LC NewsLine 2013年6月13日号[英文記事]
■特集記事
プレスリリース:次世代加速器建設に向けた準備を整える研究者
(Press release: Next-generation particle accelerator is ready for construction)
国際リニアコライダーの技術設計報告書を公開
東京、ジュネーブ、シカゴ - 2013年6月12日(水)、次世代素粒子物理研究プロジェクト「国際リニアコライダー」の技術設計報告書(5巻組)が完成、公開され、同日にアジア、欧州、米州の3地域で記念式典が開催されました。同設計報告書の国際将来加速器委員会(ICFA)への提出は、式典が最後に執り行われた米国会場で、行われました。ICFAは、高エネルギー物理研究に用いられる粒子加速器の建設、運用に係る国際協力を推進する組織です。ILCは、欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)実験における物理研究をさらに推進するものとして期待されています。この技術設計報告書は、ILCについて、最新の、最も精査された技術設計を記載したものです。
この国際式典は、まず日本の東京から始まり、スイス・ジュネーブのCERN会場に引き継がれ、米国で締めくくられました。各地域では、シンポジウム、一般講演会、レセプションなど、様々な報告書完成記念イベントが実施され、参加した研究者、関係者がこれまでの研究開発の成果を祝いました。報告書の譲渡式は各地域の式典で行われ、各式典の終わりにインターネット上で地域間の「バーチャルな握手」が行われ、次の式典会場へと引き継がれました。
報告書の完成にあたり、ILCチームに感謝の意を表するとともに、このプロジェクトの次のステップへの進捗を楽しみにしています。この報告書は、国際的な活動と協力によって、完成度の高い、大規模な加速器設計が完成したことを示すものです」と、将来加速器国際委員会のピア・オドーネ議長。
「技術設計報告書の公開は、重要な一里塚です。この報告書の作成には、非常に多くの人たちが努力しました。この報告書は、計画実現に向けた説得力のある資料となります。ここに出来上がった技術設計によって、この計画の建設の可能性を自信をもって訴えていくことが出来るようになりました」とILC国際運営委員会のジョナサン・バガー委員長は述べました。
「技術設計報告書は加速器の建設準備が次のステップに進める段階に到達したことを物語っています」と国際共同設計チームのディレクター、バリー・バリッシュ氏。「技術は確立され、R&Dのマイルストーンは達成されました。物理研究の意義は明確であり、明日にでも建設を始めることが出来ます。必要なのは、明確な政治的決断であり、日本がこのプロジェトをホストしてくれる可能性は大きいと思っています」
「LHC加速器でのヒッグス粒子の発見は、ILCの意義をより説得力をあるものにしました。ILCはヒッグス粒子の性質を詳細に調べることが出来ます。つまり、LHC加速器での研究の成功をさらに補強することができるのです」と、国際実験管理組織のディレクター、山田作衛氏は述べています。
「技術設計報告書はILC設計の成熟度、緻密さ、そして堅固さを示す素晴らしい文書です。ILCは、世界の素粒子物理研究の次の最優先事項であるべきでしょう」と、リニアコライダー・コラボレーションのディレクター、リン・エバンス氏。
「技術設計報告書は、長年にわたる国際協力R&Dの成果と、国際共同設計チームに課せられた任務の終了を意味するものです。同報告書には、最適化された技術設計、現実的な実施計画、コストとリスク情報など、ILCを各国政府に提案するために必要な全ての要素が盛込まれています。
報告書に記載された重要な成果として、世界各地の超伝導高周波加速試験施設の建設・運転の成功、超伝導加速空洞の製造法の飛躍的な進歩が挙げられます。ビーム加速には1万6千台の超伝導空洞が必要とされますが、それらの大量生産に向けた計画も立案されました。粒子の衝突現象を捉える二つの最先端粒子測定器の詳細なベースライン設計も含まれています。また、建設地決定に向けた地質や土木工事に関する研究結果も記載されています。
ILC設計の取組みは、新組織リニアコライダー・コラボレーションで引き続き行われます。リニアコライダー・コラボレーションは、エネルギー・フロンティアの2つのリニアコライダー研究プロジェクト「ILC」と「CLIC」を推進します。
国際リニアコライダー(ILC)
