ILC NewsLine 2007年7月26日号 [英文記事]
■世界の各地より
不思議な夜
(A night of wonder)
ギラギラと光るネオンサインの下、派手な服を着飾り、客引きをする男と女。これは東京の有名な歓楽街、新宿・歌舞伎町のありふれた光景である。無数のバーとナイトクラブが並ぶ裏通りを歩いて行くと、古ぼけたビルに「加速器の夜 第三夜」という、手書きの看板が見つかる。
この「眠らない街」歌舞伎町は、小島健一氏が立ち上げた科学セミナー「加速器の夜」の本拠地である。小島氏の運営する、『社会科見学に行
こう!』は、研究所や工場、史跡などを見学する団体で、登録メンバーは約7000人を数える。この見学グループに参加したい人は、無料でネットから登録することができるが、参加可能年齢は20才以上に限られている。いわば、大人の社会科見学クラブというわけだ。
小島氏は、2年前に初めて、見学先の一つとして高エネルギー加速器研究機構(KEK)を訪れた。小島氏はそれまで加速器を一度も見たことはなかったと言う。そして、見学
してみて、加速器は驚くべきもの、非常に面白いものだと思ったそうだ。それ以来、KEKは彼らの見学ツアーのお決まりコースとなった。そんな中、ある見学ツアーで、東京駅から KEKへ向かう借切りバスが交通渋滞にはまってしまった。そのバスには、案内役として山下了氏(東京大学素粒子物理国際研究センター)が乗っていたのだが、動かないバスの退屈な時間を潰そうと、加速器科学や素粒子物理学から国際リニアコライダーに及ぶまで、丸 2時間にわたって話をし続けた。「山下先生の話は、バスに乗っていた参加者の皆さんから、とても評判がよかったのです。そこで、私は先生に同僚の方と一緒にセミナーを開いてはどうかと、提案したのです」(小島氏談)。そして、歌舞伎町でライブハウスを経営している小島氏の友人と調整して「加速器の夜」の準備を始めたのだ。
「このセミナーの計画を聞いたとき、聴きにくる人なんかいるのか、本当に疑わしく思いました。しかし驚くべきことに、セミナーの会場は満員だったのです」
と、山下氏は言う。「こんなにもたくさんの人が加速器科学に興味があることを知って驚きました。彼らは科学に興味があるだけでなく、加速器そのものにも魅了されているのです。本当に目からうろこの経験でした」。セミナーのゲストスピーカーの一人、開田あや氏(小説家、見学グループの熱心なメンバーの一人)も、加速器
の魅力に取りつかれた一人だ。「加速器は、本当に美しいマシンです。私は、科学者のみなさんがその美しさに気づいているとは思いません。こんなに美しいものをたくさんの人たちに見せないなんてもったいないことです」と、彼女は言う。
暗いビルの地下にある小さなライブハウスは、約70人の出席者で込み合っていた。参加者は様々なバックグラウンドを持っている。もちろん、物理学を勉強したエンジニアや理系の大学生もいるが、大多数の参加者は、素粒子物理学に直接的な関係を持っていない人だ。また、女性の参加者も多く、これは日本では非常に珍しい光景であるといえよう。「ここに集まっている人たちは、いろんな分野で活躍している人が多いでので、そのような活動的な人々に、私たちの研究を紹介するのは、非常に重要なことです。特に、ILCのような新しいプロジェクトは、一般の人たちからに知ってもらって、理解してもらうことが重要です」、と、講師の一人である藤本
順平氏(KEKの科学者)は述べる。藤本氏は、このようなセミナーは、ILCのような国際的活動の理解を増進するのに役立つと考えている。「セミナーのト
ピックは非常に一般的なものですが、将来的にはより専門的で科学的なテーマについて話したいと思っています。将来的には、いろんな町で定期的にこのよう にセミナーを開催することができるといいと思っています」と、彼は言う。
科学者は、セミナーの参加者から価値あるフィードバックを得ている。山下氏は、このようなセミナーが、科学者が素粒子物理学の研究者グループ以外の人々に向けて話をするための、良い訓練の場となると考えている。「私たちは、一般の人たちの興味がどこにあるのか、そしてより理解してもらうにはどうしたらよいかと
いったたくさんのことを、参加者のみなさんから学んでいます」と、彼は言う。活発な質疑応答セッションが続き、予定を1時間以上経過した後、やっとセミナーは幕を閉じた。その後、科学者たちは、家へと向かう終電を捕まえようと、新宿駅までダッシュで走らなければならなかったのである。
小島氏は、8月にKEKへの見学、11月に4回目のセミナーを計画している。「ILCが建設されたらもちろん見学ツアーを企画したいと思っていま
す。そしてできれば、その建設現場を見たいですね。ILCが実現するのを楽しみにしています」と、彼は言う。小島氏のような革新的な考えを持つ人のおかげで、日本の科学者たちは、確かに、そして着実にILCのサポーターを得ることに成功している。
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■特集記事
磁石をマッピングする
(Mapping a magnet)
3人は、もう一度、部屋中を見渡した。はさみ、はしご、金属テーブルは全て片付けたか?ピンやペンは散らかっていないか?テストエリアに何も残っていないのを確認すると、チームのメンバーは防護ドアを閉じ、試験続行を決める-成層圏にも行たことのあるこの磁石は、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)のテストビームという新しい本拠地に到着して以来、はじめて磁力を励起される。
