ILC NewsLine 2012年12月20日号 [英文記事]
■特集記事
国際リニアコライダーの設計報告書ドラフト完成 提出セレモニーを東京で開催
(Press Release: International Linear Collider completes draft of its design report)
【東京 12月15日(土)】=国際リニアコライダー(ILC)設計報告書完成発表会が開催され、設計チームの上位機関にあたる「ILC運営委員会(ILC Steering Committee: ILCSC)」のジョナサン・バガー議長へと最終ドラフトが手渡されました。このドラフトは、長年にわたる研究開発と一連の技術レビューを経て完成したものです。ILCは、欧州合同原子核研究機関(CERN)で行われている素粒子物理実験を補完し、さらに進展させるための後継加速器として期待されている装置です。今回のドラフト提出は、ILCの最終設計完成に向けた大きな一歩となるものです。
「ILCSCはこのドラフトを快く受諾します。ILCSCはこれまでILCの研究開発活動の監督を行ってきました。今回提出された設計が信頼性の高いものであると確信しています。今後TDRの精査を行い、フィードバックを行うことになります」とバガー氏は述べました。
式典では、国際共同設計チーム(GDE)のディレクターであるバリー・バリッシュ氏と、ILC実験管理組織の責任者(リサーチ・ディレクター)である山田作衛氏が国際研究チームを代表して、加速器、測定器の研究開発と詳細検討の経緯を解説しました。高加速勾配での超伝導RF加速技術や最先端の測定器技術など、ILC建設に必要とされる技術は、ILCの建設を政府に対して提案できるレベルに達したということができます。
“GDEディレクターのバリッシュ氏は「本日、TDRを提出したことはILCにとって非常にエキサイティングなことです。我々のマンデートであった『ILC建設に向けた最終設計の基礎づくり』が完了し、我々は建設開始の準備が完了した、といえるのです」と、述べました。
リサーチ・ディレクターの山田作衛氏は「世界中の若手研究者たちが、測定器の設計や試験、そしてILCが挑む物理を解明するための計算やシミュレーションに熱心に取り組んできました。これらの努力が報告書として実を結んだことを目にするのは意義深いことです」と述べました。
式典では、第一巻「ILCの物理」、第二巻「加速器(パート1及び2)、第三巻「物理と測定器の詳細ベースライン設計」の三巻構成の報告書が提出さ れました。TDRのコストに特化した章については、来年1月に独立したレビューが行われます。レビューの結果は、2月にカナダ・バンクーバーで開催される ILCSCの会合で報告される予定です。同会合は、ILCSCと、ILCの研究開発活動を引き継ぐ新組織「リニアコライダー・コラボレーション」を新たに 監督する「リニアコライダー委員会(Linear Collider Board)」が合同で行います。リニアコライダー・コラボレーションは、同会合より正式にリニアコライダー研究開発推進の中心となります。リニアコライ ダー・コラボレーションは、2つの衝突型加速器計画「ILC」に加え「CLIC」もその傘下の計画として推進することになります。全てのレビュー完了後、 TDRの最終版は、来年6月に将来加速器委員会(ICFA)に提出される予定です。
TDRの加速器に関する巻は、これまでのR&Dの成果を集約し、ILC設計案を提示するものです。また、実験管理組織のとりまとめた2巻で は、研究開発の過程で達成された多くのマイルストーンが明示されており、採用した技術によって、ILCでの研究で要求される非常に高い性能を満たすことが できることを示しています。
来年3月から新組織のディレクターとしてリニアコライダー・コラボレーションを率いるリン・エバンス氏も、式典に参加しました。エバンス氏は式典に 先立ち、12月13(水)、14(木)日に高エネルギー加速器研究機構(KEK:茨城県つくば市)で行われたプロジェクト諮問委員会の議長として、TDR の最終技術レビューを完了しました。
エバンス氏は「TDRで提示されたこれまでの成果に感銘を受けています。次のフェーズへと進展するILC、CLICの2つのリニアコライダー研究グループを、これから率いて行くのが楽しみです」と述べました。
Press Release on interactions.org
(Exciting time for the ILC technical design)
Rika Takahashi | 20 December 2012
