LC NewsLine 2013年5月16日号[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
戦略と現実
(Strategies and realities)
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Steinar Stapnes氏(当時、欧州戦略プロセスのリーダー)は、2011年7月23日に仏グルノーブルで開催された将来加速器欧州委員会(ECFA)-欧州物理学会(EPS)臨時会議中に、欧州の素粒子物理学戦略を更新するプロセスの開始を発表した。画像:LPSC/Tomas Jezo氏
欧州の素粒子物理学戦略は、欧州合同原子核研究機関(CERN)理事会に提出された。 数週間のうちに最終承認を受けることが目標だ。戦略文書の重要性は高い。この文書は科学的な準備グループ、CERN加盟国からの様々な指名された代表者(非加盟の各国/地域の代表も含む)らが連携し、ドラフトしたもの。欧州プロセスの1つの重要な特徴というのは、ドラフトから理事会の最終承認を受けるまでわずか数ヶ月であり、そして理事会のメンバーの決定が直接政府を代表するということである。 第二に、「国際的プロジェクト」には地域を越えた大きな影響があり、このプロセスが米国、日本、およびその他の場所で進行中のプロセスに先行することから、すくなくとも先例として、欧州のみならず広い影響をもつのだ。
ルミノシティ・アップグレードを含む大型ハドロンコライダー(LHC)は将来の明らかな優先事項であるが、次世代のリニアコライダーの物理学可能性は戦略声明にもおいてよく認識されている。 関連する言葉は、3月のディレクターズ・コーナーでLyn Evans氏がすでに引用している:
CERNにおいて、LHC以降のプロジェクトのオプションとして、CLICおよびLHCより高エネルギーのハドロン加速器のために、 「CERNは、陽子-陽子と電子-陽電子高エネルギー・フロンティア加速器に重点を置いて、世界的な視野に立って加速器プロジェクトの設計研究に着手しなければならない。これらの設計研究は、世界の国立研究機関、研究所、大学との協力による、高磁場電磁石や高加速勾配構造を含む,活発な加速器開発研究プログラムに合わせなければならない。」
ILCについては、「電子-陽電子コライダー はLHCと相補的となる重要な科学的テーマをもつ。それは、先例のない精度でヒッグス粒子と他の粒子の特性の研究することが可能で、かつ、より高いエネルギーへ拡張することができる。I LCの技術設計報告書(TDR)は、欧州から多くの参加を受けて完成された。日本の素粒子物理学研究者グループが主導して、日本にILCを誘致しようとしていることは、大いに歓迎されるものであり、欧州のグループも参加を熱望している。欧州は、参加の可能性について議論するための、日本からの提案を待ち望んでいる」。
声明の他の部分では、加速器R&D、測定器R&Dの重要性に言及し、またCERN外部のプロジェクトを実行するCERNの役割について議論し、これらの戦略を実行する欧州委員会(EC)の仕事の継続についても議論している。 また、これらの声明は、LC研究者グループにも関連している。
結果として実際に何が起こると思うか?この戦略の影響を受ける少なくとも3つの主な領域がある。CERNの予算計画そのもの、プロジェクトと活動に対する欧州委員会(EC)の支援、いろいろな国家予算プログラムだ。
2014年以降のCERNの予算計画は、進行中であり、これらの声明が現実に反映されているかを見るのが重要である。 鍵となる勧告項目、特に今後10年にわたってLHCのルミノシティ増強を実際の建設プロジェクトにすることは、かなりの資金・人員を必要とするため、バランスをとることは単純ではなく微妙である。 等しく重要なことだが、今後数年にわたって、ECインプリメンテーション・ツールを示す、 Horizon2020プロジェクトが明らかになり、そこに言及されたR&D活動が、優先事項になることになっている。これは、欧州委員会とCERN間の覚書で明記された欧州の素粒子物理学戦略の実現の一部として議論された。 最後に、多くの場合において、国家的優先課題は、どのように研究者グループがこれらのプロジェクトに参加することができるかを決定し、そして、私たちはこのレベルで優先事項を現実に変えるために懸命に働く必要があるのだ。ILCには、さらなるはっきりした願望がある。そのようなプロジェクトに参加する日本からの提案は、実現に向けギアの変更をする次の自然なステップとみなされる。
楽観的には、他の地域的、国家的プロセスが欧州プロセスの結果から大きくかけ離れないと望めるだろう。であるならば、私たちは ― 主にボトムアップ・プロセスのおかげで ― 今後数年で戦略から現実へ移行するのを助ける重要なコンセンサスに達したことになるだろう。2015~16年の新しいLHCの結果は、うまくいけば更なる助言を提供するだろう。しかし、しばらくの間、目標は比較的はっきりとしている。
リニアコライダー研究者グループが、資源を最大限に利用すべく、できるだけ能率的にCLICとILCの間で資源を計画し、使用することができれば、私たち自身も非常に助けられる。加速器のルミノシティ性能研究、測定器と物理学研究、プロジェクト計画・実施研究に関連した全領域で、共通の活動のための非常に大きな可能性がある。現実の世界のもう一つの特徴は、依然として資源には限りがあり、私たちの進歩の速度を決めているということである。
Symmetry magazineより:チェリーパイ・コライダー
(From symmetry magagine:The cherry pie collider)

素粒子コライダーの次のステップは何か?Symmetryはその答えを見つけるために、台所の食品棚に足を運んだ。
すでに世界中にヒッグス粒子のニュースをもたらしたことで祝福されているが、LHCによる発見の長い旅は始まったばかりだ。それでも、LHCの発見について更に詳細に研究すべく、科学者は既に次の巨大加速器(国際リニアコライダー)を計画している。
では、LHCと提案中のILCの違いは何か?なぜ、両方とも必要なのか?