EUDET測定器プロトタイプに組み込んで、1テスラの磁場で荷電粒子の軌道を曲げるのに使う前に、科学者たちは、この電磁石の磁場を非常に正確にマッピングしておく必要がある。そのとき、保護鋼材が仕込まれた安全靴が、磁石を励起したとたんに、コイルにしゅっと吸い込まれる、などという事故は、絶対に避けなければならないのである。
この最新のマップ製作のための現場準備は、先週始まった。CERNチームが持ってきたマッピング装置は、1本の長いアームと、ホール素子を備える2本のサイドアーム、規則的な穴の空いた大きなディスクから構成される複雑な装置であるが、なんとなく、スポーツジムのトレーニングマシンのようにも見える装置だ。KEKチームが、週末にこのマッピング装置の冷却試験を行った。これで、マッ ピング装置の最終テストと磁場測定のための位置決めを終え、全ての準備が整った。これらの運転は、欧州の資金拠出で運用されるEUDETテストビーム基盤 の一部を使って行われている。そこで、宇宙の磁石が重要な役割を果たすこととなる。マッピング上で、磁石チームは、テストエリアにいる他のテストビームユーザーが、磁石をとても効率的に、安定に、安全にする、新しいモニタリングシステムと装置を開発した。
KEK、DESY、CERNという3つの異なる研究所のチームは、数ヶ月間、磁石を設置し、マシン、センサー、ソフトウェアを設計・構築することに取り組んでいた。「CERNでたくさんの経験があるので、設計するのには慣れていました」と、Pierre-Ange
Giudici氏は言う。彼は、ALICE、LHCb、ATLASの磁場をマッピングした経験を持つ。彼はホール素子を保持する機械式構造の責任者であり、z軸に沿ってそれらを磁石に追いやり、測定のため14ミリメートル毎に止め、そして360度回転させ、5度毎に止める。
彼の同僚、Felix Bergsma氏は、ホール素子の設計者である。それらのうちの24が-各サイドアームの両側に6つずつ、ある。それらは、ちょっとナビゲーション衛星 と似たように、磁石中の磁場に関する三次元情報を伝える。センサーが磁力線に対して垂直だと、素子で電圧を記録する。「一つのホール素子には、例えば温度のような、30のパラメータがありま す」と、Bergsma氏は説明する:「3つのホール素子の信号から、その位置での磁場を知ることができます」このように測定されたコイル内のあらゆる位置、そして特注のソフトウェアによる読出しにより、チームは、磁場の完全な三
次元マップを製作することができる。
このマップは後に、測定器プロトタイプのテストに磁石を使いたい共同研究チームにとって不可欠なものである。データを磁場マッピングと比較し、特定
の素粒子がなぜその方向に、エネルギーを持って、猛進したかを説明するうえで、役立つことになる。マッピングの処理には、約3日かかり、完全なマップはま
もなく利用できるだろう。マップは、EUDETウェブサイトで公開予定である。
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■ディレクターズ・コーナー
ローマで開催された財政担当者会合(FALC)
(FALC meeting in Rome)
ILCでの最も重要で大きな課題の1つは、ILCの国際的な運営体制の礎となる政府間協定をつくることにあるが、まだその達成には程遠い現状である。私は、このような協定の締結は、各国政府の政治的コミットメントの形成と平行して行われることになるのだと考えている。正式な政府間協定がない現状のもと、ILCのR&Dと工学設計を行う今は、技術的側面の指導はICFAとその小委員会国際リニアコライダー運営委員会(ILC Steering
Committee)が執り、政府関連では監督官庁代表の非公式協議会である財政担当者会合(FALC)から指導を受ける。 FALCの最近の会議は、7月11日、ローマにあるINFN本部で開催された。次の3年で工学設計と報告書(EDR)を作成する計画と合わせて、正式に基 準設計報告書(RDR)をFALCに提出したため、今会議はGDEにとって重要な会議であった。
FALCは、ILCのR&D予算を拠出している監督官庁、財政当局に議論の場を提供する手段として、英国PPARCのIan Halliday教授の指揮の下で、始まった。この議論の場は、ILCに向けての開発を議論するための手段を提供し、異なる機関のニーズと責任、そして最終的 には、指導を行う役割とILC設計活動のための管理を行う。現在の議長、Roberto Petronzio氏(イタリアINFNの所長)は、巨大な国際高エネルギー物理学プロジェクトの複雑な部分を計画し、調整するのに向けて、 FALCの進化しつつある役割を大局的に見ている。この、より幅広い任務を反映して、FALCを「巨大加速器のための財政担当者会合」に改称し、異なる国で大規模な高エ
ネルギー物理学プロジェクトのための大きな責任とタイムスケールを理解するべく努力している。新しいプロジェクトに取り組む際に、国や研究所にはそれぞれ 異なる制約を持っているのは明らかなことである。これらの制約は考慮され、ILCのような、新しい重要な国際プロジェクトを計画したり、資金を拠出するための現実的な戦略を作成する際に釣り合わなければならない。
