LC NewsLine 2013年8月22日号[英文記事]
■特集記事
ILCタトゥー
(ILC Ink)
米国ジェファーソン研究所(J-Lab)の夏のインターンはILCにわくわくしている-タトゥーがその証拠だ。
波動関数の方程式から欧州合同原子核研究機関(CERN)の泡箱画像にいたるまで、物理ファンが身に着けるタトゥーは幅広い。しかし、ILCのタトゥーはあったか?この夏J-Lab研究所でインターンをした物理工学の学生、Gabriel Palacios氏のおかげでILCのタトゥーを見ることができる。
現在、メキシコシティ・メトロポリタン大学で勉強するPalacios氏は、次世代ILCの電子銃設計に取り組むJ-Lab研究所の電子銃グループのインターンに選ばれたこの夏、ILC加速器設計の画像を右腕に貼付けた。
この数年間、Palacios氏は学士号取得を見据え、お祝いのタトゥーを身に着けることを検討していた。学士号はあと数ヶ月で受ける予定だ。そして彼がILC関連のインターンシップを見つけたまさにその時、ILCのタトゥーに決めた。
「物理を勉強し始めた時からコライダーの研究をするというのが、私の主な目標のひとつでした」とPalacios氏。「ここJ-Lab研究所にいるというのは、その夢のまさに第一段階を達成したということです」
夢は高校時代の物理の先生がきっかけだった。先生は、人口5万人の小さなメキシコの故郷では聞いたこともないコライダーの話で、Palacios氏を魅了した。
「彼は魔法のの話をしているかのようでした」と、Palacios氏は語った。
数年後の2012年12月、Palacios氏はメキシコの物理学会の素粒子物理学部が主催する、夏の学校のプログラムに応募した。教授と研究者からなる委員会は、国際的な素粒子物理学研究所へのインターンに、メキシコ中から集まった4人の他の物理専攻の大学生とともに、Palacios氏を選出した。Palacios氏が配属された研究所は、米国バージニア州ニューポートニューズにあるJ-Lab研究所であった。
「彼の知識やモチベーション、率直で自信に満ちた個性に誰もが感心していました」と、5人の学生を選ぶのを手伝った J-Lab研究所の自由電子レーザー研究プロジェクトの科学者、Carlos Hernandez-Garcia氏は語った。
J-Lab研究所で、Palacios氏は、同研究所の素粒子加速器、連続波電子線加速器施設(CEBAF)の為の電子ビームの生成を担当する電子銃グループで働いた。電子ビームの生成には、電子銃が必要だ。電子銃では、レーザービームが光電電陰極を照らし、電子をたたき出す。そして電子は一群に集められ、電場を使って加速される。Palacios氏がインターンとして参加したプロジェクトの目的は、CEBAFの電子銃にも、ILCの電子銃にも有益な、新型の光電電陰極を開発することだった。
「彼は本当によく働いてくれました。彼が本当に私を驚かせてくれたのは、ILCタトゥーを腕に施した事ではなく、その情熱的な仕事ぶりでした。」と、Matt Poelker氏(J-Labの電子銃グループのリーダー)は語った。
J-Labでの10週間が終わった今、Palacios氏は学士号を取得し大学院に通う予定だ。将来ILC関連のプロジェクトに取り組むことが、彼の最初の夢の次のフェーズだ。
「それは、世界中から多くの人々が集まり、宇宙がどんなものであるかを知る為の巨大な手掛かりを与える驚くべきプロジェクトに参加することです」と、Palacios氏は語った。
次のタトゥーについてだが、次は素粒子の衝突反応 —胸の中央に描かれた激しい反応— が候補にあがっていると、Palacios氏は語った。
[英文記事]
ILCとCLIC測定器コンセプトの共通点
(Common ground in ILC and CLIC detector concepts) |コンパクトリニアコライダー(CLIC)とILCは、別の方法で粒子を加速し衝突させる。にもかかわらず、開発中の測定器概念には、多くの共通点がある。
CERNの物理学者Dominik Dannheim氏は、CLICの測定器設計は、ILCの測定器設計をベースに、いくつかの変更を加えたものであると説明する。「数年前、CLIC測定器の設計を開始した際、わざわざ一からやり直そうとは思いませんでした」と、Dannheim氏。「承認されたILC測定器概念は、私たちがCLIC用測定器の設計を始めるにあたって優れた出発点となりました」
重要な違い
CLICおよびILCに携わる科学者たちは、いずれも、高い精度の測定を可能にする汎用測定器の実現を目指している。しかし、これら二つのコライダーは、いくつかの動作パラメータにおいて非常に異なっており、そのことが様々な測定器要素の設計に重要な差異となって現れる。CLICが最高3テラ電子ボルト(TeV)で衝突する一方で、ILCの衝突エネルギーは500ギガ電子ボルト(GeV)(1TeVにアップグレードするオプションあり)に設定されている。そして、バンチ構造もまた、非常に異なっている。主な違いは、衝突のタイミングにある。ILCでは、電子と陽電子は、ほぼ1ミリ秒に広がって分布するバンチ列が交差するごとに衝突する。CLICでは、これらのバンチトレインの持続時間は、わずか156ナノ秒にすぎない。そのため、CLIC測定器において、衝突バックグラウンドと稀にしか起こらない物理事象とを区別するのはより難しくなる。
