LC NewsLine 2013年7月25日号 [英文記事]
■世界の各地より
ピクセル・パーティ
(Pixel party)
By Marcel Vos (IFIC Valencia, Spain), with help from Igor Rubinsky and Hanno Perrey (DESY, Germany), Carlos Marinas and Theresa Obermann (Bonn University, Germany), and David Cussans (Bristol University, UK)
次世代のピクセル測定器の開発に携わる3つの測定器R&D共同研究グループが、共用のテストビームでシステムのテストを実施した。目標は、今後の多くの測定器テストに切望される新しい機能、すなわち、粒子が通った場所に関する正確な情報のみならず、それら粒子がテスト中の装置を通過した時間の情報をユーザーに提供する、ビーム・テレスコープの制作だ。この開発研究は、欧州連合(EU)が出資するAIDA(欧州測定器・加速器 先進インフラ:Advanced European Infrastructures for Detectors and Accelerators)プロジェクトの一環をなしている。
AIDAプロジェクトの理念は、共通の問題を解決すべく欧州中の研究所の力を結集することだ。いったん問題が解決されれば、解決策は全ての研究者グループが共用できるようになる。AIDAが欧州中のユーザーが利用できるようにした『ビーム・テレスコープ』が好例だ。ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)やスイスの欧州合同原子核研究機関(CERN)に粒子ビームを使った測定器のテストにやって来るR&Dグループは、彼らにとっての生活、すなわち、測定器のビーム試験をより快適にする一群の日用品、すなわち共通のビーム試験基盤施設を見いだすであろう。
もちろんそれは、第1に、ハードウェアである、テレスコープそのものである。新しい測定器プロトタイプの空間分解能を明らかにするためには、入射粒子の正確な基準位置を提供しなければならない。そのために、素粒子物理学者はテスト中のデバイスを上回る分解能を持つテレスコープを必要とする。そして、テレスコープの物質は、粒子の軌道を乱してはならない。後者の条件を満たすのは、CERNの高エネルギービームでは比較的容易だ。しかし、DESYでうまくやるには、センサーを極薄にすることが必要だ。従来、測定器R&Dグループはテレスコープを調達したり製作したりするのにかなりの努力をせざるを得ず、そして、その努力の結果は必ずしもあまり満足のいくものではなかった。
大規模なユーザーコミュニティーに貢献した最初のテレスコープは、EUDETプロジェクト(EU助成金(FP6)の前のラウンドのAIDAの前身)によって提供されたものだ。(http://newsline.linearcollider.org/readmore_20090716_ftr1.htmlも参照)。5年以上の間、MIMOSAセンサーをベースとするこのテレスコープは、多数のグループに役立った。いくつかの複製品が製作された。これは、このテレスコープの成功を良く物語っている。
しかし、AIDAはテレスコープ以外にもずっと多くを提供している。柔軟なデータ収集解決法(EUDAQ)により、ユーザーは最小限の努力で自分たちのデバイスをデータ収集システムにつなぐことができるようになった。このシステムの核となるトリガー論理ユニット(TLU)は、生み出された複製品であった。分析ソフトウェア(EuTelescope)は、多数のユーザーを抱えている。
テレスコープに関する責任を負うサブプロジェクトの最初の目標は、テレスコープ・ユーザーコミュニティーに対して継続的な支援をすることであるため、AIDAプロジェクトは、テレスコープが基盤施設として継続使用可能であり、そのうえ、大型ハドロンコライダー(LHC)のLHCbに関係する研究機関により開発されたTimePixテレスコープをサポートすることを確認した。
AIDAテレスコープ・プロジェクトの中心は、テレスコープのアップグレードと拡張である。LHCへの応用に取り組む多くのユーザーにとって、正確な基準位置だけでは十分でない。粒子の正確な到着時間も知る必要があるのだ。位置情報、時間情報の両方を必要な精度で提供可能なただ一つのシステムを見つけるのは難しい。高速応答可能な素子は、空間領域において正確さを欠く傾向にあるか、あるいは、粒子の軌道上に余分な物質を置きすぎるかのいずれかである。両方の要求を満足するために、私たちは2つのテクノロジーを組み合わせる‐空間分解能と薄肉センサーを備えたMIMOSAセンサーは位置情報を、LHCのATLAS実験提供のFE14と呼ばれる特別な測定器は、LHCに必要な構造に時間情報を提供するのだ。