ローマで開催されたFALC会議で、私は新しく指名されたGDEプロジェクトマネジャー(山本明氏、Nick Walker氏、Marc Ross氏)を紹介した。最も重要なこととして、私たちは工学設計を作成するために、目的とアプローチを提示した。委員会は、Marc Ross氏によって概説されたアプローチを支持した。私はプレゼンで、ILC計画が進行するならば、私たちがつくる設計書が、政府が求めているものに合致することを保障するために、工学設計段階にはFALCの関与を増やす必要があることを強調した。私たちが実行しようとしている詳細なプログラムのための資 金の現実的な責任を持つという観点から、計画と研究の管理を行うために、FALCを必要とする。
特に、私たちは一組のワーク・パッケージ覚書(MoU)を使って、EDR段階中に、実際の作業を行うつもりである。これらのMOUは、EDRを作り 上げるマイルストーンを成し遂げるために、仕事、成果物、責任、資金、マイルストーン、報告を定める。ローマ会議で、FALC資源委員会による実際のワー ク・パッケージMOUのレビューを通して、私たちはFALCの賛同を得ることに同意した。私たちは、FALCがEDRに携わるこの重要なステップを歓迎する。
会議が開催された場所について、最後に触れておきたいと思う。Petronzio教授の好意により、向かい合ってのGDE常務会を2日間開催し、それからローマのINFN本部で開催されたFALC会議にも参加できたことは、特に創作意欲のかきたてられるものであった。普通のオフィスビルではない Palazzo Lanteは1513年に建設され、ローマの中心にパンテオンに非常に近い静かな広場に位置する;他では見つけることができないような素晴らしい喫茶店とレストランのそばで。 INFN事務所の特別室で、空高くからもたらされたインスピレーションとも言える、偉大な考えと計画に値する天井という巨大な会議室の素晴らしい特徴を賞賛した。
[英文記事]
■ニュース記事より
From New York Times
24 July 2007
1977年、ノーベル物理学賞受賞の2年前、スティーブン・ワインバーグ氏は、一部の理論家が『救急車追っかけ』と呼ぶタイプの研究を、少しやってみることにした。
[英文記事]
From Nature Magazine
19 July 2007
LHCはどうあるべきか
(要購読申込み)
CERNの大型電子陽電子加速器(LEP)のあと、その同じトンネルに大型ハドロン加速器(LHC)を建設とする考えは、1977年までさかのぼるが、それはLEPの初期構想が生まれたわずか二年後のことだった。
[英文記事]
From Scenta
17 July 2007
これまでの科学プロジェクトのなかで最も野心的なものの一つ国際リニアコライダー(ILC)のために英国が開発した重要な構成要素は、プロトタイプ試験を成功裏におさめた。
[英文記事]
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
Lepton-Photon
2007 CHEP 07 - International
Conference on Computing in High Energy and Nuclear Physics VII International
workshop on Problems of Charged Particle Accelerators: Electron-positron
Colliders TWEPP
2007 今後のスクール Toward the ILC: A
Fermilab Community School on R&D Challenges and
Opportunities 2007
SLAC Summer Institute Second
International Accelerator School for Linear Colliders |
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■アナウンス
arXiv preprints
707.3182
21 July 2007
Collider Signals of Gravitational
Fixed Points
707.3162
20 July 2007
Triple Higgs boson production in
the Linear Collider
707.3096
20 July 2007
Probing Little Higgs Model in
Process
ILC Notes
2007-027
R&D for the International Linear
Collider
2007-026
Commodity Computing Architecture for ILC
Reference Design
2007-025
Timing and RF Phase Reference for ILC Reference
Design
2007-024
Report to the Calorimeter R&D Review
Panel
2007-021
Vacuum Guidelines for the ILC Vacuum Systems
■今週のイメージ
STF進捗報告
(STF Progress Report)