一つには、LHCは周長27キロメートル円形路に沿って粒子を加速するが、ILCは全長約30キロメートルの直線に沿って粒子を加速する。しかし、これは二つ加速器の表面上の違いをざっと見たにすぎない。
これら2つのタイプの加速器は異なる種類の粒子を衝突させる、よって、非常に異なるタイプの情報を提供する。LHCは、クォークとグルーオンからなる、陽子同士を衝突させる。対照的に、ILCは、電子と陽電子(既知の内部構造を持たない点状の粒子)を衝突させる。陽子・陽子コライダーは、新粒子や新プロセスの発見を可能とするが、複雑で分かりにくい。一方、リニアコライダー実験はよりきれいだ。そこでは、LHCにおけるような複雑な破片がない状況で、新粒子や新プロセスを探求できる。
よくわからない?じゃあ、おそらく、この動画が理解の役に立つだろう。LHCで衝突する陽子は、単なる一つの粒子ではない。陽子は各々いくつもの成分(アップクォーク、ダウンクォークとグルーオン)でできている。これを、卵、小麦粉、砂糖、バター、そして、もちろんチェリーからできているチェリーパイだと考えてみよ。パイ同士をぶつけると、興味深いべちょべちょした塊がいくつも飛び散る。しかし、最初の衝突と全く同じべちょべちょの飛び散り状態を再現するのに、あるいは、各パイにまばらにある2つのチェリーの種同士がたまたまぶつかるのを見るまでに‐いったい何回2つのパイをぶつけなければならないか想像するのは難しくなかろう。答えは、何度も何度も何度もだ。そういうわけで、LHCは気が遠くなるような回数の衝突を繰り返すのだ。
一旦、チェリーパイの衝突が生み出した、多くの興味深い現象を見たならば、これらの内で一番面白い反応を更に詳細に見たくなるだろう。つまり、理想的には、2つの成分だけを取り出して衝突させたくなるわけだ―チェリーの種と種―。これぞまさにリニアコライダーがやろうとすることだ。小ちゃな種と小ちゃな種との衝突だ。これはいまだに複雑だが、そこには加速器の壁へと飛び散るバターはないのだ。
パイ同士を衝突させることが新粒子と新プロセス解明に向けた広い視野を提供する一方で、種同士の衝突は、ごちゃごちゃしたパイ全体の衝突データでは見えにくい個別の性質や詳細情報を明らかにする。2種類のコライダーは、互いに依存しているのだ。
これは、村山斉氏(リニアコライダー・コラボレーション副ディレクター)が最近行われた二ヵ国語でのリニアコライダー記者会見中に英語で出したたとえである。彼は日本語では「チェリーパイ」をチェリーパイより日本でポピュラーなお菓子である「大福餅」に代えて説明した。どちらの言語においても、たとえ話の進行は同じだ。2つの大福餅がぶつかると「ビシャッとグチャグチャ」になる。一方、2個の小豆同士の衝突は、はるかにきれいな「プチュン プチュン」だ。
ことは、もちろん、今述べたほど単純ではない。LHCでチェリーパイ全体をぶつけることが何故その種の加速器で新粒子や新物理学を発見するのに非常に有効なのか、伝えきれていない多くのニュアンスがある。―例えば、パイの中の種は、その種を単独で加速することで到達可能なエネルギーより高いエネルギーまで加速できる。同様に、ILCのような線形加速器でただ2つの単純な成分を使うことは、衝突後の計算をはるかに単純化し、その結果、科学者は、非常に高い精度で、衝突で生まれた各々の粒子のエネルギー、運動量、そして軌道を推定することができるのだ。
しかし、このたとえ話は、英語でも日本語でも、考えを伝えている:両タイプのコライダーを混ぜ合わせれば、これまで誰も見たことのない新粒子と新反応を明らかにする可能性のお菓子を焼くことになろう。
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Shangai, China
12- 17 May 2013 -
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Erice, Sicily, Italy
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