LC NewsLine 2013年8月8日号[英文記事]
■ディレクターズ・コーナー
ミネアポリス、ミシシッピ河畔で開催されたスノーマス会議
(Snowmass on the Mississippi in Minneapolis)
リニアコライダーコラボレーション副ディレクターの村山斉氏は、ILCにとって、鍵はmomentum(機運)であると語った。
|スノーマス会議は、ものすごい熱気をもって終了したばかりだ。私は、ミネアポリス-セントポール国際空港で飛行機を待つ間、700人以上の物理学者が参加した会議の興奮の余韻に浸りながら、この原稿を書いている。私たちは米国における高エネルギー物理学の将来について議論し、さまざまな計画が提供する科学的な機会を総括し位置づけた。そこではグローバルな視点の重要性がとりわけ強調された。私は、銀河サーベイや地下のダークマター探索から、高エネルギーコライダーにいたるまで、素粒子物理学の異なる側面に関する全ての潜在的な新プロジェクトに感動した。そして、このスノーマス会議の過程において、多くの研究者による大変な努力のおかげで、新しく発見されたヒッグス粒子が現実的な計画で可能な限りの最高の精度で研究されなければならないという、幅広いコンセンサスが形成されたと信じる。
この会議は、米国物理学会の素粒子物理学部門によって企画された9ヵ月間にわたるマラソンのゴールだ。公式なタイトルは「研究者グループ夏の研究会 2013」であるが、かつてはコロラド州スノーマスで3週間のワークショップとして開催されていたものであるので、伝統的にこの種の会議はスノーマス会議と呼ばれている。今回の会議ではエネルギー、強度、宇宙の3つのフロンティアのために多くのプレ・スノーマス会議を実施するという新たな形式がとられた。
この研究会は、優先順位を設定するものではない。それをするのは、Steve Ritz氏(サンタクルス素粒子物理学研究所所長、サンタクルス、カリフォルニア大学)が議長をつとめるP5(素粒子物理学プロジェクト優先順位付け委員会)と呼ばれる委員会であって、そこでは米エネルギー省(DOE)と米国科学財団(NSF)からの特定の予算シナリオの範囲内で現実的なプログラムを策定することになっている。スノーマス会議の趣旨は、そのような優先順位付けではなく、さまざまな計画がもたらす科学的な機会や我々物理学者の抱く夢を見つけだし、それを明確に述べることにある。全体会議での講演はどれも、実に印象的なものだった。私は、将来どんな刺激的な発見がありうるかについて多くを学んだ。たとえば、ステージ4の宇宙マイクロ波背景放射実験は、レンズ効果によるBモード偏極で宇宙の構造を明らかにするのみならず、ニュートリノ質量の合計を16meVという驚くべき精度まで測定することもできるのだ。ミュオンの新実験は現在の限界より2桁よい感度でフレーバーを変えるプロセスを発見するかもしれない。そして、それはシーソー機構や超対称性に基づく多くのモデルを徹底探査することになるのだ。さらに、測定器や加速器の新たなる進歩は、今日の想像をはるかに越える驚くべき未来へと連れて行ってくれるのだ。
ヒッグスの精密研究のための最適なコライダーの選択は何か、というのが議論の強力な焦点であった。ヒッグス・ワーキンググループは、全ての選択肢について議論した:すなわち、3インバースアトバーンのデータを収集する大型ハドロンコライダー(LHC)の高ルミノシティ・アップグレード(HL-LHC)、円形の電子-陽電子コライダー、あるいは、より高いエネルギーの陽子-陽子コライダーを格納する新たな80~100キロメートルのトンネル、貯蔵リング内でミュオンと反ミュオンを衝突させる野心的な新技術、そして、線形電子-陽電子コライダーであるILCとCLICだ。
発見されたヒッグス粒子は、今後、はるかに詳細な調査を受けることになる。推理小説のようにである。「それ」は宇宙に秩序をもたらした。だからこそ原子が存在することができるのだ。「それ」のおかげで、私たちの身体がナノ秒で蒸発することなく済んでいる。しかし、「それ」はその種の存在の1つであるようだ; 私たちは、これまでに「それ」に類するものに会ったことがなかった。当然起こる疑問:「それ」は一つしかないのか? 「それ」は、どのようにそれをするか? 「それ」は、どこから来たのか? 半世紀にわたる探索を経て「それ」にやっと出会えた今、これらの疑問こそが決定的に重要な問題である。 まさに推理小説のようである。
系統誤差を考慮した多くのシミュレーション研究に基づき、そしてまた今後10~20年の現実的な進展を勘案することによって、選択肢は、HL-LHCとILCという、2つまでしぼられた。LHCに対して既になされた投資を完全に活かしきるべきなのは明らかだ。LHCは欧州の貢献によりその大部分が建設されたが、米、日本、カナダ、インドの寄与も大きかった。それは、これまでに建設されたなかで最大の科学的装置であり、そして、私たち科学者全員が、その実現を支えてくれた世界中の納税者のみなさんに感謝している。この計画は、ほぼ20年の実施期間(エネルギー、それから、ルミノシティの最初のアップグレード)にわたるものだ。エネルギー増強は、望遠鏡により高性能な鏡を装着するようなものである。全てがより鮮明に見えるようなる。一方、ルミノシティ増強はより長い露出時間に対応する。暗過ぎて見えなかったものが、見えてくるのだ。
