LC NewsLine 2013年7月11日号 [英文記事]
■世界の各地より
SiDに向けて:革新的カロリメータをテストする
(On the way to SiD: testing a novel calorimeter)
米SLAC国立加速器研究所(SLAC)、提案中のSiD測定器に特化した電磁カロリメータ(ECAL)のビーム試験の準備中
|SLACの電磁カロリメータ・プロトタイプの全体図。この図に示されているように、プロトタイプは深さ方向にはECAL実機と同じだが、実機とは異なり、横方向にはセンサー1つ分の幅だけである。図中では見えないが、センサーは六角形の茶色のケーブルの裏側に位置している。画像:Marco Oriunno氏。
今回の最初の試験はカロリメータの一部を使った試験であるので、実は「ビーム試験」の試験とみなせるものであった。SLAC、オレゴン州大学、UCデイビス、米UCサンタクルツからなる共同研究グループの研究者らは、ビーム、そしてカロリメータのセンサーおよび信号処理回路についてのあらゆる初期の問題の洗い出しをしたいと思っている。彼らは、7月23日に最初のビーム試験を実施予定で、年末までに二回目の「本」試験を完了することを目指している。
「(最初の)ビームテストは、次のステップがどのようなものになるのかを知るのに十分な程度に必要な物を集める焦点としての役割を期待したものです」と、SLACの研究者であり、SiD役員会のメンバーである、Marty Breidenbach氏は語った。「今回のテストでは、カロリメータとしての良い性能は期待していませんが、問題が何であるかを見ることができると思っています」
このシリコン・タングステンECALの研究は、SLACがまだ次世代リニアコライダー(NLC)設計に向けて研究していた、2004年のILC技術の選択前に始まった。その間の主要な進捗は、粒子のエネルギーを電子信号に変換する電流センサー、そしてその信号を処理する読み出し回路の開発に関するものだった。
現在のSLAC ECALシステムは、SiD(ILCで2つ提案されている測定器のうちの1つ)に必要とされるECALのプロトタイプだ。2台の測定器は、いずれも粒子フローと呼ばれるアルゴリズムを使って、ILCで電子と陽電子が衝突する際に生成される粒子のジェットのエネルギーの識別・測定を行う。ECALシステムの役割は、特定の粒子 ― 光子、電子、陽電子 ― がカロリメータに入射した際のエネルギーと方向を測定することだ。ECALは異なる粒子の位置とエネルギーを識別するために、非常に高い空間分解能と良いエネルギー分解能を持たなければならない。
SLAC ECALには、コンパクトさ、費用対効果のよさを保ちつつ、要求される高い分解能を達成するため、いくつかの革新的な特徴がある。これらの特徴のうちの2つはセンサーの小さなピクセルサイズであり、カロリメータのタングステン・プレート間のセンサーが置かれる小さな隙間である。センサーは各々1024ピクセルからなり、テスト・カロリメータの隙間はわずか1.25ミリメートルである。ちなみに目標はこの間隙を1ミリメートルまで小さくすることである。ピクセルサイズと隙間を小さくしておくと、カロリメータ内にエネルギーを落とす個々の粒子をより容易に他の粒子と識別することが可能となる。
そのうえ、ECALの読み出し電子チップは、直接、センサー)に取り付けられる。その結果、分厚い信号ケーブルの必要性をなくし、スペースを節約できるのだ。
これらの電子チップをバンプ・ボンディングとして知られる方法でセンサーに接続することは、ビームテストに向けたカロリメータの準備にあたっての最近の挑戦のうちの1つであった。実際、この挑戦はカロリメータ・プロトタイプが最初のテストの時点においては、そのごく一部分、センサー数で言って最終的に31個になるうちのわずか12個に限られることとなる1つの理由だ。
ビームと信号処理回路の機能をテストすることに加え、研究者はカロリメータの信号対雑音比を評価するために、最初のテストビームを使う予定である。
「これら、私たちが扱うのは非常に小さな信号です」と、Breidenbach氏は語った。「私たちは、すべてがこの低い信号レベルで機能するかどうかを調べなければなりません」
最初のテストは、SLACの線形加速器干渉性放射光源(LCLS)レーザーからとり出される、5パルス/秒のビームを使って、SLACのエンドステーションAで行われる。