この点で、MIMOSA-FEI4を組み合わせたテレスコープによる2012年の最初のビームテストは、ちょっとしたマイルストーンであった。DESYビームラインのセットアップに関係する要素の写真のコラージュを図1に示す。加速器からの荷電粒子― この場合電子 ―は、最初にMIMOSAセンサーからなる3つの読み出し面(第1トリプレット)を通過し、次に、テストすべき装置、第2 MIMOSAトリプレット、最後に、ATLAS-FEI4アームを横切る。この実験で実験台として働いたユーザーグループは、DEPFET共同研究グループだ。このように、たった1メートルの間に、電子ビームは、測定器の三大R&D共同研究グループから提供された3種類のピクセル測定器を横切るわけだ。
マルチ・テクノロジー・テレスコープのポイントは、各テクノロジーの強みを利用することである。ATLAS-FEI4の正確な時間情報と、(MIMOSAセンサーの)優れた空間分解能を組み合わせることで、両者が持つ力を最大限発揮させるということだ。この複合テストビームは、空間中で非常に正確に粒子軌道をたどり、時間領域で正確な情報を提供できる、汎用でユーザーフレンドリーなテレスコープの実現に対する重要なステップである。いまやこれらの装置の同時読出しに成功したのだから、AIDAプロジェクトの終わりに向け、ユーザーが利用可能な基盤を改良し続けるのが仕事である。
しかし、3年前提案を作成した人々が想定しなかった更なる利点がある。ATLAS FEI4チップは、自己トリガー能力を備えている。チップは、ピクセルの応答に基づいてトリガー信号を出すことが可能だ。プログラム可能なマスクでFEI4ピクセル・マトリックスの応答をマスクして、結果として生じる信号をトリガー論理に入力すれば、非常に小さな領域でトリガーすることができる。トリガー領域の定義は、シンチレータをベースとした従来のトリガーよりはるかに柔軟なものになる; トリガー領域を変えるためにすべきことは、このデバイスに新しいマスクをアップロードすることだけだ。テストすべきプロトタイプがカバーする領域が非常に小さい場合、これは非常に役に立つ機能であることがわかる。
AIDAプロジェクトに関係する研究機関は、DESYとCERNのテストビームでデバイスを試験する多くの測定器R&Dグループによって使われるEUDETテレスコープの後続となるものを開発している。3つの異なるピクセル測定器技術 ― MIMOSA、ATLAS-FEI4、DEPFET ― の合同の読み出しは、正確な基準位置と時間情報を提供することができるより汎用なシステムの実現に向けた重要なマイルストーンである。
Further reading: AIDA-NOTE-2012-005.pdf
水素化物:高品質超伝導RF(SRF)空洞の宿敵?
(Hydrides: the nemesis of high-quality SRF cavities?)
米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)の研究者、水素化物が品質係数を制限する理由についてより理解を深めることでSRF空洞を改善に向け前進

このビデオは、ニオブ金属試料片での水素化物成形を表しています。運転中の加速器環境で水素化物がどのように形成されるかをシミュレーションするために、そのニオブは、それに水素吸蔵が起こることが知られている空洞表面処理手順で扱われ;それから、そのニオブは極低温(160ケルビン)まで冷却されました。時間とともに、水素が周囲のニオブから拡散し、既存の水素化物と結合して、水素化物は増大する。これらの巨大水素化物は、水素Q病(水素化物によって超伝導空洞の品質係数が劣化する超伝導空洞の「病気」の俗称)の原因となる。写真:Fedor Barkov氏、ビデオ:Julianne Wyrick氏。
水素は、それが空洞の品質係数(Q値)と加速勾配を制限する非超伝導水素化物をつくる可能性があることから、超伝導高周波(SRF)空洞の敵と成り得ることが長く知られていた-つまり、ILCの実現には、これらの認識が必要とされます。 ― 。
Fermilabの研究者は水素吸蔵の背後にある完全な物理学を理解するうえで更なる前進をとげた。これは空洞表面処理の改善に対する重要なステップである。
ニオブ製SRF空洞壁の中の水素はニオブに付着することができる。そして、既知の品質係数(Q値)制限 ― そして脅威と思われる状態:水素Q病― をもたらす水素化物と呼ばれる合成物を形成する。適切な温度で空洞を焼成することがそのQ病を「治療する」のに有効に用いられる一方で、科学者は水素化物形成の詳細をこれまで理解していなかった。過去2年にわたって、Fermilabの研究者Alex Romanenko氏とFedor Barkov氏は、水素化物がどのように形成されるのかを直接観察する技術を開発してきた。この技術は、彼らに高電界Q値スロープ(高電界におけるQ値の傾斜)と呼ばれる、もう一つの水素化物関連の制限をモデル化することを可能にし、そして、同時に行われた実験は、この状態は、どのように、ある異なる焼成によって「治療される」か、について光を投げ掛けた。