同時に、私たちは「それ」を別の方法でも研究しなければならない。暗視用眼鏡の緑の像を見る兵士の映画を見たことがあるだろうか? 暗い場所でも、私たちの目が見ることができない赤外光を使うと、人々や動物を見ることができるのだ。そして、赤外光を使えば、太陽より400万倍重い超大質量ブラックホールのまわりを周回する私たちの天の川銀河の中央にある星々を見ることもできる。これは、赤外光が塵粒を迂回し透過できるからである。同じものでも、異なる方法で見ることによって、謎を明かすことができるのだ。
これこそ、まさにILCに期待される役割である。ヒッグス粒子が不可視にされていても、つまり、宇宙のダークマター粒子に目に見えないように崩壊するときでも、見ることができるのだ。ILCなら、暗いなかでも正確にそれが何をしているのか、どこにあるかを特定することができる。「それ」が正確に誰なのかを明らかにするスパイ映画のヒーローのようになれるのだ。
William Barletta氏(フロンティア可能性グループの共同世話人)は、「私たちは、日本がILCのために主導権をとってくれるのを歓迎します」、そして、「私たちは経験があり、準備もできています」と明言した。Chip Brock氏(エネルギーフロンティアグループのリーダー)は、ヒッグス粒子の精密研究を行うことがいかに重要であるかを強調した。エネルギーフロンティアグループの結論はこうだ:「数パーセント以下の精度でヒッグス粒子のフェルミ粒子やベクトル・ボース粒子への結合を測定することに焦点を絞った国際的な研究プログラムは、ヒッグス粒子の物理学に取り組むために是非必要である。」 Chip氏は、きっぱりと、「私にとって、それはILCです」とも述べた。
ILCを一目で その2
(The ILC at a glance 2)
ILCアニメーションの新バージョンを発表
|ILCはどのような形なのか?線形加速器は、どれくらい大きいのか? 粒子衝突をどうやって解説するだろうか新しいILCアニメーション「2分でわかるILC」は、ILCの運転を説明したり、図式化するのに便利です。このちょっと長いバージョンのアニメは、現在最新の加速器と測定器設計を盛り込み、オプションで音声や多言語の字幕がついている。
最初の概略部分は、互いに向き合う2台の線形加速器と中央で衝突する二つのビームの基本原理を示しているが、今回の版では、より説明が加えられ、明示的に加速器部品のサイズを示し、ダンピングリングの場所が修正されている。 新しい画像では、ILDとSiDの2つの測定器と、測定器の切り替えを行うプッシュプル・システムの概念を示している。それから、アニメーションは(現在単一の)ILCトンネルに飛び込み、最終的な衝突まで1つのビームを追う。測定器と最終収束領域にも手が入れられた。 アニメーションの作者である、イラストレーター、ウェブ・デザイナーであるRey.Hori氏は、加速器と測定器分野のILC研究者とそしてILCとコミュニケータと緊密に協力してきた。Rey.Hori氏は実に写実的な芸術作品によりILC研究者グループで有名だ。-全ての作品は、コンピュータを使った設計システム(CAD)からつくられたものだ。 2004年から、彼は高エネルギー加速器研究機構(KEK)と仕事をしてきた。
このアニメーションはなんとかたった2分余りでILCの全体を示すことができるもので、講演で使用すれば、非常に簡単に聴講者の目を引き付けることができるだろう。 アニメは、ILCTV Youtubeチャンネル(最新版のビデオを受け取るためには必ず登録してください)で、見ることができる。ILCアニメーション・ページでは、音声や字幕の有るものないものとも、便利で軽いフォーマットで、ダウンロードすることも可能だ。 現在までのところ、英語、日本語、中国語、フランス語、ドイツ語(Youtubeの字幕オプションの起動が必要)での説明が入手できます。 このより長いバージョンは主に報道関係向けにリリースされたものだ。テレビ局、ジャーナリスト、ブロガーは、アニメーションや画像を彼らのインタビューや報告記事と合わせて利用したいと思っている。
