LC NewsLine 2013年3月21日号[英文記事]
■特集記事
CERNより:新しい結果は、CERNで発見された粒子がヒッグス粒子であることを示唆
(From CERN:New results indicate that particle discovered at CERN is a Higgs boson)
ジュネーブ、2013年3月14日。 CERN、LHCのATLASとCMS両実験は、本日モリオン国際会議で新しい暫定結果を発表し、昨年発見された新粒子の性質を更にはっきりさせた。7月の発見報告時から比べて約2.5倍の量のデータをもとに解析した結果、この新粒子は、ますますヒッグス粒子らしさをましてきた。(ヒッグス粒子は素粒子の質量を与える機構と関連した粒子である。) しかしながら、これが素粒子物理学の標準理論で予言するヒッグス粒子なのか、それとも標準理論を超えたいくつかの理論で予言されるように複数の新粒子の一番軽いものであるという可能性もあるのかなどはまだ分からない。このような問に答えるにはまだ時間が必要だ。
ヒッグス粒子であるかどうかは、ほかの粒子とどう相互作用するかと、その粒子の量子力学的性質できまる。例えば、ヒッグス粒子はスピン0であり、鏡に映した時にどう振る舞うかを示すパリティは、標準理論では正であると考えられている。ATLASとCMSは、スピンとパリティをいろんな解析方法で検証してみたが、全ての測定結果でスピン0と正パリティの組み合わせが実験データと一致していることを示した。発見された粒子が他の粒子とどのような相互作用をするかというこれまでの測定結果と合わせると,新粒子がヒッグス粒子であることを強く示唆している。
「2012年に収集した全データを使った今回の暫定結果は素晴らしいものだ。私には,我々が見つけた粒子がヒッグス粒子であることは明白のように思える。しかし、これがどんな種類のヒッグス粒子かを決めるにはまだ長い時間がかかる。」CMS実験の責任者のジョー・インカンデラ氏は語った。
「この素晴らしい新結果は、たくさんの人々が集中して多大な努力を重ねて得られた成果だ。新粒子は標準理論のヒッグス粒子と同じスピン・パリティを持っていることを示している。今はヒッグスセクターの測定プログラムを始める端緒についたところだ。」アトラス実験責任者のデイブ・チャールトンは語る。
この粒子が標準理論の予言するままのヒッグス粒子であるかを決めるには、例えば、この粒子がほかの粒子に崩壊する分岐比を精密に測定して、理論の予想と比較する必要がある。この粒子を検出できるのは非常に稀なことで、1つの事象を見つけるのにだいたい1兆回の陽子・陽子衝突が必要となる。全ての崩壊モードを調べるには、LHCからのたくさんのデータが必要となる。
本日本語訳は、LHCアトラス実験日本グループのウェブサイトに掲載されたものを転載しました。https://sites.google.com/site/lhcpr2011/20130315
[英文記事]
■LCペディア
最終収束システム
(Final focus)
何百個もの粒子ビーム※1が加速器を通過するとき、物理学者は測定器の中央の特定の場所で衝突するよう、それらを誘導する必要がある。しかし、これらの粒子の小ささを考えると、粒子ビームは正面衝突しても、個々の粒子の衝突は起こらないこともありえる。衝突点での個々の粒子の衝突の確率を最大にするために、予定の衝突場所に近づくと、ビームは一連の四極磁石により小さく収束される。物理学者は、この収束を行う一連の電磁石の連なりを「最終収束システム」と呼ぶ。
※1)編集部注:ビームとは電子や陽電子などの素粒子の集団が連続して飛んでいるもの。ひとつひとつの集団をバンチと呼ぶ
街角を行く人々の群れを思い浮かべてみると、収束がどうして必要なのか想像する事ができる。2本の大通りの交差点では人々はほとんどぶつかること無く行きかうことができるだろう。しかし、かろうじて通れるほどの非常に狭いスペースでは、人々はぶつかることを余儀なくされる。これこそが科学者が追い求めている衝突の起こる状況である。粒子ビームはぎゅっと絞られて狭い通路を通過せざるを得ない状態になり、個々の粒子の衝突の回数が増えるのだ。米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)の科学者Elvin Harms氏により、ビームの収束の達成方法に関するもっと科学的なたとえ話は、最終収束システムを望遠鏡に例えたものだ。「衝突点の近くには対物レンズそっくりの強い収束磁石があります。そして、接眼レンズのような弱い収束磁石もあります。最終収束四極磁石の回路は望遠鏡のようなもの、と言えるでしょう」とHarms氏は言う。
国際リニアコライダーでは、衝突点を中心としてその両側のおよそ1キロメートルにわたって多数の四極磁石が連なる。各々の磁石の役割は、垂直面または水平面の中で、ビームを収束したり広げたりすることだ。 ILC ではダブレットと呼ばれる2つの四極磁石の組が衝突点の両側に置かれる予定だ。粒子ビームが衝突する瞬間には、ビームは人間の髪よりはるかに細く、高さ方向わずか5.9ナノメートル、水平方向474ナノメートルという極小のサイズに絞り込まれる。
ATF2は日本のKEKにある試験施設だ。そこでは次世代リニアコライダーで使用される先進的光学系設計の最終収束システムのプロトタイプがテストされている。昨年12月に、国際的な科学者のチームはATF2で高さ方向70ナノメートルにまで小さくしぼられたビームサイズを達成した。この科学者のチ—ムは、最終目標として37ナノメートル ― ILC必要条件を満たすビームサイズ*2 ― のサイズの達成を目指している。
※2) 編集部注:ATF2 と ILC ではエネルギーが違うなど、幾つか点で同じ条件ではない。これを考慮すると ILC での 5.9 ナノメートルはATF2 では 37 ナノメートルに相当する。
リニアコライダー収束についての記事は、symmetry magazineもご覧ください。
リニアコライダーの物理・測定器研究者グループの共同戦線を結成する
(Forming a united front of the LC physics and detector community)
Hitoshi Yamamoto | 21 March 2013
2012年10月に、米アーリントンで開催されたLCWS12ワークショップに集まった、ILCとCLICの国際研究者グループ(物理・測定器を含む)。画像:テキサス・アーリントン大学。
リニアコライダー・コラボレーション(LCC)は、2013年2月にカナダのバンクーバーで開催されたリニアコライダー国際推進委員会(LCB)で公式にスタートし、新しい組織はゆっくりと形になりつつある。私は、新組織の物理・測定器部門の担当ディレクターに任命された。LCCディレクターのLyn Evans氏は、このポストに割り当てられる仕事が最も難しいものであると思うと私たちに話した。