「根本的な理解というのは、性能改善に向けた最も簡単で最も自然な道筋です」と、Romanenko氏は語った。彼はFermilabの超伝導物質部に所属し、この研究を導いた人物だ。「問題の背後にある物理学を理解するとすぐに、それを克服する方法に関する戦略を開発することができるのです」
ILC空洞は、ILCに必要とされる高い加速勾配に効率的に到達するために、高Q値を必要とする。加速勾配は、ある特定の距離に亘って粒子へ移されるエネルギーに言及する。Q値、あるいは空洞の無負荷品質係数は、空洞の消費電力に関係がある:SRF空洞のQが高ければ高いほど、空洞がある特定の加速勾配を達成するために要求される電力はより低くて済むのだ。したがって、Qが高い空洞は、より小型で費用対効果がよい加速器へとつながるのだ。ILC空洞は、少なくとも80億のQ値と1メートルにつき31.5メガボルトの加速勾配を持たなければならない。
しかし、空洞がその極低温の運転温度に冷却される時、水素が水素化物をつくるために凝集することが許される条件になってしまうと、空洞表面処理の間に空洞のニオブ壁に入った水素は、そのQ値を制限することができる。
水素Q病は、巨大水素化物がSRF空洞の内面上でできるとき起こるQと加速勾配の大きな減少となる。その減少は、水素化物が残りの空洞のように超伝導でなくて余分の表面固有抵抗を引き起こすために起こるのだ。科学者達は、600-800℃で数時間空洞を焼成することが病気を治療し、防ぐことができるということを過去に学んでいる;実際、この焼成は、ILC空洞表面処理手順の一部である。しかし、研究者達は空洞ニオブでQ病を引き起こす水素化物を実際に観察したことは一度もなかったし、その構造と形成についてはほとんど何も知らなかったのだ。2012年に、Romanenko氏とBarkov氏による水素化物の直接的な観察は、文字通りその過程に光を投げ掛け、クライオステージ(含水試料を凍結観察するための試料ステージ)と連結したレーザー共焦点走査型顕微鏡を使ってリアルタイムに水素化物の形成の画像を捕えることに成功した。
「私たちは制限を引き起こすことが知られているものを直接観察したが、決して実際に見たわけではありませんでした」と、Romanenko氏。
しかし、水素Q病は、水素化物に起因する唯一の空洞の問題ではないかもしれない。Q病を防ぐために600-800℃での焼成を経た後の空洞でさえ、水素はまだ空洞内面に最も近い100ナノメートルの層の中に存在している。Romanenko氏のグループは、高電界Qスロープと呼ばれるもう一つの状態をより小さな水素化物の形成に結び付けるメカニズムを提案した。これらの水素化物は、ある特定の磁場レベル(およそ100ミリ・テスラ)まで、超電導特性を維持するだけである。水素化物が超電導特性を失うと、水素Q病でそうであるように、それらの水素化物は空洞の加速勾配とQを制限することができるのだ。2013年に、Romanenko氏のチームは、水素化物がどのようにこの品質限界条件を引き起こすかについて示すモデルを発表した。
Q病の様に、今回は48時間120℃の焼成により、高電界Qスロープは取り除かれる。この焼成は、ILC空洞表面処理手順の一部でもある。研究者達は焼成が機能するということは知っていたが、どのように機能するかについては理解していなかった。陽電子消滅分光法と呼ばれる技術を使って、英バース大学、カナダ西オンタリオ大学と共同研究するRomanenko氏と彼のチームは、その焼成の前では、水素原子は空洞のニオブ原子の間に位置し、冷却時において、自由に動いて水素化物を形成することを発見したのだ。その焼成中においては、ニオブ結晶構造でのニオブ原子の欠損や空乏が、表層の近くでつくられる。これらの空乏は水素と結び付き、そして水素は高電界Qスロープを引き起こすであろう小さな水素化物を形成できないのだ。このグループは、先月、この発見の詳細についての論文を公開した。
Romanenko氏によると、120℃焼成のメカニズムの理解は、研究者達が空洞性能に付加的な利益を持つかもしれないQ病や高電界Qスロープを防ぐ方法について考えることを助けることができる。
「この研究は、実際に、私たちの高電界Qスロープの基本的な理解を深めます」と、Camille Ginsburg氏は語った。彼女は、FermilabのSRF技術部の副部門長をつとめ、Romanenko氏の水素化物研究に関する、FermilabのSRF空洞コーディネータである。「その基本的な理解が持てれば、私たちは空洞表面処理をより能率的に計画することができるし、コストを減らす可能性もあります」
水素化物とその役割についての全ての新たな情報にもかかわらず、それらを理解しようとする研究者達の探索が終わったというわけではない。Romanenko氏によると、次のステップは、大きな水素化物でしたのとちょうど同じように、極低温で小さな水素化物を視覚化することである。
「私たちが更なる技術的進歩(例えばILCのためのより高い加速勾配空洞さえ)を可能にしたいならば、加速器応用のためのSRF材料の根底にある物理学を理解することが必要なのです」と、Slava Yakovlev氏(FermilabのSRF技術部長)は語った。「これは、基礎的な超伝導RF(SRF) のR&Dがどれくらい重要かという、更にもう一つの実演説明なのです。」