CLICは、そのより高いエネルギーのおかげで、より広い範囲の物理を探索できる。しかし、その一方で不要なバックグラウンド事象もより多く生成され、しかも、より短い時間の中で、それらバックグラウンド事象を興味のある現象から分離しなくてはならないのだ。「シミュレーションによって、CLICの大部分の測定器要素にナノ秒レベルの時間分解能が必要とされることが判明しました」とDannheim氏。「この点で、現在のLHCで使用されている測定器と類似していますが、その上、LHC測定器をはるかに超える高い細密度と測定精度を目指しているのです」
バーテックス検出器
衝突点に最も近い測定器要素は、バーテックス検出器だ。ILC概念では、衝突でつくられる短寿命粒子の分解能を改善すべく、衝突点の近くに紙のように薄いピクセル型バーテックス検出器を置く設計だ。
CLICのより厳しいバックグラウンド条件のせいで、衝突点に近い内側の測定器の再設計が必要となった。それにはバーテックス測定器を衝突点からより遠ざけることが含まれていた。CLICの科学者は、この領域の測定器として異なる種類のピクセル検出器、すなわち、薄いセンサと専用の超高速低電力読み出しチップ(CLICpixと呼ばれる)とを結合した検出器を開発中である。このテクノロジーは、信号粒子と重なり分解能悪化を不可避とする、バックグラウンド粒子の数を制限するのに役立つ。最近できた新開発のCLICpix読み出しチップ、そして、50μm厚の薄肉センサの最初のプロトタイプは、CLICバーテックス検出器プロジェクトの重要なマイルストーンとなった。超薄肉センサは、今後2週にわたり、DESYのテスト・ビームテレスコープで詳細に試験される予定だ。
2つの飛跡検出器
ILCのために国際大型測定器(ILD)とシリコン測定器(SiD)という、2つの測定器概念が検討されている。CLICにたずさわる科学者も、ILDとSiD、両方の測定器概念について、評価と変更を行っている。
ILD測定器概念では、アルゴン・ガスで満たされた大型チェンバー ― タイムプロジェクションチェンバと呼ばれる ―が主飛跡検出器として用いられる。荷電粒子が通過すると、周囲のガスは電離する。電離電荷は、その後、電場の中をチャンバーの端へとドリフトし、そこで増幅され、記録される。このタイプの飛跡検出器は、粒子の飛跡の全体をより詳細に見ることができるため、崩壊によりV字パターンを残す長寿命粒子を確認する際に有利である。しかし、タイムプロジェクションチェンバは、信号を集めるのに長い時間がかかり、また、チェンバーそのもののも40立方メートル以上のスペースを必要とする。
SiD飛跡検出器の構成はこれとは違う。SiD測定器概念においては、5枚のシリコンセンサ層を備えたシリコン飛跡検出器によって、粒子との相互作用を最小限に押さえつつ、良い分解能を実現する。このテクノロジーは、また、はるかに高速な応答時間を提供する。ただ、特定の粒子崩壊について詳細な情報を得るのは難しくなるが。将来のCLIC測定器のための選択肢はいまだ開かれている。
イメージング・カロリメータ
CLICのタングステン・デジタル・ハドロンカロリメータのプロトタイプ。
おそらく、CLIC およびILCの測定器設計で最もエキサイティングな要素は、高解像度のカロリメータの使用だ。カロリメータは先例のないチャネル数を誇り、粒子シャワーのこれまでにない精度での測定を可能とする。
「これらは、イメージング・カロリメータです」と、アルゴンヌの科学者、Marcel Demarteau氏は語った。「層ごとに画像を撮影することができるのです。」 このタイプのカロリメータは、現在、電子-陽電子コライダー用の多くの次世代測定器に採用されている設計であり、何百万ものチャネルから流れ出る大量のデータ処理のために必要な埋め込み型集積回路とコンピューティングの技術進歩によって可能となったものだ。
CLICは、カロリメータ概念の大部分をILC測定器と共有している一方で、ハドロンカロリメータに重要な変更を必要とする。具体的には、CLICでつくられる粒子が高エネルギーであるため、能率的にこれらの粒子を吸収するためには、非常に高密度な材料が必要となるためだ。CLICの科学者は、現在、吸収物質材としてタングステンの使用を検討している。タングステンの密度は、これまで一般的に吸収剤として用いられてきた鉄の二倍以上高い。
全体として、ILCとCLICの測定器概念は、挑戦的な技術的課題の多くを共有している。Dannheim氏は、CLICおよびILCに関係している科学者が多くの領域(例えばシミュレーションや再構成ソフトウェア、カロリメータの開発や測定器全体組み立て)で共同研究を行っていると指摘した。「相乗効果の機会がたくさんあります」とDannheim氏。「2つのプロジェクトの技術的な挑戦には違いもあるけれど、みな測定器技術の限界を押し広げる興奮を共有しつつ、素粒子物理学の未来に貢献できる装置を開発しているのです」
リニアコライダーの戦略
(Strategy for linear colliders)
|欧州戦略プロセスに対する昨夏の準備の後-その間にCERN理事会による承認文書にうまくまとめられ-今年の夏は、日本での忙しいILC準備と議論に費やされる一方、米国ではスノーマス・プロセスに費やされていた。 全地域において、リニアコライダー・プロジェクトは優先リストの中で重要であり、リニアコライダー研究者グループの多くの仕事はこれらのプロセスのための文書準備に向けられた。私が理解する限りにおいて、大番狂わせはないようだ。 ILC技術に基づくリニアコライダーに対する物理学的動機は、主にヒッグス・セクターを緻密に描くこと、そして、CLIC技術を用いた、より高いエネルギーの加速器の更なる物理学的可能性には説得力がある。
