ILC NewsLine 2012年12月6日号 [英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
CLIC、マイルストーン達成
(CLIC reaches a milestone)
Steinar Stapnes | 6 December 2012
報告の季節だ。 ご存じの通り、ILC研究者グループは、測定器ベースライン報告書を含む、技術設計報告書の作成に没頭している。 同じように、CLIC共同研究グループと関連する測定器と物理研究グループは、CLIC概念設計報告書(CDR)を仕上げるのに忙しかった。加速器、測定器と物理学、概要/実行計画を記載するCDRの3編は、それぞれ800ページ、290ページ、80ページもの分量だ。この文書は、おそらく、通常CDRと呼ばれるものを、その範囲、情報の詳細さ、分量において、大幅に上回っている。しかし、それは、それだけ報告すべきたくさんの事があるということだ。
CLICのCDRの準備は、数年前にさかのぼる。CLICの概念開発については、2004年の欧州合同原子核研究機関(CERN)理事会で注目度がかなり高まり、2006年にR&D活動の重要性が欧州戦略報告書で再確認された。 2008年以降、CLIC概念の基本的な妥当性を証明するうえで不可欠となる、実現可能性の問題に対処すること、そしてCLICのための測定器と物理学研究にR&Dの焦点が向けられるようになった。CLICのCDRの提出は、結局、他領域の類似した戦略課題検討と同様に、2012年の欧州戦略の改訂に間に合うよう予定されたのである。
Volume 2 of the Conceptual Design Repo
CDRのCLIC加速器総括編では、CLIC加速器の加速器レイアウト、加速器の構成部品、期待される性能についての詳細な説明を記載している。 特に、それは主要な実現可能性問題の技術的な解決法を解説し、CLIC概念の妥当性を証明している。 技術的なサブシステムの多くのプロトタイプは、CERNにあるCLIC試験施設や世界中の他の施設での試験に成功している。 電力、スケジュール、土木問題についてもカバーされている。
CLIC物理学と測定器CDR編は、広範囲に及ぶCLICの物理学の可能性についての概要を説明している。物理学の狙いと、チャレンジングなビーム励起バックグラウンド条件が、CLIC_ILDとCLIC_SiDという2つの測定器の設計を左右している。 これらの測定器概念は、もともと国際リニアコライダー向けに設計されたILDとSiD概念に基づいたものである。詳細な測定器ベンチマーク研究は、主要な物理プロセスを例として使い、ビーム励起バックグラウンドがあるにもかかわらず、物理測定が高精度で実行可能であることを証明する。
物理学・測定器のCDRと加速器CDRの焦点は、CLICの最大3テラ電子ボルト(TeV)の重心系エネルギーにあった。 このエネルギーは、CLICで得られると期待される物理学の最終到達点についての展望を与える一方で、加速器と測定器技術両方のための最もチャレンジングな状況も産み出す。 しかし、最適条件の下で電子陽電子コライダーの十分な物理学可能性を探ることは、幅広い範囲の重心系エネルギーをカバーすることが必要となるため、低いエネルギーでの運転や、段階的なエネルギーの拡張に関する広範囲な検討がここ2年にわたって行われてきた。
CDRの第三編は段階的なCLICのエネルギー拡張に焦点が置かれているが、これは詳細な技術に関する編に記載された、いくつかの主要なポイントについても想起させる。文書は、コスト、電力、ルミノシティ・シナリオ、スケジュール、段階的に実施される物理研究などの主要な実際的問題が記載されている。 また、2012年~2016年までのCDR以降のフェーズの提案された目標と作業計画についても盛り込まれている。
さらに、短い全体概観文書が欧州戦略の更新への入力として提出された。これはリニアコライダーの物理学における能力に関するILC/CLIC共通の文書を補完するものである。
将来に目を向ける
将来の共通のリニアコライダー・プロジェクトの枠組みの中で、CLIC計画は、次世代数TeV電子陽電子加速器の選択肢を提供することに照準を合わせている。大型ハドロンコライダー(LHC)の最大エネルギーでの結果が利用できるようになる2016年までに、CLIC加速器プロジェクトはプロジェクト実施計画を示すことを目指している。次期の詳細な作業計画は、技術研究、産業界との共同研究、システム開発、さらにいくつかのエネルギー・ステージにおける、CLICの建設と運転の実現のための研究に集中している。特に、より低いエネルギー・ステージは、改めて最適化を行う必要がある。ILCと類似した問題があり、それゆえ類似した解決策を求めることが可能な領域では、できる限り、ILCと共通で研究が行われる。
同様にCLIC物理学と測定器研究の目標が定められた。 それは、物理学研究、測定器最適化、技術実証機の開発に集中している。いずれにしても、これらの研究は、協力するすべての機関の間の合意の枠組みの中で実施されることになり、2月以降には、リニアコライダーコラボレーションの枠組みの中にも位置づけられることになっている。
