ILC NewsLine 2012年11月21日号[英文記事]
■特集記事
クライオ・ベルト・コンベヤー
(Cryo conveyor belt)
工業研究、クライオモジュールの連続製造を検討
Barbara Warmbein | 21 November 2012
国際共同設計チーム(GDE)が欧州合同原子核研究機関(CERN)の専門家と連携して行った工業化研究は、ILCのクライオモジュールを産業界で大量生産する方法について1つのより明確なイメージを提示した。その研究の成果は、様々な研究所から加速器の専門家が集まって最近開催された会議で報告された。類似した研究として、空洞の連続製造についての検討が既に行われている。クライオモジュール研究を指揮する科学者の一人である、CERNのVittorio Parma氏は、2003~2008年CERNの大型ハドロンコライダー(LHC)に2000台の超伝導磁石のクライオスタットの組み立てを行った立役者であり、したがって、このプロジェクトに彼の経験を活かすことは運命づけられていたのだ。
欧州XFELのクライオモジュールが仏サクレーのフランス原子力庁(CEA)でつくられたのと同様に、ILCのクライオモジュールは研究所や産業界で組立可能だ。ILCのクライオモジュールは、8台の空洞に1台の四極磁石、または、一連の9台の空洞からなり、各空洞はヘリウム・タンクに埋め込まれ、断熱材を加え、支持パイプ、抽出パイプ、カップラーなど、たくさんのもので構成されている。すべき仕事は、CERNにおけるLHCの電磁石とクライオスタットを製造する複雑さと同様だ。LHCの二極磁石のクライオスタットはILCクライオモジュールよりは複雑ではないが、LHCの四極磁石はずっと複雑である。産業界はこれまでに一連のクライオモジュール(ILCには約1800台必要とされる)を製造した経験がないため、XFELのクライオモジュールを100台製造した事実は重要かつ、ほぼ唯一の情報である。
Vittorio Parma氏は、陽子をその軌道上に保持するためにクライオスタット内に納まった超伝導磁石、-- そのクライオスタットはILCで使われるであろうクライオスタットや、既にDESY研究所のFLASHやEuropean XFELで使われているクライオスタットに似ているのであるが—
すなわち2000台のクライオスタットの組み立て作業のみの責任者だったわけではない。彼は、それらを建設すべく、CERN研究所内での大規模かつ産業的な生産ラインを準備したキーマンでもあったのだ。
「当初は、CERNでクライオスタットの中に二極磁石、産業界で四極磁石を組み立てることが計画されていました」とParma氏は説明する。しかし、企業は倒産してしまった。2008年にLHC始動の準備ができるよう、加速器の専門家はCERNで二極磁石、四極磁石、クライオスタット、すべての組み立てを行うことに決意した。「私たちは典型的に工業的な仕事をしました-基本的に工場を建設する方法を学びました」とParma氏。建物や基盤設備の設計、製造手順の考案、工具の選択肢や自動化の可能性について調査するのが日常的業務になった一方で、外部の請け負い業者を通して作業人員を探すことができた。「限られた時間のなかで行わなければならなかったため、通常、連続生産に先行して試作品製造を行う典型的な準備フェーズを経ない急場しのぎのやり方をしました。そして、私たちが経た経験を持って、欧州XFELとILCの両方を助けることができたらと思っています」とParma氏は締めくくった。
ILC/CERNチームはドイツのBabcock Noell社と連携して研究を行った。チームはこれまでの契約でBabcock Noell社と取引があった。Babcock Noell社は、欧州XFELのクライオモジュール製造についての工業研究に基礎をおいてきた。工業界側の研究リーダーは、Christian Boffo氏であった。およそ4~5年で、約1800台の要求品質のクライオモジュールを製造するために、必要な組立てフェーズと製造ラインと工場レイアウトを研究することでILCクライオモジュールを製造する最も費用効果がよい方法を調査するというのが目標だった。「ゼロから建設・計画を行わなければならない、最高40000平方メートルもの表面積の巨大な施設を必要とするでしょう」とParma氏は予測する。この施設には、数百人が常駐し、先例のない規模の多数のクリーンルームを備えるでしょう。