ILCは世界20数カ国の100を超える研究所、大学の1000人を超える研究者およびエンジニアが国際協力で推進するプロジェクト提案で、国際共同設計チーム(GDE)が活動の取りまとめを行ってきました。それぞれ電子と陽電子(電子の反粒子)を加速する二つの直線加速器を持つ全長31キロメートルの施設で、高エネルギーの電子・陽電子のビームを正面衝突させます。それらのビームは、絶対温度でほぼ零度まで冷却された装置の中で超伝導加速空洞によって、250ギガ電子ボルトのエネルギーまで加速されます(衝突エネルギーは500ギガ電子ボルトとなります)。電子と陽電子のビームは、測定器の中心で衝突。その衝突回数は7000回/秒にもおよび、新粒子を産み出します。電子・陽電子のビームは「バンチ」とよばれ、200億個の粒子の塊です。衝突反応を効率的に起こすために、衝突させるビームは、極めて小さなサイズ(厚さ数ナノメートル、幅数百ナノメートル)まで絞り込まれます。これらの粒子の衝突反応は、高性能の測定器によって記録され、それらのデータが、例えばヒッグス粒子の詳細な性質やダークマター等の新たな物理研究に使われます。
お問い合わせ:
LCC広報担当 (communicators@linearcollider.org)
参考資料:
- ワールドワイドイベントウェブページ
www.linearcollider.org/worldwideevent - TDR特設サイト www.linearcollider.org/from-design-to-reality
- TDR(pdf)ダウンロード
www.linearcollider.org/ILC/TDR - 画像、映像等 www.linearcollider.org/images/
- ILCに参加する研究所/大学リスト www.linearcollider.org/ILC/The-people/Laboratories-institutes-and-universities
プレスリリース:
■ディレクターズ・コーナー
国際共同設計チーム(GDE)、名実ともに任務を完了
(The Global Design Effort completes its mandate in style and substance)
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2013年6月12日、ILC技術設計報告書(TDR)をPier Oddone氏(将来加速器国際委員会:ICFA,委員長)に手渡す、GDEディレクター、Barry Barish氏。画像:Cindy Arnold氏(米フェルミ国立加速器研究所:Fermilab)。
GDEは、ILCの技術設計を仕上げ、その任務を完了した。昨日のICFAへの技術設計報告書の公式譲渡は、今週、三大陸で開かれた祝賀イベントの最も華やかな瞬間だった。欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)でのヒッグス粒子の発見、ハドロンコライダーを補完する電子-陽電子リニアコライダーの実行可能な設計づくり、そして、この加速器をホストすることに対する日本の関心は、ILCを建設する、私たち研究者グループの希望や夢を後押しする。
過去50年にわたって、3世代の粒子加速器は、素粒子物理学の謎の多くを解明してきた。それは、広範囲物理の発見装置としての陽子・陽子衝突によって、また物理の精密な探針としての電子陽電子衝突によってなされてきた。これらの補完的なコライダーを使った研究を通し、自然界の物質の基本的構成物と基本的対称性について、私たちはあり余る程の発見をとげてきた。 国際リニアコライダーとは、CERNのLHCに対して補完的な電子-陽電子コライダーを建設する私たちの計画を意味している。LCはヒッグスの根底にある物理学の精密研究を可能にし、新しいエネルギー領域の物理学を発見する別の方法を提供する。
そのような電子-陽電子加速器を開発することは、驚異的な挑戦である。電子と陽電子は、陽子の2,000倍軽く、従って、伝統的なコライダーにおいて円軌道で曲げられると、高エネルギーではエネルギーの多くが放射されてしまう。 実際、LEP加速器はそのような放射光により制限され、LHCによって研究されているより高いエネルギー・スケールに到達するためには新しいアプローチが必要だ。この目標はリニアコライダーの開発を促した。それは電子用に1台、陽電子用に1台の線形加速器から成り、互いに粒子ビームを衝突させることを目的としている。 リニアコライダー計画は放射光問題を解決するが、『シングルパス』加速器であることから来る新たな問題を一切合切持ち出す。粒子が加速器を複数回逆向きに周回する円形のコライダーとは対照的に、リニアコライダーのビームは、各加速装置を一度だけしか通過しない。 したがって、これらの加速装置は、非常に効率的に粒子にエネルギーを伝達しなければならない。 そのうえまた、衝突点でビームは一度だけしか交差しないから、必要とされる衝突確率を得るために、非常に高密度の粒子バンチを生成しなければならない。