同じことは、将来、ルミノシティ・アップグレードを含むLHCの完全な開発についても言える。 明らかかもしれないが、それはそれ自身で巨大で大変なプログラムであることは繰り返し言われなければならない。私たちの多くは、ヒッグスを超えるものがいずれはLHCプログラムから現れ、最終的に本当に標準理論を越えて進むことができることを望んでいる。
LCC理事会の大部分の注目はILCに関連した日本で進行中の政治的なおよびサイト選考プロセスにしっかりと置かれているが、私は欧州の戦略プロセスに続いて起こった議論と展開のいくつかに注意を向けたい。すでに今年5月、CERN理事会は、欧州戦略の承認後の最初の予算となる、2014年のCERN予算を承認している。 私たちは、欧州戦略が具体化するのを見ることができるか?結局のところ、戦略書類はすばらしいが、実際の行動はより説得力があるものだ。
LHCルミノシティ・アップグレード・プログラムは、重要な次のCERN建設プロジェクトであり、欧州戦略の最優先事項だ。 ギアの転換は、計画と準備に見える‐そして、予算配分。その計画と分担に関する資金提供機関との議論は、進行中である。 どんなアップグレードでも必要条件である、CERNの長期運転停止は、印象的な努力により予定通りに進んでいる。
戦略の第2と第3のアイテムは、リニアコライダー活動に最も関連性のあるものだ。既存のトンネルでのより高いエネルギーのLHC、あるいは、新しい80-100キロメートルのトンネルでのLHC、または、CLIC技術に基づくリニアコライダーは、次の欧州戦略アップグレードに向けた、ハドロンとレプトンのエネルギー最前線の選択肢として開発されることになっている。これは、これらの加速器の性能、仕様パラメータ、コスト、スケジュール、そして、標準理論を越えた物理学の様々な可能性を比較することができることを必要とする。 そのような共通の努力はちょうど動き出したところで、私の望みは次の半年ほどにわたって組織されていくのを見ることができるということだ。高エネルギー・ハドロン・オプションが大部分の領域において計画の初期ステージにある一方で、CLICの共同研究計画は、新しいCERN資源計画に当てはまる次の期間(2013~2018年)のためにつくられている。 しかし、LHCが既に良好に運転されているので、現在の加速器から外挿できるエネルギー-アップグレード加速器は多くの側面がある。共通の物理学研究は重要だが、まだ本格的なかたちでは企画されていないのだ。
ILCにとって、欧州戦略はポジティブであり、日本における進展を歓迎している。私たちは、日本でのゆくえを密接に追っている。進行中の国家的議論の結果として、日本がプロジェクトにより多くの資産を注ぎ込むことに決めるならば、そのようなプロジェクトに欧州が如何に参加するかについて、近未来の展開も含めて、よりオープンな議論があることは間違いない。 「静観の」態度がまだあるが、欧州の研究者グループは将来的な支援の機会について探っている。CLICとILCの間の共通の仕事について言えば、よりしっかりした計画が、特定の領域での協力のために作成されている。私は年末までに、両加速器の特定の研究で同じ人々が活動を始めることを望んでいる。 すでにILC-CLICの合同ワーキンググループがあって、既に共通の仕事が進行中の領域がある。
というわけで、全体として私たちはゆっくり前進している。リニアコライダー研究者グループにとって、これらの戦略プロセスは、大部分はポジティブなものだった。CLICのプロジェクト開発の枠組みは、次の期間では比較的明確に定義されている。ILCについては、日本の情勢は速く進化しており、今年の後半中に、私たちはみな見通しがきく道が実現に向けて出てくることを望んでいる。
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POSIPOL 2013
Argonne National Lab
04- 06 September 2013 -
LC13 Workshop
Villazzano (Trento), Italy
16- 20 September 2013 -
16th International Conference on RF Superconductivity (SRF 2013)
Paris, France
22- 27 September 2013 -
ILD meeting
Cracow, Poland
24- 26 September 2013 -
Linear Collider Forum 2013
DESY, Hamburg, Germany
09- 11 October 2013 -
SiD Workshop
SLAC, USA
14- 16 October 2013
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Linear Collider Physics School 2013
DESY, Hamburg
07- 09 October 2013
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