この最新バージョンは、ILCプロジェクトを伝えるための独立型ツールとして役に立って欲しいというのが狙いだ。 自由にウェブサイトに置き、講演や展示の中に公的にそれを見せることを歓迎する。ご使用の際には、「(c)ILC著作Rey.Hori.」のクレジット表記をお忘れなく。アニメーションは、Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unportedライセンスの下で認可されている。簡単に言えば、著者が認める範囲に限り、作品の使用、放送、改作が認められるということである。ただし、商業目的での使用は認められない。 このアニメーションをベースにして製作されるいかなる新規作品も、同条件で許可を申請してください。
また、ILCとCLICプロジェクトについてのビデオ、画像、データの閲覧の際には、リニアコライダー参考資料ページを必ずチェックするようにするようにしてください。 Symmetry MagazineでSandboxが製作した別のビデオは、ILCとLHCの違いを幅広い聴衆に説明するもので、現在Youtube上で4言語で入手可能だ。 今後より多言語での展開を楽しみにしている。このILCを2分でのアニメーションを別の言語に翻訳したい場合は、コミュニケータまでご連絡ください。
陽電子
(Positron)
|
反物質は物質の影のようである。例えば、質量やスピンなどの同じ特徴を共有している。しかし、電荷は反対である。電子の反物質パートナーは陽電子と呼ばれ、正の電荷をもつ。反物質は、私たちの日常生活ではめったに存在しない。しかし、リニアコライダーでは、電子と衝突させるために無数の陽電子が必要だ。そのため、研究者は陽電子を生成する必要がある。
陽電子は、電子-陽電子対生成と呼ばれる反応を通してつくられる。最初に、高エネルギー電子ビームが金属標的に向けられる。この金属標的は通常、タングステン製だ。電子が標的を通過するとき、標的の中で原子の正に荷電する核と相互作用し、ガンマ線を発する。ガンマ線は素早く電子-陽電子ペアに変わる。この電子と陽電子は再びガンマ線を放射する。電子と陽電子がネズミのように増えるこれらの反応は、電磁シャワーと呼ばれている。この手法を使って、1つの高エネルギー電子源から多くの電子と陽電子が生成される。
電子と陽電子がペアになってつくられるので、そこから陽電子だけを切り離して集める必要がある。標的から出た電子と陽電子は、まずソレノイド・磁石で作られる強磁場に入る。この磁場は粒子の軌道とほぼ平行であるため、電子と陽電子は前方方向に向きが揃えられる。次のステップで、電子と陽電子は加速管に入り、そして、適当なエネルギーをもつ陽電子だけが強い電磁波によって加速される。通常、加速された陽電子のなかでエネルギーの比較的狭い幅の中に入ったものだけが、実験に使われる。電子と陽電子がある程度のエネルギーにまで加速された後、電子は偏向電磁石によって捨てられる。
「国際リニアコライダーのために考えられている陽電子源はより複雑なものです」と、KEKの物理学者、大森恒彦氏は語った。ILCのベースライン設計は、陽電子源にヘリカル・アンジュレーター(偏極光子を生成する装置)を採用している。そして、その偏極光子から偏極陽電子がつくられる。偏極陽電子を使えば、偏極陽電子はスピンが揃っているため、よりはっきりした結果を得る事が出来る。「偏極陽電子ビームは、私たちが反応を分別するのを可能にし、多くの重要な測定の精度を高めます」と、大森氏は語った。「ILCでは、陽電子は衝突に使う電子ビームから生成されます。それがILCの陽電子源の複雑さの原因となっています。陽電子源は、技術設計フェーズ後にのこされた宿題のなかで最も大きなもののうちのひとつつです」と、大森氏。
[英文記事]
■カレンダー
今後のイベント
-
Meeting of the American Physical Society Division of Particles and Fields (DPF 2013)
University of California, Santa Cruz, CA, USA
13- 17 August 2013 -
POSIPOL 2013
Argonne National Lab
04- 06 September 2013 -
LC13 Workshop
Villazzano (Trento), Italy
16- 20 September 2013 -
16th International Conference on RF Superconductivity (SRF 2013)
Paris, France
22- 27 September 2013 -
ILD meeting
Cracow, Poland
24- 26 September 2013 -
Linear Collider Forum 2013
DESY, Hamburg, Germany
09- 11 October 2013 -
SiD Workshop
SLAC, USA
14- 16 October 2013
-
Linear Collider Physics School 2013
DESY, Hamburg
07- 09 October 2013
■ニュース記事