLAと米リニアコライダー技術オプション研究に関するそれ以前の4年の部分)に関わった6年間で、私は世界中から集まった人たちとともに働き、彼らの研究所や大学を訪問することができ、非常に幸運だった。その多くは、ILCに関わっていなければ、訪れることがなかった場所である。旅は、視野を広げ、異なる文化や問題にアプローチする方法を教えてくれる。私は、こうした経験ができたことに、心から感謝している。
しかし、最も励みになるのは、想像力に富み、優秀かつ、熱心な人々と働くことができたことだ。ILCにかかわっている間に、私は、そのような人々と出会い、働き、そして、古くからの友人と再会することもあった。彼らは、いつも私にとって、インスピレーションの源であった。
8月4日のディレクターズ・コーナーでBarry氏が発表したように、私は米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)の中でより責任の重い仕事を引き受けることになり、ILC GDEを去ることになった。長年の同僚である、Gerry Dugan氏(我々は二人とも20年以上前、Fermilabの部門長であった)は、GDEコストマネージャー、コストエンジニア、そしてICET(ILCコスト見積りツール)の管理人の仕事を引き継いでくれる。彼が技術設計報告書に向け、この仕事をうまくまとめてくれると考えている。
お互いさまなので、私の妻Jeanが7月にパリのモンマルトルで撮った写真を載せる。思いがけず、BarryとSamoan夫人に会ったとき「このガイドブックによると、この通りでは、誰も知り合いには会わないと書いてある」と、Barry氏は言った。私は、我々が同じガイドブックを持っているにちがいなかったのにと思う!
再び、ILCの素晴らしい経験を過ごさせてくれた、みなさんにお礼を述べたい。私は、超伝導高周波(SCRF)技術開発を深化させ、TDRが完成する折に、そして、科学の神様が手の届く範囲内に面白い物理を置くならば、ILCの速やかな承認、建設、利用の成功を祈っている。
[英文記事]
■ブログライン
23 August 2011
Pauline Gagnon
New results, same uncertainty
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
- Lepton Photon 2011 XXV International Symposium on Lepton Photon Interactions at High Energies
Tata Institute of Fundamental Research, Mumbai, India
22- 27 August 2011 - ILC positron collaboration meeting
IHEP, Beijing, China
27 August 2011 - POSIPOL 2011
IHEP, Beijing, China
28- 30 August 2011 - 2nd International Conference on Micro Pattern Gaseous Detectors (MPGD2011)
Kobe, Japan
29 August- 01 September 2011 - Supersymmetry 2011 (SUSY 2011)
Fermilab, Batavia, IL
28 August- 02 September 2011 - XXXI Physics in Collision (PIC 2011)
Simon Fraser University, Vancouver, Canada
28 August- 01 September 2011 - The 2nd International Particle Accelerator Conference (IPAC'11)
San Sebastian, Spain
04- 09 September 2011 - JSPS specially promoted research: "A global R&D program of a state-of-the-art detector system for ILC"
Sendai, Japan
12- 14 September 2011 - LC11: Understanding QCD at Linear Colliders in searching for new and old physics
ECT*, Trento, Italy
12- 16 September 2011 - CALICE Collaboration Meeting
Heidelberg, Germany
14- 16 September 2011
■ニュース記事
-
from Iwate Nippo23 August 2011政府は19日、本年度から5年間の政策の方向性を定めた「第4期科学技術基本計画」を閣議決定した。震災復興に向け、被災地に「新たな研究開発イノベーション(革新)の国際的拠点」を形成するための検討を行うことを明記。超大型加速器・国際リニアコライダー(ILC)の誘致を目指す本県の提案が反映された。政府が復興策の一つに位置付けたことで、立地に向けて弾みとなりそうだ。
-
from Nature22 August 2011物理学の全てで最も求められている粒子、ヒッグス粒子は、物理学者が期待していたより発見するのが難しいとわかった。
-
from symmetry breaking22 August 2011本日、スイス、ジュネーブ近郊にある、欧州合同原子核研究機関(CERN)にあるLHCの2つの実験共同研究グループは、ヒッグス粒子が隠れている可能性のある質量領域をかなり狭くしたことを発表した。
-
from BBC News22 August 2011LHCの科学者は、彼らが粒子が弱めた長く求められたヒッグス粒子の「ヒント」を見るかもしれなかったことを示唆した合図を言う。
-
from Reuters22 August 2011宇宙の創成で、不可欠な役割を演じたかもしれないと信じている粒子を追う科学者は、月曜日、彼らはそれが結局存在しないかもしれないことを認める、と表明した。
-
from Physics Viewpoint22 August 2011物質に現れることが予測される最も面白いマヨラナ・フェルミ粒子は、ゼロ次元束縛状態は、さまざまな位相的欠陥に依存して暮らすのに限られる。フィジカルレビューレターズ、Pavan Hosur、カリフォルニア大学バークレー校からの協力者により発行された論文で、これらの束縛状態が超伝導体CuxBi2Se3の渦で見つかると予測した。
-
from The Daily Californian21 August 2011バークレー研究所の研究者は、中国ベースの大亜湾ニュートリノ実験施設を建設するために、世界中の250人の物理学者とエンジニアと共同し、時と空を超えて働く方法についての疑問に答えるために、ニュートリノの特異性を解読に取り組んでいる。
-
from Fermilab Today19 August 2011Fermilabで計画されている新実験は、研究者が仮の粒子の原子を構成する世界をのぞき込み、10年間の謎を解くことができるようなる。Fermilabミュオンg-2実験は、ミュー中間子(電子と類似しているが、200回倍重い短命な粒子)の強いビームを使う。
-
Bending a Beam to Significantly Reduce Wakefields of Short Bunches
■今週のビデオ
|
反陽子質量を正確に測定するASACUSA(ASACUSA to precisely measure antiproton mass)ビデオ: CERN CERNの科学者とミュンヘンにあるマックス・プランク研究所のグループは、ASACUSA(より正確に反陽子の質量を測るために反陽子ヘリウム原子を使う新しい実験)に、一緒に取り組んでいる。 |






