このエンドステーションAテストビームは電子と陽電子が衝突するILC衝突点から出てくる粒子群に類似した粒子ビームを提供する。測定器と加速器要素を開発するために、テストビームは2モードで機能する。衝突点から来るビームの様に、使われるモードでは、パルスにつき数個の粒子だけが含まれている。
「他のテストビームで(このカロリメータを)テストするのは難しいのです」と、Breidenbach氏。そして、ILC型パルスではなく、連続した粒子の流れを提供するビームについて言及した。「ECAL用の電子回路は、ILC向けに非常によく最適化されてきました」
7月のテスト終了後、研究者は残りのセンサーを加え、ECALの調整を行う。
「それから、実際の運転に向け、私たちはカロリメーター性能を測定するのに興味があります」と、Breidenbach氏は語った。これらの測定には、空間分解能とエネルギー分解能に加えて、センサー全体にわたる信号の均一性も含まれる。
「私はこれはSiDのための必要な実証であると考えています」と、Breidenbach氏がビームテストについて語った。
クライオモジュール2、テイク2
(Take two for cryomodule 2)
米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)、7月に冷却準備完了予定のクライオモジュール2(CM2)を再インストール
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CM2として知られるクライオモジュールの修理と再設置で、米国のFermilabの研究者達は、ILCのR&D目標(タスクフォース「S1」と名付けられた)、すなわち、ILCの加速勾配仕様でクライオモジュールを運転するという目標、の達成に向けた道に戻った。
当初FermilabのNML施設の先端超伝導試験加速器(ASTA)の一部として2012年5月に設置されたCM2は、ILCの仕様を満たすことが期待された空洞を備えた米国で作られた最初のILC型クライオモジュールだ。しかし、クライオモジュール内で検出されたヘリウム漏れは、2013年4月までプロジェクトを停止させ、CM2はNMLに再インストールされた。
「私たちは、今月CM2冷却の準備ができると考えています」と、プロジェクトに参加している技術者Jerry Leibfritz氏は語った。「そして、その後、私達は空洞のテストを開始します」
ILCプログラムのS1の目標を満たすために、クライオモジュールの8台の超伝導高周波(SRF)各空洞の平均加速勾配は、据え付けと冷却後、1メートルにつき少なくとも31.5メガボルト(MV/m)に達する必要がある。
S1グローバル実験として知られる国際的な共同研究グループで、国際共同設計チーム(GDE)は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)で2010年10月にこの目標を満たすための試みを行った。彼らは、Fermilab、ドイツ電子シンクロトロン研究所、イタリア国立核物理研究所、KEK(日本)、SLAC(米国)から持ち寄った加速要素を結合し、2台の短い4空洞クライオモジュールをつくり、さらにそれら2台を結合して1台の8空洞クライオモジュールをつくった。。1台の空洞がきちんと機能しなかったため、7台の空洞は設置前に30.0MV/m、冷却後の同時運転時には、26.0MV/mの平均加速勾配を達成し、目標まであと少しというとろだった。S1グローバルはILC仕様に近い性能でクライオモジュールを運転することが可能であることを示し、そして、Fermilabの研究者達はCM2が必要条件を満たすことで更に一歩前進をすることを望んでいる。
その年の初めに、8台の企業が製作した9セル1.3ギガヘルツ(GHz)のSRF空洞は設置前テストで31.5MV/mの加速勾配に到達する能力に基づいて選ばれたため、CM2の空洞は個々には加速勾配目標をすでに満たしている。CM2を運転する努力を先導する研究リーダーであるElvin Harms氏(Fermilabの工学物理学者)によると、横置きテスト(最終的な個々の空洞のテスト)は35MV/mに達した。8台の成績のよい空洞が選ばれた後、Fermilabチームはクライオモジュールの中で空洞をつなぎ合わせた。それから、FermilabのNML施設に置かれた。
