LC NewsLine 2013年4月18日号 [英文記事]
■世界の各地より
良い信号、わずかなノイズ
(Good signal, little noise)
シリコン(Si)製の測定器層、タングステン(W)製の吸収層から成る電磁カロリメータ(SiW Ecal)のパワー・パルシング試験、期待できる成果
|粒子検出器は、科学者が無関係な信号に紛わせられることなく測定器で起こっていることを見ることができるよう、多くの信号とごくわずかなバックグラウンドノイズを検出することになっている。SiW電磁カロリメータの技術プロトタイプは、2012年夏の初試験で、14~20対1の(要求性能10対1よりもずっとよい)信号対ノイズ比で大成功をおさめた。しかし、それはその時の話だった。現在の仕事は、異なる状況下(ビームを通し、電磁石の中で、異なるパワーモード)で、同じプロトタイプをテストすることだ。
新しいパワースキームは、ビーム・サイクル間に要素をパワーダウンすることにより、スペース(信号処理回路からはごくわずかな熱しか発生しないため、大規模な冷却機構は必要ない)と電力(そしてお金)を節約する。「現時点では、物理学的な挑戦というよりはエンジニアリング的な挑戦です」と仏フランス線形加速器研究所(LAL)のRoman Poeschl氏は語った。「実際、これは完全に新しい技術なのです」と仏ルプランス=ランゲ研究所(LLR)のエンジニア、Remi Cornat氏は語った。「ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)のテストビームで試用して、システムがどれくらい実現可能なものかを知りたかったのです。」 彼らは2つの試験を別々にした。2-テスラ電磁石中でのパワー・パルシング試験、そして、DESY加速器からのテストビームを用いた磁場無しでのプロトタイプ試験の2つだ。最初のテスト結果は、2013年3月にハンブルグ大学で開催された、CALICEの会合で発表された。
テストで、物理信号は、特にパワー・パルシング測定器層において、測定器ノイズと良く分離して測定された。正確な信号ノイズ比については、検討される必要があるが、チームはパワー・パルスモードで運転を行った最初の結果に非常に満足している。「電力装置からの余分な信号はないようですが、これは、連続モードと同じくらい信号がきれいであることを意味しています」とCornat氏。しかし、チームは自分たちのシステムの限界についても学んだ。グランドとのクロストーク(信号混線)を初めプロトタイプ-ステージでの不具合が見つかったのだ。これらは、次のステップでの私たちのシステムの改良につながるものだ。「フロントエンドの信号処理回路の限界についてより良く知ることになった」と、エンジニアが報告した。そして、Po"schl氏は次のように結んだ:「私たちの測定器技術の原理の証明を行いました」
次のステップは、チャネルやチップをたくさん備え、現在の3倍以上のレイヤー数に達するより多くのフロントエンドのボードを備えた全長2メートルの、測定器の洗練されたバージョンである。それから、新システムの安定性と予測可能性をチェックするテストが何度も実施される。最終的なカロリメータは、およそ100000枚のフロント・エンドボード、10000枚の測定器層、1000台のモジュール ― 産業界でのみ製造可能な規模 ― から成る。チームは、研究所と産業界がどのように最終的な測定器を製造することができるかについて理解するための議論を日本の企業、浜松と既にスタートしている。
ビデオ:電流のパルスが通過するとき、測定器カードに電源供給するケーブルへの磁場の影響を示す短いビデオ。(もちろんカードは動かない)
CALICE | DESY | detector R&D | electromagnetic calorimeter | France | Japan | power pulsing | test
[英文記事]
■LCpedia
粒子フロー
(Particle flow)
|粒子が衝突すると、しばしばジェットと呼ばれる粒子のしぶきが生じる。これらの粒子の相互作用はとても複雑なため、高精度でジェットのエネルギーを測定するのは、大変な課題である。ILCやCLIC用に開発されているような新しい測定器の設計は、最高の測定を提供する測定器を使ってジェットの中の各粒子の識別と測定を可能にする,粒子フローと呼ばれるパラダイムがベースとなっている。
粒子フローがどのように機能するか理解するためには、粒子が測定器のサブコンポーネント中をどのように進むのか考える必要がある。1ジェットにはおよそ20個の粒子が含まれ、その多くは電荷をもつ。測定器の飛跡検出器は荷電粒子の運動量を測定し、カロリメーターは,荷電粒子と,電気的に中性な粒子のエネルギーを測定する。ジェットのエネルギーは、飛跡検出器で測定された荷電粒子の運動量と、カロリメーターで測定された中性粒子のエネルギーを加えることで再構成される。これは、最高のエネルギー分解能を提供する。
粒子フローを応用するためには、カロリメーターで測定されたエネルギーが,荷電粒子によるものか,あるいは中性粒子によるものかを正確に把握しなければならない。これを行うためには,飛跡検出器で観察される荷電粒子と,カロリメータ中のエネルギー測定を正しく対応させなければならない。(荷電粒子に)対応していないエネルギーは、中性粒子に由来するものだ。
考え方は簡単そうに聞こえるかもしれないが、実際には、カロリメーターの性能をこれまでに以上に向上させることが必要だ。カロリメーターはより高い(位置)分解能をのために,細かくセグメント化されなければならない。その結果,何千万ものチャネルという,まるで画像(を写す)ような細かさになる。「これは本当に今までにない試みです」と、アルゴンヌの科学者、Jose' Repond氏は語る。「最近の信号処理回路の進展が、これを可能にしたのです。」Repond氏と彼の同僚は最近、ILCやCLICのために計画された測定器用の,1立方メートルのハドロン・カロリメータのプロトタイプをつくった。それのチャンネル数は,大型ハドロンコライダー(LHC)の全4台のカロリメーターのチャネルの合計より多い、50万チャネルに達している。