国際リニアコライダー(ILC)計画が、新たな局面へとステップを進 めた。12 月15 日(土)、東京・秋葉原でILC 設計報告書(TDR/DBD) 完成発表会が開催された。主催は先端加速器科学技術推進協議会(AAA)、 高エネルギー加速器研究機構(KEK)、国際共同設計チーム(GDE)、 物理測定器研究組織(RD)。GDE とRD の上位機関にあたる「ILC 運営委員会(ILCSC)」のジョナサン・バガー議長へと最終ドラフトが手渡されたのだ。TDRを受け取ったバガー氏は「ILCSCを代表して、この報告書を受け取ります。最終レポートを目にする日を心待ちにしています」と述べた。
今回提出されたILC 設計報告書(TDR/DBD)のドラフトは、長年にわたる研究開発と一連の技術レビューを経て完成したものだ。今回のドラフト提出は、ILC 建設に必要とされる技術 がILC の建設を政府に対して提案できるレベルに達したことを示すものだ。
3 巻で構成されており、第1 巻は ILC における物理、第2 巻は加速器の研究開発と設計、第3 巻は測定器に関するものとなっている。第1 巻・第3 巻は検出器開発を進めて きたRD、第2 巻はGDE の手で編集された。GDE、RD それぞれのディレクターであるバリー・ バリッシュ氏、山田作衛氏から、TDR が手渡された。
TDRには確立されたILCのキーテクノロジー、ILC測定器の研究開発成果、および物理研究について詳細に記述されている。物理研究に関しては、今年7 月のヒッグスと思われる粒子の発見が盛込まれている。
TDRに先んじて発表された基準設計報告書(RDR)は、2005年のGDE設立のわずが1年半後に発表されたもので、技術実証を要する概念設計が記述されたものであった。TDR は、RDRに5年間を超える開発研究・設計改良を加えたものだ。
提出式典では、GDE、RD それぞれのディレクターであるバリー・ バリッシュ氏、山田作衛氏から、TDR がジョナサン・バガー氏に手渡 された。TDR を受け取ったバガー氏は「ヒッグス粒子らしき新粒子が 見つかった今、私たち研究者は、明日にでも建設が始められると良いと 思っている」と、ILC の早期実現への期待を述べた。
会の後半は、カブリ数物連携宇宙研究機構の村山斉機構長(村山氏は、2月に正式発足するリニアコライダー推進組織の副ディレクターも兼任する)が座長を務め、パネルディスカッションが行われた。パネリストは、提出式典に参加したバリッシュ氏、山田氏、バガー氏に、日本創成会議座長の増田寛也氏、AAA の西岡喬会長、KEKの鈴木厚人機構長が加わった。
冒頭、座長の村山氏が「初めてリニアコライダーのことを聞いたとき 『こんなこと出来るわけない』とびっくりした」と大学院生時代のエピソードを紹介し「ここまでたどり着いたことに敬意を表します」とコメ ントして、ディスカッションはスタートした。
まず、バリッシュ氏が8年間のGDE の活動を振り返った。「村山氏と同様、私も90年代にはリニアコライダーについて懐疑的でした」とバリー氏。2003年に、バリッシュ氏は次世代リニアコライダーの加速技術を選定する委員会「ITRP」の委員長に選出された。リニアコライダーに超伝導加速技術を使うのか、常伝導加速技術にするのかを選択したのだ。ここから、バリッシュ氏はリニアコライダーに深く関わることになる。「世界からの知識と能力を集めてベストな設計を作り上げるプロセスは素晴らしい経験でした。私はこの加速器が素晴らしい物理成果を上げることを確信しています」と述べた。
山田氏は数千人に及ぶ世界の科学者の取りまとめという難しい仕事について質問を受けた。山田氏は「もちろん、多くの議論と競争がありました。しかし、私たちは物理という共通言語、ILC という共通の目的があるので、最終的にはまとめあげることができました。競争できる相手と一緒に仕事ができることは非常にエキサイティングなことです」と語った。
産業界では、これまで多くの国際協力事業推進の経験を持つ。 西岡氏は、これまで産業界が培ってきた大型国際プロジェクトのマネジメントの難しさについて例を挙げて紹介した。一例としてあげたのが台湾新幹線プロジェクトだ。このプロジェクトは日本の技術と欧米の標準を統合するという課題を抱えていた。「 国際プロジェクトで、唯一の標準を決定する事は苦労を伴ないます。しかし、最初にきちんと確固たるベースを決めることで、物事がスムーズに進むのです。今回の TDR の完成がこのベースの完成に当たると思います」と述べた。
増田氏は、2012年7月に日本創成会議が発行した提言「地域開国: グローバル都市創成」について紹介し、外国人が地域の日本人とともに 快適に生活できる環境づくりが重要だと述べ「こうした国際都市創成への取組みはすでに始まっています」と語った。これに対してバガー氏 が「研究者というものは、よく奇妙な生物だと言われるのですが、大量な研究者が来る事に地域の人が戸惑う事は無いでしょうか?」と質問。増田氏は「心配ありません。むしろ、刺激のある人々が来る事は地域活性化につながると思います」と答え、会場は笑いに包まれた。 .