では、物理・測定器副ディレクターの使命とは何なのか?国際リニアコライダー運営委員会により定められたさしあたっての使命は、担当ディレクターは次世代リニアコライダーの物理学上の意義の形成に焦点を当てること、最先端の測定器技術の研究開発を調整すること、両加速器技術(すなわちCLICとILC)のために承認された測定器コンセプトの開発を推進すること、とある。そして最終的には、担当ディレクターは、いずれの加速器技術にも適切な最先端測定器を開発する世界的な活動を推進し、実際にLCプロジェクトが承認される時にむけて、共同研究グループを結成して測定器の建設をするための地ならしをする、ということだ。
LCCの役割を考える上で、実際の組織はリニアコライダー・プロジェクト承認後につくられるもので、LCCが暫定的な組織であることを理解するのは重要なことだ。LCCは暫定的な組織であり、加速器もまだ選ばれていないため、CLICとILC研究者グループを結束させておくことが重要であり、また、実際のリニアコライダー測定器で使われるとは限らない、LC関連の最先端の測定器R&Dを推進することも重要なことである。LCCディレクターが明確に公言している通り、LCCの現在の目標は、ILCの実現だ。しかし、CLICは欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)加速器のあとのための考えられるオプションであって、ILCと並行して推進される必要がある。そして、たとえILCが実現されるとしても、これは確かなことである。実際、ILCが建設を始めても、CLIC研究は続くだろう。結局のところ、現時点では承認されたリニアコライダーは存在していないのだ。
では、私の仕事の3つの当初の使命を各々みて、関係する問題を簡潔に述べたいと思う。私は5月のハンブルグ・リニアコライダー・ワークショップで組織構造について最終的なアイデアを示すつもりだ。そして、本コーナーの主な目的はLC研究者グループからの意見を求めることである。
1. 物理学上の意義
LHCが生み出し続けている印象的な物理学の成果に応じて、LCの物理学的意義を次々と更新していく必要がある。最大エネルギーでのLHCのさらなる運転が実施されれば、標準理論を越えた物理への扉が開かれ、リニアコライダーのエネルギー領域の中で重要な更なる機会を提供するかもしれないというはっきりした望みもある。そして、ILCの物理学能力と、1テラ電子ボルト(TeV)以下の重心系エネルギーでのCLICの物理学能力は、非常に類似しているが故に、両研究者グループは、この目標のために協力することが可能でまたすべきだ。これまでにも、ソフトウェアツール開発や物理学分析において、多くの共同の研究活動が行われてきた。しかし、私たちは、より正式な枠組みを必要としている。その枠組みは理論研究者や実験研究者などを含み、これまでの実験計画執行組織の物理共通作業グループと類似しているが、CLICとILCの両方の分析グループに一層明確なリンクを持つ。
2. 測定器R&D
LC測定器がコンセプトから工学設計へと移行し、いまだ完成していない必要な測定器R&Dは完了されなければならない。ここでも、CLICとILCに共通の広範な活動があり、より正式で目に見える方法で推進されなければならない。加えて、リニアコライダーの測定器R&Dは一般に素粒子物理学測定器技術の水準を向上させてきたが、私たちはそれを継続していかなければならない。そのような活動を推進する際に、私たちは測定器R&Dグループ(小グループを含む)の意見がマネジメントに効果的に伝わるようにしなければならない。これまでの物理と実験委員会と類似したグループが副ディレクターの直下におかれ、R&D活動の代表もそのグループに含まれるだろう。ここでの課題は、代表の数を適正に保つ一方で、小さいが、重要なグループが無視されないような取り決めを作り上げることだ。
3.コンセプトグループ
現在、ILCにはILDとSiDという、2つの測定器コンセプトグループ、CLICには、CLIC物理・測定器グループがあるが、設計状況はすぐに建設できるレベルに達していない。これは特に多くの工学研究がやり残されたままであるILC測定器について重要なことである。もちろん、上で言及したグループへの個人やグループの新規参加は大いに歓迎される。しかし、もし新しいグループが現れて、新しいコンセプトグループをつくりたいと言った場合はどうなるか。スタートが遅れたために新グループが不利な条件に置かれたのが明らかだとしても、そのような新たな取り組みは拒絶されてはならない。ここでは、そのようなグループを受け入れる具体的なフレームワークが導入されなければならない。
上記が、新しいLCC物理・測定器組織の重要な問題の3つだ。物理・測定器研究者グループは多様で、その構成員が自己決定で活動するとき、通常最もうまく機能している。上記の問題の解決は、できるだけボトムアップで、柔軟に行われなければならず、そこでの決定は直接関係する人々によってなされなければならない。上からの強制は最低限に保たれなければならないし、私たちは活動を促進するために必要に応じ、最小限のフレームワークから始めなければならない。これらの問題についてのコメントや提案は、私宛てに電子メールを送ってください。
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CALICE Collaboration Meeting
DESY, Hamburg, Germany
20- 22 March 2013 -
Calorimetry for the High Energy Frontier (CHEF2013)
Paris, France
22- 25 April 2013
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Excellence in Detectors and Instrumentation Technologies (EDIT 2013)
KEK, Japan
12- 22 March 2013 -
CERN Accelerator School: Course on Superconductivity for Accelerators
Erice, Sicily, Italy
24 April- 04 May 2013
■ニュース記事
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from Libération21 March 2013
Il faut toutefois souligner, note François Bouchet, que l’inflation repose sur un concept physique de champ scalaire… identique à celui du champs de Higgs. Jusqu’à la découverte de ce dernier, un tel champ demeurait un objet théorique, or, les physiciens disposent désormais d’une réalité expérimentale avec le boson de Higgs.