しかし、ヘリウム漏れが発見されたとき、そのクライオモジュール全体はNML施設から取り除かれ、修理のために研究所の産業複合ビルに持っていかなければならなかった。幸いにも、Fermilabチームは、冷却を試みる前に、漏れを発見した。
「私たちがそれを冷却しようとしたならば、絶縁真空にヘリウムを漏らし、冷却を維持しておくことができなかったでしょう」と、Leibfritz氏。「運転することすらできなかったでしょう」
NML施設にCM2が戻って以来、運転に向けSRF空洞を準備するために、Fermilabのエンジニアは、それを加速器の電子ビームの最終的な軌跡に合わせ、クリーンルームでの真空作業を完了した。全ての空洞は常温でのカップラー調整を経た。すなわち、それは冷却後、空洞に高周波電力を提供する装置のテストを含んでいる。残る全ては低温のパイプの溶着と圧力テストを終えることだ。そして、それは2ケルビンの運転温度にCM2を冷却するためのヘリウムと窒素を供給する。
いったん冷却されると、空洞は31.5MV/mの期待されるS1目標に到達するかどうか見るために試験が行われる。SLACでつくられた導波管システムにより、そのテストのための高周波電力は、同時に、一つのクライストロン・ソースから全8台の空洞まで届けられる。
少しの減少も理想的でないが、Harms氏は、設置前に測定された35MV/mの加速勾配から数パーセントの低下があるかもしれないと語った。S1目標の達成をテストすべく、チームはまず31.5MV/mまで空洞の性能を測定する。このテストが終了した後、実際的な制限を決定する電力を増やすことを検討する。
「私たちは、非常に控え目に加速勾配をあげるつもりです」と、Harms氏。「空洞にダメージを与えるようなことは何もしたくないのです」
CM2は、Fermilabが製作した2つ目の8台空洞クライオモジュールだ。最初のクライオモジュール(CM1)により、Fermilabの研究者達はクライオモジュールをつくり、そして運転する経験を積んだ。それは、昨年、CM2に置き換えられたのだ。
「CM1が高い加速勾配を目指すものではないし、出ないことも分かっていました」と、Leibfritz氏。「ここでCM2を保持していくつもりです。それは、私たちの試験加速器用の最初のクライオモジュールとなります」
CM2はFermilabの先端超伝導試験加速器のほんの一部であり、超伝導線形加速器は、当初ILCプロトタイプとして考えられた。
最近、Fermilabの科学者とエンジニアは、試験加速器用の光電陰極電子銃を立ち上げている。彼らは、最近、ゆくゆくは加速器にビームを提供する最初の光電子を生成した。
「私たちの年末までの目標は、完全な入射器を通じて、クライオモジュールまでビームを送ることです」と、Leibfritz氏。「それから、うまくいけば、来年、クライオモジュールにビームを通したいです」
S1の後、ILCプログラムのS2目標は全ILC RFユニット、すなわち、3台のクライオモジュールから成るユニットのテストだ。FermilabのNML施設では、線形加速器を収めるコンクリート製遮蔽の拡張工事が最近完了したため、最大6台のクライオモジュールが収納可能だ。
「CM2は、正にILC実現に向けた更なる一歩です」と、Harms氏。「私たちが、複数台の空洞のクライオモジュールを接合し、さらにそれらを機能させることができるというのは、もう一つのデータ点なのです」
米素粒子物理学の方向の舵取り
(Steering the direction of the US high-energy physics)
| リニアコライダーの実現のためには、米国からの重要な貢献は欠かせない。ILCプロジェクトが米国の高エネルギー物理学戦略にはっきりと盛り込まれることが重要である。
米国戦略を作り上げる作業は、いくつかのプロセスにより現在進行中である。まず、高エネルギー物理学審議会(HEPAP)の施設小委員会は、今後10年以内に開始される可能性のある(正確には「CD1承認」)1億ドル以上の巨大プロジェクトの検討を行った。その小委員会はILCに高い評価を与えたが、これははじまりに過ぎない。長期間にわたる研究者グループの計画プロセス ― いわゆるスノーマス・プロセス ― は、約15のワークショップを経て、7月29日から8月6日まで、ミネアポリスで開催される『ミシシッピ川のスノーマス』ワークショップで一つの頂点に達する。その次の週には、米国物理学協会素粒子物理学部門(DPF 2013)の会合が開催され、スノーマス・プロセスの結果はここで発表される。最終報告は、9月末に公表される予定だ。