鈴木氏は、将来のILC 研究所のあり方について解説した。「今後のビッグプロ ジェクトは、世界中でお金と人を出し合う新しい運営をする必要があります。ILC がその最初の例になれれば良いと考えています」と述べた。
最後に、村山氏が、会場に列席していたGDE とRD の後継組織「リ ニアコライダー・コラボレーション」のリーダーとなる駒宮幸男氏(東 京大学)と、リン・エバンス氏(欧州合同原子核研究機関)の2 名を紹介した。新組織の仕事は、ILC を実現することである。
今回のTDR のドラフトにはコストの章が含まれていない。2013 年 1 月に行われる最終のコストレビューの結果を取入れて、ILC 設計報告書(TDR/DBD)の最終 版は、コストの章およびエグゼクティブサマリーを加え、来年6月に出版となる予定だ。
ILCの電子雲効果を低減する
(Mitigating electron cloud effects for the ILC)
Barry Barish | 20 December 2012
次世代の粒子加速器は、強力な粒子ビームが使われる。 こうした強力なビームは、電子雲を生成する。これは、真空チェンバーに残留する分子からのビーム散乱から生まれるもので、好ましくない現象である。 問題となるのは、この電子雲の存在は、入射される粒子ビームが散乱され、焦点をぼやかして、性能を低下させる可能性があることである。 電子雲効果の定量的情報は、かなり限られている。 したがって、ILCのような低エミッタンス・リングで電子雲効果の実験研究を行い、ILC陽電子ダンピングリングで使用できる様々な低減方法についてテストすることが、ILC R&Dプログラムにおける重要な目標となっていた。
CesrTAプログラムは、電子雲研究を行うために、コーネル電子陽電子貯蔵リング(CESR)を低エミッタンスILCのダンピングリング用の装置に改造し、機器を装備することからスタートした。 そのR&Dプログラムは大成功をおさめ、ILC研究のみならず、電子雲効果のよりよい理解へと導く詳細なデータを提供した。さらに、提案された様々な電子雲低減計画についてテストが行われ、ILC陽電子ダンピングリング向けの信頼性の高い低減戦略が開発された。 CesrTA共同研究グループは、ILCのみならず、次世代の粒子加速器にとって非常に貴重な詳細報告書(140MB)を最近発表した。
ILCダンピングリングの機能は、大きな横と縦のエミッタンスをもつ電子と陽電子ビームを捕え、高ルミノシティを達成するために要求される低エミッタンスビームにそれらを「減衰させる」ことだ。 ILCダンピングリングに類似したCesrTAの構成は、ILCダンピングリングの性能を確実に予測することができるよう再現された。たとえば、ヘッドテイル不安定性閾値(ビームの中で異なる運動量の粒子を持つことによる影響)と呼ばれる現象の分析的評価が、CesrTAとILCダンピングリングのために行われた。 CesrTAの低エミッタンス状況で観察された不安定性閾値は、測定された電子雲密度を使ったこれらの計算に合っている。分析データとCesrTA実験結果との一致は、ILCダンピングリングに外挿した予想に対する信頼性を与えるものだ。
CesrTA共同研究グループは、ILC陽電子ダンピングリングに対する低減戦略を開発するために、様々な低減技術の試験を行った。 みぞ付のチャンバー、窒化チタン・コーティング、クリーニング電極という、3つの技術についての研究が行われた。 この中ではコーティングが有望だと思われるが、長期性能と耐久性についての研究がフェーズII CesrTAプログラムで将来的に行われる必要がある。 このような電子雲低減戦略を開発するために、ワーキンググループが結成された。主要な提案は、ドリフト領域における窒化チタン(TiN)コーティング、双極磁石領域におけるTiNコーティングによる三角溝、四極磁石領域のTiNコーティング、重要なウィグラー領域でのクリーニング電極だ。
ワーキンググループは、将来、単独のダンピングリングの中での陽電子バンチの数を倍増させることを考えているため、その低減計画は非常に挑戦的なものとなっている。ワーキンググループは、自分たちの提案がSuperKEKBの真空パイプの設計と多くの共通点をもつことにも注目している。SuperKEKB 加速器が、ILC陽電子ダンピング・リングの電子雲低減で有益な情報を提供することになるからだ。
CesrTAは、ILC R&Dプログラムから得られた、最も輝かしい業績のうちのひとつだ。このプログラムは、高ルミノシティ・リニアコライダーが直面せざるを得ない主要な問題に対処することの現実性を確立した。 CesrTAは、加速器R&Dプロジェクトの器材や人員に寄与した、種々の研究所や資金提供機関が共同しての重要な功績であった。これは、次世代の粒子加速器にとって重要であり、幅広い価値を持つこととなる。
電子雲研究については、ILC NewsLineを参照ください。
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SiD Workshop
SLAC
16- 18 January 2013 -
CLIC Workshop 2013
CERN
28 January- 01 February 2013 -
Les Rencontres de Physique de la Vallée d'Aoste (La Thuile 2013)
La Thuile, Italy
24 February- 04 March 2013
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Joint Universities Accelerator School (JUAS 2013)
Archamps, France
07 January- 15 March 2013
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from nature19 December 2012
社説:次の巨大コライダー誘致に立候補した日本の科学者を支援すべし。
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from Heise18 December 2012
Nun gab Barry Barrish, der Leiter des Projekts, bekannt, dass er Japan für den eindeutig aussichtsreichsten ILC-Standort hält.