テクノロジーの挑戦
(The challenge of technology)
難しいテクノロジーの勝利は、高エネルギー物理学のDNAと、科学を可能にする加速器の中にある。ここ数十年間増加してきたビーム・エネルギーと強度は、素晴らしい科学結果を引き起こしただけでなく、多くの非関連分野で結果としてスピンオフとなった技術革新の流れももたらしてきた。 最も突出したもののうちの1つ-多分ウェブを除けば-高電界加速器電磁石のための超伝導体の開発とその結果としての最新の医学画像処理への使用である。ILCはこの伝統に従っており、主線形加速器の基礎である、超伝導高周波(SRF)技術は、多くの現代の加速器で使われている。光源、自由電子レーザー、高強度直線加速器、高エネルギー・コライダーなどなど。 しかし、先端技術は、一般にリスクを意味し、そして、テクノロジーの必要が明白な一方で、より明らかでないのはどのようにその使用を最適にすべきかということだ。 たとえばSRF空洞の加速勾配の選択である:設計加速勾配が低すぎると、直線加速器は必要以上に長くなり、コストは増加する;設計加速勾配があまりに高いと、重心系エネルギーが必要より低くなってしまうか、あるいは、多くの空洞が性能仕様を満たすことがでずコスト超過と時間遅延をもたらすことになる。
ILCのような超巨大プロジェクトでは、これらの基本的な決定を正しく行う際に、多くの力が働く。 テクノロジーを確立する古くからの手法は、R&Dプログラムを通してである。 R&Dは、過去5年にわたる国際共同設計チーム(GDE)プログラムの主な部分であった。 R&Dフェーズの終わりでは大部分の作業について、技術設計を凍結し、プロジェクトは建設段階へと移行した。このアプローチは原則としては有効だが、これはILCにとってそんなに単純なことではない。 巨大国際プロジェクトの初期段階では全体的スケジュールが正確には分かっていないというこがよくあり、R&Dと建設の間の境界は、不確かである。今日、ILCはそのような状況にある。 クライオモジュールと空洞加速勾配の表面処理の技術的進化はいくつかの研究所で継続され、私たちはこれらの活動から最大の利益を引き出したいと考えている。 しかし、私たちが選択するどんな変更も、後になって問題になることがないと確信している必要がある。 GDE R&Dプログラムの(成功した)目標のうちの1つは、技術的なリスクを確認し、軽減することである。 技術設計報告書ベースライン設計中の、コストを左右する主要な要素の設計を凍結することを選ぶならば、プロジェクトのリスクを最小にするが、次の数年で行われるいかなる技術的な改善も見逃してしまうだろう。 しかし、技術変更を取り入れることは、後日の思いがけない困難のリスクを明らかに増やすことになる。 テクノロジーの激しく変化する例は、今日、一つのGoogle検索要求が全てのアポロ月プログラムより多くの処理能力を使うということに見られる。 誰も月軌道にサーバ基地を置くことを提案しないだろうが、それはテクノロジー決定を遅らせることがなぜ時には有益でありえるかについて説明する。
ILCのコストを左右する主要な要因はクライオモジュールである。クライオモジュール設計変更は近々検討されるだろう。 現在の設計が技術仕様を満たすことが示されているのだから、私たちは、どんな新しい機能でも採用は慎重にするつもりだ。そのような進化を企図する私たちの能力は、プラグコンパチブルの概念によって、大いに助けられた。 この特徴は、GDEプログラムの初期のクライオモジュール設計に取り込まれた。これは、個々のクライオモジュール要素を、設計の他の部分の変更を必要とせずに、他の「プラグコンパチブル」のクライオモジュールと取り替えることを可能にする。 他の要素への影響を最小にし、したがって技術的なリスクも最小にするような設計変更をどのようにするか、それについての単純な基本原則を、プラグコンパチブルの概念は与える。現在フルに進行中の欧州X線自由電子レーザー(XFEL)クライオモジュールの建設で、今後数年の間に、ILCプログラムに有益な教訓が得られそうである。 これらの活動から最大の利益を得るために技術的な柔軟性を維持することは、挑戦でありまた必要でもある。
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Snowmass on the Mississippi (CSS 2013)
Minneapolis, Minnesota, USA
29 July- 06 August 2013 -
POSIPOL 2013
Argonne National Lab
04- 06 September 2013 -
LC13 Workshop
Villazzano (Trento), Italy
16- 20 September 2013
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