スノーマス・プロセスの結果を入力とし、HEPAP素粒子物理学プロジェクト優先順位委員会(「P5」と呼ばれる)は、10-20年のタイムスケールで実行可能な戦略プランを形成することを目指している。そのようなプロセスは2008年にもなされ、それは米国の政府が高エネルギー物理学戦略を決定するにあたり、高エネルギー物理研究者たちがなしうる重要な意見表明の一つであった。P5の審議に平行していくつかのタウンミーティングが行われる予定で、そこでは研究者グループが更なる意見表明をすることが出来る。
スノーマス・プロセスの結果は、米国以外からも注目されている。日本の国会議員グループが、ILCを日本がホストした場合に米国の参加を求める手紙を書いた際、当時のDOEの科学室長である、William Brinkman氏は、「これらの議論や研究者グループの意見表明が完了すれば、私たちはHEPプログラムにおける将来の米国の優先順位についてより立ち入った話が出来る」と、スノーマスとP5プロセスに言及し、回答した。日本政府は、プロセスの重要性を非常によく認識している。
最近更新された、欧州の素粒子物理学戦略文書ではっきり述べられているように、「LHCと相補的で、先例のない精度でヒッグス粒子やその他の粒子の性質について研究でき、エネルギーのアップグレードが可能である電子-陽電子コライダーには強い科学的意義がある。」現在のスケジュールでは、ILCはLHC(HL-LHC)の高ルミノシティ・アップグレードと並行して運転し、ヒッグス粒子の精密測定を行う。しかし、精度の数字だけではILCの実力を語るのに十分ではない。その実験的、理論的な単純明快さに加え、電子-陽電子衝突の初期状態だけでなく中間状態さえも制御できる能力は、新たな物理現象による微妙な効果を解明するかもしれない。
ILC技術設計報告書の仕様は控え目なものである。そして、ILCの消費電力値を現実的な範囲内で増やすことでルミノシティを大きく向上させることが可能である。ILCはまた、LHCが今後数十年でこのエネルギー領域で発見するかもしれない粒子や現象を調査するために、1テラ電子ボルト(TeV)を越えてエネルギーを増せる可能性があり、LHCで発見が不可能である新たな現象を発見するかもしれない感度を持つ。実際のデータを解析しながらLHCはどんどん学んでいる。リニアコライダーもまた確実に学習曲線をたどるだろう。その結果、期待できる精度は、両加速器とも現在の予測よりよいものとなるだろう。2台の素晴らしい加速器が同時に稼働することで素粒子物理学を活発にし、さらに自然科学全般の分野も盛り上げ、世界中の若者を刺激することになるというのはなんと素晴らしいことであろうか。
スノーマス・ワークショップは、北米以外からの研究者の参加も奨励されているオープンなものである。米国の高エネルギー物理学がどの方向に向かうかは世界的な影響があるため、これは当然のことである。米国は、これまでずっとILC加速器と測定器の設計の推進力であった。私たちの多くはスノーマス会合に米国外からゲストとして参加し、そこでの興味深い議論と、米国がどのように将来このリーダとしての役割を続けることができるかを知ることを楽しみにしている。
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Snowmass on the Mississippi (CSS 2013)
Minneapolis, Minnesota, USA
29 July- 06 August 2013 -
POSIPOL 2013
Argonne National Lab
04- 06 September 2013 -
16th International Conference on RF Superconductivity (SRF 2013)
Paris, France
22- 27 September 2013 -
ILD meeting
Cracow, Poland
24- 26 September 2013
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Summer camp on ILC accelerator and physics / detectors 2013
Toyama, Japan
20- 23 July 2013
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