時間と労働コストを節約するために自動化できうるプロセスを調査することもまた研究目標だった。しかし、人の手でしかできない組立てステップも存在している。「産業界の人たちに、機械と労働者、両方の能力の限界について伝えなければなりません」とParma氏は説明する。「カップラーは、ロボットで挿入できるでしょうか?おそらくできません。クリーンルームでの空洞ストリングは、ロボットで位置調整できますか?ひょっとしたらできるかもしれません。位置調整・テーブルという提案があります。しかし、そのためには、ある種の検証を必要とするでしょう。空洞の周上溶接にも触れましたが、クラス10のクリーンルームの清浄度においては、現在利用可能な技術でこの選択肢は受け入れがたく、かなりの再設計の努力が必要になります。産業界は、こういったこと全てを私たちから聞かなければならないのです」
ところで:この特定部分の組立工程で費やされる時間を減らすことができる自動プロセスに関して、別の可能性がある。CERNが提案し、特許権を有する、いわゆるクラムシェル方法を用いて、クライオモジュール・パイプの溶接点のリーク確認を行う方法だ。この技術の時間節約と安定性を検討したうえで、欧州XFELは、CEAサクレー研究所でのクライオモジュールの組立てに、すぐにこの方法を採用した。
研究は、2つのシナリオを検討した。一社による100%の製造と3社による30%の製造だ。ILCのクライオモジュールは、1領域で1社だけで製造するよりはむしろ様々な会社によって3つの異なる領域で製造するため、後者はありそうもないモデルではない。研究によると、30パーセントモデルは実際に3分の1の基盤設備とスタッフが必要であることを示した。「この30パーセントのオプションは実際より合理的なようです」と、Parma氏は締めくくった。世界中の個々の施設の規模と基盤設備は、扱いがより簡単であり、そして、それらは、その施設が建設される地域のハブ研究所によって、将来的に利用されるでしょう。
8ヵ月の集中的な研究といくつかの会議と訪問の後、同社は10月に結論を伝えた。これらを検討した後、ILC/CERNチームは、独自の結論を出した。「私は、この研究がILCコスト評価に、確実で価値ある情報を提供したと言いたい」と、ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)のGDEプロジェクト・マネージャーNick Walker氏は再び口を開く。「この研究は(これに先行したものと同様に)、この製造水準は、全く実現可能なものであることを実証しています。かなり巨大な施設であるものの、理にかなわないものではありません。産業界は、そのような施設を準備する能力を十分に備えているのです」
Fermilab Todayより:今週のFALC会議
(From Fermilab Today:This week's FALC meeting)
FALCの略称で呼ばれる「大型衝突加速器の為の財政担当者会合(Funding Agencies for Large Colliders)」は、2003年の設立当初は「線形衝突加速器の為の財政担当者会(Funding Agencies for the Linear Collider)」という別の名前だった。FALCの初期の活動のひとつは、ILCのR/Dと設計を行うGDE を支援するための、共有資金を準備することだった。数年後、FALCのLは「リニア:Linear」から「大型:Large」へと拡大された。
FALCは、素粒子物理学を推進する主要な国の機関によって設立された任意団体だ。年に2回会合を行い、巨大な国際施設の建設に関連する全ての問題について議論を行っている。FALCは、様々な国家機関の上級管理者に世界の他の領域での同等の立場の人物を紹介したり、将来において巨大な国際施設に着手するのに必要な信頼感を築いたりするうえでも役立って来た。FALC は、米州、アジア、欧州から1名ずつ、3名の研究所所長をその会合に招待している。
FALCの直近の会合は、昨日米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)で開かれた。この会合は特に興味深かった。それはCERNにおけるヒッグスらしき粒子の発見や日本の高エネルギー物理学研究者グループによる日本で国際リニアコライダーをホストすることを強く望む声明があった直後だからだ。まだ日本政府から、日本がこの世界的な施設をホストしたいとの正式な声明は出されていないが、明らかにILCプロジェクトは日本においての力強いサポートを享受しており、そして日本ではILCプロジェクトは新しい国際都市をつくるより幅広い活動の一部として理解されている。当面の間、日本の研究者たちが日本以外の世界の人々からの支援を求めるのは当然なことだし、それは ILC プロジェクトを推進するうえで日本政府を説得するのに役に立つだろう。