粒子フローについて
人類にとっての夢
(Dream for Humankind)
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左から:村山斉氏(リニアコライダー・コラボレーション:LCC副ディレクター)小柴昌俊氏(2002年ノーベル物理学賞受賞者)、Lyn Evans氏、安倍晋三氏、河村建夫氏(リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟会長)。
安倍晋三内閣総理大臣との会談は、私にとって本当に特別なひとときだった。 彼は「リニアコライダーは人類にとっての夢である」と語った。
これはLyn Evans氏が多くの要人と面会すべく、3日間日本を訪問した時のことだった。彼は、日本が国際リニアコライダーをホストするよう要請しに来たのだ。 私は基本的にはLyn氏の通訳、また、米国の素粒子物理学者の研究者グループの代表者として、会議のいくつかに参加する特権が与えられた。
Lyn氏はLHCに対する日本の貢献は、欧州合同原子核研究機関(CERN)加盟国以外で発表された最初のものであったことを安倍氏に感謝した。そして、これはLyn氏が他のパートナー国と調整するにあたり非常に助けになったのである。彼は、日本の産業界がLHCを実現するうえで重要であったと指摘した。 同時に、日本の産業界は、世界中からおよそ1万人が関わった最先端の研究プロジェクトから国際的な名声を得たり、経験を積んだりと、この貢献から利益も得ている。 また、このために開発された製品のいくつかは、数社にも利益を生み出している。
それから、Lyn氏は次の論点へと移った。リニアコライダーをホストすると、世界中の科学者や産業界からの参加があるのみならず、日本が基礎科学のリーダーとして、国際的に広く認知される機会となるであろう。 CERNと同じように、日本に多くの日本人以外の科学者やその家族を連れてくることにもなる。 この種の認知や注目は、日本が切望しているものである。
最後に、Lyn氏は、欧州は現時点では、この魅力的なプロジェクトのホストをつとめることができないと指摘した。 欧州は、予見できる将来はLHCで縛られている。 CERN理事会に承認された欧州戦略文書によれば、「日本でILCをホストしようとしている、日本の素粒子物理学研究者グループのイニシャチブ取り組みは歓迎すべきである。そして、欧州のグループは参加を熱望している。 欧州は、参加の可能性について議論するために、日本からの提案を楽しみにしている」 それから、私は、米国は財政赤字を減らすための大きな圧力の下にあるため、ILCをホストする可能性はありそうもないことを付け加えた。次世代の施設についての米エネルギー省高エネルギー物理諮問委員会(HEPAP)の最近の報告によると、ILCがこの分野「絶対的な焦点」であると評価し、そして「日本でILCをホストしようとしている、日本の素粒子物理学研究者グループのイニシャチブは歓迎すべきである。そして、米素粒子物理学研究者グループは、参加の可能性について議論するために、日本からの提案を楽しみにしている」
ニュートリノ天文学の開拓者的な研究でノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏は、欧州も米国もILCをホストできないのであれば、日本がILCをホストする絶好の機会であると述べた。 ILCができると、海外から数千人の人々がやって来て、日本に国際科学都市がつくられる。安倍首相は「慎重に進展をチェック」し「日本が果たすべき役割が何なのかを検討する」ことを約束した。 私たちはみな、これらの発言に大いに励まされた。
首相の他、私たちは下村博文氏(文部科学大臣)、山本一太氏(内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当))など、多くの政治家と面談した ILCが日本で受ける注目のレベルは、驚くべきものである。
[英文記事]
■カレンダー
今後の会議、ミーティング、ワークショップ
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Calorimetry for the High Energy Frontier (CHEF2013)
Paris, France
22- 25 April 2013 -
FCAL Collaboration meeting
Cracow
29 April- 01 May 2013 -
IPAC - 4th International Particle Accelerator Conference
Shangai, China
12- 17 May 2013 -
Photon 2013
Paris, France
20- 24 May 2013 -
European Linear Collider Workshop (ECFA LC2013)
DESY Hamburg
27- 31 May 2013
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CERN Accelerator School: Course on Superconductivity for Accelerators
Erice, Sicily, Italy
24 April- 04 May 2013
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