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from Scienze Fanpage21 Mars 2013
“Un’attenta analisi condotta sia a livello teorico che sui dati presenti e futuri di LHC e di Planck potrà dirci se l’artefice delle dimensioni e dell’età dell’odierno Universo (cioè la particella, ‘inflatone’, che ha prodotto l’inflazione) possa essere identificabile con quella particella, il bosone di Higgs, che ha fornito la massa delle particelle presenti nel plasma primordiale”, prosegue Masiero.
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from Iwate Nippo19 March 2013
県商工会議所連合会と県国際リニアコライダー(ILC)推進協議会は18日、復興庁を訪れ、一日も早い復興への取り組みとILCの東北誘致を要望し た。
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from Saga Shimbun15 March 2013
宇宙の謎に迫る素粒子物理学の次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」構想で、脊振山地への誘致を目指す動きが活発化している。
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from Iwate Nippo14 March 2013
国際リニアコライダー(ILC)の北上山地(北上高地)への誘致に向けた県議会国際リニアコライダー東北誘致議員連盟を設立した。議員連盟には議員 全員が参加。東北各県や国に対して東北誘致に向けた協力を要請し、誘致実現を目指す。
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from Iwate Nippo13 March 2013
県は超大型加速器・国際リニアコライダー(ILC)の北上山地(北上高地)への誘致に向けて、本県と宮城県との連携をさらに強化するため、両県の課 長級で構成する事務レベル会議「岩手・宮城ILC推進部会」を設置、14日に初会合を開くことを明らかにした。
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from symmetry magazine11 March 2013
超大作映画に値するタイミングで、加速器物理学者の多国籍チームは、リニアコライダー・ボードができたのと同じ週、次世代リニアコライダーに必要とされる極小サイズまで、電子ビームを収束させた。
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from RKB News13 March 2013
ILC=国際リニアコライダーの誘致活動を強化しようと福岡県はきょう、プロジェクトチームを発足させました。
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from Kahoku Shinpo3 March 2013
達増知事は復興の象徴に国際リニアコライダー(ILC)誘致を挙げ「岩手にとって『開国』と言えるほどの国際化になる」と話した。
■アナウンス
◇プレプリント
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Muon g-2 vs LHC in Supersymmetric Models
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Unique heavy lepton signature at $e^+e^-$ linear collider with polarized beams
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Druid, event display for the linear collider
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Top quark mass measurements at and above threshold at CLIC
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Forward tracking at the next \boldmath{$e^+e^-$} collider Part II: experimental challenges and detector design
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Dark Matter and Higgs Bosons in the MSSM
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Potential of a Linear Collider for Lepton Flavour Violation studies in the SUSY seesaw
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$WWγ/Z$ production in the Randall-Sundrum model at LHC and CLIC
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Modified Higgs Sectors and NLO Associated Production
日本の国会議員、ATF2に注目
(Japanese diet members focus on ATF2)
Rika Takahashi | 21 March 2013