FALCは、これまでに学んだ教訓を明瞭に一つにまとめ科学研究者グループと各国の財政当局の両方のため残しておく目的で、過去数年のGDEの活動についての報告書の執筆に取り掛かった。この目的を達成するために、FALCはR&DやILCの技術設計を完了する過程でのさまざまな成功例に関して、もちろん幾つかの混乱は様々な部分であったのだが、GDEメンバーから詳細な聞き取りを行おこなった。GDEは、年末にILCの技術設計を完了する。それから、12月に、拡大ILCプロジェクト諮問委員会が高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開催され設計のレビューを行う予定だ。新年初めには、米SLAC国立加速器研究所のノーバート・ホルトカンプ氏が委員長をつとめる専門委員会がひらかれ独立したコスト・レビューを実施する。最後に、2013年2月に開催される将来加速器国際委員会(ICFA)の会議で、新しいリニアコライダー組織が始動し、リン・エヴァンス氏のリーダーシップのもと、ILCとCLICの活動のマネジメントが統合される。
今週Fermilabで会合を行った財政担当者会合のメンバー。写真:Reidar Hahn氏
[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
高加速勾配のILC SCRF空洞のために達成される主要な目標
(Major goal achieved for high-gradient ILC SCRF cavities)
Barry Barish | 21 November 2012
GDEの最も重要な目標のうちのひとつは、高加速勾配の空洞が産業界で確実に製造可能であることを実証することだ。 GDEは2つの加速勾配目標を確立した。縦置き試験で1メートルにつき35メガボルト(MV/m)の性能の空洞を製造すること、そして、ILCクライオモジュールのために31.5MV/mの平均加速勾配の達成を実証することである。 さらに、私たちは2010年までに50%、2012年内に90%の性能歩留まりのこれらの高い加速勾配をもつ空洞を産業界が製造するという目標を設定した。私たちは最近この意欲的な目標を達成したのだ!
ILC基準設計のレイアウトは、31.5MV/mの平均運転加速勾配がベースとなっていたが、当時、私たちはこの平均加速勾配の達成を実証していなかった。私たちの確信は、限られたR&D研究所の実験によってもたらされた。 私たちはそれから、企業の資格の評価、手順の標準化、集中データベース作成と分析、そして、製造された空洞で問題を確認する技術の開発と、空洞の修理に関する世界的なプログラムを実行した。(ILC NewsLine空洞アーカイブを参照)
私たちは異なる研究所から得られた試験成績を記録すべく、全世界的に一貫性のある最新のデータベース化を開始し、初回合格と第2回目合格の歩留まりについて達成された加速勾配の標準的で明確な定義を作った。空洞選択に対するルールも確立された。 私たちはFermilab、DESY、米ジェファーソン研究所(JLab)、コーネル、KEKのメンバーからなるILCグローバル空洞データベースチームを結成し、空洞R&Dの進展を追うことができるように、これまでと最新の結果の分析を行った。現時点では、データベースは、純粋にILC加速勾配R&Dのために製造された空洞や他の加速器R&D向けに製造した空洞など、133台の空洞に関する情報を含んでいる。

初回合格(上)と第2回目合格(下)の性能歩留まりの結果の直近のデータ。 性能歩留まりは、28MV/m(足きり)と35MV/m(目標)を上回っている空洞 の割合。28MV/mの足きり値を越えた直近の第2合格歩留まりは、目標の90%より大きい。
プロットはベースライン工程処理サイクル(電解研磨を含む)により処理された認定ベンダーの空洞を示す。加速勾配が35MV/m以上で、クオリティファクターQ0が8×109以上の空洞は受け入れられる。もしそうでなければ、空洞は第2回目の再処理が行われる。 第2回目処理の選択は、初回試験成績に基づいて試験機関により行われるが、標準的な第2回目処理(高圧洗浄、120℃焼成、または第2の標準的な電解研磨サイクル)を採用しなければならない。
こういった改善は主に、第2回目の処理法に関するR&Dプログラムを通して開発された、改良診断ツールによるものだ。 第2回目再処理は、基準設計報告書(RDR)で使われた「過剰生産」モデルと比較すると、かなりのコスト低減をもたらす。技術設計ベースラインは、±20%の幅(たとえば28MV/m以上)の空洞を受け入れ、そして、私たちの一連の空洞のその制限を上回ったサンプルの平均加速勾配は、実は36.8MV/mと、私たちの35MV/mという目標よりいくぶん高い。 このように、統計数は限られるが、2回の標準処理は私たちの目標を満たすことができた!