DBDドラフトの完成、レビュー、そして将来
(Of complete DBD drafts, reviews and the future)
Sakue Yamada | 6 December 2012
ILCの物理と測定器の詳細ベースライン設計報告書(DBD)のドラフトが完成し、レビューを受けるためにILC運営委員会(ILCSC)のプロジェクト諮問委員会(PAC)に提出された。
本報告書は、2007年からの測定器趣意書プロセス(LOI)の間に達成された、物理と測定器研究開発の成果を示すものだ。5年間の研究から得られた大量の情報を、2巻に分けて詳細にまとめている。物理学編は、ILCの物理学上のさまざまな意義を記述している。すなわち、私たちがLHCでヒッグスらしき粒子の発見によって捉えた、新たな物理の世界を極め、さらに素粒子物理学の他の基本的な疑問に対する答えを求める諸々の可能性をまとめたものである。測定器編は、SiDとILDの2つの測定器設計の記述であり、それらが実現可能な測定器技術に基づいていること、そして、期待される物理研究を達成する能力をもつことを提示している。測定器の実験性能については、いくつかのベンチマーク・シミュレーションで精度を実証した。DBDは、GDEの加速器編と合わせ、計画全体の技術設計報告書を構成する。
ILC NewsLineでこれまでに何回か報告してきたように、私たちは1年以上前に、この報告書の準備を開始し、ドラフトを完成までにいくつかのマイルストーンを経てきた。盛り込む予定の内容は、この4月に開かれた、KILC12ワークショップの会期中に国際測定器諮問委員会(IDAG)によるモニターを受けた。このプロセスを通じて、投入材料は再整理され、そして、原稿執筆のための明確な指針が示された。ドラフトの初稿は、レビューを受けるために、9月末にIDAGに提出された。10月の米テキサス州アーリントンで開催されたLCWS12の会期中の3日間の会合の期間中に、IDAGは原稿の内容を検討し、各著者チームと面談して、いくつかの改善提案を行った。それを受け、11月中かけて全セクションの推敲が続けられた。
両編とも当初計画されていたよりも分量が多くなった。物理学編はおよそ220ページ。測定器編はおよそ500ページである。この報告書で、私たちは分野の専門家にILC実験の実現可能性と能力を納得させたいと考えている。そのためには、多くの詳細について提示する必要がある。実際に、ハードウェアとソフトウェア両方の多数の先端技術開発に成功し、その成果は、物理の結果を得るべく、2つの測定器システムとして統合されている。報告書に含まれる豊富な情報で、我々がLOIプロセスで意図した目標に到達したことを示せると期待している。
私たちは、12月13、14の両日、高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開催されるPACレビューが非常に重要なものであると考えている。PACレビューは、ILCSCのために行われる外部評価であり、この報告書が経験豊富なレビュアーの目に本当に説得力のあるものになっているかどうかが判定される。一方、完成したドラフトは再びIDAGにも送られ、10月のIDAGのレビューを受けた後の更新箇所についての確認がなされる。委員長を含む3人のIDAGメンバーは、PACの測定器メンバーを補うために、PAC会議にも加わる。形式上は、IDAGのレビューは、内部的なものであると考えられている。しかし、大部分のIDAGメンバーは、ILC研究グループに属さない他分野の専門家で、実際にはIDAGレビューは外部レビューであった。従って、この共同レビューは、厳しいピア・レヴューである。
このレビューに成功すれば、私たちにとって次の段階に進む良い兆しとなる。報告書の最終章で、将来に対する私たちの願望を盛り込んだ。多くの進展があった一方で、私たちの活動はまだR&Dフェーズにある。次のフェーズで、私たちは更なる測定器改善を目指すR&Dと並行して、より多くのエンジニアリング研究に取り組む必要がある。さらに重要なことだが、設計研究のある部分は、建設サイトについてのはっきりしたデータを必要とする。将来の据え付けを考慮して測定器設計を進めるために、この点は不可欠なものである。ILCプロジェクトそのものが前進する中で、この未解決の問題も詰められるよう望んでいる。私は、DBDのドラフトの完成が、そのようなプロジェクトの進展にとって効果的であると、期待もしている。
パルスに注目
(An eye on the pulse)
Barbara Warmbein | 6 December 2012
最先端の粒子検出器の製作には、いくつかのステップが必要だ。何を測定したいかが決まったならば、まずは、その測定のためにどの技術が最適で、最速で、そして最も信頼できるのか、技術の選択をしなければならない。選択した技術が、実際、測定要件を満足することが示せたならば、今度は、それを割り当てられた空間に組み込めることを示さなければならない。以下に紹介するILCのILD測定器のための電磁カロリメータ(ecal)のオプションの1つを開発中の共同研究グループは、「技術の有効性実証」ステップ ― 物理プロトタイプ ― を通過したばかりで、現在、次のステップ ― 技術プロトタイプ ― に着手したところだ。その技術プロトタイプは18×18×20センチメートルの大きさで、シリコン(Si)製の測定器層、タングステン(W)製の吸収層から成り、それゆえにSiW Ecalと呼ばれている。彼らは、来年初めに、ドイツ、ハンブルグのドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)のテストビームでデータを取得予定だ。この測定器のR&Dは、CALICE共同研究グループの研究プログラムの一環をなしている。