1990年代にリニアコライダーに向けて野心的なR&Dプログラムが実行された。特に、常伝導技術は、米SLAC国立加速器研究所と高エネルギー加速器研究機構(KEK)、超伝導技術はドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)で研究され、両技術の実行可能性を実証することに成功した。それから、ICFAは、物理の目標を定め、リニアコライダーの設計の基礎技術(超伝導高周波空洞)を選ぶ役割を引き受けた。ICFAはGDEを設立し、R&Dプログラムと加速器設計活動を主導するために、2005年に私をGDEのディレクターに任命した。
私たちは、それから、次期コライダー・プロジェクトの技術設計を開発し、文書化するという究極の目標を持って、真に国際的な共同研究グループをつくった。いまやそのステップが達成されたのだ!GDEは、今週、ワールドワイドイベントで5冊のTDRをICFAに提出した。 ILCのTDR設計は、技術、加速器設計、コストについて徹底的にレビューされた。私たちは、いまや、次世代の巨大粒子加速器を建設する政府への提案の基礎として使われる設計を持ったのだ。
GDEそのものはちょっとユニークな『実験』だった。GDEは、中心となる研究所も、主導する研究所も存在しない、世界的な共同研究グループとしてつくられた。成功するために、世界中の高エネルギー研究所にちらばったプログラムに対する非常に良い支持と監視を必要とした。私たちは、ICFAとその小委員会から一貫性のある科学的、技術的助言を、同様に、財政担当者会合(FALC)からはマネジメントと財政的アドバイスを受けた。FALCはまた、共同研究グループの管理・運営、一連のツール(文書とデータ管理システムのような)の開発に使われる小額の共有資金も提供してくれた。
しかし、GDEの本当の成功は、このプロジェクトに専念した加速器と素粒子物理学者チームの才能の結集、専心、激務によるものである。彼らはTDRの著者である。私は彼ら全員に感謝しているが、本日、私は特にGDE役員会(EC)に注目し、感謝したい。ECはGDEのリーダーとして最初から私とともに働いてくれた。この専門グループは、GDEの分散した仕事を実施するために、過去8年間週に一度、テレビ会議を使って完璧に近い出席で会合を行って来た。それに加えて、2-3ヵ月ごとに世界各地で対面の会議を行ってきた。 このECは、素晴らしい安定性を持ち、そして、驚くほどに、一度も正式な採決もなく!技術的問題、共同研究の方針や戦略的な質問について多数の重要で、時々論争の的となる決定をしてきた。
私たちは、私たちが達成してきたもの、そして、TDRで文書化し、ICFAに手渡したことをとても誇りに思っていると、みなを代弁して言いたい。しかし、結局本当に重要なことは、この設計を現実の加速器プロジェクトに変えることである。 私たちはいまLyn Evans氏とリニアコライダーコラボレーション(LCC)にバトンを渡した。LCCは新たなリーダーシップと実質的な連続性の両方を持つ組織だ。私は、LCCの前途を祝福し、日本人と協力して働いて、リニアコライダーの実現に向けて次世代の大きな一歩を踏み出すことができると確信している。
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編集部から注意書き:ILCの歴史とILCの人々については、「国際設計の効率-グループ革命の物語」をご覧下さい。あなたの思い出もここに加えてください!
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XXVI International Symposium on Lepton Photon Interactions at High Energies (2013 Lepton Photon Conference)
UCSF Mission Bay Conference Center, San Francisco, CA, USA
24- 29 June 2013 -
IHEP XXIX-th International Workshop on High Energy Physics
Protvino, Russia
26- 28 June 2013 -
International Conference on High Energy Physics (ICHEP 2013)
Zurich, Switzerland
30- 31 July 2013
■今週のビデオ
ワールドワイド・ビデオ
(Worldwide video)
トンネルを見通す(Tunnel vision)5月末にハンブルグのDESY研究所で開催されたECFA LC2013ワークショップの会期中、LCのマネジメントや土木と加速器測定器インターフェースの専門家は、1週間前に公式に建設が終わったばかりの次世代欧州X線自由電子レーザーXFELのトンネルを視察した。DESY研究所と欧州XFELチームは、新しいトンネル内で式典を行い、独特の雰囲気がある明りと音楽で建設作業の終了を祝った |
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