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from Staple News18 December 2012
日本は、次世代の粒子コライダーを建設するのか?国際リニアコライダーは、素粒子物理学者が、全ての他に質量を与えるのに手を貸すヒッグス粒子の研究に役立つだろう。ILCはいまだ紙の上のみの存在だが、建設に10億かかる。(natureのビデオ)
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from Science17 December 2012
自由民主党は、公共事業への投資による、停滞した日本経済の復活を強く訴えることで、選挙戦を戦った。公共事業には、少なくとも1つのビッグサイエンス・ プロジェクトが含まれている。実際、自民党の選挙公約には、国際リニアコライダー計画のサポートがはっきりと言及されている。この計画は、日本の高エネル ギー物理学者が誘致を切望する100億ドルの物理学プロジェクトである。
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from Physics Today17 December 2012
東日本大震災と津波からの復興事業のための追加予算、そして超党派による政治支援のもとに、日本はプロジェクトを実現すべく、一致協力の努力を行っている。
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from IPNL17 December 2012
Après le grand accélérateur de particules LHC, l’accélérateur ILC est le prochain collisionneur susceptible de révolutionner nos connaissances sur la physique et les origines de l’Univers.
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from Jiji Press16 December 2012
日米欧の物理学者が建設を計画している次世代の大型加速器について、国際共同設計チームは土曜日、技術設計報告書をILC運営委員会に提出した。
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from Wales Online16 December 2012
Lyn Evans氏は、LHCの兄貴分となると目される-激変するリニアコライダーの初期のプロジェクトディレクターとなるため、引退を撤回した。
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from Nikkei.com15 December 2012
国際チームが設計書(google translation)
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from Nature14 December 2012
物理学者、数十億ドルかかると言われる国際リニアコライダーの候補地を求める。ビデオ:
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from Colliding ParticlesDecember 2012
スイスの欧州合同原子核研究機関のLHC研究に関わる物理学者チームのフィルムシリーズ第11弾。
■プレプリント
■今週のイメージ
バイバイ、DORIS
(Bye bye DORIS)
画像: DESY | 20 December 2012
ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)は、その加速器群のひとつであるDORISリングに別れを告げようとしている。2013年1月2日に最後のビームがトンネルを周回することになっている。すでに放射光源としての役目は終えている。ちなみに最後の陽電子ビームがHASYLABの実験小屋に到達したのは10月22日であった。それ以降、今日までの間、DORISは、そのもともとの存在理由であった素粒子物理学のための加速器に戻っている。
70年代に生まれた加速器のひとつであるDORISは多くの役割を果たしてきた。世界初の電子貯蔵リングのひとつとして、クオークの特性調査に役立ち、ARGUS実験でCP対称性の破れに光を投じた後、1991年にX線源に変えられた。青銅器時代の斧、ヴァン・ゴッホの絵画、珊瑚、磁気ナノ構造、これら全てがX線ビームで調べられた。そして、世界中の何千人もの科学者に、多種多様な世界に対する洞察を与え、さらにはリボソームの構造解明でノーベル賞をもたらしさえしたのだ。最後の数ヵ月、DORISは再び素粒子物理学に専念することになる:OLYMPUS実験で、陽子による電子、陽電子の散乱、そしてその散乱プロセスの間に起こる光子交換を研究するのだ。
盛大なシャットダウン祝賀会が2013年5月に予定されている。
Read more about DORIS and its lives in the CERN Courier.
今年のビデオ
(The video of the year)
Video: CERN Video productions | 20 December 2012
今年(そして、おそらくここ10年)で最も刺激的な科学的な瞬間を再現してみてください-もう一度LHCでの新粒子の発見についての発表をご覧下さい。そして、再び。

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