測定器の建設というものは、いずれも複雑な仕事だが、ILC測定器には、その建設を少しばかりよけいにチャレンジングなものにする点がいくつかある。カロリメータは粒子フロー・アルゴリズムにおいて中核的貢献をなす測定器だ。そして、それは測定器中のジェットに対してこれまでで最高のエネルギー分解能を実現し、衝突で発生した全粒子を1つ1つ余さず識別・追跡することを可能にする。カロリメータは電磁石の内側にぴったりと収まらねばならず、従って、空間的制約に関する挑戦が要求される-しかし、これは必ずしも新しい問題ではない。LHC測定器もまた、その巨大さから、一定のスペースの中に押し込まれなければならなかったからだ。おびただしい数の信号処理回路-粒子フローは多くのチャネルを必要とするので、各チャネルの消費電力を25マイクロワット以下にせねばならない-とともに、おびただしい数のセンサーが多くの熱を発生するにもかかわらず、アクティブな冷却機構のためのスペースが存在しないのだ。そこで、測定器開発者は、問題に根元から取り組んだ:つまり、そもそも熱の発生自体を押さえこもうとしたのだ。
ILCのパルス構造をもったビーム・サイクルにおいては、バンチ(ビームの塊)列が通過後、人間にこそ気づかれないほど短い間隙だが、超高速測定器信号処理回路にとっては、一生何もせずに(そしてその間いたずらに不要な熱のみ発生し続けて)いることに匹敵するような長い間隙が存在する。そこで、それならば次のパルスが来るまでの間、しっかり休んだらいいじゃないかということになる。実際には、信号処理回路要素のスイッチを完全に切るわけではないが、サイクルの間隙には、その消費電力を下げるのだ。このシステムをパワー・パルシングと呼ぶ。SiW-ecal技術プロトタイプに取り組む開発チームはフランスの研究所内にある工場でパワー・パルシングを試してみた。「しかし、本物のビームと電磁石を使った場合のパワー・パルシングとなると、それは別の話です」と、LALのRoman Pöschl氏は語った。
フランスと日本の研究者からなる開発チームは、2012年の夏、技術プロトタイプのデータ収集試験を、まずは従来の方法、つまり連続運転モードで行ったが、現在は、パワー・パルシングモードの運転をした際、信号の質に変化が現れるのかどうなのかにその関心を移している。
SiW ecalは、非常にコンパクトだ。-それは、ILC測定器全体の中における空間的制約によるものだが、それはまた、使用材料のせいでもある。タングステンという材料、それは、そこを突き抜ける粒子と相互作用する吸収材として使われ、よく絞られた粒子シャワーを発生させるが、非常に密度が高く、よって少量ですむのだ。シリコンもコンパクト性を支えている。ピクセル化が可能なせいだ。そのうえ、それは小さな信号を検出できる測定器の製作を可能とする。信号と、測定器内で起こる他の全て-しばしば『ノイズ』と呼ばれる-との間の区別は、素粒子物理学における単位の1つで、信号対ノイズ比と呼ばれている。SiW ecalのR&D目標は、10対1の信号対ノイズ比であった;テストビーム実験で、彼らは14~20対1を成し遂げた。この値は、必要とされたよりもはるかによいものだった。しかし、パワー・パルシングに必要とされる変更は信号対ノイズ比に悪影響を及ぼす可能性があるため、開発チームはその正確な比率を突き止めようとしている。「R&D目標に到達できると確信しています」と、Roman Pöschl氏は語った。
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SiD Workshop
SLAC
16- 18 January 2013 -
CLIC Workshop 2013
CERN
28 January- 01 February 2013
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Seventh International Accelerator School for Linear Colliders
Indore, India
27 November- 08 December 2012 -
Joint Universities Accelerator School (JUAS 2013)
Archamps, France
07 January- 15 March 2013
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from nature4 December 2012
イノベーションの推進者は、米国会で重要な役割を得た。