上記で述べた性能歩留まりを越えて、よりコスト効率がよくなる見込みがあることは指摘しておく価値があるだろう。現在、空洞性能歩留まりの改善に有望な2つの修理技法を開発中だ。一つ目の技術は、KEKで行われた局所研磨だ。これは光学検査により空洞の中の欠陥を検出し、その後、小型の研削工具で欠陥を取り除くものである。 二つ目の技術は、Fermilabで開発されたもので、一週間のサイクルを使い、最大4台の空洞を、最後は鏡のような仕上げになるまで次第により微細な研削材を使用して、並行してバレル研磨する。バレル研磨プロセスの一部として、軽い電解研磨が実行される。両技術は、空洞性能を改善することがすでに示されている。
結論として、私たちは設定したベースライン加速勾配以上で機能するSCRF空洞を、産業界において素晴らしい性能歩留まりで製造するという目標を達成した。この工程には、初回合格に失敗した空洞のための、標準的な第2回目の処理が含まれる。 さらに、費用対効果が高い方法を実現できる心強い新技術が、さらに空洞性能歩留まりを改善すべく開発中だ。 これらの結果は、ILCプロジェクトのために産業界で費用対効果が高い加速勾配空洞を製造することが現実的であることを立証したのである。
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Seventh International Accelerator School for Linear Colliders
Indore, India
27 November-08 December 2012
■ニュース記事
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from BBC World Service15 November 2012
京都で開催されたハドロンコライダー・物理シンポジウムでの素粒子物理学者たちの集まりで、LHC Beauty共同研究グループの研究者は、これまでに観測された最も珍しい粒子崩壊のうちの1つの証拠を提示した。
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from Scientific American14 November 2012
ああ、京都で開催されたハドロンコライダー物理学シンポジウムで今週提示されたヒッグスの結果の大部分は、私たちの標準的な理解の範囲内に十分収まるものだった。
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from New Scientist13 November 2012
今日のような窮迫した(経済状態の)時期には、特にLHCがいまだ光り輝いていて新しいと感じられる今、次の加速器は簡単に承認されるものではない。しかし、後継加速器は常に長期の計画の一部であって、結局のところ、もっと前進するためには必要だ。LHCが見つけたものがたとえ何であったとしても、一般の人々は魅了された。今は、物理学者にとって、後継加速器について考え始める好機なのだ。
■アナウンス
2013年6月12日:日を抑えておいてください
(12 June 2013: Save the date)
2013年6月12日水曜日、長年にわたるILC加速器と測定器研究開発の成果を祝して、全世界中で大きな祝賀式典が開かれる。アジア、欧州、米州の3領域は各々、午後5時の現地時間から科学シンポジウム、公開講演、祝賀会がスタートし、GDEの任務の完了と新時代の始まりを祝う。各イベント終了後、その領域は次の領域に祝賀のバトンを渡す。そして、最終的には、将来加速器国際委員会(ICFA)に最終的な技術設計報告書の公式提出となる。
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Higgs inflation in a radiative seesaw model
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A Novel Self-supporting GEM-based Amplification Structure for a Time Projection Chamber at the ILC
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Dark Matter Search at a Linear Collider: Effective Operator Approach
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One-loop effects on MSSM parameter determination via chargino production at the LC
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Illuminating Dark Matter at the ILC
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Long-lived charged sleptons at the ILC/CLIC
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More Energy, More Searches, but the pMSSM Lives On
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Comparison of the Standard Theory Predictions of M_W and Sin^2 theta^lept_eff with their Experimental Values
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The Constrained NMSSM with a 125 GeV Higgs boson — A global analysis
■今週のイメージ

次世代ヒッグスファクトリーのジオメトリー
(Geometries of a future Higgs factory)
先週、米フェルミ国立加速器研究所に、えり抜きの専門家が集い、LHCで見つかったヒッグス(らしき)粒子にまつわる科学的研究に特化した加速器は、線形なのか、円形なのか、それとも、全く別の形であるべきかなのか議論した。参加者は、加速器、そしてヒッグスファクトリーに対する物理学的必要条件の見地から、線形の(重心系エネルギー)250GeV電子-陽電子コライダーと円形の(重心系エネルギー)250GeV電子-陽電子コライダーの可能性の比較を行うとともに、ミューオン・コライダーやガンマ-ガンマ・コライダーなど、他のヒッグスファクトリーのオプションも含めて比較検討した。ワークショップの詳細はこちら、ワークショップについてのsymmetry magazineの記事はこちら。