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from Scientific American3 December 2012
ここCERNでのヒッグス粒子の発見について今頃はみなさんも耳にしているだろう。-それは、科学の、また技術の、そして人類の重大な成果である。
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from physicsworld.com28 November 2012
Physics World誌はイタリア政府が10億ユーロのSuperB加速器計画の予算を2億5千万ユーロに引き下げるという噂を確認した。SuperBは、ローマ郊外のTor Vergata大学での建設準備が整っていた。
日本語版編集部注:このPhysics World誌の見出しからは、計画が完全にキャンセルされたという印象をうけますが、公式発表では計画は見直しがなされるとの事です。予算の縮小をうけてエネルギーの低い加速器等を含む見直しが検討されています。くわしくは計画をになうイタリアのキャビボ研究所のウエッブ・サイトをご覧下さい。http://www.cabibbolab.it/
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from nature21 November 2012
米国が長期にわたり主要な国際プロジェクトへの参加を可能にするには、そのための新たな予算システムが必要である、とBarry Barish氏は語った。
■アナウンス
ドイツの素粒子物理学研究者グループ、日本でのILCの建設を支持
(German particle physics community supports ILC in Japan)
KET委員会によって代表される、ドイツの素粒子物理学者は、ILCをホストしようと日本の素粒子物理学者が出した提案に応えて声明「国際プロジェクトとしてILCをホストする日本の研究者グループの提案は、ドイツの研究者グループで熱心な支持を得ている」を発表した。彼らは、ドイツが活発にILCプロジェクトの実現に参加するよう求めている。声明の全文はこちらから。
SLACで開催されるSiDワークショップ
(SiD workshop at SLAC)
2013年1月16~18日まで、SLAC国立加速器研究所において、シリコン測定器(SiD)設計研究ワークショップを開催する。本ワークショップでは、DBDの最終的なドラフトのレビュー、測定器R&Dに関する進捗状況の確認、スノーマス2013プロセスへのSiDの参加についての計画、そして、SiDの将来についての議論を行う。
ワークショップ・ウェブサイトから会議の参加登録とSLACゲストハウスの予約が可能だ。
1月半ばにSLACでお会いできるのを楽しみにしております。
Andy White、Harry Weerts、John Jaros
◇プレプリント
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Prospects for Precision Higgs Physics at Linear Colliders
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Correction of beam-beam effects in luminosity measurement at ILC
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Triple $Z^0$-boson production in large extra dimensions model at ILC
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Study of detection efficiency distribution and areal homogeneity of SiPMs
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Commissioning of the Testbeam Prototype of the CALICE Tile Hadron Calorimeter
■今週のイメージ
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メディアのみなさまへ:国際リニアコライダーは次の段階へ(Media advisory: International Linear Collider to take next step)国際共同設計チーム(GDE)と物理測定器研究組織(RD)よりなる国際リニアコライダー(ILC)のための国際チームは、2012年12月15日の日本時間14時より、秋葉原で開催予定の公式式典において、内部の監督機関である、ILC運営委員会(ILCSC)にILC技術設計報告書(TDR)のドラフトを提出します。これは、ILCプロジェクトの最終設計の完成に向けた、第一段階をなすものです。 |